15-25 ギゴショク共和国 サラクリムとのこれから
はあー……食った食った。
肉だけしか食べてないけどお腹いっぱいで満足だ。
塩コショウも当然美味かったが、わさび醤油もたまらなかった……。
火龍の熱味を飲み込んで尚まだ熱い中にさわやかな風味とバランスのとれた辛味がまた美味いのなんの。
もう一欠片くらい焼きたくなるが、もう入らないくらい満腹なんだよなあ。
「んふ~。満足」
シロも満足したようで地べたに胡坐を組んで座っている俺の足の上に頭をのせてご満悦のようだ。
被装纏衣でエネルギーを保存できるからだろうが、相変わらず良く食べたなあ。
ほれ。食べてすぐ寝ると牛にはなる事はありえないが、逆流性食道炎になるかも分からないぞ。
まあお腹いっぱいで動きたくない気持ちは分からなくもないけどな。
他の皆も同じようで、先ほど食べた龍の味を思い出しているのか皆満足そうに休憩しだしている。
リュービさん達も完食後はなんか固まって話し合いをしているようだが、感想でも言い合っているのかねえ?
そんな感じで俺達は満足したのだが、龍はまだまだ食べたりないみたいでおかわりを要求しては食べ続けている。
いい加減に……と、思わなくもないが予想以上に食べ比べが良かったから、今回はサービスとして満足するまで付き合ってやろう。
「んんー! やっぱりおいちい!」
サラクリムも幼い子がお子様ランチでも食べている時の様に美味しそうに食べてくれているのでそれを見てほっこりするなあ。
しかし、その小さい体で良く食べるなあ。
まあ王になってからまともな食事を取ってなかったようだし、その反動があるのかねえ?
「あ、そういえばどうしてサラクリムはギゴショクの王になる事にしたんだ?」
「え? だってヒトは脆弱ですぐちんじゃうでちょ? だから優ちゅうなわたちが守ってあげればちあわせだと思ったのよ」
「あー……」
一応善意? から来るものだったのか?
まあ龍から見れば人は脆弱だろうし、慈悲の心? で、守ってあげようと思ったって事か?
その見返りとして宝石や美味しくは無かったけど美味しいと噂で聞いた料理を頂こうと思った、と。
「がっはっはっは! うちのサラちゃんは特に優秀だからなあ! この年で人化が出来るなんて、数千年、いや数万人に一人の天才なんだよ!」
「確かにそれは凄いよね~。うちのカサンドラちゃんだって出来るようになったのは最近だしね」
親馬鹿……ではないのか。
そういえばカサンドラは俺があげた魔力球を食べて人化していたな。
確かにカサンドラとサラクリムは同じ龍でも年の差はそれなりにありそうだし、見た目通りの年齢ならばサラクリムがもう人化出来るというのは相当凄い事なんじゃないのか?
そして恐らくヴォルメテウスが今みたいにサラクリムを何度も何度も褒め続けた結果優秀だと自覚し、自信をもったサラクリムが王になってヒトを守ってあげようと立ち上がったという訳か。
「じゃあアインズヘイルとの同盟を解消したのは……」
「わたちが守るんだから他の国との約束なんていらないでちょ?」
「あー……」
いや同盟しているからこその物品の流通とか、観光客相手の商売とか色々あるんだがそこは考えられなかった感じか……。
武力面では確かに龍が守ってくれるのは良いかもしれないが、極端すぎるのは幼さ故といった感じなのかねえ。
「ガッハッハ! 優ちいねえサラちゅゎんは! 天使? あれ? 俺天使産んじゃったか!?」
天使……って、こっちにもいるんだな。
種族的なものか? それともまんま天の使いか?
天の使いだとすると、女神様達の部下とかになるんだろうか?
「親馬鹿だねえ。まあ親馬鹿でも良いんだけど、怒るところは怒らないと駄目だよ?」
「ああん? うちのサラちゅゎんに怒るところなんてあったかあ? サラちゅゎんは優しい慈悲の心でこの国の奴らを守ろうとしただけだろう」
「うん。駄目だねえ。慈悲であろうと駄目だねえ。あのさ、忘れた訳じゃないと思うけど、龍は国とか政治とかに関わっちゃいけないんだよ? 間接的にならまだお目こぼしも出来るけど、王になるとか直接的過ぎるでしょ。そのあたり教えてないの?」
それは俺も思ったな。
以前カサンドラは龍は国同士の歴史に関与してはいけないって言っていたし、今回サラクリムが王になったってのはまずいんじゃないかって。
……まあお前達もこの前がっつりロウカクのコレンと共に王国領へとやって来てたけどな。
でも空気が読める俺はここで口を挟んだりしない。
あれは助かったし、多分きっと俺との盟約があるからとかそういう感じでギリギリセーフなんだと思う事にする。
「ぐっ……いや、それは……その……」
「え? 駄目なの? お父ちゃまに相談した時、『いいじゃねえか! お父ちゃまは応援ちちゃうぞ!』って言ってくれたのに……」
「いやそれはその……サラちゅゎんが立派な事を言うもんだからつい……」
「そんな事だろうと思ったよ。サラちゃんは龍としての誇りと矜持を大事にしていると感じたのになんでこんな初歩的な事を? って思ったからね」
「あうあう……」
しょぼん、っと肩を落とすヴォルメテウス。
まあなんだ。おっさんのあうあうは可愛くはないな。
「駄目な事だったのね……。改めてごめんなさい」
「まあ俺達に謝るより……」
すっとリュービさん達の方へと視線を向けると、びくっと震えた後向き直るサラクリムへ視線を向けるリュービさん達。
「そうね。迷惑をおかけちまちた。ごめんなさい」
「お、おう……確かに迷惑っちゃあ迷惑だったけど、私としては稽古をつけて貰ってたみたいな感覚だったしなあ……」
「そうですね……。戦が無くなり私達武人の仕事は魔物退治や小悪党の成敗ばかりで気が緩んでいましたから、身も心も引き締めるにはちょうど良かったかと」
「国としての在り方は確かに問題ではありましたし、我々がいくつもの会議を重ねた結果を何度もご破算にはされましたが、今の話を聞いて納得したと知りなさい」
武人であるソンケンさんやカンウさん的には龍を相手に先頭が出来る日々だったと分かったのと、まあ相手は龍だし……って事でソウソウさんは納得したようだ。
「ええ。謝罪を受け入れますよサラクリム様。貴方様の志には深い敬意を表させていただきます」
そっとサラクリムの手を取り、柔らかい笑顔を見せるリュービさん。
その優しさにサラクリムも目を少し潤ませているように見えるのはきっと気のせいじゃあないだろう。
「……ありがとう」
「はい。今後はサラクリム様がいらしたときにご満足いただけるよう、好みの物をご用意させていただきたく思います。そちらの魔力の塊と同じものは難しいかもしれませんが……精一杯おもてなしをさせてください」
「え、でもわたちはもう王様じゃ……」
「そうですね。ですが、こうしてせっかく縁が生まれた訳ですし今後は気兼ねなく遊びに来てください。サラクリム様がおっしゃった通り、我々は龍に比べれば脆弱で弱い生き物です。ですが知っての通りヒトは強くなれます。ですので気が向いた時で構いませんからまた我々を強くしていただけませんか? それならば直接歴史や政に関与するわけではございませんでしょうし、どうかお願いいたします」
「リュービ……ええ。ええ。わたちが皆を強くちてあげりゅわ! 任せておいてよ!」
なんか……いい感じに解決した?
いや、これアレだな。
リュービさんはサラクリムとの縁が切れないようにまた来てくれって言ってるだけだよな?
まあせっかくできた火龍との縁なのだから結んだほうが良いのは分かるが、なんかいい話の雰囲気を作っておいてさらっと友好を結んだんだよな?
……強かすぎて怖いよ!
ヴォルメテウスも感動しているからいいものの、利用しようとしているのがばれたらどうなるか分からないってのによく出来るな……。
この上困ったら泣くんだろう?
すっげえなこの人……。
そんな俺の視線に気づいたのか微笑みを俺に向けてきているんだが、可愛いけど怖いわぁ……。
微笑んだまま近づいて来たんだけど……なんでしょうか?
「それでは、新しき我らが王よ。これからよろしくお願いしますね」ぷりゅん。
……はい?
「よろしくお願いすると知りなさい」
「……はあ。よろしくお願いします」
「しゃあねえな! これからよろしくな!」
「よろしくお願いします! 是非よろしくお願いします!」
聞き間違いじゃあないとは思うけれど、万が一があるから念のためもう一回やっとこうか。
……はい?




