15-11 ギゴショク共和国 調理開始!
おいっしょっと……ふぃー。
鍛えていてもでかい寸胴は重いなあ。
魔法空間を使わず運べると思ったのだが、予想以上に重くて腕が既に痛い……。
あとはさっき作った道具を設置して魔法空間にある水を注いでっと……。
「主ー。お肉取って来たー」
「お館様ー! お野菜も良い物ばかりかき集めてきましたよー! いやあお金に糸目を付けない買い物は気持ちいいですね!」
「おーおかえりー」
って、どっちも大量だな。
シロは肉をどれだけ狩って来たんだ?
あーあー返り血で汚れちゃってまあ……。
「ん。赤い牛だった」
「レッドモームですね。赤身が美味しくて、骨からも良いエキスが取れるようですよ」
ほーう。そいつはおあつらえ向きだな。
それにしても、この世界牛は色別なんだなあ……ブラックにブラウンにレッドか。
青い牛とか緑色の牛とかもいるのかねえ。
「そしてお館様見てくださいよー! こちら銀雪キャロメ! 一本のお値段がなんと1万ノール! そしてこちらも一個一万ノールのソルティトメト! 実が固く甘さがジューシィな超美味しいトメトです! あ、シロさんトメトは食べるんですか!? 野菜なのに!」
「ん。んみゃい。あみゃい」
シオンの方も大量のようだが、本当に金に糸目をつけなかったみたいだな。
……まあ、金額だけ覚えておいて経費計上しておこう。
さて、シロに取ってきてもらった肉だがこのままじゃあ使えないんだよなあ。
とりあえず余計な物を取り払って血を抜かないと。
「それでお館様は寸胴をそんなに使って何をしているんですか? なにやら見かけないものまでついてお水が溢れ続けてますけど……」
「んー血抜きの準備だよ。余計なもんは排除しないといけないからな」
寸胴に切り分けた肉や骨を入れ、水を換え続けて血を抜くのだがこの量だと水を換えるのも一苦労だから半自動化出来るようにしたわけだ。
そして上から水は溢れだすのだが、そのまま新しい水を上から注ぐんじゃあ下の方の水が換えられないので下から注いで上から水を流せる手動ポンプの様な物を作ったって訳よ。
水は魔法空間に大量に入れてあるし、一先ずこれで肉類の血抜きをしようと思う。
まあここが地獄な訳よ。
水を流しながら血抜きを続けるのに半日以上かかるからな。
捻れば水が出続ける水道が無いので、ポンプを寝ずに出すしかないって訳だ。
「……あの、お館様?」
「んーなんだ? ああ、切り分けとか悪いけど頼んでもいいか?」
「ああ、えっとそれは勿論構いませんが……血を抜くのであれば錬金スキルでも出来るのでは?」
「…………そうだな」
そういえば錬金スキルで分解が出来るから、血抜きは出来るんだった。
以前作り方を調べた際に血抜きはこうして水につけて水を換え続けてたからその通りにしようとしてしまった……。
「お館様? もしかして忘れてました? 仕事にもしている錬金を……? 料理にも錬金を活用しているお館様が?」
「……ワスレテナイシ」
……いやあ! 錬金スキル様様だな!
よし。血抜き用ポンプは魔法空間にナイナイして、早速調理開始と行こうじゃないか!
「シオン。休んでいる暇はないぞ! ほらお肉切り分けて!」
「わあ……露骨に話題を変えましたね。絶対忘れてたのに恥ずかしくなって誤魔化してますよね」
「シロを見習って! 働かないなら二人共味見も無しだからな!」
「ん。シオン早くやる。やらないと許さん」
「あ! 汚い! シロさんを味方に付けるなんて汚いー!」
うるさーい!
今回の血抜きが錬金で出来るだけで相当時間は短縮できるけど時間は有限だから早いに越したことはないんだよ!
という訳で、シロとシオンに大雑把に部位ごとに切り分けてもらった後、細かいところを削いで綺麗に洗って血を抜いて下準備は完了。
「おおー骨ばっかりですね」
「まあ牛の骨と鳥のガラ、あとはすじ肉なんかから旨味を取る感じだからな」
「主。余ったお肉は使わないの?」
「そう……だな。まあ使う部位もあるけど……シロが食べるくらいは残るだろうな」
「ん! 分かった!」
ぱあっと明るくなるんだからなあ……まあ、時間を見つけて美味しく料理してやろう。
さあ。大変なのはここからだ。
「まずはこいつらを火にかけるんだが……火加減に注意しないと」
一先ず火を入れるのだが、当然コンロなんてものはない。
薪に火をつけ、火力をコントロールして沸騰しない程度の温度を保たねばならないのがとても大変である。
そして一番大事な事なのだが……。
「うわあ……えげつない量のアクが出てますね」
「美味しくなさそう……」
「まあこういうのを取るからこそ料理は美味くなるって訳だ」
「ん。ウェンディとミゼラに日々感謝」
そうだなあ。
いつも美味しい料理をありがとうございますって言葉にしても伝えような。
温度管理をしつつアクを取り、ある程度取れて来たら香味野菜類であるトメトやセロリン、オニオルなんかを追加。
そして塩と胡椒で味をつけつつ、ハーブ類も追加していく。
ぶくぶくと沸かない程度の火力を保ちつつ、まだ出てくるアクを取るのだが……なかなかアク取りが終わらないな。
普通は少なくなるはずなんだが、やはり異世界産だと多少の違いは出て来るか……。
「ひあー……これは大変ですねえ。あとどれくらいやるんですか?」
「んんー……多分12時間以上かな?」
「うへえ!? そんなに煮るんですか!?」
本来であればもう少し短く済むはずなんだが、このアクの出方だと長めにやった方が良い気がする。
となると、暫くはこの鍋に付きっ切りだなあ……。
「凄い手間がかかる料理なんですねえ……」
「まあゆっくりじわじわ旨味を引き出すような感じだからな。二人は自由にしてていいぞ。また何か手伝って欲しい事が合ったら呼ぶからさ」
「え、手伝いますよ? 味見したいですし……」
「暫くこの作業をするだけだから大丈夫だよ。シロもせっかくだし共和国で美味しい物でも食べてきなよ」
せっかく他国に来たことだしな。
余った肉で俺が作っても良いんだが、量的に肉ばっかりになっちゃうからなあ。
ほれお小遣いあげるから楽しんできなさいな。
「ん。いいの?」
「おう。シオン。悪いけど一緒に行って肉ばかりにならないように頼むぞ」
「私にシロさんを御せと? 無理では?」
いやそこは何とか頼むよ。
ちょっとでも良いからお野菜も食べるように言ってくださいな。
シロも言うことを聞くんだぞ? 耳を塞ぐんじゃないぞー?
「それにお館様の護衛はどうするんですか?」
「んんー流石に他の出場者も近くにいるし、なんだったらウェンディ達は隣だし、アイナ達の誰かしらがウェンディの傍にいるだろう」
それに妨害も禁止みたいだしな。
誰かに襲われる理由もないし、よく見れば警邏をしている人達も少なくないので大丈夫だと思う。
そう考えると俺の腰に下げている精霊樹がぴしぴしと俺のふくらはぎを叩くので忘れてないってと慰めるようにぽんっと叩いて、こいつもいるしな。と二人に言っておく。
「んんー……じゃあすぐに行って帰ってくる」
「おう。楽しんどいで」
「お土産も買ってきますからね。何かあったらすぐ大きな声を出すんですよ?」
「ん。主の声ならどこにいても察知する。10秒で戻る」
「子供扱いか……まあでも従うよ」
本当に何かあった際は見栄も外聞もなくお腹から大きな声を出しますのでよろしくお願いします!
10秒……なら、不可視の牢獄と精霊樹でなんとか持たせてみせるさ!
「さーてここからずっと地味な作業だな……」
アクを取って火加減を調整して……ひたすらこの繰り返し。
シロ達がご飯を食べに行ってからもずっと続け、じっくりと煮る事で牛骨や鳥ガラから油が染み出し、透明だった水が徐々に色を変えていく。
まだまだ色が薄いのだが、これが濃くなっていきアクも出なくなればひと段落といったところだろう。
しっかし火加減が面倒だなあ。
今回は無理だがコンロを作る事を視野に入れておこう。
火の魔石だけじゃあ高火力は出せないのでどうするか考えないと……。
んんー……炎に適した魔物の素材を使えばなんとかなるかな?
今手持ちにあったっけ?
無かった気がするので、この件が終わったらアイナ達に依頼として頼んでみる事にしよう。
構造はコンロよりもIH式の方がやりやすいかな?
となると鍋類も熱伝導が良い物にした方が良いかな?
とか別の事を考えつつも、火加減とアク取りをこなしていくのであった。
知識が……知識が足りないっ!




