14-32 イグドラ大森林 お役立ちシオンちゃん
お久しぶりです!
またまったりと再開していきます。
さて、精霊の減少だけでなくレアガイアが根っこをチュウチュウした事も原因だと分かり、レアガイアには全力をもって協力していただかないと、という訳で……っ!
「いけるいける! もっといけるよ! 諦めんなよ! 出来る! まだ出来るって! もう少し頑張ってみろよ!」
「もう無理だようー! お母さん張り裂けちゃうよう!」
「大丈夫だ! お前お腹に穴開けて肝とったりしてくれただろう? あれに比べれば大したことないって! もう少し頑張る自分を褒めよう!」
「あれは一回こっきりだから耐えられるんだよ! 何回もは嫌なんだよー!」
うん。その気持ちは分かるなあ。
俺も自分で腹をアレした時一回キリだからと覚悟を決められたし……。
だけどレアガイア。お前は違う。俺みたいな貧弱なヒトではなく頑丈で再生も早い龍だからきっと大丈夫さ。
「偉大な龍の良い所を見せてくれ! 今のお前最高に輝いてるぞ! この後の魔力球はきっと人生……龍生で一番美味しいに違いない! 少し魔力多めに作っておくぞ!」
「ぐっ……魔力球……特濃……少し多め……しょ、しょうがないなあ! 最近龍である私の事を舐め腐ってそうな君に龍の威厳ってやつを見せてあげるよ! ふんっはああああ!」
「おお! 凄い! 凄いぞレアガイア! やればできるじゃないか! なんか感動してきた気がする! 頑張れ頑張れレアガイアー!」
「うおおおおおおおおおおお――!」
「イツキさん? ……何をしているんですか?」
っ! びっくりした!
急に話しかけるから凄いびっくりした!
え、隼人? 帰ってきてたのか?
そして、何やら俺を心配するかのような視線を向けられているのだが、大丈夫。俺は正気だぞ。
「あー……いやあ、あ、おかえり。その……な? レアガイアが文字通り身を削って生命力の方を補充してくれていたんだけど、諦めが物凄く早くてな……。とはいえ、レアガイアも訳あって協力しないといけないからどうにか出来ないかと言われて……修〇式熱血応援を少々……」
「な、なるほど……?」
「ん。主、熱かった」
あ、ありがとうシロ。
多分それは最高の褒め言葉だと思う。
「はあああ……はあああ……シロちゃんの主は龍も裸足で逃げ出すほどの鬼だよ……! 確かに協力するとは言ったけど、生命力の補充の為に生鱗を自分で剥げなんて鬼畜外道だよう……」
魔力の方は大分補えて来たので、問題である生命力の方をと提案したんだが……まあ、冷静に考えると鬼だよなあ。
自分の鱗を剥ぎ取って時間があまりたたない内に精霊樹へと捧げてもらい、少しでも多くの生命力の回復に努めて貰っていた訳なんだけど……確かに外道だな。
いやでも、原因の一端だしこれが効率的には一番良いって言ったのはレアガイアだし……仕方ないよね。
さあ! もう1セット行こうか!
「その目はもう一回って言うんだろう!? 待って待ってよ! 先に魔力球だよ! 再生が追いついてないでしょ! 回復する時間くらいちょうだいよう!」
「それもそうか。それじゃあ、その間に隼人達の取ってきた素材を埋めてもらうか」
という事で涎だらだらレアガイアに超特濃魔力球を与えている間に隼人達が取ってきた素材を確認した訳なんだが……すっごい量。
魔法の袋がいっぱいになるまで集めたらしいのだが、小さな丘みたいになっているんだけど……。
あれ? そんなに時間経ったっけかな……?
「悔しい……っ。隼人達に一歩及ばずだったー!」
「ん。シロ個人は2位」
「あんたが私達が狩ってる魔物まで持ってくからでしょ! 効率考えて別々に狩りなさいよ!」
「まあまあ。良いじゃないかソルテ。これだけ集まったのだから」
「そうだけど……悔しいものは悔しいのよ!」
どうやら勝負的には隼人達が勝ったようだが、アイナの言う通りこれだけ集まったんなら良いじゃないか。
これだけあればレアガイア曰く殆ど取れないらしい生命力もかなりの補充になるのでは?
「あむあむ……ふーん。まあ、私の鱗2枚分くらいかな?」
「え……まじかよ」
こんなにあるのに?
これ登るのにも苦労しそうな程なのに?
「量だけは多いけど、こっちは地龍。そっちは低位の魔物でしょ? 比べ物にならないよね」
「そうなんですか……。確かに、低階層の魔物でしたので、その可能性は考慮していたんですが……」
ええー……お前の方が有能だと示すための嘘ではなく?
まあでも確かに地龍の鱗とこの山を換金した場合は鱗の方が高くつきそうだしなあ。
「つまりお前にもっと頑張ってもらわないとって事か」
「え!? ま、まあいっぱい集めて凄いよね! これだけでも十分精霊樹の生命力の補充になるんじゃないかな!」
今更取り繕ったところで、今舐めている超特濃魔力球を食べ終わったら再開するのには変わりないけどな?
ほれほれ。舐めていないで噛み砕いてくれた方が早く補充できるんだが……?
「ああ……しゅっごく美味しいのに食べ終わるのが怖いんだけどぉ……。っていうか、他に方法はないの? 何か考えてよう!」
方法なあ……とは言われても、生命力の受け渡しなんて普通には出来ないだろう?
魔力ならば練れば吸い取ってくれるんだが、生命力なんて練れるものでもなければ、目に見えるものでもないしなあ。
というか、俺自身生命力ってなんぞ? って感じだしな。
魔力ならば感じ取れるんだが、生命力って言われると、んん? って感じなんだよなあ。
気になるのはアトロス様の『お前が持っているものでなんとかなる』って言葉かなあ。
持っている物……『魔力球』の出せるこの魔道具くらいしか思い当たらないんだが、生命力はどうにもならないしなあ。
まさかバイブレータという訳でもないだろうしうーん……。
「あのー……ちょっと良いですかお館様?」
「ん? どうしたシオン」
「ちょっと提案がありまして。これ使えませんかね?」
「これ? これって……陰陽刀?」
二本ある陰陽刀の内の一本を見せてくるシオン。
今見せてくれているのは陰陽刀の-陽-のようだが、陰陽刀にはどちらにも特殊な効果がついている。
-陰-の効果は幽体との繋がりを断つもので、-陽-の効果は幽体を吸収するもののはず。
幽体と生命力はまた別のものだと思うのだが……ん?
そういえば、陰陽刀-陽-で吸収したものは所持者に還元できるんだったか。
確か、刀をくれたダイコクさんの話では回復するというよりは調子を上げるとかなんとか……。
それと今思い出したがアトロス様は『お前が持っている物』ではなく、『お前らが持っている物』って言っていたし、もしかしたら陰陽刀-陽-の事を言っていた可能性もあるだろう。
「あー……なるほど」
「幽体と生命力は違うものだとは思いますが、調子を上げてくれますし、もしかしたら効果はあるかもって思いまして」
そうだな。
もし違っていても調子を上げるという効果は何かしら良い影響があるかもしれない。
アトロス様が言う『俺ら』で考えると、一番有力な気もするし。
だが……。
「でもやっぱり持てないと難しいですかね?」
「それだよなあ……。樹が刀を持つってどうすればいいんだ……?」
なんか挿し込みやすそうな穴を探して挿し込めば持っている扱いになるのか……?
いや、でも精霊樹は意志を持って枝を伸ばしたり出来るんだったな。
こちらの言うことを理解し動いてくれれば試せるんだが……樹に話しかけて何も反応が無かったら凄く恥ずかしい気がする。
な、なあに俺はストロングベリーを口説き落とした男。
精霊樹にだって話しかける事くらい訳ないか!
「ん……こほん。精霊樹よ。貴方を助けるためにこの刀を挿し込めるように枝を螺旋状に伸ばしてはくれないだろうか?」
『……』
……シーンじゃあないんだよ?
今俺大雨の中ではっはっはー! 風ヨ吹け! 嵐ヨ舞え! と、誰もいないと思ってはしゃいでいたら実はすぐ後ろに人がいたという子供時代の若気の至り事件を思い出したんだけど?
トラウマというかさぶたの上からザシューっと新たに傷がついた気分なんですけども!?
後ろを振り向いて皆が共感性羞恥心でどんな顔をしているか見るのが怖いんですけど!?
と、思っていたら頭上にあった大きく太い枝から一本の細い枝が延びてきて俺の言った通り螺旋状に枝先を伸ばしてくれる。
な、なんだよ聞いていてくれたんだね。
良かった……これで恥ずかしい行為じゃなくなった……。
「おおー……お館様。今度は樹を誑すんですか?」
「誑すとか関係ないだろ……」
俺が言っている事と俺達が助けようと動いている事を理解し、自分が助かるために動いてくれただけだよきっと。
樹を誑すとか……最早訳が分からないだろう。
それよりも陰陽刀-陽-を差し込んでみるときゅっと更に締まって手を放しても落ちないようになったんだが……切っ先を向けられるとなんか怖いな。
そもそも陰陽刀は魔力を通さないと幽体を斬る事は出来ないんだが、精霊樹とはいえ樹が魔力を刀に通せるのだろうか?
「お館様。流石に実体だと危ないですし、私がやりましょうか?」
「いや、ちょっと試すだけだから大丈夫」
と、とりあえず人差し指で刺さるかどうかをそっと試してみるのだが……おお、大丈夫だ。
指に触れずにすっと通り抜けたので、どうやら魔力は通っているらしい。
おおお……すり抜けた人差し指が何か吸われてる感じがする……。
これは……魔力ではない何かが吸われているようだし、効果がある気はするな。
ただ吸われ続けていると体温が下がっていくような、背筋が寒くなってくる気が……。
感覚的に魔力を吸われるよりも危ない気がする。
「よし。食べ終わったー。どいてどいて。これに刺されれば良いんでしょ? 鱗を剥がすよりも簡単じゃん」
と、俺をどかして前に出るレアガイアがすっとなんのためらいもなく腕に刀を通していくんだが、見ている俺の方がドキドキしたんだけど。
「おおー……なるほどなるほど。あー吸われてるねえ。おお、これなら大丈夫そうだね」
「それは、生命力の補充になってるって事か?」
「うん。生命力とは違うものだけど、代わりになる物って感じかな? 私の魔力で変換出来る、魔力ではない物だね。ガンガン吸ってってるけど、遠慮ないなこいつ……」
あー……それはお前が根っこをチュウチュウした事を覚えているからじゃあないか?
意志があるって完全に証明されているしなあ。
だが、とりあえずこれで生命力についても解決とみてよさそうかな?
あとはこれを続けて、俺達とエルフの方々には引き続き魔力を注いでいけば問題なく分体を生み出せるようになるんじゃないだろうか。
10月25日!
異世界でスローライフを(願望)11巻が発売予定です!
今回はコミックスとの同時発売ではないのでお気をつけて!




