14-29 イグドラ大森林 超特濃魔力球
んっ……朝か。
寝ぼけた頭で周囲を見ると誰もいない。
エルフの村での一人寝にも慣れたなと、頭をかいて欠伸を一つした。
誰もまだ起こしに来ていないという事は普段起きる時間よりも早いのだろう。
目覚まし時計も無いが今日は早めに起きようと思っていたので都合がいいな。
体を起こすと同時に布団の上に乗っていた精霊達が一斉に飛び上がり、ようやく起きたかと耳やら髪やらを引っ張ってくるがあいにくと今日は遊んであげられないよ。
朝早くに起きたかった理由として、やっておきたいことがあるのである。
「ふわああ……眠い」
眠気覚ましに顔を洗ってこようかな……いや、精霊達がいるから寝ないだろうし別にこのままでいいか。
単純作業だし、とっとと始めてしまおう。
準備も簡単。エリオダルトに貰った魔道具と魔力回復ポーションを取り出して床に置き、俺も座って魔力球を作るだけ。
ただし、今回のは特別製。
超特濃魔力球を作ってみようと思う。
サイズは飴玉くらいで、そこに注ぎ込めるだけ魔力を注ぎ込んでみたいと思っている。
大きくならないように注意しつつ、超特濃な魔力球が出来上がっていくのを精霊達と一緒に眺めるだけの作業。
ぼーっと魔力球を見つめていると目の前に精霊がやってきて遊んでくれというので、息を吹きかけると軽く飛ばされては楽しそうに戻ってくるが、あまりやりすぎると酸欠になるから全員は勘弁してほしい。
たまにMPが減ってきたらポーションを飲んで回復するだけの作業だが、精霊達が不思議そうに見つめていたり近づこうとして離れて行ったりなど眺めていて楽しい光景だ。
いやあそれにしても流石はエリオダルトの魔道具だよなあ。
多少の魔力の強弱ならば素の俺でも出来はするが、これはレンゲの濃い魔力を再現しているようなものだろう。
勿論魔力球に攻撃性は無く、レンゲのように攻撃魔法に転じれるわけではないのだが本来儀式が必要なものを再現できるんだから流石はエリオダルトだ。
さて、素の俺のMPとポーション3本分を小さな飴玉サイズにまとめた魔力球が完成した訳だが……黒いな。
込めた魔力は土なので黄色がかっていたはずだったのだが、魔力が濃すぎてドス黒くなってしまったな。
これは……大丈夫な物なのだろうか?
精霊達も近づいて来ないんだけど……うお、魔力球って普段触り心地の良い柔らかさなのにカッチカチだ。
爪で弾いてみるとコンコンって詰まっている音がする。
「ちょっと、入るわよ」
「へ?」
ノックもないし返事もまだだったのにいきなり入ってきたのは……エミリー?
いや別に気にはしないんだけど、こういった礼儀は守る方かなと思っていたんだけども……!
「貴方何をしているの? 精霊達が随分と騒いでいるのだけど……何それ」
「あー……魔力の塊?」
「それは分かるわよ。とんでもなく強い地の魔力の気配がしているもの。というかそんなものどうするの? 精霊樹に与えるのなら、普通に魔力を与えても変わらないんじゃない?」
「あー……ちょっと協力者を呼ぶのに使おうかなと思ってて?」
「協力者って……まさか、地龍? 確か貴方が作った魔力の球を美味しそうに食べていたわよね。貴方が来るまで暴れださないか心配になるくらい熱望していたし……」
ああ、そういえばウェンディを救出した後に俺の家で皆が宴会をしていた際に見てたんだっけか。
あの時はレアガイアやカサンドラ、ロックズにロッカスまでいてお礼がてら魔力球を大量に用意したからなあ。
「まあ、その通りだよ。龍の素材も使えるみたいだったし、龍自体に協力してもらえば生命力の方もどうにかなるんじゃないかなって思ってさ」
「そう……ね……」
「あれ? 不味いか?」
報酬さえ用意すれば協力してくれると思うし、地とつくくらいなのだから属性については問題なし、生命力に関しても龍ならば申し分ないと思うのだが……。
「不味くはないのだけど……村の中で呼び出さないでよ?」
「それは勿論。村の外で呼び出すけど、ああー説明するのも考えて呼び出す際はイエロさんにも付き添ってもらった方が良さそうか」
「そうね。本来地龍は村を荒らす側だから、何も知らせずに連れて来たりなんてしたら戦闘態勢が組まれるわよ」
「おお、それは不味いよな……よし。じゃあ、イエロさんに声をかけてから呼び出すとするか」
とりあえず一つしかないから念の為にもう一つ用意しておくか。
魔力回復ポーションは飲み過ぎると中毒になるそうだが。
「へえ……それってそうやって作るのね」
「ああ。エリオダルト作の名魔道具だぜ」
「あの変人のねえ……」
おい。確かにそうだが一応伯爵なんだし直球で言うなよ。
変人だと俺も思うけど、間違いなく天才なんだぞ。
すっごい天才錬金術師なんだぞ。変人だけど。
「それにしても地龍を呼び出して命令をするなんて、貴方本当に何者なの?」
「命令じゃなくて等価交換でお願いだけどな」
「どちらにしたって異常な事よ」
「ただの一般人のつもりなんだけどなあ……」
「一般人は恋人を7人も作らないし、地龍や女神を誑したりしないわよ」
ぐぬぬぬ……反論が出来ない。
いや、反論はしたいんだが言いくるめられる予感しかしないからこれ以上話を広めない為にも黙っておいた方が良いだろう。
「……」
「……」
あの、なんでこっちじっと見てますか?
魔力を注いでいるだけだから邪魔ではないですけど気になるんですけども……。
「貴方……本当に出会った時にこっちに来たのよね?」
「へ?」
「キャタピラスに襲われていた時の話よ」
「そりゃあ……そうだけど……」
んんん? 何が言いたいのだろうか?
間違いなく俺はあの時この世界に来たばかりだったはずだけど……。
「そういえば、出会った時も同じ様な事を言ってたよな」
「ええ。なんだか違和感と懐かしさを感じた気がしたから怪しんでいたのよ。もしかして隼人をだまし討ちするつもりじゃないのかなって」
「しねえよ……。例えそのつもりだったとしてもそのためにキャタピラスに食べられそうになるとか無理だよ……」
「そうね。今なら分かってるわよ。貴方はこっちに来る前に女神様に会っていたのだろうし、その際に姉様の気配が移っていたのかもしれないわね」
んん?
あの時は俺はレイディアナ様としか出会っていなかったと思うんだが……同じ神の世界にいたからそういうこともあるのかな?
「ごめんなさいね変な事聞いて。いくら姉様とはいえ、誰とでもああいう事をするわけないと思ったのだけど……まあでも、よく考えると貴方人誑しだものね」
「おい。よく考えた結果がそれか? 誑してなんかないっての……」
「あら? あれだけ恋人を作って、それ以外にもお相手がいるくせに言い訳出来るのかしら?」
「…………」
「いい加減周りにこれだけ言われているのだから認めた方が良いと思うわよ?」
く、くそうエミリーは口が上手い。
だがな……誑しって、誑しって印象良くないじゃないですか……。
「良いじゃない女誑しというだけではないのだから。隼人も誑されているし、話を聞く限りじゃエリオダルト卿も誑しているのでしょう? 女誑しは誉め言葉ではないけれど、人誑しは誉め言葉よ」
「そうなの……?」
「多分ね」
……一瞬信じたよ。
上げてから落とされた……。
やっぱりエミリーは口が上手いなあ。
舌戦とか絶対に挑みたくない。
とりあえず、機嫌良さそうなエミリーの横で口で弄ばれて複雑な俺は二つ目の特濃魔力球を作り終えたところで、ウェンディが起こしにやってきてくれたのだが……。
「エミリーさん!? どうしてご主人様のお部屋に!!?」
と、盛大に何か勘違いしていそうだったので二人で速攻で冷静に圧をかけつつ何をしていたのかを事細かに説明し、事なきを得るのであった。
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