14-28 イグドラ大森林 魔力を捧ぐ
二手に分かれてダンジョンと精霊樹へと向かう事になった訳だが、俺達が精霊樹へと向かうと既に多くのエルフが集まっておりなにやら精霊樹へと手を触れていた。
「おーもうやってるんすねえ」
「あれで魔力が注げてるのか?」
「そうみたいですね。おおー……ぐいぐい吸われてますね」
シオンの言う通り数人のエルフが手を触れたまま辛そうな顔をしており、限界が来ると手を放しその場にしゃがんでしまう。
というか、ふらりと倒れそうな人もいて慌てて不可視の牢獄を使って支えを用意し、倒れて頭を打つのを何とか防いであげた。
「MPが低くなると体怠くなるもんなあ……気絶もするし」
「おや? お館様もそんな経験がおありですか?」
「ああ。まだこの世界に来たばかりの頃に鉄鉱石に分解をかけたんだけど、一山全部にかけちゃってさ。意識を失って錬金かけてを繰り返した事があるんだよ」
あれはきつかったなあ……。
目が覚めたと思ったらまたふっと意識が途切れるのが何度も続いたんだよなあ……。
「旦那様もそんなミスをすることがあったのね……」
「随分と危ない事をしているのです」
「事故だよ事故。あの頃はまだ錬金にも慣れてなかったからな」
「自分達と出会う前の話っすね」
「ご主人様? 倒れて頭を床に打つなどしたら危ないですからもうしちゃ駄目ですよ?」
「流石に今はMPも増えたし、あれくらいじゃあ倒れないとは思うけど気を付けるよ。それじゃあ俺達も始めるとするか」
精霊樹へと近づき、空いているスペースの一角を俺達で陣取らせてもらう。
ウェンディとミゼラが布を広げ、休憩できるスペースを確保。
無理はしない程度にと話し合っており、疲れたら休んで食事やMP回復ポーションで補給して魔力を与えていくという訳だ。
「エミリー触れて魔力を練るだけでいいんだよな?」
「ええ。でも地属性の魔力にしてよ?」
「分かってるって」
どれどれ。まずは試しに……おおおお……吸われていく感覚がなんか新鮮だな。
自分の中の何かが吸われている感覚。
何かはMPなのは分かっているのだが、自分に備わっている物が吸われていくのを体が危険を察知しているようでぞくぞくするな。
吸われる速度は……そこまで早くはないかな。
これなら数分は吸わせておいても問題ないだろう。
しかし、両手を精霊樹に着けているだけというのは結構暇だな。
「んふっふっふ」
「シオン?」
「あん、お館様ったら壁に押し付けるだなんて……」
「……お前が下から入って来たんだろうが」
「そうですけどぉ。いやでもこの体勢結構いいですよ。逃げ場がない中で正面しか見る事が出来ず、その先にはお館様が迫ってきているような感覚がとても良いです!」
まあ、状態的には壁ドンのようなものだからな。
ドンはしておらず、下からにゅっと出てきただけだけど。
……あと、ウェンディはなんで横で待っているんだ?
ミゼラもさりげなく並んでも順番とかないぞ?
レンゲは魔力を注ぐのに集中しろよ。
手を付きながらミゼラの後ろに足だけ延ばして並ぶとか無駄に頑張るなよ……。
なんだかんだ4人のおかげで暇は潰せたが、周りからの視線はどんな感じだったのかも精霊樹の方しか見られなかったので分からないのが不安だよ!
真面目に……といっても、手を着いているだけだしなあ。
「お兄さんお兄さん。お兄さんは結構MPが高いのです? もう結構長い時間やっているのです」
「ん? ああ。レベルは低いけど錬金で鍛えたからかな」
「ご主人様はMP回復ポーションを多用する程錬金をしますからね」
ちょっとだけ怒った口調のウェンディさん。
でもさっきの壁ドン的な何かのおかげか頬が緩んでいるのが隠しきれていないぞ。
「あ、そうだ」
ついでにこれも出しておこう。
アトロス様に俺達が持っているもので解決出来ると言われたのだが、恐らく一番有力なのはこれじゃないかなと。
「あれご主人。それ使うんすか?」
「ああ。地属性の素材だろ? そしたら、これもそうだろう?」
取り出したのは秘密の素材~~……ではなく、地龍レアガイアの鱗。
地属性の素材といえばこれだよなあ。
さて、素材はどうすればいいんだろうか?
埋めればいいのか? それとも精霊樹が動けるのなら受け取ってもらえるのだろうか?
「やあやあご主人様様に皆々様! 魔力提供助かるよー! でも、倒れるまではしないようにね? うちの子達は精霊樹のピンチだー! って、無理をして倒れる子が多くてね。急遽救護所を作る羽目になってしまったよ」
「お、良い所にイエロさん。素材系はどうすればいいんだ?」
「素材? ああそれなら精霊樹の近くに置いておけば吸収され……え? それはもしかして地龍の鱗かな?」
「たまたま持ち合わせがあったから、これも使えるかなって思ったんだけど」
「た、たまたま地龍の鱗を持っているものなんだね……流石はご主人様様。使えるもなにも最適解ともいえる代物だね! 地龍は地属性の塊だから最高だよ! でも良いのかい? 錬金の素材で使う物だろうし、かなり貴重な物だよ?」
「アトロス様にどうにかしろって言われてるからなあ。使えるものは何でも使うって事で」
「はははは。アトロスもたまには役に立つんだねえ! それではありがたくお願いさせてもらうよ!」
女神様にたまにはとか言っちゃ駄目だろ……。
アトロス様って確か戦闘神と呼ばれているんだろう?
冒険者や騎士なんかには崇められていると思うんだけどなあ……。
とりあえず、言われた通り地龍の鱗は精霊樹に立てかけておこう。
「……悪いわね。そんな貴重な物まで」
「いやいや。俺にとってはそこまで貴重って訳でもないしなあ」
「……貴方本当に規格外よね。世間の錬金術師や鍛冶師が聞いたら血の涙を流すわよ」
そう言われても魔力球と引き換えに頂戴っていえばくれるだろうしな。
龍は怖くて危険だそうだが、今やただの食い意地の張ったメタボリックドラゴンにしか思えないし……。
地龍以外というか、レアガイアだけ特別なのかもしれないけど。
「ご主人ー。そろそろ一回休んだ方が良いっすよー」
「おーう。って、レンゲそれ使うのか?」
「ご主人が地龍の鱗まで出したっすし、こっちの方が効率が良いっすからねえ」
レンゲの姿を見るとロウカクで見た紅い紋様が浮かび上がっており、格好良くなっていた。
濃密な魔力を練る事が出来るように効果があるのだが、確かにそっちの方が効率は良さそうだ。
「レ、レレレ、レンゲさん!?」
「ん? なんすかシオン」
「なんすかもなにもそれ! 大陸で禁止されている儀式の『紅魔紋』じゃないですか!」
「あ、これ紅魔紋って言うんすね」
そう言えば名称は聞いてなかった気がするが、紅魔紋って言うんだな。
紅い魔力の紋。まんまだな。
「知らなかったんですか!?」
「知らないっすよー。自分、ロウカクの姫巫女として儀式を受けただけっすもん。あ、勿論禁止される前にっすよ」
「はっ! そういえばレンゲさんってロウカクの女王であるコレン様のお姉さんでしたっけ!? という事はレンゲさんが姫巫女! 姫巫女といえば地龍との……はっ! 繋がる! お館様と地龍との関係とも繋がります!」
ばっばっ! っと、俺とレンゲを交互に見つつ驚愕の表情を浮かべるシオン。
レンゲとコレンが姉妹という事は知っていたはずだが、レンゲの力などの詳細までは話していなかったっけか。
うん。まあそういうことです。
「うう……レンゲさん攻略ファイルの見直しをしないと……せっかく戦術を密かに考えて下剋上を狙っていたのにこんなのずるいですよう……」
「ちなみに、ソルテとアイナも奥の手はあるっすからね?」
「そんなあ!?」
ソルテは狼化、アイナは炎人の力を解放する事かな?
アレは模擬戦では使わないだろうと思うが、確かに奥の手といえば奥の手か。
……シオンの下剋上の道はまだまだ遠いようだな。
さて、魔力回復ポーションを10本飲んだところで、今日はこのくらいでとなったんだが……なんとなく、まだまだ足りていない気がするんだよなあ。
今日だけでもかなりの大人数でかなりの魔力を注いだのだが、恐らく一割にも達していないような感覚が吸われながらにして分かった気がしたんだよ。
なんというか、家庭用の水道とホースを使ってダムに水を貯めようとしているような感覚。
あくまでも感覚であり大人数で続けていけばいずれは貯まるのだろうけど、こりゃあ骨が折れるなあ。
地龍の鱗も数枚取り込まれたのだが、生命力に関してもイエロさん曰くまだまだ足りないらしい。
というか、同じものばかりだと効率が悪いらしい。
シロの例え通りというか、同じ食事ばかりでは飽きるという事なのだろうか?
という訳で、鱗以外にも龍の素材を使った訳だが……まだ足りぬと。
流石にこれだけ大きな精霊樹のピンチを救うというのは一朝一夕という訳にはいかないという事だな。
とりあえず、帰ったらミゼラと一緒に魔力回復ポーションを作るとしよう。
間違いなく足りなくなると思うし、地龍の素材がもっと欲しいとなれば協力を得るために必須だろうしなあ……。




