14-22 イグドラ大森林 寝起きハプニング
んん……ああ、戻って来たのか……。
そういえば俺、世界に根付く精霊樹の傍で寝てたんだったな。
しかし、とんでもない夢だった……。
いや夢ではない……のか? だけど、寝ていた間の事だしな。
精神だけがあの世界に行っていたのだと思うのだけど、触覚も質感も感じられたしなんなんだろう?
…………はっ! 下半身!
おお……大丈夫だと思う。
流石にあの回数を考えた上で、この感じならば大丈夫だろう。
いやしかし、あの感覚も諸々も全てリアルだったんだがなあ……。
まあでも暴発していなくて良かった……本当に良かった……。
ただ、なんか重い? というか、息苦しいような、顔が幸せな感触を感じているような気がするのはなぜだろう?
精霊さん俺の上で皆で寝てます?
「んむ?」
んん? やっぱり息苦し――。
「ん、起きたのかな? 起きたのなら、まず手を放して欲しいかな」
え、シアンさんの声……?
そして手をって、あれ? 手も何やら気持ちが良い感触なのだがこれは?
ぱっと俺が手を放すと、視界がクリアになり腕を立てて起き上がったシアンさんの顔が見えた。
「おはようございますご主人様様」
「おはようございます……?」
「混乱してるよね。うーんと簡単に説明すると、精霊達が騒がしかったんだよ。だから世界に根付く精霊樹の様子を見に来たら、びっくりする事にご主人様様が寝ていたんだよ」
うん。まあそんなところで人が寝ていたらそりゃあびっくりもしますよね。
なんかそういう病なのかなとか思ってしまっても仕方ないかと思います。
とはいえ、俺には分からない事ばかりなのだけれど、お昼に寝ている俺に近づいたらどうなるか……というのは分かっていたかと思うのですが……。
いや、勿論俺には何かしようというような意思はないのだけども。
「流石にこんなところで寝るのはまずいかな? と思ったんだけど、お昼の事もあったから警戒はしつつ、ご主人様様を起こそうと思ったんだよ。でも、根っこが動いて足をぶつけて転んで覆いかぶさっちゃったあとは抱きしめられて動けなくなっちゃって、そこからは……えっと……もう駄目だよ?」
そこから俺は何をしたんでしょうか!?
なんか何事もなかったかのような口調であったのに、最後だけとても恥ずかしがっていらっしゃるのですが、何をしたんでしょうか!?
というか、夢? の世界で色々あった訳なんですけど、その影響はあったのでしょうか!?
あと根っこが動く?
え、そんな足を引っかけられるほどの速さで動けるんですかこの樹……。
そういえばいつの間にか俺の頭の下に枕のように根っこがもこっと隆起していた気がする。
「えっと、ぶっ飛ばして起こしてくれても良かったんだが……」
「それは出来ないけど力を入れて引き剥がそうとは思ったんだよ。でも絶妙なタイミングで力の抜ける事するんだもん……あれはまいったかな……」
力の抜ける事って俺はなにをしたんですかねえ!?
昨日に引き続き俺はこんなに優しくて純粋なシアンさんに何をしてしまったの?
え、多分辱めた系かと思うのですが、どうすれば償えますでしょうか……っ!?
「寝ていたとはいえ本当にすみませんでした……」
「それはもういいよ。私の不注意が原因の事故だもん。寝息も聞こえていたしご主人様様には意識も下心も無かったって分かっているから大丈夫だよ。それで、ご主人様様はどうしてこんなところで寝ていたのかな?」
俺の上からもぞもぞと降りて横に座ったので、俺も起き上がってシアンさんの隣に座る。
ああ……心が美しいとはこういうことを言うのだろうな。
だが、今から話す内容は信じてもらえるのだろうか……?
「えっと……話して信じてもらえるか分からないんだが、精霊に連れてこられて、ここで寝るように指示されてなあ……」
「精霊に……? あ、昨日は月精の日だったからかな?」
「いや、それなら見るだけだし、わざわざ布団を持ってきてここで寝させる理由はないだろう?」
「それもそうかな。じゃあ別の理由があったのかな?」
うん。まあ、別の理由があったんだと思うんだよ。
精霊達も現在進行形でうんうんって頷いているし。
という事はやはり……。
「で、だ。ここからがもっとも信じてもらえるか分からないマジの話なんだが……アトロス様と会っていたんだ」
「アトロス……って……元長? エミリー様のお姉様の?」
「うん。元長でエミリーのお姉様」
「女神様になったアトロス様?」
「女神様になったアトロス様」
「え、どこで会ったのかな?」
「んんー……神様の世界?」
「……」
「……」
そうだよね。いきなりそんな事言われても信じられないよね。
うん。何言ってんだこいつって感じだよね。でも事実なの。
俺もなんなのか理由も手段も分からないんだけれど、称号を貰ったりスキルを貸してくれたり、その他色々してもらっているので夢や妄想ってだけではないはずなの。
「そっかぁ……ご主人様様はアトロス様に会えるなんて凄いんだねえ」
「え? 信じるの? 自分で言うのもなんだけどかなり荒唐無稽な話なんだけど……」
そういえばイエロさんがシアンさんは他人を信じやすいとは言っていたけれど、流石にここまで嘘っぽい事をさらっと信じられると心配になっちゃうよ。
「信じるよ。だって、嘘じゃないって目をしているよ。だから、信じるかな。それで、どうしてアトロス様と会っていたの?」
「どうしてというか、気づいたらいたというか……?」
サービスしに行きましたー! と、俺の意思を持って向かったわけではないからな。
結果的にはサービスをしに行った感じにもなったけれど。
「で、だ。本題はここからなんだが、アトロス様曰く、この樹の寿命が近いらしい」
「え……世界に根付く精霊樹が? それはないよ。まだまだ先のはずだよ?」
「俺もアトロス様から聞いただけの話だから詳しくは分からないんだが、多分本当だと思う……」
「うーん……アトロス様がかあ……」
まあ、そうだよなあ。
いきなりこんな事言われてもだよなあ……。
しかも、自分が大切に守っていた樹の寿命がいきなり近いと言われたらそりゃあ困るわな。
「うん……。分かった。じゃあ一度しっかり調べてもらおうかな」
「……これも信じてくれるんだな。いやまあ本当にそう言われたんだけどさ」
「うん。嘘だと良いなって思うけど、信じるかな。精霊達もご主人様様の言葉に頷いているって事は、本当なんだろうけど……。そうと決まれば、お父様の所に一緒に行こう!」
という訳で、朝から一緒にイエロさんの元へと急ぐことに。
寿命が早まったとは聞いたが、何時までとは聞いていないので万が一を考えての迅速行動である。
「お父様! ちょっとお話を聞いて欲しいかな!」
「なっ、なんだいなんだいこんな朝早くから愛しの我が娘よ! へ? ご主人様様と一緒に……? もしかして一晩中一緒だったのかな? はっ! まさか子供が出来たのかい!? うわあい! どうしよう! お父様嬉しさもあるけれど突然すぎて複雑なんだけど!?」
「一晩中一緒だったけど違うよ!」
「あ、一晩中一緒だったんだ……。え、それなのに違うの? ご主人様様どういう事かな? うちの娘に魅力が無いって事かい!?」
そんな事は無いです……。なんか純粋すぎてイエロさん同様心配にはなるけれど、魅力的ではないという事は全くないです……。
「お父様? 真面目な話があるんだよ? 勝手に暴走しないでくれるかな?」
「あ、はい。ごめんなさい……。それでえっと、ど、どうしたのかな? 随分と慌てた様子だったようだけど……」
「うん。あのね、世界に根付く精霊樹の寿命を調査して欲しいんだよ」
「精霊樹の寿命? あの樹の寿命はあと100年は大丈夫なはずだけど……」
「うん。説明するとややこしくなりそうだけど、元長のアトロス様がそう言ってたそうだよ」
「アトロスが……? え、どういうことだい? アトロスは今は女神になったはずだけど……。アトロスが、女神に……ぷふー!」
え、なんかいきなり噴出したんだけどどうしたんだろうか?
何が面白かったのか、お腹を片手で押さえて自分の膝を叩いて笑い出したイエロさんがちょっと怖い。
「はーあ。はああ……あー面白い。アトロスが女神になったというのは爆笑ネタでね! あの乱暴者で好戦的だったアトロスが……女神……ぷふふ!」
わあ……怖いもの知らずというか、俺には畏れ多すぎて出来ない事を平然とやってのけますね。
いや、アトロス様だって美人ですし、好戦的なのも戦闘神としてはふさわしいのでは?
あと同族が女神になるっていうのは名誉な事なのではないのだろうか……?
もしかして、イエロさんとアトロス様は同級生というか同世代なのでしょうか?
子供のころから知っているからこそ、笑ってしまうという……。
恐らくだが爆笑ネタというのは同世代からはという条件が付くのだと思うのだが……。
「お父様?」
「あ……ごめん! ちゃんと聞く! ちゃんと聞くから武器は降ろして! あと、顔面はやめよう。なにやら真剣な話になりそうだし、そんなときに顔がめり込んでいたら台無しだからやめようね!」
「問答無用かな?」
「ちょ、娘の愛が痛――!」
……この後、しっかりと話を聞いてくれることになるのだが、整った顔立ちをしていたイエロさんの顔は凹んでいてそれがとても気になったが同情はしなかった。




