14-16 イグドラ大森林 森の野菜は一味違う
ああ……寝起きから酷い目にあった……。
正座で足が痺れて痛いよう……。
酷いや寝ぼけていただけなのに……。
まあ、例え寝ていて俺の意思は無かったとしても、人さまのおっぱいに顔を埋めて揉んだ俺が悪いのだけどね。
ミゼラが何とも言えない表情を浮かべていたのが一番反省したポイントかな。
「全く……主様はもう……」
「村について一日でなんでこんな事になるんすか? ご主人何かトラブルを引き寄せる呪いの道具とか持ってるんじゃないっすか?」
持ってないよ。
持っていたら速攻で錬金を使って各種素材に分解してるよ。
「まあまあ二人共。主君も反省しているのだし、それにいつもの……アレだろう? それを知らないシアン殿が近づいてしまったという事故なのだし、シアン殿も許してくれたのだからもう責めないであげようじゃないか」
うう、アイナは優しいなあ……。
アレがよく分からないけれど、俺もう今日はアイナと一緒にいる。
アイナ、手を繋ごうぜ。ありがとう。
ところでシオンは……ああ、ウェンディの後ろをビクビクしながら歩いているな。
でもあいつ、何か怒られるような事をしたのだろうか……?
流石に朝二人で出かけていたというだけじゃあ怒られないと思うし、二人で出かけた理由が俺が何かしないかどうかを見張っていたというのだから、不本意ながら怒られないと思うんだが……なんでだろう?
見張っていたのに何かが起きてしまったからか? いや、それで怒りはしないだろう……。
むう……シアンさんのおっぱいをあれだけ見て、今日は何があっても良い日だと思ったんだがな……。
いや、気を取り直そう。
大丈夫。今日はまだ始まったばかりなのだから!
「いやあ! 皆様お集まりのようで! 村を案内させていただこうかと思ったんだけど、娘からの愛が激しすぎて意識を失ってしまったよ! おや? どうかしたのかいご主人様様。娘の大きな胸をたっぷり堪能したはずだろう? 元気がないじゃないか!」
「……イエロさん」
タフだなこの人……朝まで飲んでいた上に、ついさっきシアンさんにボッコボコにされたばかりじゃないのか?
「あんたなあ……娘にあんな嘘をつくとかシアンさんが可哀想だろう……」
「ん? 何を言っているのやら。ご主人様様は大きな胸に目が無いのだろう? そう聞いているよ? ご主人様様に喜んでもらえるのなら、娘の胸を凝視されるくらい構わないさ! きっと!」
「構うと思うよ? お父様は馬鹿なのかな?」
「はっはっは! エルフは年を取ると色々寛大になるからねえ。娘もいい年なのに浮いた話の一つもないのだし、ご主人様様ならワンチャン……ありかなって!」
なんのワンチャンだよ。
ねえよ。出会って二日で娘にワンチャン作らせようとするんじゃないよ……。
シアンさんはワンチャンの意味が分かっていないのか首を傾げているが、イエロさんにだけは聞き返すんじゃないぞ?
また変な嘘を並べられるだろうからな。
ところで今、気になる事をイエロさんが言ったな。
大きな胸に目がないと聞いていると?
「ご主人様。少々よろしいでしょうか? イエロさんにご確認したいことがございますので……」
「ん? ああ構わないけど……」
「どうしましたウェンディ様! え? あちらでお話ですか……ええ勿論構いませんが……あの……怒っていらっしゃる? あ、シオンさんも一緒にですか……はい……」
と、ウェンディがシオンを従えてイエロさんを少し離れたところに連れ出すと、突然正座を始めて姿勢を正したイエロさんとシオン。
話の内容は聞こえない。聞こえないのだが、シオンがまず必死に身振り手振りを交えて説明しているようだ。
その後にイエロさんも口を開き、ウェンディは二人に対して不満たっぷりな視線を向けていたのだが、はああ……と大きくため息をついたかと思うと、しょうがないですね……といった表情を見せた。
内容は分からなかったがどうやら納得はしたらしい。
不本意そうではあるが、イエロさんとシオンが胸を撫でおろしているようだから無事に解決したのかな?
……なんの話をしていたのかは、わざわざ離れたって事は聞いちゃいけないんだろうな。
ただ何となく、シアンさんのおっぱいの経緯もシオンが原因なんだろうなあ。
俺にとって良い事を……とか、言っていたしなあ。
ただ、シオンもシアンさんの行動には疑問に思った様子を見せていたので予想外の出来事でも起きてるのかな?
とか考えていると、三人が戻ってきた。
「あっぶない……セーフ……シオンちゃんセーフ……」
「はああああ……寿命縮まった……あと150年くらいしか生きられないかもしれない……。でも良かった! 私は間違っていなかった! さ、さて皆さん集まっているようですし、せっかくだからシアンが村を案内してあげなさい」
「私、って……私は世界に根付く精霊樹の守護があるんだよ?」
「それは私が代わりにやっておくよ。野菜畑の案内も頼みたいからね。私はあそことは相性が悪いからねえ……。あ、レティ嬢? 分かっていると思うけど……」
「はいはい。分かってるわよ。私はここじゃあ魔法は使わないわ」
「そうかい。それなら良かった」
ん? レティ、もしかして前回来たときに何かやらかしたのか?
それはいけないなあ。やらかし仲間だな!
「……あんた、視線が分かりやすいのよ。仲間じゃないからね? あんたみたいに破廉恥な事をしたわけじゃないわよ?」
「いやいや。分かってるって。あれだろ? 森でレティの得意な火の魔法でも使ったんじゃないか? それはいけないなあー。火事になっちゃうぞ」
「使わないわよ! そんな危ない事する訳ないでしょ! ただちょっとここの野菜が手強くてイライラしたからまとめて燃やそうと思っただけよ!」
……それも十分危ない事では?
あと、野菜にイライラするなんてレティもまだまだ子供だなあ。
あいつら走り回るだけだろう? たまに攻撃してくるものもいるが、それでも所詮は野菜――そう思っていた時期が俺にもありました。
「シロ。やれ。刈り尽くせ。奴らに目にもの見せてやれ!!」
「ん。……主、大丈夫?」
「だいじょばない! うう、ほっぺた痛い! ナシュにホーレンで叩かれたほっぺたがとても痛い!」
なんだこいつら!
野菜だろう! 魔物じゃないよな!? 野菜型の魔物を育てていたとかってオチじゃないだろうな!?
連携してくるんだけど!?
野菜畑に到着し、瑞々しく輝いている野菜たちにテンションが上がって近づいたらこれだよ……。
モイの突撃で膝カックンされたと思ったら、ほうれん草を装備した茄子がジャンプし、俺の頬をスパーンと叩くとか野菜が歩きまわる世界にも慣れた俺にとっても常識外だよ!
「あのねご主人様様。エルフの森の土は栄養が外とは段違いなんだよ。だから、野菜も外よりも知性的で、動きも速いし外の世界のDランク冒険者くらいの強さがあるのかな。連携も使うと、Dランク上位の冒険者くらいの強さかもだよ」
「ぐっ……Dランクの冒険者に俺が勝てる訳ないだろうがっ!」
叩かれて若干腫れていた頬にシアンさんが軟膏を塗ってくれながら説明してくれたのだが、野菜のくせに強すぎるだろう!
艶々な見た目しやがって……美味しそうな見た目しやがってええ!
「ね? イラつくでしょ? 私も火の魔法が使えたら殲滅出来るのに……」
レティごめんよ!
イラつくよー! 凄いイラつくー! 人参を剣に見立てて突撃してくるカブが技巧派とかむかつくんだよー!
あいつさっき滑り込んできて俺の大事な所を狙いやがったからな!
それを防ごうとしたシアンさんの蹴りをいなして飛び上がるとふわっと見事な着地しやがったからな!
野菜畑で新鮮採れたて野菜を食べられるのかと思ったらまさかのバトル展開だよ!
まあシロ達は余裕そうに刈り取ってますけどね!
Dランクくらいだと相手にもならないですかね!
「お館様? あっちでウェンディさん達と一緒に休んでた方が良いんじゃないですか? 野菜なら私達が取りますし……」
危険だからミゼラとウェンディには離れてもらっており、護衛はアイナが務めてくれているので、シオンの言う通り俺もそっちに行った方が……いや、一つくらい自分で取りたい。
だってさあ……悔しいじゃない?
「……シオン。そういえばお前、ナシュ焼きを醤油で食べたがってたよな」
「へ? それは勿論食べたいですが……」
幸いにも茄子……ナシュが地面に突き刺したホワイトアシュパラに寄り掛かりながら、ホーレンを使って俺をくいくいっと挑発してくるからな!
いいだろう。本気を出してやる……っ!
「食べさせてやるよ。俺が正々堂々一対一で勝ち取ったナシュで、焼きナシュを作ってやる!」
「やだ……お館様凛々しい顔してる。……相手はナシュですけど!」
『不可視の牢獄』発動。
ナシュの周囲を取り囲み、動けないようにする。
くっくっく。気付いてすらいないようだな!
そのまま俺を舐めくさり、挑発しているがいいさ!
勝負は一瞬……。
ナシュはようやく何かあると感じ取ったのか挑発をやめ、ホワイトアシュパラランスとホーレンシールドを手に取ったようだが、今更周囲を見えない壁に固められていた事に気づいても遅い!
不可視の牢獄ごと収穫用ナイフで切り裂いて真っ二つにしてくれるわ!
真っ二つにすると鮮度が落ちるから、力の差を示して捕まえた方が美味しいとか、シアンさんに説明されたけど知らない!
俺は……ナシュに勝ちたい!
「…………くらえええええっ! ……えっ?」
一閃した瞬間……ナシュが消えた!?
ホーレンシールドだけを残してどこに……!
はっ! まさか下!? 穴だと!?
地面の中に潜ったのか!? 確かに地面には不可視の牢獄は張っていない!
地面に潜ったという事は、やばいっ!
そう思うと同時に俺の足元から奴が……ナシュが現れた!
しかもこいつ、ホワイトアシュパラランスは健在であり、これは間に合わな……否! 諦めるな俺!
今までの鍛錬は何だったのだ!
研鑽の日々よ! 苦痛の日々よ!
あの潰した血豆の数を思い出せ!
あらゆる状況に対処できるよう、ボコボコにされながら鍛えた日々を思い出すんだ俺!
野菜に負けてたまるか! 意地があんだよ男にはっ!
「っ! うぉぉおおおおおお!」
無理な体勢から迎撃に移るが、ギリギリ間に合うっ!
だが、ナシュもホウレンシールドが無い以上、全力でその一撃に全てをかけているように思える。
奴の狙いは……人体、男の急所だろう。
狙いさえ分かっていれば、俺が有利! ナシュに一対一で……俺は勝つ!
俺はナイフを振りぬき、ナシュもホワイトアシュパラランスを突き出すが――。
「……」
「お、お館様? 大丈夫ですか!?」
交差した俺とナシュ。
そして、一瞬の沈黙。
だが……。
「シオン。フライパンを用意しておけ……」
「お館様ぁぁ!」
背後でナシュが真っ二つになったのを、気配だけで察することが出来た。
あいつがホワイトアシュパラランスを突き出す前に、俺のナイフの方が早くナシュを切り裂いたのだ。
俺は……ナシュに勝ったんだ!
「これは絶対美味しいやつ! いや、例え美味しくなくても美味しく感じるやつですね! お館様が私の為に……!」
ふっ……。
はしゃいじゃってまあ……。
まあ俺もナシュに勝てて気分が良……っ!
「……お館様?」
「ちょっと、休むわ……」
うごごごごご……。
あとから俺の大事な玉が痛い……ジンジンというか、ズンズンというか、エコーするように痛みが響く……っ!
くっ! 何故だ! 俺の方が絶対に先に斬ったはず……はっ!
そうか! そう言うことか!
一対一じゃなかったのか! ぐぅ、卑怯な!
いや、俺が勝手に勘違いしていただけか……。
そうだよな。ホワイトアシュパラランスは武器じゃなくて、一個の野菜……そりゃあナシュを切り裂いても単体で突っ込んできますよね。ええ……。
ああ……あとの事は皆に収穫を任せ、俺は必死に取り繕いながらも痛みが治まるまで座って休ませてもらおう……。
アイナ……見えていたのか察してくれたのかは分からないが、傍にいてくれてありがとうな……。
くそう……今日は良い日のはずだったのに……。




