14-13 イグドラ大森林 エルフのおもてなし
さあエルフのおもてなし!! ……の前に、用意していただいた大きな宿で一息つくことに。
俺は仮眠を取っていたのだが、ほとんど皆起きていたらしい。
結構長旅だったと思うのだが、タフだねえ……。
エルフさん側からすると、一息ついてもらうのは好都合だったらしく、どうやら俺が唐突に出発を決めたせいでもてなしの準備がギリギリ間に合わなかったようだ。
お待たせしてしまい申し訳ないと凄く謝られたのだけど、むしろ俺が謝るべきでは? と思ったが、雰囲気で謝らせてもらえなかった……。
お気遣いなく……と、元の世界の気質から言いたくなったが、ウェンディが来ているのに気を遣わないのは不可能かと思ったので言うのはやめておいた。
こういう時は思う存分させる方が良いだろうしな。
で……すっかり夜となってしまったところで起こされ、総出で髪を整えられて会場に向かうとイエロさんが乾杯というか、祝杯の言葉を放って宴が始まったのだった。
エルフ達の伝統的な踊りや弓での的当てや曲打ち、魔法の面白い使い方の披露等、寝ぼけた目も冴えるような出し物は見ものであり、何よりも出された野菜と果実の種類が豊富で凄い美味い!
味が濃い……というだけでは表せない。
なんだろう? 鮮度? 鮮度が良いというか、限界突破してません? 多分動いている時を見ると物凄く活発なんじゃないかな? と思えるような感じ。
ただ味が濃いだけではなく、要所要所良い所だけグレードアップされているような感じ。
味は濃くなっているが、厭味な所は抑えられているような、とはいえすべて消えている訳ではなく絶妙なバランスで不思議な味わいのする食材が多数あったのだ。
ミゼラ達は美味しそうに野菜や果実を食べており、シロはお肉が少なくて不服そうではあるが、普段よりも美味しいせいか複雑な表情だ。
だが、褐色肌おっぱいで大きなハルバードを担いだエルフさんが大猪を持ってきてくれたおかげでご機嫌になったようだった。
エルフは肉を食べないという訳ではなく肉も食べるようだが、野菜の方が好きといった感じみたいだな。
ウェンディは……ちょっと大変そう。
エルフの人達が挨拶をするためにずらっと並んでいたからな。
最初はイエロさんが挨拶を交わし、続いて恐らくそれなりの地位のある人が……と続けていたら、いつの間にか列をなしてしまったようだ。
最初はそれに付き合おうと思ったのだが、ウェンディが『ご主人様。一緒にいてくださるのはとても嬉しいですが、せっかくですので楽しんでらしてください』と言うのでほど近いところでイエロさんとお酒を飲むことに。
エルフの村でのお酒は基本的に果実酒で、甘みと果物の風味が強く、アルコール度数の高いお酒が多いようだ。
それでもって当然美味いから、これは気を付けないとあっという間に酔っぱらってしまいそうだ。
というか、イエロさんはもう酔っぱらっている。
「いやあ本当に助かったよー。ご主人様様が寛大な人で良かった……。ありがとう! 本当にありがとう! もう駄目かと思ったからね……。250年程生きて来たけど、あれほど緊張した事はなかったねえ……うう……ありがとうね!」
「いや、そんなに怒る事でもなかったしな」
「はっはっは! 流石は大妖精を射止めたお方だ! 器が大きくて大変結構ー! さあ! 飲んで飲んで!」
酔っているとはいえ初対面の印象から大分違うなー……。
厳粛でクールな人に思えたのだけど、本来はこんなに明るくてフレンドリーな人だったんだな。
ちなみに、口調が軽いのは俺が言いだした事だ。
エルフは長命。
つまりはイエロさんも俺よりもずっと年上で、今年で256歳だそうだ。
そんな年上の人が、20代そこらの俺に対して敬語というのも変な気がしたので、敬語は不要としたのだが問答は色々あった……。
最終的にお互いに敬語はやめて普段通りの口調で話そうとはなったものの、何故かご主人様様という謎の呼び方だけは変わらなかった。
もしかしてこれ、エルフの中で定着するの?
さっきお酒を注いでもらった時もエルフのお姉さんに、『ご主人様様。こちら、パイリンプル酒でございます』と、パイナップル味の甘酸っぱいお酒を注ぎながら呼ばれたんだよなあ。
「いやあ……しかし、エミリーの言う通り君はとてもウェンディ様に愛されているのだねえ……」
「あー……嬉しい事だけど、エルフ的には問題はないのか?」
「ん? ああ、ヒト族がー! って事? ないない。誰がウェンディ様が好きになった相手に文句を付けられるんだい? 不敬すぎるでしょ……。というか、精霊も大妖精も一つの個だからね。個人の自由にとやかく言う訳もないさ」
まあそうなんだけどさ。
良くある展開というか、予想の範囲内ではあるかもなーと警戒していたわけですよ。
「勿論、君が悪人であったのなら命を賭してでも進言はさせてもらうけどね。でも、精霊にそれだけ好かれているのを見れば君が善人だというのは一目見て分かる。というか、精霊の長ともいえる大妖精のウェンディ様が好いているのだから、悪人という事はありえないだろうしね」
はっはっは! と愉快そうに笑うイエロさん。
なるほど。という気持ちと、この村にいる間は緊張せずに済むことが分かって良かったという安堵感にほっとする。
ついでに、今も俺の頭の上に座っている精霊達にも感謝しておこう。
「だからまあ、安心しておくれ。この村で君に危害を加えるエルフはいないよ。皆、ウェンディ様を含めて君達皆に心行くまでエルフの村を満喫し、満足していただきたいと思っているからね。もし、危害を加える輩がいたら私の魔法でぶっ飛ばしてあげよう。これでも魔法は得意だからね!」
元々魔法が得意なエルフで長の補佐までしているイエロさんが得意という事はきっとすさまじいんだろうな……。
うん。偉い人に保証されるというのはとても心強いな!
「ありがとう。楽しみにしていたから、色々見させてもらおうと思う」
「うんうん。本来ならエルフ族以外には色々制約があるんだけど、そう言うのは全て取っ払っておくからね」
「制約?」
「そう。普段だと精霊も住まう森の環境を何もわからず壊されても困るから行動制限をかけているんだよ。お店で物を買うのはいいけど薬草採取や果実を取りに森に入る事も禁止だよ。でも、錬金術師と聞いているし、薬草は興味あるだろう? ここには、他にない効果を持った薬草も多くあるからね」
「おおー。薬草は気になってたから良かったよ。うちの弟子も楽しみにしていたからさ」
薬草で釣った……というか、それで誘っていたところはあったからな……。
とはいえ、元々ミゼラは働き過ぎだったと思うので、たまには自然豊かな所で心身共にリラックスして欲しいというのも主な理由ではあったけどね。
「弟子というと、あの可愛いハーフの子か。王国では色々あったみたいだけど、ハーフでも若いうちに技能を身に付けておけば問題なく成長と共にスキルも育つから良い出会いをしたようだね」
「あー……そういえば、エルフはハーフエルフを憐れんでいると聞いたんだが……」
「ん? ああ、一部ではそうかもね。魔法至上主義者がというか、ハーフの子はエルフ程魔力は高くはないからね。エルフの魔法こそが至高と思っている輩には長い寿命を低い魔力で生き続けるのを可哀想と思う者もいるんだろうね。そういう者は村の外に行きがちだからエルフの総意と取られていそうで嫌だねえ……」
あー……エルフの村がこれだけ入りにくそうな場所だと、確かにエルフの村から外に出て生活することを選んだエルフの意見が主だと取られてもおかしくないか。
「私は考えようだと思っているよ。寿命が長いからスキルや知識をじっくり鍛えられるし、自分に合う合わないを模索する時間も長く取れる。そのうえで、魔法や狩猟等だけではなくヒト種のように多種多様な才能に目覚める事が出来るのだから、可能性の塊じゃあないかってね」
「おお……確かに」
「エルフは基本的に才の偏りが多いからねえ……。何にでもなれる可能性がある。それは、ハーフであるが故の利点であり、優れた部分だと私は思うよ」
改めて感心というか、敬いの気持ちを持てるほど立派な方だなと再認識する。
お酒の飲み過ぎで口元が緩んでおり、頭をふらふらさせながら言っていなければもっと敬意を表していたんだけど……。
「……ミゼラも俺も薬草採取は楽しみにしていたから制限がないのはありがたい。憐れんだ眼を向けられる心配もないのは安心できるよ」
「うんうん。楽しんでいっておくれ。案内が必要なら皆喜んで受けてくれるし、適任をあてがう事も出来るからね」
そうそう。と、イエロさんは続けて大樹の方を指さしたのでそちらへと視線を向ける。
「本来なら、遠目に見ることしか出来ないのだけど、あの大樹の傍まで行ける許可も出しておくよ。『世界に根付く精霊樹』という大樹でね。空気も美味いし、風の通りも良いから昼寝にも良い。そして、下から大樹を眺める光景は是非見てもらいたいね!」
「おおー。気にはなってたんだけど、やっぱり普通の樹じゃないんだな」
「それは勿論さ。精霊が好む場所であり、我々がここに村を築き森を守る理由だからね。基本的にはエルフ族以外の接近は禁止されているんだが、私の娘が守り人をしているので話は通しておくから安心して見ていっておくれ」
「娘さんが守り人?」
「そう。さっき大猪を持ってきた子がいたでしょ? あの子が私の子。褐色の肌が特徴的でね。そういった子は産まれながらに精霊に祝福されていると言われ、『世界に根付く精霊樹』の守り人になる子が多いんだ」
ああ、さっきの褐色の肌のおっぱいさんか。
確かに周囲を飛ぶ精霊が多かったし、守り人と言われれば納得の外見であったな。
「可愛かったでしょー? もうね。うちの子ってばいい子なんだよ。仕事には真面目だし、ちょっと心配になるレベルで他人を信じやすいからからかいがいもあってね? 私がついた嘘だと分かると頬を膨らませて怒るんだけどそれがまた可愛いのなんのってねー!」
確かに可愛い感じであったし、おっぱいもアイナくらいの大きさだったなとは思うが……。
「……まあ、最近はシアンも強くなってきちゃったから安易に嘘をつくと物理的にボコボコにされるんだよ。妻も私が悪いからって一緒になって魔法でボコボコにしてくるんだけど酷いと思わないかい?」
これほどまでに自業自得、因果応報という言葉がふさわしいことなんてあるのだろうか。
イエロさんとしては娘とのコミュニケーションのつもりなのだと思うが、多分、きっと、うざがられていそうだな……。
でもきっとこの人はめげない気がする。
「ん? シアンさんが娘って事は……イエロさんの奥さんは褐色のエルフさんなのか?」
ダークエルフとは言わないようにしておく。
なんとなく、なんとなくだがダークという言葉に負のイメージが付いてくる気がするので、表現を抑えて聞いてみた。
異世界だし、何がタブーかは分からないからな。
「ん? ああ、肌の色が違うからかい? 私も妻もハイエルフだよ。えっと……ほら、あそこだ。ウェンディ様とちょうど話しているね」
あ、そうなのか。
あのスレンダーさんが……。
一部分を見ると、本当にあの人とイエロさんの子があの褐色おっぱいさんなの? と、僅かに失礼な疑問を持ちそうだが確かに面影はある気がする。
身体的特徴の遺伝が全てではないと心の中で謝罪しつつ再認識した。
「シアンはグランドエルフと言って、先祖返りのようにハイエルフ同士の間に稀に生まれてくるんだよ。グランドエルフは生まれながらにして精霊に愛されているんだけど、私達ハイエルフのように魔法が得意ではなく、その代わりに身体能力が高いと決まっているんだ」
「ああ……だから大きなハルバードを持っていたのか」
「まあ、体に合わせたサイズなんだけどね。たまに森の中に入って獣や魔物を狩ってくるんだ。私達は野菜の方が好きなんだけど、グランドエルフはお肉も好きみたいなんだよね。そうだ! 初めてお肉を取って来た時の話を聞くかい!」
「あ、いやそれは――」
「あれは何年前だったかな……20年くらい前かな? まだシアンは体が小さかったんだけど――」
……こちらの返事を聞く前に話し始めてしまった。
お父さんの娘自慢は決まって長い。
長い上にループするものだと相場が決まっており、案の定先ほど話したおねしょは何歳までというプライバシーをガン無視したお話が2度目に突入……。
た、助けて? と思ってウェンディの方を見ると、あちらは終わった所らしく、こちらを向いたウェンディと目が合った。
奥さんは満足そうな笑みのままウェンディが向いた方を見ると、すぐさま目つきが鋭くなってこちらへとやってくる。
「あんた! 飲み過ぎだよ! ごめんなさいね。ご主人様様。ほら、あんたが一方的に話すと迷惑だからもう行くよ!」
「え? ちょっと、マゼッタ? 待って! あ、耳は! 耳は引っ張らないで! 象徴切れちゃう! エルフの象徴が無くなっちゃうよ!」
……まさかの母ちゃん系。
エルフ程の美形で母ちゃん感があると、不自然以外の何者でもないと思いつつ、イエロさんの娘自慢から解放されたので改めてウェンディと二人で飲む事にする。
お疲れのウェンディは俺に寄り掛かり、そのままお酒とおつまみをいただくことにしたらしい。
沢山のエルフさん達に甘えている姿を見られているが、どうやら気にしないことにしたようだ。
それならば、と労いの意味も込めて抱き寄せ、おつまみは俺が食べさせてあげよう。
今日はお疲れ様でした。明日からは流石に今日ほど迫っては来ないと思うが、純粋にエルフの村を楽しみたいので一応、イエロさんではなくイエロさんの奥さんに話しておくとしようか。
力関係の把握は大事だな……。
説明回に近いフラグセッツ!
ゆるーく行きます。
 




