14-4 イグドラ大森林 お蕎麦
アマツクニ帰りに隼人がいるんだもの……っ。
ご飯が多くなるのは必然なんだよ!
この前作ったお団子は、隼人が大層喜んで食べていたらしい。
やはり流れ人たるもの、和の食ベものには目が無いよな。
まあ、この世界だとアマツクニではない限りはパンやパスタ等、小麦粉メインの食事が多くなってしまうから余計だろう。
という事で、アマツクニで買ったあの食材を使って隼人と喜びを分かち合うことにした。
ふっふっふ。まさか異世界でこれが食べられるとはな……。
隼人にとっても予想外だろう。
「ほぁぁ……ほぉぉ……」
「ん? 隼人どうした? そんな惚けて。後は茹でるだけだから、もう少し待ってくれよな」
「いえ、はい。勿論待たせていただくのですが……。あの……まさかイツキさんが蕎麦打ちが出来るとは思わなくて……」
そう。今回はゴウキ殿にお願いして用意してもらった蕎麦粉で打った蕎麦を食べるのです。
そして、俺は実は蕎麦が打てるのです!
「爺ちゃんが一時期蕎麦打ちにはまってな。横で見てたら教えてくれて、打てるようになったんだよ。暫く打ってなかったんだけど覚えてるもんだな」
爺ちゃんは孫に自分の好きな事を教えられるのが嬉しかったんだろうなあ。
爺ちゃんとの思い出といえば蕎麦打ちが一番に思い浮かぶ程に良く教わったおかげで、こうして異世界で蕎麦が食べられるのだから爺ちゃんに感謝だな。
「さてと、茹でてる間に他の準備をっと。隼人は何で食べる? 麺つゆ、胡麻だれ、とろろも鬼おろしもあるから、好きなので食べてくれ」
「おおお……至れり尽くせりですね。でもやっぱり麺つゆがいいですね!」
まあそうなるよな。
やはり麺つゆで食べるのが一番だと思うんだが……誤魔化しが一番利かないんだよなあ。
「よし。そろそろいいかな。冷水で締めて……手作りのざるに乗せてと……」
早速アマツクニで覚えた木工スキルが役立ったな。
と言っても、細く切った竹を糸で結んだだけだけど……。
簡単だけどこだわりの逸品です。
「ふおおお……お蕎麦だ。お蕎麦ですよイツキさん!」
「そうだなって……かなり喜んでるな。どうした?」
蕎麦が嬉しいのは分かるが、今まで見た以上の喜びが顔に出ているぞ?
「いや、僕実はお蕎麦大好きなんですよ!」
「おお、そうだったのか。あー……じゃあ素人が作ったもんで納得いくかは分からないが、早速食べるか」
「はい! いただきましょう!」
隼人が急ぐように蕎麦をざるからとり、麺つゆに少しだけ浸してずるずずっと音を立てて豪快に吸い込み、そりゃあもう嬉しそうに咀嚼するのを俺はじっと見ている。
あーあー……美味そうに食べてまあ。
「っー! んんー! うん。うん! 美味しいですイツキさん!」
「それは良かったよ。久しぶりだし、心配だったんだけどな」
一応の形にはなったものの、やはり久しぶりだと少し失敗してしまったからな。
麺の太さが不揃い、切り口が曲がっているなど、小さなミスをあげればキリがない。
とはいえ、途中で切れたりなどはしていないので蕎麦の形にはなったとは思うが。
「いやいや心配だなんてご謙遜を。コシもありますし、蕎麦の風味も感じますし、今まで食べたお蕎麦で一番美味しいですよ!」
「素人だぞ俺。一番ってことはないだろう。異世界だからこそ、そう感じたんじゃないか? それじゃあ俺も頂くかな」
自分の分を取り、まずは麺つゆだけで一口。
勿論、ずるずずっと音を立てて豪快に。
ああ……我ながら麺つゆは上手くいったな。
ただ、食感がやはりあまり芳しくない。
とはいえ、蕎麦粉自体は良いものだからか蕎麦の香りが口から鼻に抜け、風味も味わいも食材が腕をカバーしてくれたようだ。
「……うん。なんだ。ちゃんと美味いな!」
「そうですよー! 自信持ってください! さてさて、次は……ネギンとヤマモイのとろろで……。ずるっ……ずるるっ! んんーっ!」
「はは。本当に美味そうに食べるなあ。その笑顔だけで作ったかいがあったよ」
「だって本当に美味しいんですもん! お誘いしてくれてありがとうございますイツキさん!」
「おう。やっぱり元の世界の食べ物は隼人と食べないとな」
「……嬉しいです。イツキさぁん」
おい。照れるな照れるな。
何の深い意味もないからな?
ほら。蕎麦食べろ蕎麦。
まだまだつゆはあるんだから、全種類食べなさい。
「主ー。ん? 何か食べてる」
「隼人様ー! んん? 何を食べているのです?」
おっと。腹ペコさんが来ましたよっと。
今日はミィと遊んでくるって街を疾走してたんだよな。
これは追加が必要なんだろうなあ。
「パスタ? 浸けパスタ?」
「いや。蕎麦っていう、元の世界の食べ物だよ」
「おお。主の世界のご飯! 良い匂いする。美味しそう」
「食べるか? って、食べるよな」
「ん。食べる!」
「ミィも食べるのですー! 隼人様がとても嬉しそうにしているのです! これは絶対美味しいやつなのです!」
あいよ。それじゃあ追加で蕎麦を打ちますか。
でもその前に……。
「それじゃあ二人共。まず腕出して」
「腕? ん」
「腕なのです?」
そうそう。
ちょっと失礼しますよっと……。
「はけ? くすぐるの?」
「違う違う」
「ひゃあ! 何か塗られたのです!?」
「蕎麦湯を少しだけな。ちょっとして、塗った所が赤くなったら食べちゃ駄目だからな」
「なん……だと……」
「なの……です……」
いや、二人共さっきまではけで塗られてきゃっきゃしていたのに、いきなりそんな目を見開いて衝撃を受けなくても……。
別に意地悪とかじゃないからな?
「蕎麦アレルギーって言って、蕎麦を食べられない人ってのもいるんだよ。だから事前に大丈夫かどうかを調べなきゃ駄目なの」
「シ、シロは食材なんかに負けないよ?」
「そういう問題じゃなくてね?」
「ミィも負けないのです!」
「勝ち負けじゃないんだって……」
うん。食べられなくなる可能性が高くて怖いのは分かるけど、アレルギーを甘く見ちゃ駄目なんだよ。
本当に危ないからね。根性論とか効かないからね。
「ミィ。大人しく待っててくださいね。アレルギーは本当に怖いんです。イツキさんのいう事は絶対ですよ」
「うう……お預けは嫌なのです……」
「シロは負けない……シロはなんだって食べられる。葉っぱだって……頑張れば食べられる。だから……シロは負けない」
二人してじーっと俺が蕎麦湯を塗った箇所を見ているんだが……。
「……ちなみに、遅いと症状が出るのに二時間くらいかかるからな?」
「長いっ!?」
「それまで食べちゃ駄目なのです!?」
「駄目だねー」
「「ガーン!」」
正式な検査の時間は知らないが、何かあっても困るのでしっかりと時間は取りますよ。
そんなに残念そうな顔をして訴えかけてきても駄目だぞ。
おねだり光線をしても駄目な物は駄目だぞ。
「っと、隼人は食べていいからな。おかわりいるか?」
「あ、お願いします! まだまだいろんな味を食べ比べたいですからね! えっと……ごめんね。二人共」
それじゃあ、追加で蕎麦打ちしておくかな。
シロ達の分もまとめて作るとして、隼人と俺の分は先に茹でて残りは魔法空間へとしまっておこう。
しかし……隼人、本当に蕎麦が好きなんだな。
普段なら二人に遠慮とかしそうなもんだけどな。
まあ、俺も食べるんだけど。
「ううう……出るな出るな……」
「赤くなっちゃ駄目なのです……。駄目なのですぅ……!」
あれから結構な時間が過ぎ、俺と隼人はこれでもかという程に蕎麦を堪能してもう動けないので、そのままお茶をすることに。
というか、二人のチェックが終わったら茹でなきゃいけないので動いていないだけだけど。
「はああ……お蕎麦。美味しかったです……。蕎麦湯も美味しかったですねえ……」
「そうだな。次は天婦羅も作って温かい天婦羅蕎麦もいいな」
「あーいいですねえ。お揚げできつね蕎麦は……そっか。お揚げが……」
「そうなんだよ……。あ、でもこの前クリスに作ってもらった味噌汁に入ってた肉みたいなやつが油揚げに似てたよな」
「ああ! あれなら代用できそうですね!」
そうそう。
あの後教えてもらったんだよなー!
ただ手順が多すぎて覚えきれなかったので、今度ウェンディにメモを渡して再現してもらわねばならないんだよな。
でも油揚げ……形状的に袋になるかは分からないが、お稲荷さん等も作れたら嬉しいな。
「イツキさんは今日食べた中で何が一番でした?」
「そうだなー……個人的には、クルミを擦り入れたのが意外と美味かったな」
「あ! あれ美味しかったですよね! でも僕はやっぱりシンプルに麺つゆと海苔にネギンとワサビーが一番でした!」
シンプルイズベスト。
麺つゆには醤油も使ってあるし、なんだかんだ一番と言われればそうなってしまうよな。
「主! 主! もういいんじゃないですか?」
おお、シロがあまりに待ちすぎて口調が丁寧になっている……レアだな。
「赤くなっていないのです! お蕎麦食べてもいいのです?」
「ああ。二人共大丈夫だろう。さっきちょっと食べてみても問題なさそうだし……それじゃあ、沢山茹でようか」
「ん!」「はいなのですー!」
一口だけ様子見の為に食べてもらったが何も無いしこれは問題ないだろうな。
その一口もどのつゆで食べるか悩んでいたくらいだから、二人共沢山食べるだろうし麺打ちも頑張らないとな。
「ん! 主! ずずってやっていいの? ウェンディに怒られない?」
「ああ。蕎麦はいいんだよ」
「ちゅるる……。うう……意外と難しいのです!」
「ずるっずずずず!」
「シロは上手なのです!?」
「ん……んふ。この食べ方が美味しい」
「ず、ずるいのです! ミィも美味しい食べ方がしたいのです! でもちゅるってなっちゃうのです!」
「ミィ。ゆっくりではなく一気に啜りこむと啜りやすいですよ」
「隼人様! わかったのです! ずずっ! んんー! んっ……んふー! 出来たのですー! この食べ方が美味しいのですー!」
うんうん。
二人共美味しそうに食べるなあ。
……俺ももう少しだけ食べようかな。
あ、隼人も? うん。ちょっとだけ。ちょっとだけね。
「主様。ただいまーって……何してるの? 料理?」
さて、大量に茹で終わったし……と思ったら、アイナ達三人が帰ってきたみたいなので追加ですかね?
いやでも……。
「なんだ? また主君の世界の料理か?」
「おお! それは是非とも自分達も食べたいっすー!」
「駄目」「駄目なのです!」
「なんでよ! っていうかミィまで?」
「意地悪良くないっすよー!」
「そうだぞ。我々だって主君の手料理が食べたいんだ」
「あれるぎーは怖いのです!」
「ん。検査が必要。シロとミィはそれを乗り越えた」
うんうん。まあ当然、アイナ達もアレルギーチェックは必要だよな。
「あれるぎー? 検査って……何するの?」
「ん。ん……シロの食べ残しを擦りつける?」
「違うよシロ。ゆで汁をはけで少し塗るだけだよ?」
「どんな間違い方をしたらそんな屈辱的な事が検査になるのよ……。でもそれだけなのね。それならするわよ」
「皆さん集まって何のお話ですか?」
「隼人もミィも何してるのよ」
ウェンディとレティもやってきて、そしてすぐ後には全員が集まったので、これから先蕎麦を食べる事もあるだろうという事で全員がアレルギーチェックをすることに。
当然シロとミィが待った時間分を待ってもらう事になり、結果的には夕食となった訳だが、二食続けてでも美味しくいただけました!
まあ、結果は全員問題なかったのでこうして無事皆で蕎麦を食べる事が出来ましたとさ。
「……いやあの……なんで皆さんお館様がハートのエプロンを付けている事をスルー出来るんですかね? え? これが今のトレンド? もしかしてシオンちゃんが乗り遅れてます?」
たまたま普段使っている普通のエプロンが洗濯しててなかったんだよ!
反応が無さ過ぎて俺もこれを付けていることを忘れてたんだから触れないでよ!
お知らせ
祝! 10巻決定ですー!
いつかはまだ未定ですが、出せるとの事です!
という訳で10巻ですがついに二桁巻ですしこれまで以上に気合を入れて頑張ろうと思います!
具体的には、ほぼ書き下ろしで行こうかなと。
ほぼなのは状況的には9巻後からなので、一部序盤の展開が被る可能性があるからですね。
それ以外のメインストーリーは完全に書下ろしを予定しています。
ついでに、新キャラも出る予定です!
ファンタジーの人気種族の予定です!
それでは! 次の情報や10巻をお待ちください―!




