13‐25 和国アマツクニ 陰陽刀
なんか久しぶりに説明主体なお話な気がする。
シオンが物凄い笑顔で欲しかった刀だと紹介してくれたのだが、どうにもうまく反応が返せていない俺。
偽物も置いてある店に、俺が持っている刀と同じものがあるってのは……なあ?
「お館様どうですかどうですか? これが私が一目見た時から恋してやまないずっと欲しかった刀です! お仕事にお仕事を重ねて憧れ続けた陰陽刀の二振り! こっちが陰陽刀-陽-! こっちが陰陽刀-陰-です!」
ああ、やっぱり陰陽刀-陰-なんだな。
僅かな希望で陰陽刀Mkトゥー等の別物の可能性に賭けてたんだがな……。
流石にあれだけの性能を持っているこっちが偽物って事はないだろうし……つまり……。
何とも言えない気持ちなのだが、対してぴょんぴょんと小さく跳ねてはトランペットに憧れる少年の様な眼差しで「はぁ~……」とため息を零すシオンのテンションはとても上がっているようだ。
まあ……色々な所で働いていたもんな。
ユートポーラにロウカク、帝国にもいたという事は恐らく王都でも働いていたことだろう。
案内人から踊り子等々様々な仕事をしてお金を貯めていたのは、これを買うためだったのだと思うと……くっ。
「陰陽刀。陰と陽の名を持つ二振りで一つの刀だ。陰陽刀-陰-は幽体を切る。陰陽刀-陽-は幽体を吸収する効果のある刀だな。それじゃ……二振りで5億、一振りだと3億ノールだがどうする?」
一本3億っ!? 高っ!
え、これそんなに高いの!?
俺そんな高い武器を未熟な腕で使ってたの!? 申し訳なっ!
というか、隼人から借り受けたままで良いものなのか?
流石に返す事を検討するレベルなんだが……でも多分隼人は値段を知っても受け取らない気がするんだよな……。
「酷い値段設定ですよね……。実際はそこまでしないでしょうに……」
「一点物には相場が無いからな。欲しい奴はそれでも買う。真贋目利きするなら好きなだけしろよ」
「まあ欲しい人は私以外にもいるでしょうねえ……。相場が無いのは知ってますよう。そのせいでどれだけ苦労したか……。それに目利きもなにも、持たせてはくれないじゃないですか……」
「当然だ。持っていいなら馬鹿でも分かる。そんなのは目利きも何も無いだろう」
「ですよねー」
いや、多分俺わからないっす。
片方は持たなくても分かるけど、もう片方は何が何やら全然わからないです。
「まあ、本物を見たことが無い以上、例え偽物でもここまでの出来ですと私には判断はつきませんし。私が見惚れたのはこの刀ですし……私は自分の運に賭けます!」
「……いいのか?」
「ええ! ここのお店、偽物でもある程度の性能は持っていますからね! 偽物でも諦めがつきましょう! それに私の運はなかなか良い方だと思うので!」
運任せって……、それってただのギャンブルじゃないか?
今までこのために頑張って来たんだろう?
そ、それでいいのかシオン? 人生を謳歌しているなとは思うが……。
「あと流石に私元部下ですし、部下に偽物を売るって事はないはずですよ! 多分! きっと!!!」
ああ、一応打算もあったのね。
凄く甘い打算だと思うけれど。
いやあ……だって、世界に二つとないなら少なくとも片方は……さ。
「……そちらさんは何か言いたげだな」
「あー……いや、その」
「別に口出しを禁じている訳ではない。好きに言って構わないぞ」
「んんーそう……ですか。じゃあ……シオン。片方はわからないんだが、片方は偽物だと思うぞ? 多分、間違いなく」
「ほう……」
「ええっ!? なんでわかるんですか? 実は刀マニアだったりしたんですか!? 鑑定使ってないですよね!? 使ったらここめっちゃうるさい音なりますし! 出禁にされますし!」
いや、だって片方俺持ってるし……。
魔法空間の中に今ありますし……。
あとやっぱり結界的なものがあるんだ。
まあ、ヤオヨロズの副局長ならそういう道具にも詳しそうだし、そういうものを使っているんだろうなあ。
「ちなみに、どっちが偽物だと?」
「こっちです」
「……ふ。正解だ。正確にはどちらも偽物だがな」
えええ……いきなりぶっちゃけすぎちゃってません?
片方は本物だとか言えば、俺だってわからないので少なくとも三億ノールは手に入ったかもしれないのに……。
「いい目利きだな。大して見てもなさそうだったが……流れ人の特殊スキル……という訳でもなさそうだ。もしかしてだが、持っているのか? 陰陽刀を」
「ええ……片方だけですけど……」
「ほう……。すまないが、見せてもらっても良いだろうか?」
「いいですけど……すり替えないでくださいよ?」
「大丈夫ですよお館様。この人これでも国の機関の一員ですからね。変人ではありますけど、悪い人ではないです!」
「一言余計だな……。だが、巫狐様に誓って不正を働くつもりはない。ただ本物の陰陽刀-陰-を見たいという欲だけだ」
う、うーん。
シオンも頷いてるし……まあいいか。
別に俺は武人という訳ではないから、刀が魂や半身という訳でもないしな……。
「……これが陰陽刀-陰-の本物か……」
「良かったら、自分で持って見ますか?」
「おお、ありがたい」
お礼を言うと真っ白な手袋を付けてから刀を受け取り、丁重に扱ってくれるダイコクさん。
薄っすらと笑みを浮かべている姿は単純に興味とか好奇心が強いと思われるのだが、刀を見ながら笑う姿はちょっと怖い気がする。
「……素晴らしい。長さ、反り、そして刃紋……すべてが美しい。実戦で使われていても尚、刃こぼれが無いのは、刀の持つ機能のおかげか……」
「機能?」
「知らないのか。さっきも言ったが陰陽刀はどちらも幽体を切る刀だ。陰陽刀-陰-は幽体の繋がりを断つ力があり、陰陽刀-陽-は繋がりは断てないが幽体に傷を付けた際に幽体の力を吸い込み蓄積する力を持つ。その際に同時に武器の再生も行われるのがこの刀の機能だ」
へえ……それは全く知らなかった。
という事は、この前の隼人との戦闘で回復したという事だろうか?
「ん? いやそもそも幽体ってなんですか……?」
「幽体ってのは魂みたいなもんだ。身体には肉体と重なるように幽体が備わっている。一般的な死は肉体の死であり、本来ならばその際に幽体も天に還るのだが、稀になんらかの力が働いて幽体だけが残る場合もある。アンデッド系は大体幽体だけで肉体がないが、何かにとりついて生まれるものだ。霊なんかは幽体の塊だな。スケルトンは幽体が骨に取りついた姿だ」
霊……お化けか……。
異世界、お化けやっぱりいるんだ……。
スケルトンなんかもいるんだし、そりゃ当然か……。
「霊が相手であれば、この陰陽刀-陰-は無敵だぞ? どんな霊でもスパスパ斬れる。この刀であれば再生も出来ずすぐさま天に還ることだろう」
おお……霊特効……。
絶対使う機会無いけどね!
元の世界とは訳が違うじゃん! だってここ異世界だもん! どうせ霊感なくても見えるし襲ってくるんでしょ! 怖っ!
「あ……そういえば俺、何人かこれで斬りつけているんですけど……大丈夫なんですか?」
幽体ってのは魂みたいなものなのだろう? それを傷つけてって……とても不味い行為だったのでは?
いかん、かなり心配になってきた。
ソルテのお腹をちょっと斬ってしまった事もあるんですけど!?
「大丈夫だ。肉体を持つ相手であれば、幽体は常時回復しているからな。使っていたのなら覚えがあるとは思うが、陰陽刀-陰-で斬られた相手は斬られた部分が麻痺したように動かせなくなる。それは、一時的に幽体と肉体が離れた状態になったという訳だ。そして、時間が経って体が動かせるようになるのは、回復したということだ」
「なるほど……良かった……」
「ちなみに、陰陽刀-陰-は幽体を切り離すため相手を麻痺させる効果があると言ったが、これは純粋な麻痺効果ではなく、幽体を切り離した結果なので、麻痺耐性や状態異常耐性なども無視できる」
おお……そう言えば麻痺耐性などあらゆる耐性の高そうな隼人でも数秒動けなくすることは出来た。
という事は……さらにあらゆる耐性を持っているであろう真も動けなくすることが出来るのだろうか?
出来るのであれば……あいつの暴走を止める際などに役立てよう。
「陰陽刀-陽-は幽体の力を吸収すると言ったが、刀に吸収した幽体の力を蓄積する効果があり、蓄積した力は切っ先を刺す事で還元することが出来る。効果量だが、何の因果があるかはまだ不明だが、持ち主の魔力量で決まるようだな」
「還元できるって、回復するって事ですか……?」
「いや、回復というよりは調子を上げると言った方が正しい。幽体の吸収効果は陰と違って動かせなくなる程ではない。だが、陰陽刀-陰-で切り離した部分を更に陰陽刀-陽-で斬ると効果が上がる」
おお……二つ揃った方が強いという事なのか。
しかし、陰陽刀-陽-は切っ先から刺さないと駄目なんだな……それはなんというか、勇気がいるな……。
「この刀の面白いところは魔力を込めると幽体を切れるところだ。その際は肉体には傷一つつかない。だが、刀同士など幽体の無いものが相手の場合は実体を持つかのようにぶつかり合うという不思議な性質を持つが、幽体を斬る際は鎧や衣服などはすり抜けるという謎がある。……どう作ればこうなるかも未だわからぬ、刀匠の名も分からぬ名刀……やはり素晴らしい……」
おお、そういえば確かに……。
ソルテのお腹付近を斬ったにもかかわらず、服はなんともなってなかったもんな。
というかこの人の知識凄いな……何でも知ってるじゃん。
「いやあ、勉強になります。凄い詳しいですね」
「この人不愛想なくせに武具の説明の時だけ饒舌になるんですよ。ね? 変人でしょう?」
「……知っている知識を客に披露しただけだろう」
むっとはしたが、興味はいまだに陰陽刀-陰‐に注がれており、切っ先から鍔、反りなどをじっくりと吟味してはほう……っと声を漏らすダイコク副局長。
指をわざわざ切って麻痺を確かめるとか……多分、武具が本当に好きなんだろうなあ。
段々と俺もこの人は悪人ではないなと理解し始めてきた。
少なくともダーウィンよりはいい人だろう。
あいつは一目見て怖い男だからな!
「ふう……満足だ……。礼を言うぞ」
「いえいえ。見せただけですし。こちらこそ色々教われてありがたいです」
「いや、無事本物だと確認できただけで大満足だ。それでは良い物を見せてもらった礼をお返ししよう」
そう渋い声でいうと店の奥、恐らく関係者以外立ち入り禁止の場所へ行き、なにやら布の被った刀を両手で掲げるようにして持ってきた店長さん。
そしてそれを木製の机にそっと置くと、かぶせていた布を取り……。
「……これが、本物の陰陽刀-陽-だ」
「おお……」
まさかの本物のご登場だ……。
ここに来てこれも偽物でした! 目利きできたか? なんて落ちはないだろうな……?
「いや、でも……陰陽刀-陰-にそっくりなんですね」
見れば見る程そっくりで、違うと言えば持ち手の部分だろうか?
陰陽刀-陽-は朱色を軸にしたもので作られており、陰陽刀-陰-は濃い藍色を軸としているから、対照的に作られたのだろうか?
刃は濡れているかのように美しく、鏡のように俺が映りこむほどに曇りが無い。
これでも肉体は斬れないのか……。
鑑賞用と言われても納得が出来る程の芸術性があり、これを部屋に二振り飾っていたら間違いなく勝ち組人生だと一目でわかるような気がする。
「良い刀だろう? 陰陽刀は二振りで一つ。それはこの姿を見ればよくわかるだろう」
まさしく。陰陽刀を両手で持つ姿こそが当然であり、完成形なのだろうと俺も思う。
というか、偽物の方も似すぎじゃないか?
シャッフルされたら分からないまであるぞ……?
「……くれてやる。持って行きな」
「……へ?」
なんですと?
そして今回で終わらなかったので、恐らくは次回かその次……?




