13-19 和国アマツクニ 木工スキル3
…………ふぅぅぅ……よし。
「……大した集中力だな。終わったか?」
「うん。終わりかな……はぁぁぁ……疲れた」
とりあえず、集中と情熱と持っている技術は全て詰め込めたと思う。
『ブラッシュツリーのジュエルブラシ 感度上昇(中) 毛状態回復(小) 毛艶(小)』
『シルバーボールブラシ 抗菌 清潔化』
愛情たっぷりの美味しい昼飯を食べた後はやる気十分。
あれからいくつかのブラシを作り続けた結果、最終的に出来たのがこの二つ。
ブラッシュツリーのジュエルブラシはブラッシュツリーを細かくしつつ、先端を尖りすぎないようにカットし、本体を挟み込む際に小さな宝石を厭味にならない程度に装飾して出来た仕上げ用の物である。
シルバーボールブラシは、文字通り銀を使った金属製のピンのブラシ。
一つ一つを太めにして間隔を広めにとり、軽くならすのに用いるものだ。
先端が丸くなっているため、力加減次第でとても気持ちの良い出来になっているうえ、ピンはずらして並べているため抜けた毛はからめとる事が出来るようになっている。
昨日作った荒目の櫛と比べて金属であるため、剛毛でも使えるだろうから適宜併用していこう。
「上出来じゃねえか。そいつなら、十分巫狐様に使っても問題ねえな」
「ありがとう親方……。そっちも終わった?」
「ああ。なかなか納得いかなくて時間かかっちまったがな……。だが、その分良いもんが出来たぜ。せっかく尻尾があるんだし試してみろよ」
『金剛石と柞の上位櫛 毛艶(中) 耐抵抗(大) 指先の達人』
……わあ、すげえなおい。
当然のように指先の達人が付いているわ、毛艶が中に耐抵抗が大。
試してみたらもうね、一瞬だよ……。
雨粒だらけの車のフロントガラスにワイパーをかけたかのように圧倒的に綺麗になったよ。
というか、目に見えて艶が増したのも驚きなのだが、耐抵抗(大)の効果よ……。
もうスムーズ。スムーズ過ぎて空気を撫でているのかと思った。
当然、仕上がりも美しく、撫でられているだけの八尾がびくんびくんしながらも力を完全に抜いているのが分かる。
かくいう俺も、何度でも撫でたくなってしまうような撫で心地に止め時がわからなくなってきてしまった。
「これは……やばいな」
語彙力が死んだ。
一撫でごとにやばいしか口に出てこないよ!
でもやばい。絶対やばい! やばすぎりゅ!
これは……仕上げにしか使わないようにしよう。
中毒性があるかもしれない……あふん。
「へっ。満足したみたいで良かったよ。代金は、あれと交換って事でいいな?」
「ああ……うん。むしろもっと払ってもいい……」
「お? そうか? じゃあ、もう一台頼めるか?」
「ま~かせ~とけ~~」
既知の魔法陣で作って渡しますよ~。
ああ……ふわあ、って。ふわあ、ってなる。
脳が働かなくなる……駄目になっちゃうこれぇ……。
八尾ももうとろっとろだよ。
悔しいけど、親方に任せて良かった……。
これ、俺が作ったブラッシュツリーのジュエルブラシと合わせたらどうなっちゃうんだろう?
感度上昇が中とか……これ以上になっちゃうのかな?
そんなのもう完全に駄目になっちゃう!
「お、おい? 大丈夫か? やり過ぎじゃないか?」
「主君? 尻尾の事は良く分からないが、やりすぎは逆効果では?」
「わあ……だらしない顔してますねえ……」
「大丈夫……らいじょうぶ……」
ああ、ジュエルブラシも試したい……合わせて試したいけど……あー……これは、駄目だぁ……。
試したらもっと駄目になるぅ……。
「大丈夫か主君?」
「まだ、いける……」
「いや、いっちゃ駄目でしょう。はいストップでーす」
「っ……もう一回、もう一撫でだけぇ!」
「昨日は許しましたけど、今日は駄目ですよー? ハニーグリズリーの捕獲方法みたいになってますからね? アイナさんはわかりますよね?」
「ハニーグリズリー……ああ、蜂蜜を用意して舐めさせている間に討伐するあれだな。奴らは蜂蜜に目が無いからな……。攻撃されていても、蜂蜜を舐める事を優先するから狩りやすい魔物のようだと……なるほど」
ぐぬぬ……そんな食い意地の張った熊と一緒にされるのか……。
いや……だが、これは踏ん切りをつけるいい機会と見て我慢した方がいいかもしれない……。
確かに、八尾の事を思うとこれ以上は尻尾に良くない。
とはいえ、あの甘美な心地を断つのは……辛いっ!
八尾ももう終わり? 終わりなの? と、訴えかけているように思えるが……っ!
「っ……はあ……はあ……ふん!」
なんとか手を伸ばす右手を左手で押さえつけながら、シオンの手伝いもありつつ魔法空間へと収納することが出来た……。
こいつは危険だ……。
だが、俺は断ち切った! 尻尾への愛が快楽を上回ったのだ!
「ああ、そうだ。普段から何本か使うみたいだから、作っといたぞ」
「なん……だと……」
更に4本、だと……。
まさか親方の時間がかかったのは安定して同じくらいのものを作るためだったのか……負けたよ。
ソルテ達専用と髪にも使えるし、更に冒険者達にも使えるじゃないか……。
この櫛を冒険者に……?
下手すると死人が出るんじゃなかろうか?
「ぐっ……うおおおおおおりゃ!!」
「お、おお……」
「はあ……何とか仕舞えたぜ……」
はあ……はあ……俺は……俺はやったぞ!
誘惑を跳ねのけたんだ!
「やったな主君! 見事だったぞ!」
「ご主人様。よく頑張りました!」
ありがとう二人共!
今俺はとても誇らしい気持ちだよ!
ああ、今日はいい酒が飲めそうだ!
「いや、二人共流石にそれは誉め過ぎでは? お館様は櫛を仕舞っただけですからね?」
「あー……満足はしてくれたようだな。オーバーな気がするが……」
「ああ……こいつは危険だ。取り扱いには気を付ける事にする」
だが、これならば間違いなくククリ様の尻尾を手入れするのにふさわしいものだ。
間違いなく! 完璧なまでに満足させることが出来るだろう。
「さて、それじゃあ俺も帰るぞ。お疲れさん」
「親方。ありがとう。助かったよ」
「構わねえよ。こっちも楽しかったからな。弟子の刺激にもなったようだし、また来いよ」
「ああ。次は酒盛りでもしようか」
「そいつはいいな。楽しみにしてるぜ」
ぐっと熱い握手を交わし、これからも木工は続けていくから、また来たときに腕前を見てもらう約束をして俺達は宿へと帰る事にした。
良い感じの満足感と充足感。
今日は気持ちよく眠れそうだな……。
一方その頃……。
※
今日もククリの所で遊ばせてもらっている。
朝から晩まで、ククリの寸止めをずっと体験したおかげで大分慣れてきた。
よく見る。そして、よく考える。
少し、分かってきた……かも?
そんな時の事だった……。
「……ん。ククリ、大丈夫?」
「ら、らいじょうぶれす……。問題な……っんんぅ! 尻尾、尻尾がぁぁ……やぁっ……」
物凄い速さで動き、寸止めを繰り返していたククリがいきなりヘロヘロになった。
よく見えすぎて、シロが覚醒!? と思ったけど、どうやら違ったらしい。
ククリはその場に倒れるとお尻を抑え、身悶え始めたのでタチバナを呼ぼうと思ったのだけど、どうやら尻尾が駄目らしい。
尻尾……八尾? 主かな?
「んんー……主の櫛作り終わったのかな?」
「そ、そうれすかぁ……。ん、あっ……あふ……こえ、この前のと違って……敏感な尻尾だけ……なのにぃ……っ」
「ん……これは、無理そう? 今日はここまでにする。シロも宿に帰るから」
「しゅみませぇん……お願いしましゅぅ……」
「ん。また来るね」
「はいぃ……お待ちしてましゅ……ぅっ!」
よだれを垂らしながらもククリが手を振って見送ってくれたので宿へと帰る。
タチバナにばいばいと言ってから、宿へと帰る。
今日のお昼はタチバナが作ってくれた。
なかなか美味しかった。
朝は沢山おにぎりを食べたし、お昼にもと持たされたけどリクエストを聞かれたので、お肉! と言ったら、いっぱい用意してくれた。
おにぎりと一緒に沢山食べたらククリは小食らしく驚かれた。
勿論、ククリとの遊びも楽しかった。
ククリはレベルを用意してくれて、段々と上げてくれた。
昨日は1、今日は3。
昨日よりも速かったけど、昨日よりもよく見えたと思う。
多分……昨日よりもシロは強くなった。
もっと分かるようになれば、もっと強くなれる気がする。
……まだ、避けられはしないけどきっともうすぐ出来るはず。
そういえば、主の櫛はどうなったんだろう?
もう出来たのかな? じゃあ、明日はお出かけかな?
んー……でも、明日もククリと遊びたいから、主にはお願いしてシロは別行動させてもらおう。
……ちょっと心配だけど、ソルテ達もいるし、シオンもいる。
何かあれば八尾も分かるらしいから、そこからククリに教えてもらえるし、せっかくの機会なので甘えてしまおう。
ん。……主に早く会いたい。
お腹もすいたしご飯食べて、抱っこしてもらって一緒に寝る。
ぎゅってしてもらって寝るの。
「んふふ」
早く帰ろう。
いっぱい甘えて、いっぱい癒してもらう。
疲れてるけど、足取りは軽い不思議。
……被装纏衣使って帰ろうかな?
んんんんーー最近なんか書けない〜……。




