13-18 和国アマツクニ 木工スキル2
さあ! たっぷり寝てご飯も食べて元気満々という訳で今日も今日とて木工スキルで櫛作りだー!
昨日のうちに回転鋸は作っておいたからね!
作らないと気になって寝られないの! と、寝かしつけようとするシオンに駄々をこねて速攻で作って速攻で寝たよ!
いやあ、やはり回転球体は素晴らしい発明だね!
で、とっても便利なんだけど……。
「くあああああ! 難しいいい!!!」
今回作るのは仕上げ用に櫛の歯の横の間隔が短い櫛。
一本一本の間隔が狭く、鋸を入れるのも鑢をかけるのもどちらも難しすぎる!
回転鋸の刃を超薄刃にしたから刃挽きまでは楽に出来るようになったのだが、歯摺りの方がこれがまた強度と細さのバランスが凄まじく絶妙だったのだ……。
「そりゃあ歯の数が増えりゃ難しくなるわな。それもお前……昨日作ったのが40程で、今回のは70以上となりゃあそうなる。更に……板を割って『挟み込み』だなんてまだ早えよ」
「いやあ、どうせなら高級志向にしたくなったんだよ……」
持ち手の部分のワンポイントとして、宝石を埋め込みたかったのだ。
だが、どうにもうまくいかないので木材を横に切って穴を掘って挟み込むようにして外れないように加工したわけだよ。
これも回転鋸の魔道具があったおかげで、楽に真っ二つの木材を作ることが出来、宝石も挟み込んだおかげで落ちなくなった!
だが……歯の数が細かくなりかなり難しい上に挟み込みの場合髪の毛一本の隙間も許されないから半端なく難しい!
「うう……親方みたいにうまくいかない……」
「そらお前何年やってると思ってんだよ。これくらい当然だ。それに、普通よりゃあ大分上達がはええんだから高望みすんなよ」
いやまあそうかもしれないけどさあ……。
でもでも親方は初めて使った回転鋸だって、簡単に使いこなしたじゃない?
ううーん……やっぱり親方は凄い。
今軽く放り投げては掴んでいるぱぱっと作った物が、俺の理想よりも出来がいいんだから、やはり経験がものをいうのだろうか。
「発想自体は悪くねえよ。宝石を挟むなんざ錬金術師のお前らしい。だが、技術に関しちゃあ積み重ねるしか近道なんざねえ」
「だよなあ……」
「ところでなんだが、こいつは便利だな。置いてってくれよ」
ぽんぽんっと回転鋸魔道具を叩く親方。
親方は櫛を作るやる気がないとのことだったが、この魔道具を持って行って俺が作るのを見ていたら試してみたくなったからと作りだし始め、あっという間に櫛を作って見せた。
ばーっとやって俺よりもかなり出来の良いのが出来るんだから流石としか言いようがない。
「まあいいけどさ……」
「お。ありがてえ」
『既知の魔法陣』でまた作れるし、作ってみて改めて親方がどれほど凄い木工師かは分かったから、そんな親方に教えてもらっているお返しと思えばそれくらいはしますとも。
で、だ……。どうしたものかな。
一応親方が作った物を頂く事も出来る。
親方には上出来だから好きにしていいと言われたとしても、ここまでやって来たのだし自分が作りたい気持ちもある。
だが……正直に言って実際に目の当たりにすると親方のものを超えられる気がしない。
目的はあくまでも、九尾の尻尾にふさわしい特別な櫛を用意する事だからな……。
とはいえ今日一日は作る時間があるし、出来る限り挑戦してみても……ん?
「なあ親方。アレは何に使うんだ?」
何やら細い枝が重なっておいてあるようだが、長さ的に箸を作るのかと思ったのだが、それにしては横にある同じ木材から出来ていると思われるものは大分細かく加工されて積まれている。
「ん? ああ、ブラッシュツリーか。あれは面白いぞ。こう掌と掌で枝を転がすとばらけていくんだが、細かくなるうえに強靭でな。しなやかさもさることながら、強度も中々のもんだ。しかも、獣毛で作ったのと同じで毛がひっつかねえから使いやすい」
「へえ……もしかして、あれでブラシを作れるのか?」
「おう。細かい作業が多くなるけどな。まあ、歯挽きの必要はないし、今のお前さんなら出来ると思うぞ」
なるほど。ネーミング通りやはりブラシか……。
確かに櫛だけじゃあ尻尾の手入れは物足りないと思っていたところなのだ。
ブラシ……ブラッシングという言葉があるくらいだから、やはり手入れには適しているだろう。
「……ブラシづくりも気になるな」
「ん? なら俺が櫛をやるか? 魔道具のおかげでやる気は出たしな。それなら、もう一個作るかな。この魔道具はいいもんだし、早めに使いこなしてえ」
いや、もう十分使いこなしていると思うのだけれども?
というか、やる気出したのなら、全部作ってくれてもいいんだよ?
俺のも悪くは無いとは思うけど……親方のに比べるとなあ……。
木工スキル自体に興味がわいたけど、現状じゃあ経験が足りなさすぎると自覚したからな……。
基本形は覚えたから、今後も作り続ければ成長は見込めると思うけど、今回は急を要するから仕方ない……。と、自分を納得させる材料をかき集めても悔しいものは悔しいんだけどさ……。
「そうだ。どうせ作るなら、宝石も借りるぞ」
「好きに使ってくださいな。加工が必要なら言ってくれ」
「おう! さーて、面白くなってきやがったな」
宝石の挟み込みと魔道具のおかげでやる気が上がった、と……。
俺の方はちょっと下がってますけども―……。
いや、切り替え切り替え。
ブラシだって良い物が出来ればククリ様の尻尾の手入れにも使えるかもだしね。
「ちょっと待った。先に、ブラシづくりのコツは教えてくれ」
「おう。教えるから後は勝手にやっとけよ」
こうして、櫛作りは親方に任せてブラシ作りをすることになった訳で、櫛作りの経験も活かしつつ頑張りますかね。
よし。まずはブラッシュツリーをばらしてから長さを整える。
更に、櫛を使って折れたものや短い物を取り除き、綺麗にして並べておく。
本体となる部分を二枚同じ形で作り、片方にはブラッシュツリーを差し込む穴を開けていく。
綺麗にしたブラッシュツリーを中ほどから穴に挿し込み、輪になった部分に引き線を通して本体と結び付け、ブラッシュツリーが外れないようにしていく。
長さを合わせてそれらを繰り返していき、全ての穴にブラッシュツリーを結び付けたら本体の二枚目と重ねて短めの飾り釘を打ち付けて固定。
全体を木工スキルを使って滑らかにし、重なっている継ぎ目を分からなくさせたら完成っと……。
『ブラッシュツリーのブラシ 毛艶(劣)』
……まあ、最初はこんなもんだよな。
毛艶が劣って、劣化するとかじゃないですよね?
ポーションとかと一緒で、効果が薄いって事ですよね?
流石にこれはお粗末な出来だな。
巫狐様の尻尾に使うにはふさわしくないだろう。
櫛は毛量が少ない小さ目の尻尾に、ブラシはもふっとした尻尾に適しているかな? 仕上げはどちらも櫛のがいいか。
んんー……使ってみると皮膚に当たる部分はブラッシュツリーの硬さと鋭さにより少し痛い。
ブラッシュツリーでの製作も勿論続けるが、次は少し趣向を変えてみるとしよう。
まず、ピンの先を金属にして先端を丸める。
これで皮膚の痛みを抑えつつ、程よい刺激でより気持ちよさがあがるはずだ。
血行も良くなり、尻尾の健康状態を向上させる事も出来るだろう。
「ほーう……金属のピンで先を丸めたのか。だけど、全部やるなら手間がかかりすぎやしねえか?」
「尻尾の為なら努力を惜しまずだよ。で、親方は宝石?」
「おう。悪いが、頼む。こいつと同じ形のを二つな」
「ダイヤモンドをラウンドブリリアントカットね……了解」
「こいつはすげえ形だな。カットの仕方一つで輝きがここまで変わるとは大したもんだ」
「元の世界にあったもんだけどね。……よし、こんなもんかな……」
「早えなあ。流石は本職」
「まあ、こっちならね」
宝石加工は錬金術師として何度も行ってきているからな。
慣れてはいるのでそれなりの速さで仕事は出来る。
とは言っても、ラウンドブリリアントカットはかなり難しい部類なんだけども……。
角度一つ、僅かに違うだけで輝きが失せるからなあ……。
親方の指示通りに宝石を加工しつつ、進展を見てもらう。
一本一本大事にピンを磨きつつ、先端の丸みを作って行くのは確かに手間がかかるが、本数は櫛程ではないから大丈夫。
だが、巫狐様用に作ってソルテ達用を作らない訳にもいかないのでもう数セット作るんだけどね。
あとは本体を滑らかにしてっと……この作業が地味に好き。
木工スキルのおかげで撫でるだけで鑢がかけられるのは便利だが、『既知の魔法陣』が使えればなと思わざるを得ないな。
あ、ピンなら作れるか。
贋作でもいいかもしれない。
よし、ピンは終わり。次は木工で本体だ。
本体は二種類作って片方に穴を開けていく簡単なものだし、これくらいならすぐに出来るかな。
「……本当、昨日木工をやり始めたとは思えない成長だな」
「やっぱり元々錬金で鍛えていたからじゃないか? 細かい作業は嫌いじゃないしね」
「そうかもな。いや、そうじゃないと弟子共が凹んじまうからそう言う事にしとくか」
昨日の内に木工スキルのレベルが3になったおかげでより鑢掛けも細かい魔力調整が叶うようになった。
一日で……っ!? と、大層驚かれ、一番新入りの子がレベル2らしく肩を落としていたのは申し訳なく思っている。
なので、やはり錬金をやっていたからという事にしておいた方が、色々と都合もいいのだろう。
もしかしたら称号の『創造術師』が影響しているのかもしれないが、効果があるかないかもわからないものだしな……。
というか、錬金もレベルが上がるのは早かったがその時は『創造術師』はなかったし、やはり謎である……。
料理スキルはもう完全にレベル1のまま上がらないだろうし、錬金スキルや木工スキルの適性が高かった……とかなのだろうか?
まあ、スキルレベルが上がって困る事は無いので今は気にせずブラシ作りに精を出すとしよう。
「ご主人様。親方さん。そろそろお昼ご飯にいたしませんか?」
「あれ? もうそんな時間だった?」
朝から作業を始めたのだが、確かにお腹の空き具合を考えるとお昼時の用だ。
工房は室内なので外の状況が分かりにくいから気が付かなかったな。
「確かに腹が減ったな。キリも良いし、俺は女将衆が作ったもん食ってくるから、食い終わったら再開にするか」
「そうだね……。それじゃあまたあとで」
キリもいいし、休憩も大事だからな。
さてさて、今日のお昼はなんですか? っと。
「ふふ。今日は腕によりをかけて作りましたので、いっぱい食べてくださいね」
「ああ。そういえば、ウェンディとアイナは今日はどこも行かなくて良かったのか?」
「う、うむ……。昨日二人で色々見て来たからな」
「はい。今日のお昼ご飯も、そこで買った物を使っているので楽しみにしてくださいね」
おお、アマツクニの材料を使ったウェンディの手料理か。
うんうん。素晴らしいね。
卵焼きに焼き魚。和え物に煮物とお漬物、流石にみそ汁はないようだが、お吸い物があり何と言ってもおにぎりだ!
しかも海苔がちゃんと巻いてあるのもある!
「それじゃあ早速、いただきます!」
まずは何にしようかな?
やっぱり、海苔の巻いていない恐らくは塩握りから行くかな?
「っ!」
「んんー……作業場は熱いから、塩気の利いたおにぎりが美味い!」
口に入れるとほろっと解けて塩味が食欲を加速させ、最後は塩味がより強調させて程よいお米の甘さが口の中に残る。
汗だくの身体に塩気が染みわたる!
しかも握り加減が絶妙だ!
「美味いっ!」
「っ……そ、そうか。それは、良かった……」
「ん? もしかして、このおにぎりアイナが作ったのか?」
「あ、ああ……。その、昨日シオンに習ってな……」
「そっかそっか! 凄い美味いよ! 塩加減も、俺の今の状態にはぴったりだ!」
「そうか。昨日も主君は汗をかいていたからな。少しだけ多めにしてみたのだが、良かったぁ……」
アイナが少し緊張した面持ちから肩の力を抜いたようでふうと、安心した笑顔を見せてくれる。
アイナのおにぎりか……。うん。やっぱり美味い!
何個でもいけそうだぞ!
「うふふ。アイナさん頑張りましたもんね」
「ああ。シオンとウェンディのおかげだ。そうだ、二人も食べてくれ。沢山握ったからな!」
「はい! いただきます! はむ……うん。ふふ、アイナさん美味しいですよ」
「そうか! ウェンディのお墨付きも貰えて嬉しいぞ。これからおにぎりを作る時は是非手伝いに呼んでくれ!」
「はい。その際はよろしくお願いしますね」
ウェンディ達のは別の容器に入れられていて、恐らくあっちは塩気が普通のものなのだろう。
あと、海苔が巻いてある奴は……おお、鰹節に醤油……つまりおかか!
当然! 美味い!
こっちは……梅干しだ! 定番! 好きぃ!!
「はむ……んんー! ああ、美味い! シオンも早く食べた方が良いぞ?」
「いえ……私は……うぷっ。ちょっと、しばらくお米は見たくないので、おかずだけにしておきます……」
そう言うと卵焼きを一つとったものの、なかなか口には運ばないシオン。
最終的にちょっとだけお吸い物を飲んでご馳走様と手を合わせていたのだが、買い食いでもしたのだろうか?
まあ、俺は櫛作りに集中しているので、好きにしてもらっていても良いんだけど。
ああ、おにぎり美味しい。おかずも勿論美味しい。
こいつは午後からも、気合を入れて作業が出来そうだ!




