13-9 和国アマツクニ 大都ダイグウ
帝国を出た俺達はさらに西へ西へと進み、幾日かが過ぎた。
帝国との国境の関所を越え、周囲の木々が松や杉などが気持ち多くなり、なんとなく浮世絵のような雰囲気を感じていると……。
「さあさあ着きましたよ! アマツクニが誇る大都! ダイグウです!」
大通りのど真ん中で周りの視線も気にせずに腕を広げてこちらを振り返るシオン。
そんな目立つシオンに目もくれずに俺は、アマツクニの建造物に見とれていた。
王国や帝国の石造りではなく、基本は木造建築。
時代劇で見たような建物が、規則正しく並び立つこの光景。
そして、この大通りの先には石垣とお堀と天守閣のある城……まさしくここに来るまでに思い描いていたままの光景であった。
もともと俺にとってこの世界は異世界な訳だが、更に異世界に来たというか、タイムスリップした感じに近いだろうか?
別に何か特別な思い入れがこの時代にある訳でもないのだが、妙に感動してしまっている。
ただ、予想外だったのはサムライのような役職はあるそうだが、ちょんまげは誰もしていなかった事くらいか。
ほとんどの人が和服を着ており、更には黒髪ではあるが、髪型は自由のようであった。
「凄いですね……。帝国とも王国とも違う文化なのが見てとれます。あ、皆さんやはり和服を着ていらっしゃるんですね」
「私達が前に着たのとは少し違うわね」
「あれは浴衣だったしな。しかし、和服もいいなあ」
和服に簪。
うんうん。髪を上げて見えるうなじはやはり良い。
街を歩く人々の顔は皆明るく、良い統治の下で暮らしていることが良く分かるのも良いな。
「さてさて! まずはどうします? 皆さん疲れはありますか? 宿に向かうのであれば、私の知り合いの宿を取っておきますよ?」
「んー……疲れてはいるけど、少し見て回りたいかなー」
流石に長旅で疲れてはいるので明日からに備えて今日は休むってのもありなんだけど、ちょっとこの内なる上がったテンションは抑えられそうもない。
ああ、お茶屋でお団子もいいなあ。
桃白緑の三色団子美味しそうだなー!
あっちはお煎餅かー! っと、目移りが止まらない!
「私は和服を見てみたいですね。皆さんの分と、ご主人様の分を購入したいです!」
「お、それもいいな。せっかくだし、和服を着て街を回るってのもいいよな」
和服は帰った後は部屋着にしてもいいかな。
ただ、家のトイレは洋式だからそのあたりは少し面倒かもだけど。
あと隼人や真、光ちゃんへのお土産に和服ってのもいいかもな。
「じゃあ服屋に行きますか! オススメのお店は……んーお、店構えは変わってないみたいですね。それじゃあまいりましょうー!」
やはり故郷に帰ってきたせいか普段よりもほんの少しテンションの高いシオンの後に続いて和服屋さんへと全員で歩く。
シオンが案内してくれたお店は大通りにあり、そのまま中を見させていただく事にしたのだが……。
「おー。やはり似合いますね。格好良さ二割増しって感じです!」
「いえ、五割……もっとかもしれません! はぁぁぁ……ご主人様……格好いい……」
「おお……ウェンディさん瞳にハートが宿ってますよ」
「だって! ご主人様が! 恰好いいんですもん!!」
ウェンディがぶんぶんと小刻みに腕を振ってキャーキャーと興奮していらっしゃる。
黒に近い紺色に薄く縦に線の入ったシンプルな和服。
でも、ウェンディの言う5割増しってのはないと思うが、着心地も良いし、これは買いだなあ。
「……ウェンディってたまに主様の事だと馬鹿っぽくなるわよね」
「なっ、じゃあソルテさんは似合わないって言うんですか!? それならソルテさんはご主人様を見ないでください!」
「極端すぎでしょ! 別にそうは言ってないじゃない! 似合ってるし、格好いいとは思ってるわよ!」
「おやー? ソルテたんの事っすから、『はわぁ……主様……格好いい……』って、乙女モード全開になると思ったんすけどね」
「はわぁってなによ……。っていうか、レンゲは何それ?」
「ミニ和服って奴らしいっす。おへそが出てて裾が短いみたいっすね。ご主人は足が見えた方が良いかなーと思って着てみたっす!」
ほう……まあ、邪道ではある。
だが、レンゲのおへそと太ももを堪能できるというのなら……許容すべきか否かで悩むな……。
あの格好で膝枕は……正直に言ってそそられてしまうな。
「むう……シロの何か子供っぽい……」
「流石にサイズ的に仕方ありませんよ……。でも可愛いですよ?」
「むう。仕方ない……」
シロは不服そうであるが、十分可愛らしい。
獣人用に尻尾穴のあるものがあり、シロはその穴から尻尾をにゅるんと出していた。
「む……やはり、帯があると胸が目立つな……」
「アイナさんとウェンディさんは当て布した方が良いのでは?」
「いいえ。私はしません!」
「ん。太ったからしないんだって」
「ああ……そういうことですか……」
「ああ……じゃないですよ!? 太く『見えるから』しないんです!」
事実と予想は違うと。
事実、ウェンディは別に太ってなどいないからな。
それに、俺個人としては帯に乗るおっぱいというのも悪いとは言い切れない……。
……別に和服にこうじゃなきゃダメだなんて強いこだわりがある訳じゃないんだな俺。
「ではでは! 皆さん着替え終わったようですし、真打登場といかせてもらいましょうか。和服……それはやはり黒髪こそ至高だとお見せしましょう。てや! 早着替え!」
「なっ……」
シオンが和服になっている。
一瞬肌色が見えたと思ったら服によりブラインドされて瞬きをしたらあっという間に和服になっていた!
「ふふふん。どうですお館様……?」
「おおお……やればできるじゃないかシオン」
「どういう意味ですかそれ……。まあ、褒めているようなのでいいですけど……」
いつの間にか髪型も変えているようで、ふわっとしたポニーテールになっている。
そのポニーの間から垣間見る事が出来るうなじが……なんというか、やはり和服に一番似合うのは黒髪という結論を付けざるを得ない感じがするな。
「ようし……ちらっ」
「ぐっ!」
「ん? どうしたんだ主君?」
「いや、なんでもない……やるじゃないか」
一瞬だけぱっと裾をめくり、ノーパンアピールをしてきやがった……。
恐ろしく早い動き、俺じゃなきゃ見逃しちゃ……いや、この中で動体視力が一番悪いのは俺だろうからたまたま俺からしか見えなかったのだろうな。
恐らくそれも計算の内なのだろう。
やはり、やりおる。
それからお土産用のものも選びつつ、装飾品などは……うん髪飾りは俺が作るので良いとして、巾着などは買っておくことにした。
さて、それでは皆和服に着替えた事だし、時間も良い頃合いとなったので探索は明日に控えて今日は休もうか。
で……部屋割りなのだが。
「やですー! 私がお館様と同じ部屋になるんですー! 私が手配した宿なんですから、当然の権利ですー!」
「駄目です。ご主人様は今日はお疲れなのですから、ゆっくり休ませてあげないといけません」
まあ、そうだな。
明日の事も考えるなら、良く寝て万全の態勢で臨みたいところだ。
なんせ明日からは念願のアマツクニ散策なのだから!
「だって、私だけまだまだ経験値が全然なんですもん! それに大丈夫ですよ! お館様には負担なんかじゃありませんもんー!」
んんー……まあ、ちょっとくらいなら負担じゃないかもしれないが、単純に寝不足にはなるだろう。
「はあ……いいですかシオン。この旅行は数日あります。私達は皆旅行でのご主人様との思い出を当然欲しています。ですが、毎日……となると、ご主人様の負担は増えてしまうのです。だから、今日は! お休みいただくんです!」
「ぐぅ……そう言われると……」
「ま、焦る気持ちもわかるけどね。とはいえ……協定は守りなさいよね」
「じゃ、じゃあ私が一番で! それくらいはお願いしますよう!」
「まあ……案内もあるし、それくらいはいいんじゃないか?」
「仕方ないっすねえ……」
「やた! じゃあ明日は私ですね! イエーイ! シオンちゃん大勝利ー!」
どうやら俺の知らぬ間に色々と決まったらしい。
とりあえず眠いんだが……もういいのかな?
「それじゃー寝るぞー」
「「「「「「はーい」」」」」」
「ん。じゃあ、シロは主と寝るから」
「え? ちょっと待ってくださいよ!? いいんですか? いいんですかアレは!」
「シロはちゃんと寝るもの」
「ええ。それに、シロには我慢をお願いしますからね……」
「ああ……なるほど。お疲れ様ですっ!」
「……フー」
ああ、シロがまたぶちゃいくな顔で不満を露にしていらっしゃる。
そして、主ぃ……と、訴えかけるような瞳を向けないでおくれ……。
流石に年齢問題は……ね。
ごめんよという気持ちを沢山のせて、抱きしめながら寝るので我慢しておくれ……。
※※※
アマツクニ天守閣。
最上階『狐々殿』。
厳かな雰囲気が常に漂うこの一室で、私は今日もここでアマツクニの民の平和を見守っている。
いつもと同じ、いつもと変わらない日常……の、はずだった。
「っ……何か……入ったようですね」
「……いかがいたしましたか? 巫狐様」
「何かが国に、都に入った……とだけしか」
「何か……とは? 悪しき者でしょうか?」
「違うようですが……わかりません。ですが、『八尾』が騒いでいます」
「八尾様が……ですか。一体どうして……」
「わかりません……ですが、気になりますね……」
「……わかりました。入国者リスト、および都へ初めて入った者を調べましょう。その中で怪しそうな者がいればお連れ致します」
「ええ。タチバナ、よろしくお願いします」
「はっ!」
八尾が騒ぐ……いえ、八尾だけではない?
一から八の全てが普段よりも落ち着かないようですが、八尾だけ特別大きく騒いでいるようですね。
ですが……どうやら、悪い事ではないようです。
八尾が嬉しくて騒いでいるのが伝わってきています。
もしかして、お知り合いなのでしょうか?
あうあう……興奮していて私の話は聞いてくれないようです……。
仕方ありませんね。傍仕えのタチバナが連れて来てくれるようですし、お会いできるのを楽しみにしておりましょう。
…………あの、ちょっとは落ち着いてくれませんか?
こうバタバタされては……あうあう。
お知らせです!
8巻堅調とのことで続巻が決定いたしまして、9巻の発売が決定いたしましたー!
何も無ければ出せるとの事!
8巻を購入してくださった皆様ありがとうございます!
目指せ二桁ー!




