13-3 和国アマツクニ シオンの強さ
シオンは強い。
……らしい。
一応。
「ひゃあああああああ!!」
強いと自分で言っていたので強いらしいんだが、現在は絶賛逃げ回っている。
「ちょ、ちょっとストップストオオオップ! 待ってくださいシロさん! 無理無理無理! 無理ですって!」
「ん?」
「小首を傾げて可愛いな、じゃないんですよ! いじめですよこれは! 新人いじめです! ストップって言ったら止まってくださいよ!」
「はぁ……ん」
「まったくもう……。普通いきなり斬りかかって来ますかね。お館様! 躾がなっていませんよ!」
「鍛錬なんだから普通だと思う」
うん。俺もそう思う。
大体これは、シオンが調子に乗ったからである。
『ふふん。私の強さですか? そうですねえ……シロさん……に、ギリギリ勝てないくらいでしょうかね? まーあ? 本気を出せばシロさんも危ぶまれるとは思いますがね!』
と、調子に乗って俺に話していたところをシロに聞かれてそれならばと、鍛錬をすることになったのだが……結果はボッコボコであった。
「ん……弱い」
「っ弱……い、今は本調子じゃないんですよ! ちょっと最近腰をやってしまいましてね。なんだか体の中に今もナニかが入っているような感覚が残っていて……あ、シロさんにはわかりませんよね」
「ははは……良い度胸してる」
「おわっち! 今休憩中ですよ!」
「挑発した方が悪い。泣くまでやる」
「うおおおお! 早めに泣け私! 数々の修行により涙を流すくらい訳ないはずです!」
「泣いてもやる」
「そんなあ!?」
ギリギリ回避出来ているのが凄いのか、それともシロが一応手加減しているのか……。
強い……とは思うのだが、逃げてばかりでどうにも実力が測りにくいな。
「あら。面白そうなことしているわね。シオンと鍛錬?」
「お? あれはソルテさん! おーいソルテさーん! 助けてくださいっ!」
「助けてって……鍛錬よね?」
「ああ。鍛錬だぞ」
「逃げてばかりに見えるんだけど……」
「そうだな」
俺にもそう見えるなあ……。
一応時々防いでたりもするんだが、完全に防戦一方だ。
「……逃げる鍛錬をしてるの? 役に立たない事もないけど……シオンの強さのレベルだと優先順位は低くない?」
「ひあああああ! 今かすった! かすりましたよ! 産毛が綺麗さっぱり剃られました!」
「そのままつるつるにしてくれる」
「あ、それはありがとうございま、ぎゃああああ! にゃあああああ! のわああああああああああ!」
「はあ……勿体ないわね。シロ。やる気なら私が相手するわよ」
「んー? ん。わかった」
槍を振るい感触を確かめるようにした後に低く構えるソルテ。
シロも少し警戒気味に間合いをはかりつつ、ナイフを持つ手を不規則にゆらゆらと揺らして攻めるタイミングを分かりにくくしているようだ。
「はああ……はああ……死ぬかと思った……。お館様、止めてくださいよう……」
「いや、鍛錬で死ぬ事は無いだろ……」
俺は何度もそう思ったことがあるけどな。
まあでも、少なくともシオンは俺よりは遥かに強いのだろうし、シロがよっぽどミスでもしなければ大丈夫なはずだ。
そして、シロはそんなミスはしないからな。
そんな泣き言を言うシオンよりも……今は目の前の二人だろう。
お互いが睨みあい、あまりの緊張感につい俺も息を止めてしまう。
「……すぅ…………はぁっ!」
「ん……っ」
「ちっ……」
「甘い」
「まだまだ!」
ソルテの神速の突きをナイフの刃で逸らしつつ半身で躱し、槍を蹴り上げてから速攻をかけるシロ。
蹴り上げられたもののその勢いを利用して後方へと飛び、シロが接近する前に体制を整えようとするソルテ。
だが、シロの動きは想定よりも速かったようで、ソルテの得意な距離ではなく、シロの得意な接近戦へと持ち込まれてしまい、ソルテはシロの電光石火の連撃を受けることになってしまった。
「くっ……」
「ん……いい」
柄を使って回すように受け続けるソルテと、隙間を狙って攻め続けるシロ。
やがてソルテが押されるままに木を背後に追い詰められたと思ったのだが、ソルテは上に飛んで木を蹴り、反転してシロの後ろを取る……かと思ったのだが、空中にいる間に槍を構えて突く。
「そこっ!」
「ん……惜しい」
あれは……黒鼬か。
一瞬速度が上がり、残影を残すかのような速さで後方のソルテの槍を回避すると、空中にいるソルテへと肉薄して体を回転させ、廻し蹴りを放つシロ。
空中の不安定な体勢で放った蹴りだとは思えない程の勢いでソルテが地面を転げまわり、10m程転がってようやく止まる。
「ぐっ、がは……」
「ん。良い感じ」
「あうう……あとちょっとだったのにぃ……」
「まだ負けてあげない」
「その余裕むかつくわねえ。まだあの速度に慣れてないのよ。普段からもっと使って来なさいよね」
「ん? 言い訳格好悪い……」
「むっかぁ! シロ! もう一本やるわよ!」
「ん。いいよ」
どうやらもう一度やるらしい。
じゃあ鍛錬後の風呂の用意をウェンディに頼んでおくとしよう。
それと、今日は沢山動きそうなので、お肉多めの夕飯にしてもらおう。
「……あれぇ?」
「どうしたシオン?」
「いや、ソルテさんって、あんなに強かったですっけ……? 私が持ってる情報より大分……いや、相当強くなってるんですけど……」
「まあ……ああやって普段から鍛えてるからな」
今、紅い戦線は通常の依頼をほとんど受けていない。
クエストに行くのは、俺が素材を頼んだ時か、Aランク以上限定のクエストが貼り出された場合、または指名でクエスト依頼があった場合のみだ。
それだけでも十分数が多く忙しそうではあるが、それ以外は身内やシロとの鍛錬で、クエストではない強い魔物を狩りに行っているのだ。
勿論休息も取らせているし、俺の鍛錬に付き合って貰ったり、買い物など休日は取っているようだが、それ以外は殆ど鍛錬に費やしてきているのだ。
そのかいあってか、昔はシロが『被装纏衣』を発動する事は無かったが、今では一戦の内に数度使うようになってきている。
それだけ皆が強くなったという事なのだろう。
「やばい……やばいですね。シロさんはともかくお三方には負けるつもりはなかったんですけどね……。こうなると、一気に私の地位を上げる計画が破綻してしまいます。紅い戦線には勝てぬまでも、個人個人には勝って確固たる2位の座を頂いて、お館様から褒めていただく算段がぁ……」
そんな事を考えてたのか……。
別に強さによって俺の評価が上がるとかは別にないんだけどな。
「へええ。面白い話してるっすねえ」
「にゃうん!?」
「我々個人には勝って、か。ふふ。試してみるか?」
まあ、ソルテが来たのだから二人もいるわな。
素っ頓狂な声を上げて固まっているシオンだが、両肩に置かれた手が誰と誰のものなのかは分かっている事だろう。
「あ、ああああ、あのですね。今のは、そのぅ……ジョークで――」
「それで? どっちからやりたいっすか?」
「私からでも構わんぞ。シロともやりたいし、ウォーミングアップも必要だからな」
「自分でもいいっすよ? 自分は最初から全開でいくっすけどね」
「あわわわわわ。お館様! 助けてください!」
「いや、チャンスなんだろう? 自分で言ったじゃないか。確固たる2位の座を頂くって」
「そんなー! ぐぬぬぬ。いや、でもそうですね。どうせ今はびりっけつなんでしょうし、勝てば儲けでやりましょうか!」
そういう潔さは好きだぞシオン。
ただ……多分、恐らくだが、きついぞ?
「では、私から行こう」
「ようし! 力自慢のアイナさんなんて速度で翻弄して差しあげますよう!」
「ふむ……」
シオンが腰の袋から取り出した武器は……二本の短刀か。
宣言通り、速度重視で攻めるらしい。
というか、以前温泉では何やら別の武器を使って岩を砕いていたのだが、短刀も使えるんだな。
「それじゃあ行きますよー! お館様にさっきまで逃げ回っていたのが実力だと思われるのも嫌なので、攻勢に回りますー! ちょいさー!」
「変な掛け声だが……ん。意外と鋭いな」
「へっへーん! どうですかどうですか! 手も足も出ないんじゃないですかぁー!?」
調子に乗るのと同じように速度を上げていくシオン。
シロ程ではないにせよ、かなり素早く的を絞りにくそうだ。手数と速度のせいか、アイナは防戦一方になっている。
「そりゃそりゃそりゃー! ちょいちょいちょいさー!」
「……」
剣を構えたまま堅牢に防ぐアイナは無言のままにじっくりと耐えている。
……いや、あの目は恐らく、一撃の隙を待っているのだろう。
「防いでばかりでは勝てませんよー!」
「そうだな……。では、攻めるとしよう」
「へ? この中をどう攻めるというんですかー!?」
「……ここだ」
カイーン! っと、甲高い音が大きくなると同時に、アイナが大剣を振り切っている。
「…………あれ?」
そして、シオンが持っていた短刀が両方とも上空へと舞っていた。
そして、それに気づくと同時にアイナが一歩で近寄り――。
「やばっ! まっ!!」
「ふっ!」
「ごぶれっ!」
剣の腹で打たれた……と、思ったんだがどうやら新たな武器を取り出して防いだらしい。
その速度は俺の目では追いきれなかったのだが、黒い金属の棒をアイナの剣と自分の身体の間に挟んでいた。
「あ、危な……」
「……むん!」
「え? ちょ、嘘でしょう!? このまま持っていきますか!? いやあああああああ!」
防いだ……と、俺も思ったのだが、静止したところからアイナがそのまま振り切り、シオンの身体を地面へと吹き飛ばして転がしてしまった。
「うわああああああ! くっ……!」
「……はっ」
「ひぃ!」
なんとか体勢を立て直したものの、アイナは追撃をやめておらず、シオンが膝立ちの状況で剣先を眼前へと突き出されてしまっている。
「私の勝ち、だな?」
「ぐぬぬぬ……負けました……」
ぺたんっと、項垂れながら膝を折り、敗北宣言。
勝ったアイナは微笑みながら俺を振り返ると、ちゃんと見ていたか? というように期待した視線を向けられるので、頷いて返しておく。
「はぁぁぁ……負けてしまいました……」
「うむ。だが、強いなシオン。焦れて下手に手を出していれば、私が負けた事だろう」
「いやあ……忍耐力ありすぎですから、それでようやく五分でしょう。フェイクには引っかからないですし、こっちが焦れてしまいました……」
……フェイク……なんてあったんだ。
うん。見分けなんてつきません。
ただただ調子に乗って攻め続けていただけだと思っていました!
「ふふ。耐えるのには自信があってな」
「耐久と力ですか……真正面から打ち破られたわけですね……はあああ……」
「そう落ち込むな……とは言いにくいが、私とて普段から鍛錬を続けているのだ。いつかはシロに勝ってみせると、主君の盾として、誇れるようになろうとな」
「お館様の堅牢な盾というわけですか……。なるほど。ですが、次は負けませんからね!」
「ああ。またやろう」
二人はいい顔をしながら握手を交わしていた。
そして、シオンはいい顔をしたまま去って――。
「まだ自分がいるっすよ?」
……いい顔をしたまま去りたかったのだろうな。
掴まれた肩を気にせず歩こうとしているようだが、ぎゅっと握りしめられて歩けど前に進んでいない。
「いーやーでーすー! ぼろぼろなんです! 土だらけなんです! お風呂に入りたいんですー!」
「はっはっは。まだ元気じゃないっすか!」
「そんな事ないですよ! シロさんとアイナさんのせいでもう今日は戦えません! あー残念だなー! ぐえ!」
「ほらほらー! ご主人特製のポーションあげるっすから! さあやるっすよー!」
「私のお口に無理やり突っ込むだなんて……お館様にもまだ許していないのに! ……い、いいでしょう。ぶっ飛ばしてやりますよ!」
「お、威勢が良くなったっすねえ! そいじゃ、自分はちゃっちゃと終わらせて、次に回すっすかね!」
「……次?」
「そりゃそうっすよ! ソルテも待ってるっすからね!」
「……へ?」
「レンゲーさっさと終わらせなさいよー」
砂だらけになりながらソルテが地べたへと座り、眉を吊り上げてふくれっ面で野次を飛ばしている。
どうやらシロとの鍛錬はアイナが引き継いだらしく、少し離れたところで戦っているようだ。
「あーあーシロにやられたからって当たらないで欲しいっすねえ」
「うっさいわよ! あの猫……いつかぎゃふんと言わせてやるんだから……。あーもう。この鬱憤は私達を舐めたシオンで晴らすんだから、早くしなさいよ」
「わかったっすよ。それじゃあ、宣言通り……最初から全開で行くっすよー!!」
「ちょ、待っ! 私、今日は腰の具合が! 腰の具合があああああ! だから連戦なんて無理ですよ! というか、レンゲさん怖い! 近い! ちょっと、まだ戦術立ててな、おぎゃあああああん!!」
……自業自得というか、調子のよい事を言いすぎたというか……。
この後、レンゲに負け、ソルテに負け、最終的にはちゃんとシロが相手を……と言ったところで……。
「ぐすっ……えぐっ……わだしはぁ! 万能型なんですよう! 戦闘は手段! それ以外にも痒い所に手が届くのが私なんですぅ! ステータスは綺麗に平均的なんですぅぅぅ! 私の良いところをお館様に見せるはずがあああ! うわああああん!」
と、泣いてしまい、シロも実際に泣かれてしまうと困り顔でどうしたもんかと、これ以上はなにもしないで優しく肩を叩いて終わってしまった。
「うううう……いつか絶対全員負かしますからね……っ! 戦闘以外でっ! 今日は本気じゃなかったですしー!! でも戦闘以外で!!!」
こうして、思惑通りにはいかず戦闘での最下位となった訳だ。
とは言うものの、後でレンゲやソルテに聞いた話ではアイナと同様に十分強かったと言っていた。
何手か決め手を防がれていたり、危ういところもあったそうだ。
勝った理由はシロとの鍛錬により、咄嗟の判断が上手くなったからだという。
これから真面目に鍛えれば、かなり良い腕になると言っていたのだが……戦闘以外を頑張るそうだからなあ……。
皆様!
ノベルス八巻は10月発売です!
コミックス四巻と同時発売予定です!
今回書き下ろしは今までで一番多いです!
詳細はまた今度お知らせします!
よろしくお願いします!




