12-1 愛する人の為に ダンジョン事情
お待たせしました。
12章を開始します。
賛否両論あるかと思いますが、
コレが私の物語です。
帝国を出て数日のこと。
舗装された道を馬車で進んでいくと、久々に見るアインズヘイルの街がようやく現れた。
「……帰って来たなー。んんー……懐かしきアインズヘイルの空気だ」
やはりあの街が見えるとほっとするな。
まだ見えるわけもない我が家を想像して風呂やベッドを楽しみにしつつ、すぐに掃除からかな……と、気分を落ち着ける。
しかし……異世界ながら『帰って来た』と、強く思うもんだな……。
もうここが俺の実家って事みたいなものだもんな。
そう考えると、思わず口がにやけて――
「ええー兄貴。空気の違いとか分かるんスかー?」
……人がしみじみと楽しんでいるさなかに邪魔以外何ものでもない茶々を入れる男の声。
そう。俺を勝手に兄貴と呼ぶ俺よりもきっとトラブルメイカーな男である真だ。
にやにやとまるで格好をつけた男を冷やかすかのような視線を向けてくるのだが、鬼の首でも取った気なのだろうか?
大体、なんで俺がシシリアに用意してもらった馬車に当然のように乗っているのだろうか?
ちゃんとお別れしたよな?
帝国でさよならしたよな?
なのに何で乗ってるのかなー?
何で一緒にアインズヘイルに向かうのかなー?
この疑問は夜テントで俺と二人で寝泊まりし、検問を通り国境を越えてもわからなかった。
しかも……。
「ええー! どこの街で売ってたんですか? ガラスの容れ物がすごく可愛いですー!」
「ええっと、確かこの保湿液はスラムリーだったかな?」
「そうね。特産スライムジェリーの保湿力を生かした保湿液だったわね」
「効果も高そうですねー! 良いな良いなー! 私も欲しいですぅ!」
「あ、予備に買ったのがまだあるから一つあげようか?」
「良いんですかー! きゃー! 美香さん素敵ですぅ! 一生着いていきますぅ!」
と……美沙ちゃん、美香ちゃん、光ちゃんの三人まで居る。
まあ、美沙ちゃんと美香ちゃんは真のパーティーだからわかる……だが、なんで光ちゃんまでいるのだろうか?
+αな二人とこれから新たな盾職を探すのではなく、真のパーティーに入ることにしたのだろうか?
まあ、そんな事より……今は真のにやにやを止める事が先決だな。
「なんだ真……お前、空気の違いもわからないのか?」
「え……? なんで俺が残念な物を見る目で見られているんスか?」
「まーくん……まさか、その年でまだ空気の違いもわからないの……?」
「え……美沙姉まで……? え……?」
やばいの? それやばいの? って俺と美沙ちゃんの顔を交互に見てくるのだが、俺が返すのは心底がっかりした残念そうなマイフェイスである。
しかし、美沙ちゃんが協力的なおかげで信憑性が格段と上がったな。
恐らく、楽しそうな空気を感じ取って女子女子しい話からこちらへと移ったというのが大きな理由だと思うのだが、好都合だ。
「……わ、わかるよ? 俺だって、分かりますとも!」
ああ、もう嘘をついているのを隠しているとも思えない程に声が裏返ってしまっているな。
脂汗まであっという間に出来て、視線は明後日の方向へ……。
「真……無理するな」
「そうよまーくん……別に恥ずかしい事ではないわ。恥ずかしい事ではね……」
うん。当然恥ずかしい事ではないのだが、美沙ちゃんが言うと何やら重大な事のように聞こえるから不思議だな。
別に帝国にいた時とアインズヘイル近郊の空気の違いが判らなかったところで一切何も困らないし恥ずかしくもないのに気付かないようだ。
「うう……兄貴ぃ……俺を、俺を空気の違いの分かる大人にしてください……」
「教えてわかるもんじゃない……考えるな、感じるんだ」
大体俺もわからないのにどう教えろというのだろうか?
あんなものはなんとなくである。
よし、無事に真をからかい返せたな。
満足だ。
「そういえばなんで皆で来たんだ? あのまま帝国にいると思ったんだが……王国に何か用事でもあったのか?」
「ええー酷いですよう……アインズヘイルに行ったらイツキお兄ちゃんが案内してくれるって言ったじゃないですかー」
ぷんぷんっと、頬を膨らませて怒ってるぞと、顔を作る光ちゃん。
このメンバーでまだそれをするって事は、真はまだ光ちゃんが男の子だと知らないようだ。
「そうですよ。それに、光ちゃんが言っていたんですけど、最近王国で話題の香水があるとかで気になっていたんですよ」
「香水?」
えっへん! 私、流行には敏感なんです! と、無い胸を張る光ちゃん。
いや、俺が今考えているのは全く別の所なんだが……。
「ええ。なんでも貴族の娘さん達が企画した新進気鋭の独立ブランドらしいのよ。まだ学生さんらしいから世に出ている数は少ないみたいだけど、サンプルが各街に配られていると聞いたの」
「あー……」
これは……アレだな。
十中八九うちの生徒達だろう。
何という偶然……いや、まあ普通に考えれば同世代の女の子たちが好きそうなものだし、流行に敏感だというのならば知っているのも頷けるのかもしれないが。
「なんですかその顔。まさかイツキお兄ちゃんが生産者とか? それだったら融通してくださいよう!」
「いや、俺じゃないんだが……多分、俺の生徒達かな……」
「生徒!? え、イツキお兄さん先生になったんですか!?」
「臨時で少しの間だけね。貴族の女の子だけのあんまりやる気のない生徒達の面倒を見てくれって頼まれてな……」
「へええ……女の子だけだなんて、イツキさんなら生徒達に好かれそうね」
ならってなんだならって……。
他意はないと信じたい。
「あ、兄貴好かれたんっスか!? 生徒達に! 貴族の女の子達に好かれたんすか! 犯罪じゃないですか!」
「別に好かれてねえよ……多分。いや、普通に教師としては信頼してもらってるとは思うけど。ってか、たとえ好かれたとしても犯罪じゃねえ!」
好かれるだけで犯罪って何罪だよ!
やろうと思えばえん罪かけ放題じゃねえか。
女子学生最強説が浮上しちゃうだろうが。
「……まあ、連絡は取ってみるけど期待するなよ?」
本当ならこういう職権乱用というか、えこひいきのようなズルはしたくないんだがな……。
あいつらも学業もあるから忙しいだろうし、駄目なら断るように促しながらお願いしてみるとするか。
……俺でも作れる、というのは面倒だから黙っていよう。
「しかし、美香ちゃんも香水に興味があるんだな」
「ありますよー。それは勿論!」
「意外っちゃあ意外だな……」
女の子女の子してはいるが、あんまり派手好きではないというか、清純派というか、そんなイメージだったからな。
ボディクリームや化粧品には気を使っていそうだが、香水を使うにはまだ若い感じだった。
いや待てよ。この考え自体が年寄りくさくないか?
……よし。美香ちゃんも香水くらい使うよな!
「……だって、ダンジョンで数日間過ごす事とかあるんですよ。汗とか泥とか返り血とかでどろどろのぐしゃぐしゃで、不衛生なんですよ……。せめて、せめて好きな男の子の前では臭いと思われたくないじゃないですか……」
「あー……確かに。そういえばあの香水、聖石で水も浄化して使ってるから元の匂いもある程度消すことが――」
言いかけて、がっと肩を美香ちゃんに掴まれた。
うん。あれだ。
美香ちゃん回復役だけど力も結構ある。
俺の力じゃあ歯向かえない。
「お願いします! どうにか融通してください!」
切実な願望があるようだ。
こんなにも必死な美香ちゃんは初めて見る。
きっとダンジョンの冒険は壮絶なのだろうな。
俺は一生味わう事は無いだろうが、きっととんでもなく臭――。
「あれ? でも生活魔――」
「おーねーがーいーしーまーすぅぅぅー!」
がくがくと肩を揺らされては返事も出来ないのだが、その事実に気づいて欲しい。
いや、本当に! 気づいて! 頭取れちゃいそうだ!
美香ちゃんと俺じゃあステータスに差があるの!
美香ちゃんは普通の女の子だと信じていたのだが、それほどまでに臭――ぎゃああ、今一瞬首がグキって言った!
見えないはずの背中側の景色が見えた気がする!
「わ、わわわ、わわわっかった! 聞いてみる! ちゃんと聞いてみるからぁぁ!」
駄目だ! きっとダンジョンは魔窟なのだ!
美香ちゃんが暴走するくらいの魔窟なのだ!
もう俺絶対ダンジョン行かない!
あともしラズとクラン達が忙しいようだったら俺が作ろう!
幾つも作って好きな物を持って行って貰おう!
そうしないと首が……あっ……。
七巻の告知時に投稿できなかったので、こちらで!
3月25日に七巻出ています!!
もし店頭でお見掛けになりましたらよろしくお願いします!
活動報告に、八巻確定のお知らせもありますので是非!




