11-18 シュバルドベルツ帝国 とっても可愛い光ちゃん
俺はホクホク顔で耳かきを魔法空間に入れ、光ちゃんは早速真に買ってもらったバレッタを身に着け、真はそれを見てニマニマと微笑んでいた。
プレゼントしたものを相手が喜んでつけてくれると嬉しいもんだよなー。
俺も皆にアクセサリーをプレゼントした日を思い出すよ。
で、軽く甘い物でもという事で今話題のチョクォソースを使ったお菓子のお店に寄ってみたのだが、
「すみませ~ん。この、究極チョクォスペシャル? を三つください」
「あら可愛い! お嬢ちゃん可愛いからサービスしてあげるわねっ!」
と、女性店員からサービスしてもらう光ちゃん。
どうやら光ちゃんの可愛いは男女共通であり、男に限らずとも好かれているように見える。
……まあ、うちのソルテやシロなど例外もいるわけだがそれでも大衆の多くの人が光ちゃんを可愛いと思っているようだ。
「んん~っ! 甘くておいしい~!」
なかなか大それた名前のお菓子ではあったが、実際はクレープ生地、ビスケット的な何か、クッキー的な何かに果実が盛られ、それらにチョコソースが掛かっているだけのシンプルなお菓子である。
光ちゃんのにはサービスでたっぷりとチョクォソースが盛られている。
「うおお……! チョコだ! 本当にチョコだ!」
「真、あんまり騒ぐと周りに笑われるぞ……お上りさんだと思われるぞ」
「だって兄貴チョコっすよチョコ! 久しぶりのチョコっスよ! 逆になんでそんな普通のテンションなんすか!」
「まあ、俺は久しぶりって訳でもないからな」
あー……いやでも俺もこっちの世界で初めてチョコを食べた時はそんなテンションだったかも知れないな。
だが俺はマイホームだったのでセーフだと思う。
「へ? なんで? 兄貴、帝国には来たばっかりじゃ……?」
「王国であったオークションに出ててな。それを買ってアインズヘイルで食べたんだよ」
「オークション! え!? 王国にそんなのあるんッスか!? 今度連れて行ってくださいよ!」
「騒がないのとタイミングが合えばな」
あの会場で騒がれたらたまったものではない。
テレサに後でこっぴどく怒られてしまうじゃないか。
あと……おかわりをしているようだが、真。このお菓子、というかチョクォはとても高価だからな?
調子に乗ると財布に大ダメージだぞ。
「はぁぁぁ……幸せですぅ……」
「ふふふ。気に入って貰えたようだね。では、こちらはサービスだ」
「ええ! いいんですかぁ?」
「勿論だとも。君の様な可愛い子にこの子達も食べてもらいたいはずだからね」
なにやら若くて女性人気の高そうなパティシエらしき人が現れ、小さな器に入ったチョクォと、小さく切られた果実に串が刺されている物をサービスとして貰う光ちゃん。
どうやらディップして食べるものだと思うのだが、ソースに使われていた量よりもチョクォが多いのであっちの方が高そうだ。
「んんーっ! とっても美味しいですぅ!」
笑顔で感想を言う光ちゃんに、頬を緩ませるパティシエさん。
しかもこれがサービスだというのだから、いやもう本当すごいな光ちゃん……。
さてさて、続いて服屋さんへと向かうわけなのだが……。
「へっへっへ! 探したぜ真よう。抜け駆けしようったってそうはいかねえぜ!」
「おうとも……光ちゃんは皆の光ちゃんだ!」
どうやら、真の仮パーティのメンバーが街中を捜索していたらしい。
片方はスキンヘッドに大きな傷のある巨大な斧を背負った冒険者。いかつい。
もう片方は色黒でドレッドヘアーにサングラスで、腰に二本のメイスを下げている男。いかつい。
「くそっ! なんでいるんだっ! ……しっかり朝撒いて、光ちゃんには兄貴と三人で流れ人だけで遊ぼうって事で連れ出せたのにっ!」
……お前、光ちゃんと遊ぶために俺をだしにつかったのか。
そのために俺の安眠を妨害したのだな……本当に覚えておけよ。
「まあまあ。出会ったものはしょうがないんじゃないか? 一緒に回ってもいいんじゃないか?」
仮とはいえパーティメンバーな訳だし、仲良くするべきだろうさ。いかついし。
「でも兄貴……」
「流石兄貴さん話が分かる!」
「いやあ真よりもよっぽど人が出来てやすぜ!」
「ちょっと待て!! 兄貴の背中は叩くなよ? 昨日話したけど兄貴は非戦闘系なんだからな! 兄貴に何かあったら……俺もお前らも……終わりだぞ……」
真はシロに言われたことを思い出したらしく、自分を抱きしめてガタガタ震えだす。
その雰囲気に押されてか、オーバー気味に手を上げて俺から離れてくれるいかつい人達。
物分かりが良いのはとても助かるな。
多分おそらくシロはもう近くにいるだろうから、俺の背中を遠慮なく叩きでもしたら危なかったと思うぞ。
アインズヘイルの冒険者は全員俺が弱い事を知っているからどんな時でも手加減してくれるが、知らない上にこの人たちはノリで強めに叩きそうだからな……。
「真お兄さん、イツキお兄ちゃんただいま戻り……あれ? ナッシュお兄さんとアモンドお兄さん?」
「やあ光ちゃん! お買い物かい?」
「奇遇だねえ! あ、荷物重そうだね! ボクが持つよ」
おお……いかつい人があっという間にいかつい紳士へと早変わりした。
あれ?
確か光ちゃんはお花を摘みに行ったと思ったのだが、帰りがてら買い物でもしてきたのだろうか?
「あ……ありがとうございます。通りを通ったら皆さんに持って行ってといただいてしまいまして……」
「これ全部……? 凄いな……」
「いやいや兄貴、こんなの日常茶飯事っスよ」
「光ちゃんは可愛いから当然だよな!」
「その通り! 可愛いから当然だな!」
「可愛いだなんてそんな……」
頬に手を当てて顔を紅くし、恥ずかしがる光ちゃん。
そんな光ちゃんを見てキュンキュンしている真といかつい二人。
「それで、この後は服を買うんだろう?」
「あ、はい……そうですねぇ……。えっと、この先に気になっていたお店がありまして、そこに行きたいな~と」
「じゃあそこに行こうか」
光ちゃんが行ってみたいお店ならば俺の趣味とはまずあうまい。
これでただでさえ帝国で二人きりでお買い物が出来ないので凹んでいるウェンディに涙目で訴えかけられる事は無いだろう。
「エスコートチャンス! 光ちゃん! 迷子にならないように手を繋いであげようか?」
「汚えぞ真! 光ちゃん。迷子にならないように俺が手を繋いであげるよ!」
「待て待て。お前ら、紳士な俺を差し置いてふざけた真似をしてんじゃねえぞ! こいつらの手は汚いから、ボクの手を取ると良いよ!」
「「「ああんっ!?」」」
迷子って……光ちゃんは迷子になるような年ではないだろうに……。
そういえばどうして威嚇する際に顔を近づける人が多いのだろうか。
後ろからトンと押されたら男同士の三人でキッス……という見るもやるも恐怖体験が控えているのにリスク管理が甘すぎる気がするのだが。
「あわわわ。皆さん喧嘩はやめてください~。怖いですぅ……」
おお、凄いな涙目だ。
おびえた様子で俺の後ろへと隠れる光ちゃん。
残念ながら、俺には盾としての機能は備わっておらず、攻撃力に乏しいらしい真の攻撃すらも防げるか怪しいのだが、そんな事は知る由もないらしい。
俺は非戦闘系だと光ちゃんも知っているはずなんだがな……。
「怖い人達は嫌ですぅ……。喧嘩するならイツキお兄ちゃんに手をつないでもらいます!」
「へ?」
つい手を取られて驚いてしまう俺。
「え?」
驚いた俺に驚く光ちゃん。
あーそこに俺も混ざれと……。
顔を近づけられるのだろうか……。
間違いなく目を逸らすと思う。
「あれ……? えっと、駄目でしたか……?」
「あーいや、そういう訳じゃないんだが……」
ソルテやウェンディに絶対に鼻の下を伸ばしていないと言い切っておきながら手を繋いでいるところを見られでもしたら信憑性が無くなってしまう気がする。
シロもついてきているし、後で報告のようなことがあると俺が何を言ってもきっと効果はないだろう。
というか、既に後ろから面倒くさそうな恨みのこもった視線を感じる……。
「くぅっ! 流石は兄貴。これがハーレムマスターの力か……っ!」
「ハーレムマスター!? やはり奴が……!」
「真から話には聞いていたが……冗談だと思ってたぜ」
「お前達も見ただろう。昨日ギルドで見た美人揃いの女の子達を。あの子達は皆兄貴にメロメロなんだぞ!」
「「なにぃ!?」」
ほら面倒くさい……。
なんだよハーレムマスターって。
隼人だってハーレムを築いているだろうが。
しかもあっちはイケメンな上に英雄で伯爵だぞ。
やっかみを押し付けるのは嫌だが、やっかむのならば隼人の方が圧倒的に上ではなかろうか。
「あ、あの……」
「ああ悪い。んんー……光ちゃんは、別に迷子になるような年じゃない……よな?」
「あれぇ……? あ、そ、そうですね。……じゃ、じゃあこれならどうでしょうか!」
一瞬何が起こっているのかわからないといった反応を見せた光ちゃんであったが、気を取り直したのか俺の腕に抱き着くように飛び込んでくる。
流石に避けるわけにもいかず、大人しく飛びつかれてしまった。
……手繋ぎから腕組みに変わった理由は良く分からない。
「ああ! 腕組み! また腕組みだぞ真! 俺まだ一度もされたことねえよ!」
「くぅ……! このままじゃ光ちゃんが! ど、どうする!」
「待て待て。兄貴に手を出すのは駄目だ。絶対に駄目だぞ。ここは落ち着いて兄貴の様子を探り、兄貴の動きを覚える事で俺達もハーレムマスターへの道を学ぶんだ!」
「なるほど……だが……」
「ぐぅ、羨ましい……っ! 嗚呼、妬ましいっ!」
うわあ……後ろのノリが面倒くさい……。
だが、腕を取られてしまった以上ここで離れろというのは流石に傷つけてしまいかねないだろう。
「……行くか」
「はーいっ!」
ご機嫌になったようで、頭をこちらへと預ける等してくる光ちゃんだが、少しばかり俺は速足になる。
周囲の視線、後ろからの視線、シロが見ているだろうな等、全てが気になり早く服屋について欲しい以外の感情が起きないのだ。
だが、あまりに早くしすぎても光ちゃんを転ばせでもしたらどうなるかわからないので細心の注意を払いつつ心ばかり急ぐ。
鼻の下など伸びておらず、俺は服屋を探す事に真剣だ。
「アレ可愛いですね! 光に似合うかなぁ?」
「ああ……」
「あっちには、美味しそうなのが売ってますよ!」
「そうだな……」
デートじゃないですぅぅ。
後ろにも一緒の人がいるんですぅぅぅ。
「……わぁ。綺麗な宝石が……」
「ああ……」
「あ、あれぇ……光、流されてる? ま、まさかぁ……ねえイツキお兄ちゃん?」
「そうだな……」
だから睨みつけないでくださいぃぃ!
唾を吐き捨てて舌打ちしないでください周りの方ぁ!
「……やっぱり。効いてないなこれ」
「ああ……」
「……」
何処だ服屋は。
まだか服屋!
ウェンディに着せ替え人形にされて以来、女性と行く服屋はとてもとても長く疲労感も加わるものなのだと、若干の苦手意識があったのだが、ここまで待ち遠しい服屋は初めてだ。
……ウェンディがとても楽しそうにしていて、あの嬉しそうな顔を見れば疲労も受け入れられるんだがな。
「こんなに可愛い光をここまで無視するなんて……。……これは、早急に確認しないとねぇ~……」
「そうだな……」
服屋ぁ! どこだよぉぉ!!
お、あれか? あれっぽいな。あれだろうな! あれであれ!




