11-12 シュバルドベルツ帝国 強力な協力者
さて、ご紹介を賜った光ちゃんに、真。更には光ちゃんの臨時パーティメンバーの男2名を加えて、ミルクとココアも合わせてお話をすることに。
「イツキお兄ちゃんは王国に住んでいるんですか~。光はまだ帝国から出た事がないんですよね~」
「そうなんだ。アインズヘイルに住んでいるんだけど、いい街だよ」
さっきから俺の話し相手は初対面の光ちゃん。
まあ、ミルクとココアはアイナ達を交えて冒険者談義をしているし、真はちらちらとこちらを気にしつつも冒険者談義をしているので、必然的とは言わないまでもこうなってしまっていた。
「アインズヘイルですか~。メモメモ。今度遊びに行った時は、案内してくれますか?」
「あー……まあ、時間が合う時ならいいよ」
「えへへ。ありがとうございます~。イツキお兄ちゃんは優しいな~」
「まあそれくらいは同郷のよしみで……」
「えへへへ。イツキお兄ちゃんおすすめの化粧品とか香水楽しみです~」
「まあ品質は保証するよ。俺の先輩は凄い優秀な人だからね」
「錬金術師でしたよね? 錬金術師って、なんだか知的で恰好いいですよね~」
「そうかな? 冒険者の方が、魔物と戦うし格好いいと思うぞ?」
会話は普通に弾み、お互いの事をある程度は話すまではした。
話術が優れているのか、話が途切れずにずっと二人で話しているような感じになってしまっているのだが……それよりもだ。
「というかさ……近くない?」
俺の椅子にぴったりとくっつけて、というか体まで寄り添うようにくっつけられると飲み物も飲みにくいし、話すにしても顔が合わせづらいんだけど……。
「そうですか~? なんだかイツキお兄ちゃんはお兄ちゃん感が強くって、安心感があって……あ、嫌でしたか……? ごめんなさい……図々しかったですよね……」
「あーいや、そういう訳じゃないんだが……」
「えへへ優し……。それならここにいますね~」
そう言うともっと! というように更に体を寄せてくるのだが、これ以上は寄せようがないと思う。
んんー……。さて、どうしたもんかね。
「「「ぐぬぬぬぬ……」」」
睨むな睨むな。
真+αよ睨むな。
はっきり言うが、俺が何かしたわけでも何でもないからな?
ソルテも肘をついて頬を手のひらに乗せてそっぽ向いてため息をつくんじゃない。
俺がどうこうする気も無いからな?
シロとウェンディは逆サイドを狙って争っているのだが、シロは本当は膝上に座りたいのだろうけど、そこには光ちゃんの手が添えられているのである。
「……まーたご主人が誑したっすか? 早業すぎじゃないっすかね?」
「何が原因なのだろうか……。主君の持つ持ち前の優しいオーラか?」
「知らない……。あーあー鼻の下伸ばしちゃってだらしないわね」
いや待て、どんなフィルターごしに見ているのかわからないが今回に限っては本当に鼻の下など伸ばしてないぞ?
というか、真のパーティメンバーなのだし俺が手を出すわけもない。
……+αも含めて臨時のパーティらしいけど。
「しかし、光ちゃんも戦闘スキルが無いとはね……」
話を聞くと、光ちゃんの能力は戦闘系ではないらしい。
実は見た目に反してゴリゴリの戦闘系……という可能性もあったのだが、見た目通り戦うのは怖いという事と、スキルが戦闘スキルではない点で親近感はあるのだ。
「そうなんですよ~……こんな怖い世界だと思わなかったので、不安でいっぱいだったんですよ……。でも、色んなお兄さん達が光を手助けしてくれるので、本当にいつも感謝感謝で……」
「と、当然だよな? それくらい。なあ?」
「お、おう。そうだとも。困っている子を助けるのは冒険者として当然だよな!」
「それが光ちゃんみたいな可愛い子ならなおさらな!」
「えへへ。皆ありがとう! 大好きだよ~」
「「「いやあ……うへへ」」」
おーおー。
情けない顔してまあ……。
美香ちゃんと美沙ちゃんが見ていたらきっと両耳を引っ張られている事だろう。
「……なんでかしら、イラっとするわ」
「犬に同意する」
「こーら。そういう事言わないの……」
まあ、アレだ。
同性には嫌われるが、異性には好かれる女の子、みたいなタイプなんだろうな……。
というか、真は気づいてないのか……。
「いやあ、でも。光ちゃんのユニークスキルはすげえよな。力が普段の数倍は出せるし、痛みも和らぐからな」
「おう! 光ちゃんの支援がありゃあ、魔族だって怖かないぜ!」
「へえ、支援系なのか。凄いな」
「凄くなんてないですよ~。頑張れ~って応援すると、皆が頑張ってくれるんです。光にはそれくらいしか出来ないので申し訳なくて……」
スキル名は教えてもらっていないが、光ちゃんのスキルは支援系らしい。
ユニークスキルの支援なので、間違いなく効果がすさまじいのだろうが、自分自身に戦う力はほぼないようだ。
「いやいや! その応援の力で難しいクエストもクリアできるんだよ!」
「今日もメタルバグを大量に狩れたしな!」
「メタルバグ……」
金属製の虫ですか?
虫ですね。金属製だろうがなんだろうが虫は無理ですね。
「あー……真。お前虫倒して手は洗っただろうな?」
「洗いましたけど……」
「そうか。ならいい……」
お前さっき俺の頭掴んだからな。
もし洗っていない手だったら、俺はお前の股間を俺が許すまで封じるところだったぞ。
「イツキお兄ちゃんは虫が駄目なんですか~?」
「あー……うん。虫は特に無理だな……」
「わあ! 光もなんですよ~。やっぱり怖いですよね~」
うん……まあ、虫は無理な人はとことん無理だよなあ。
それはいいんだが、なんで腕を取った?
なんできゅっと抱きしめるようにした?
残念ながら薄い胸では柔らかい感触は堪能出来ていないので、ソルテは睨みつけないの……。
「「「ぐぬぬぬ……」」」
「……でもでも、真お兄さんがいっぱいいっぱい防いでくれたおかげで安心でした。素敵でしたよ~」
「っ! いやあ……あれくらい。大した事ないさ」
自分ではキリッとしているつもりなのだろうが、鼻の下が伸び過ぎで、相変わらず締まらない真だ。
「お二人も、メタルバグを狩る姿は勇者様みたいでしたよ~」
「あれくらい、光ちゃんの応援があれば!」
「目を瞑ってても狩れるってもんでさあ!」
「頼りになる男の人って素敵です~」
「ぐうう……壁役じゃあ敵は多く倒せないからな……。攻撃手段……もっと学ぼうかな」
真のスキル、『難攻不落』はダメージ95%カットの防御としては最強クラスのユニークスキルだ。
正直、盾を持って前に立ってくれるだけでありがたいはずなのだが、やはり活躍するには攻撃も大事なのだろう。
「あら、真ちゃん。攻撃スキルを覚えたいなら、私が相手をしてあげるわよ」
「ちょっと……ミルクったら取らないでよ。真ちゃん。受けるのも責めるのも私が相手をしてあげるわ……」
艶めかしい……いや、肉を前にした肉食獣のような瞳を向ける二人に、真の背筋がぞぞっと震えたのが見える。
「モテモテだな真」
「や、やめてくださいよ兄貴! 俺はマッチョには興味ないんです!」
「あらやだ。真ちゃんたらこの肉体美がまだわからないの? 無駄のない鍛え方によって限界まで絞られつつも肥大化したこの上腕二頭筋の勇ましさ。彫刻と見まごう程の腹筋……っ!」
「もう一夜……語り明かした方が良いのかしら?」
「い、いやだ! マッチョが両サイドに座ってがっちり固められながら延々とマッチョの話をされるのはもう嫌だ!」
頭を抱え、先ほどいた冒険者のようにガタガタと震えだす真。
どうやら真は初対面で禁句を言ってしまったらしい。
真なら言うだろうな……と思っていたのだが、予想通りだったようだ。
「っ……そ、そういえば兄貴達はどうして帝国にいるんッスか? 観光ッスか?」
「あー……まあ、色々あってな……」
無理やり話を変えたかったようだが、そんなにポップな話題ではない。
その色々について掻い摘んで話し、今は対策が取れるまで安全だと思われる帝国へとやってきたのだと説明。
「なんッスかそれ! 許せないッスね! 俺が乗り込んでガツンとボコボコにして来ましょうか?」
「やめとけ……あんなんでも一応王族で公爵だ。きな臭い噂もあるようだし、たとえ名分があってもお前、お尋ね者になるぞ。それに、乗り込んだら罠とかありそうだし、第一美香ちゃん達まで危険になる可能性があるだろう」
「ん。真にやれるならシロがやってる」
「でも! ウェンディさんと兄貴の仲を引き裂こうとす……っ!」
はっとして真が言葉を途中で切り上げたのは、正面のミルクとココアがぷるぷると震えていたからだろう。
「……許せないわね」
「そうねミルク。許せないわ……」
『許せない』にたっぷりと感情がこめられ、ゆっくりと力強い言葉を放つ二人。
その怒りが俺に向いてはいないので、とりあえずまだビビってはないぞ。
「愛は引き裂くものではなく、手編みのマフラーのように大事に大事に編むようなもの。一縫い一縫いに想いを込めてこそ、強靭なマフラーが、愛が生まれるというのに……それを横から鋏を入れるような真似を……っ! ハーッ! ハーッ!」
「美しくないわ。ええ、美しくない。略奪愛にはドラマがないといけないのよ。そして、ハッピーエンドだからこそ、略奪愛は美しい美談へと変わるもの……。それを下劣にも身分を使って奪う? 品性が下劣だわっ! フーッ! フーッ!」
机を乗り出してガシっと俺の左右の肩に一本ずつ痛いくらいに重みのある腕を乗せるミルクとココア。
「何かあったらすぐ言いなさい。私達が力になるわっ!」
「帝国での安全は任せておいて! 表から裏まで顔は通っているからね!」
「お、おお……。ありがとう」
思わぬ助っ人のおかげで安心感が凄い。
なんだろう。もう帝国にいる間は大丈夫な気がしてきたぞ。
「ふむ……裏の事情も、我の方が詳しいと思うがな。だが、ミルク、ココアの二人が味方なのは心強かろう」
俺の後ろから腕が伸びたので振り向くと、そこにはシシリア様の大きな大きなおっぱい……ではなく、シシリア様の姿があり、小さな声で少し貰うぞ。というと、俺の飲みかけのドリンクを取られてしまう。
「あら? シシリアじゃない」
「久しぶりね。帰ってきていたの?」
「んっ……んっ……うむ。久しいな二人共」
ぐぐっと飲み物を飲んだ後にテーブルにジョッキを戻しながら返事をするシシリア様。
その際に背中にばっちりおっぱいの感触があるのだが……気にした様子を見せないので俺も気にしないでおこう。
というかミルクとココアはシシリア様と知り合いなんだな……。
しかも、呼び捨てという事はかなり近しい間柄なのだろうか?
「かっ……」
「む? おお、そこにいるのは……確か以前我をナンパして我の剣を受けた男だな。そのチラチラと胸を見る視線よく覚えているぞ」
「あ、あの時は大変失礼を致しました……」
「真……お前、皇帝の姉君をナンパしたのかよ……」
お前……恐れ知らずだな……。
「ううう……知らなかったんスよ……。それに初めてあんなに大きな胸を見て、あまりの衝撃と揺れた光景が俺の頭を狂わせまして……。どうしてももっと近くで見たくて食事をと……」
……それはわかる。
だが、紳士とは理性も持ち合わせていなければならず、下心を視線に乗せる真は紳士には程遠いと言えるだろう。
まあ、思春期真っ最中の真にはまだ難しいか……。
「良い良い。我もあの時はあまりのしつこさに剣を振るってしまったからお互い様としてくれると我も助かる。まあ、手を抜いたとはいえまさか生身でほぼ無傷とは思わなかったが……」
ああー……シシリアがカサンドラと相対していた時に言っていた生身であの剣を受けた男って真の事だったのな。
まさか経緯がナンパだとは思わなかったけど……。
「む、約束の時間に遅れそうだな……。すまないが、我はそろそろ行かせてもらおう」
「あ、何かお約束があるんですね……。良かったら皆で食事でもと思ったのですが……」
「たまにはそういうのも悪くはない……が、今日はもう予約を取っていてな」
「なら仕方ないですね……。兄貴、俺達はなんか美味いもん食い行きましょう! 俺のおすすめの飯屋を紹介しますよ!」
「あー……悪いんだが、俺も無理だ」
そう言って俺が立ち上がると、アイナ達やシロ、ウェンディもドリンクを飲み切って立ち上がる。
「え?」
「うむ。今日は我が我の客をもてなす日なのだ。では行くぞ。思ったよりもギルドマスターが時間をかけおったから急がねば!」
いや、それだけ重要な案件だったって事じゃ……ちょ、急ぐからって俺の腕を取らないでください。
力関係上俺が必死にならないと引きずられる事を忘れないでください!
「わ、悪いな真。また今度!」
「……へ?」
「じゃあまたね愛の蜜と真達。まあ、帝国にはまだいるからまた会う機会はあるでしょ」
「またっすー」
「時間が合えば手合わせや合同のクエストも面白そうだな。では、すまないが、また後日」
シシリア様に腕を取られて不格好なままの状態で、呆気に取られている真に手を上げて告げると、俺はなんとかまともに歩けるように体勢を整える。
「あ、兄貴? シシリア様とそんなに仲良く……す、すげえ……やっぱり兄貴はすげえ……!」
「そうね……シシリアがあんなに懇意にしているだなんて、驚きだわ……」
「有能な男は好きみたいだったけど、あそこまで積極的ではなかったわよね。もしかして……とんでもなく、有能な男なのかしら?」
残された真とミルクとココアが改めて俺の評価をし直したようだが、俺にはもう聞こえなかった。
「……へえ。やっぱり、光の目に狂いはないね。色んなお兄さんを見て来たけど、一番利用しがいがありそうなお兄さん、いやお兄ちゃんだね。せいぜい、光の為になってもらおうかな? イツキお兄ちゃん……」
そんな誰にも聞かれていないような小さな小さな呟きも、俺には当然聞こえないのだった。
活動報告にて、8月25日火曜日発売の異世界でスローライフを6巻の特典情報掲載中!
見てね! 見てよね!
あ、あとPC修理の関係でどこかで一週か二週ほどお休みするかもしれません。
補償で治すとなると本体ごと預けなければいけないらしく……タイミングを見て出したいと思ってます。




