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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
10章 日常の一時
285/444

10-30 アインズヘイルで休息を 避難先は……?

さて、話し合うために広場にある開けたところのベンチに座る。

ここならば、盗み聞きする者がいてもシロとアヤメさんにすぐにばれるだろうという理由らしい。

……公爵ともなると、アイリスのアヤメさんのような隠密を控えさせている事もあるのだろうな。


「ご主人様……申し訳ございません。ご迷惑をおかけしてしまいました……」

「ウェンディのせいじゃないだろ。まあ、ウェンディは綺麗だからな。声をかけたくなる気持ちはわからなくはないが……なにがあろうと誰にも渡す気はないぞ」

「ご主人様……はい。私も、ずっとご主人様のお傍にいたいです……」


見つめあい微笑みあい、ウェンディと気持ちを伝えあい、伝わりあう幸せに包まれる。

背景がだんだんと視界に入らなくなり、ウェンディ以外見えなくなると少しずつ距離が詰まり顔同士が近づいて――。


「あーあーおっほん! 良いところではあるのだろうが、わらわ達の前であることを忘れるなよー」


っ……!

アイリスの声で我に返るように俺とウェンディの顔が離れる。

周囲を見回すと、苦笑いのカラントさんとあきれ顔のアイリスとアヤメさん。

そして、目を見開き口元を隠してきゃあきゃあと興奮気味のラズとクランが。

……アイナとシロは何故かじゃんけんをしているのだが順番とかはないぞ?


「んっんん。……すまぬな。嫌な思いをさせた」

「いや、来てくれて助かったよ。ありがとう」


わざわざ咳払いしなくてもちゃんと本題に戻るって……。

ちょっと二人で勝手に盛り上がっちゃっただけだから……。


「助かった……というには早計ではあるがな……。こちらでも手は打っておくが、お主も警戒はしておいてくれ。特に、ウェンディを一人で行動させるでないぞ。謹慎中なうえに財産は没収されている以上、大きく何かをしてくるとは思えんが……。今回は良かれと思ってウェンディを誘ったのだが、本当にすまなかったな。カラントにも迷惑をかけた」

「私は愛娘を守っただけですよ。今日ここにゲルガー殿が来たという事は、遅かれ早かれああなっていたでしょう」

「アイリス様は私にご主人様の教師姿を見せてくださっただけですから……。お礼は申しても文句などありませんよ……」

「ああ。アイリスが悪いだなんて思ってないよ。あの男がここに来たのも偶然なんだろうしな」


とはいえ、アイリスの親戚で王の血筋の公爵家……つまりは王族って事だよな。

これまた随分と爵位の高い相手だこと。

下手に先に手を出していれば、俺や周りの立場が早々に危ぶまれていたかもしれない。

いくらアイリスに庇護されているとはいえ、貴族と平民との間には、歴然とした差があるもんな。


というか、金でウェンディを奪おうとしていたくせに財産没収されてるのかよ。

服自体は豪華なものであったが、宝石をつけていないのはそれが理由か。

……最初から払う気が無かったんだろうな。


「そうか……。すまぬが、少しの間はあまり表を歩かぬ方が良いかもしれぬ。こちらも奴の動向を伺えるように手はずを整える。しばらくは安全な所に……そうだな。国外であれば奴に伝手はなく安全ではあるはずなのだが……そういえばお主、この前ロウカクに――」

「で、あれば。我が保護してやろう」


新たな声に振り向くと、そこにはバルンっと大きな大きなおっぱいを揺らす満面の笑みのシシリア様が。


「……なぜここにおる」

「なあに、王との約束を終えたので急いでお気に入りの教師姿を見に来たのだが……残念ながら間に合わなかったようだ。だが……これはこれでタイミングが良かったようだな!」

「お呼びでないぞ帰れ! 貴様に預けるなど、別の意味で怖くて出来るかっ! わらわのものは何人にも奪わせぬぞ!」

「なに。別に奪おうなどとは思っておらぬよ。ただの帝国の案内だ。なぁ? 帝国に興味はあるのだろう? 良い機会でもあるし、旅行に来てはどうだ?」


椅子に座った状態で顔を両手で支えられてシシリア様の方に首を向けられるのだが、お顔が見えず眼前に広がるのは肉の峡谷。

圧倒的なボリューミーさんが視覚の大半を占め、深淵にまでつながりそうな谷間が魅惑の波長で俺を誘っている気がしてきた。


「どうだ? 我が帝国を案内してやるぞ。勿論お主の安全の為の提案じゃ。帝国に我らが知らぬ奴とのつながりがある者がいたとしても、我と敵対する奴はおらぬ。面倒な入国手続きも、我と一緒ならばすぐ終わる。どうだ? 良い案ではないか?」

「お、おお……そ、そうかも?」


そう言われると良い気がしてきた。

そ、そうだよな。安全のためだもんな!

シシリア様だって、きっと俺を心配して言ってくれているのだろう。

お優しい方だなー。

谷間しか見えてないけど!!


「そうだろうそうだろう。お主はラガーが好きなのだろう? 勿論我が美味い店に連れて行くぞ? 紹介でしか入れぬ美食家である我が認める良い店だ。泊まる場所は我の家にすれば良い」

「貴様の家など認められるかっ! 虎の巣に草食動物をドリンク付きで放り込むようなものではないか!」

「だが、一番安全だ。我の家を襲えば外交問題になる上に、警備は万全。弟は我が大好きだからな……我を巻き込めば戦争が起こるかもしれぬ真似は流石にしまい。その間にお主の対策をするとよいではないか」

「ぐぬぬ……確かに安全ではあるが……。ぬううう……仕方ない……背に腹は代えられぬ……こやつに死なれるよりはましか……」

「うむ! アイリスからの許可は出たぞ。どうだ?」


んんー……どうしたもんか……っていうか、安全を考えると行った方が良さそうなんだよな。

帝国に興味がなかったわけでもないし、これも縁という奴だろうか。


「……わかりました。よろしくお願いします。ただ、ソルテ達も皆連れて行きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「もちろんだ。お主の恋人達も構わぬよ。ミゼラも連れてくると良い。セレンが喜ぶでな」


当のセレンさんは遅ればせながらやってきたようだ。

……護衛として、大丈夫なのだろうか。

いやまあ、襲う相手もいないのだろうけど……。


「では、少しだけお時間をいただけますでしょうか。友人や知人、仕事関係などに連絡を致しますので」

「うむ。我は王都にいるので何時でも構わぬぞ」

「はい。なるべく早く準備しますので……」

「ああ! ではアイリス。今後の話でもしようか!」

「露骨に機嫌がいいの……。だが、わらわからそやつを取ったらそれこそ外交問題にしてやるからな……」


と、どうやらアイリスとシシリア様は話し合いがあるらしい。

それじゃあ、こっちはこっちで話し合いだな……。


「ラズほらー! 胸のボタン開いてー! 谷間! 谷間が大事だよぉー!」

「むむむむ、無理だよー! あんなに近づけるのはもう無理だよー! それに私のはあんなに大きくないよー! ……クランのお尻と同じくらいじゃないー?」

「わ、私のお尻だってあんなに大きくないよぉー!」

「あー……娘達よ……父親の前でやめてもらえるかな? というか先生、後でお話をしましょうか」

「俺のせいじゃないです。俺は何もしてないです本当、勘弁してください……」


お前のせいで娘が!! って、顔には出ていませんがオーラが物語ってます。

それは俺のせいじゃないはずです……。

その子達の天然です。


「しかし、まさか帝国のシシリア様にまで一目おかれているとは……。先生はいったい何者なのですか?」

「アイリスからの繋がりがあっただけで本当、ただの錬金術師ですよ」

「そうですか……。ですが、やはり先生の気概は素晴らしかったですな」

「せんせー恰好良かったー! とっさに背中に隠れちゃってごめんねー。でも、頼もしかったよー!」

「うんー! せんせがいたから、ちゃんと拒絶出来たよぉー!」

「「ありがとー!」ぉー!」

「おう。何もなくて良かったよ」


ぐしぐしと髪を少し乱暴に撫でてやると、「「やだー」ぁー」と言いつつ嬉しそうに手櫛で直しだす二人。


「私からもお礼を……。娘達を守っていただきありがとうございました」

「いやいや、カラントさんには守っていただきましたから……! こちらこそ、助けていただきありがとうございます」


カラントさんが頭を下げるので慌てて俺こそと頭を下げる。

いやあ……あの時のカラントさんは颯爽と現れ背筋の伸びた誇り高い貴族らしく、毅然としていて本当に格好良かった。


「はは。先ほども申しましたが、私は娘を守っただけですよ。娘の幸せをね。それでは、そろそろ失礼を致します。私もやらねばならぬことがありますからな」


そう言って颯爽と去っていくカラントさん。

アイリスとシシリア様に挨拶し、少し話すと帰って行ってしまった。


「さて、ウェンディ、シロ、アイナ。相談なしで悪いんだが、帝国に行くことになった」

「ん。シロはどこにでもついていく。主を守るのがお仕事」

「うむ。たとえ奴がどんな手を打とうとも、主君を守るのが私達の務めだ」

「申し訳ございません……私のせいでいらぬ手間を煩わせてしまって……」

「いやいやウェンディのせいじゃないって言ったろ? もともと帝国には行ってみたかったし、安全も確保できるのだから一石二鳥のようなものだ。ロウカクにはミゼラは行けなかったが、今回ばかりは連れて行くしかないし全員での初めての旅行だと思えばいいさ」


な! と、笑いかけるとつられて笑顔を取り戻してくれるウェンディ。

そうそう。やはり笑っていないとな。


「まあ、不安はあるが良い方向に考えようぜ。ただし、ウェンディは一人での行動は禁止な。シロかアイナ達の誰かと常に一緒。流石に俺じゃあ戦闘力が無さ過ぎて守り切れるか心配だからな……」

「ん。ん? ……という事は、ウェンディはこれから主と二人きりになれない?」

「ガーーン!!」


いや、ガーンて口で言うんだ。

しかも心底絶望に打ちひしがれている表情を浮かべていらっしゃる。

手をわなわなさせて、開いた口がふさがらないようである。


「そ、そんな……ご主人様と帝国でのデートが……お買い物をして、ご主人様の服を選んで……」

「ウェンディ。諦めろ。ウェンディの安全の為を思って主君も言っているのだぞ」

「わかってます……わかってますが……うう、ううう……」

「あー……別に、室内なら二人きりでも問題ないと思うけどな……」

「そうですよね!」


途端に元気を取り戻すウェンディさん。

室内で二人きりと聞いて、またラズとクランが口元を抑えてひゃー! と、興奮しているがこちらはスルーさせていただこう。


「それじゃあ、ミゼラとソルテ達にも話して準備をするかな。あと数日の教師生活だったけど、慌ただしい終わりになっちまったな」

「ううー……せんせーとお別れは寂しいよー……」

「悪いな。まあ、お別れって言ってもまた会えるだろ?」

「……うんー。絶対また会うよー。アインズヘイルにも絶対に遊びに行くよぉー!」

「おう。いつでも来いよ。俺が街にいるときなら、歓迎してやるからさ」


さて、またまた遠出の準備といきますかな……。

目指すは帝国……。

警戒は最大に、とはいえ気を張りすぎても疲れてしまうし、帝国なら安心だとアイリスもシシリア様も言うので楽しもう。

そして、ラガーだ!!



※※※


「……アイリスよ。あの男をこのまま放置しておくつもりか?」

「そんな事はせんよ……。だが、証拠がない。おそらくは王に対して何かしらのスキルを使っているのだと思うのだが……その痕跡が見当たらぬのだ」


洗脳でもしておるのかと思い健診の際に鑑定スキルで探る予定であったが、あの自信を見るに成果は得られぬだろう。

ゲルガーの父親の時……厳罰に処すとまとまっていたはずが、覆ったのを見てなにかあると確信した。

ステータスにも表れぬ状態異常か、時間制限があるのか、解除可能なのか……はたまたわらわが知らぬスキルがまだあるのか……。


「ふむ……。確かに今日の王の様子も至って普通。特筆すべきことのあまりないあの安定を是とする王が愚行をするとは思えぬ。……いっその事先んじて討ってしまっても良いと思うがな」

「出来なくはない……が、それでは奴と同じ穴の貉だろう。それに、父親の時はともかく奴が犯罪を犯している証拠もないのでな。大人しくしておれば、それで済む話なのだが……」


まあ、希望的過ぎて無いに等しいだろうがな……。

いっそ普段から悪行三昧であれば、処すことなど楽なものを……。


「まあそうはなるまい。面倒だな王国は……」

「そう言ってくれるな……。だが、次代の王はおそらく隼人だ。そこまで耐えてくれれば、この国もまだ再生の余地があると思うのだが……」

「英雄隼人か……。戦闘については経歴が物語っているとは我も思うが、王の器があるのか?」

「わからぬが、民には良き王となろう。さて……アヤメ。ゲルガーの動向を探れるよう一人潜り込ませておけ。だが、奴にも隠密はおる故お主との関係は悟られるなよ。腕の立つ者を頼む」

「……難しいご注文ですね。部隊の者が使えないとなると……」

「おらぬか?」

「……いえ、一人だけ候補がおります。腕の方も問題なく、私との関係も気づかれぬでしょう。ですが……お金はかかりますよ」

「構わぬ。5000万ノール出すと言っておけ」

「5000万ですか……?」

「足りぬか? 足りぬのであれば希望通りの額を出してやれ」


あやつに価値などつけられぬが、金でどうにかなるのならいくらであろうと構わぬ。

……最悪の場合に備えて、内部で動けるものを付けておくのは最優先の最低条件だろう。


「……いえ。承りました。一仕事でそれだけあれば、受けてもらえるかと思います。……不肖の妹ではありますが、腕は確かですので」

「妹がおったのか……。頼んだ。どうにも嫌な予感が拭えぬ。可能な限り早めに潜り込めるように頼むぞ」

「はい。連絡が付き次第すぐに」


ゲルガーに金はないはずだ。

没収した際に、隠し財産もすべて調査したゆえ、奴の生活レベルはかなり下がっていると報告も上がっている。

ゆえに……大規模な事は出来ぬとは思うが……小賢しい男だからな……。

直接的に暗殺者……などは、シロがいるゆえ現実的ではないだろう。


だが、これはある意味で好機。

あ奴にはちと悪いが、何かしでかすのであれば王国の病魔であるあの家を潰すには絶好の好機でもある。


……まあ、そのためにあ奴を失う事は選べぬがな。

民一人と国一つ……両取り出来ればいう事なし。

だが、どちらか一つというのなら比べるまでもない事のはずが、わらわはお主に非情にはなりきれぬよ。

……我ながら、随分と気に入ってしまったものじゃな。


「やれやれ……。まあ帝国にいる間は安心しておれ。我がいる。我が守ってやる以上、何がこようとも切り伏せよう。あ奴には純粋に帝国を楽しんでもらうためにもな」

「お主の腕は信用しておるが……本当に取るなよ」

「ふふ。我の飲みの誘いを断らぬようにするくらいで勘弁してやるとするか」


酒か……。

そればかりはわらわは付き合えんからな……。

飲もうとすると、アヤメが止めるのだ。

……いつか、三人で飲める日が来るのを楽しみに待つしかあるまい。

笑って酔いつぶれるまで飲む。

そんな日が訪れるよう、わらわも全力でかかろうかの。


レイディアナ様。願わくば望みを叶え給え。

レイディアナ様。願わくばあ奴を守り給え。

これにて10章は終わりです。

次回は閑話を経て、帝国編。


……なのですが、今回少し長めにお休みを頂こうと思っております。

理由としましては、お気づきの方もいると思いますが誤字脱字の修正を現状放置中のためその修正。

(被りを考慮しないと数千近くあるかなと)

それと、11章の話がまだおおまかなのでそこを詰めます。

見直しも全然できていないため、それもしようかなと。

更に、現状集中力と想像力が欠如しているので、その補給をしてまいります。(スランプ気味)


エタることはあり得ないと思いますので、ご理解の方よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 案内人さんはアヤメさんの妹だったのかな?
[一言] この辺りで王様が公爵家に激甘だった理由が明かされるのかーなるほどなー。 きっと主人公達が調べていたら何か分かったんだろうなー
[一言] レイディアナ様。願わくば望みを叶え給え。 レイディアナ様。願わくばあ奴を守り給え。  アイリスが真摯に心で願う頃、当のレイディアナ様はこたつで饅頭とお茶を前に、次にイツキさんにプレゼントす…
2021/03/10 15:56 退会済み
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