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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
10章 日常の一時
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10-26 アインズヘイルで休息を 仰々しいお披露目会

ええー本日はお日柄も良く……なんて挨拶を交わしたくなるような、見学者の数よ……。

ウェンディ、シロ、アイナ、ソルテ、レンゲは当然のごとく座って見学に来ているし、それ以外に教師陣もいらっしゃる。


威厳のあるひげを長々と生やしているあの老齢のお方は学園長で間違いないはず。

なんで学園長が? どうして学園長が? と、こんな展開を招いた過去の自分に問いただしてみるも、この現状は俺のせいじゃない。

……ないはずだ。


更に言えば生徒達それぞれのお父様やお母様までいらしており、背筋が勝手にピーンって伸びるんだよ。

だって全員本物のお貴族様だからね。

なんちゃって王族や、話しやすい伯爵方ではなく、シシリア様のような本物の高貴なオーラが眩いほどに伝わってくる貴族様だからね!


そして当然のごとく鬼教官さんもいらっしゃっていると思うのだが……はて? 上半身裸のムッキムキで頬に十字傷があるような独眼の男は見当たらないんだよな……。


もしかして紳士しか見当たらないあの中にいらっしゃるのだろうか……?

鬼教官と言っても実は貴族基準で、一般的にはちょっと厳しいくらいとか……って、夢を見てもいいのだろうか?


さて、どうしてこんなにも大げさなまでに見学者がいるのかというと、つい昨日完成した香水を、俺が確認するという日なのだ。


……勘違いされては困るのだが、これは特別に日を選んだものではなく、ただの通常授業だ。

だからアレだ。前もって予定を知らせて時間を取ってもらい集まってもらったとかではないはずなのに、何故かどうしてか仰々しいこと極まりない集まりになってしまっているのである。


「ふむ……そろそろ始めてくれるか?」


そして仕切り出すのは当然のようにいるアイリス。

この所業はこいつのせいか……と思ったのだが、アイリスも関わっていないそうだ。

こいつがアイスにかけて! と、言った以上間違いないだろう。


そんなアイリスは俺がこの空気にド緊張しているのを察しているのが良くわかるような、とても楽しそうで悪い顔をなさって教卓の横へとお座りになっておりまする。

でも、困惑して停止してしまっていたのである意味助かった。


でもね? これ別に発表会とかじゃないんだよ?

こんな空気の中どう授業しろっていうのかな?

俺の普段の様子を見せてもいいの? 怒られると思うよ!?


「せんせー! 早く早くー!」

「早くせんせに試して欲しいんだよぉー!」


そんな俺の心情を理解してなどくれはしない生徒達。

そりゃあ、君らにとってはようやく完成した完成品のお披露目だし、後ろにいらっしゃる方々の事も見慣れた光景なのかもしれないんだけれど、一般市民の俺にこの光景はなかなか堪えるものがあるのだと察してほしい。

でもね。もう俺にはどうにもできないことはわかっているんだよ。

だからもうしーらない! なるようにしかなんないよね!


「あー……それじゃあ、完成品αの確認な。アイリス、お前に試して使ってもらう物なんだから、お前も一緒に確認してくれよ」


どうせなら巻き込んでしまえ! と、アイリスに話を振ったのだが、お貴族様方からざわっと一瞬聞こえるも、はしたないと思ったのかすぐさま声がやむ。

お静かに、とか言わないで済むのはありがたいが……あーそうだよね。

なんちゃってでも王族に対して俺みたいな一般市民が呼び捨てだとかお前呼ばわりはまずかったか……。


「ふむ。わらわも確認するのは構わないが、まずはお主からするのが筋であろう。なんせ、わらわお気に入りの超腕利きの錬金術師であり、皆の担当の教師であるのだからな」


なんでわらわお気に入りだとか、超腕利きだとか言った……。

一応俺がアイリスに対して気安い関係であることを説明をしてくれたのだと、いい方向に解釈しておくが……。


「まあ、お主がわらわに命令する……というのなら、聞いてやらんこともないぞ? ここは学園。あらゆる権利を持ちこむことも、持ち出すことも罪となる場。わらわは誓って外には持ち出さぬから、好きにするといい」


にゃろう……。

なんで俺の命令なら聞く……みたいな話になってんだよ。

さっきよりもどよめきが起こってるじゃねえか。

楽しそうに笑みを浮かべやがって。


「はあ……わかっ、わかりました。では、私から失礼いたしますよアイリス様」

「いつも通りの砕けた話し方で良いぞ? アイリス……と、呼んでお……くふ、れ」


最後笑ってんじゃねえですよ……。

……後で泣かす。

目の前でアイスを食べつくしてやる……。

溶けた雫の一滴も残さずだ……っ!


「はぁ……では、完成品α。これは、アイリスにつけてもらい社交界で披露してもらう予定の物だったな。それじゃあ、失礼して……」


試験管の蓋を開き、まずはそこから香る匂いを確認する。

トップノートとして立ち上るのは鮮明なほどの薔薇の優雅な香り。


柑橘系やパイナップル、ベリーのようなフルーツの匂いが混ざっていて甘すぎず、爽やかさもあるのだが強調すべき優雅で気品のある薔薇の香りは損なわれてはいない。

むしろ、強くある薔薇の香りを最後までさらりと受けいれさせてくれるような鼻の抜け具合を演出するようだった。


「アイリス。嗅いでみてくれ」

「うむ。お主の顔を見れば、嗅がんでも結果はわかるが……」


俺が試験管を渡すと、アヤメさんが受け取ってアイリスへと渡してくれる。

その際に香ったのか、アヤメさんの頬が少し緩んでいたのが目に入った。


「はーい! せんせー! 次は、少し時間を置いたものだよー!」


香水とは時間が経てば香りが変わるもの。

シングルノートで薔薇だけを抽出した匂いでも、薔薇のオイル自体が貴重なため、十分に価値あるものになるだろう。

だが、それはどうやらこの世界の既存の香水の定番らしい。

現在はシングルノートが主流であり、それゆえに長くもたせるために強い匂いが多いそうだ。


ゆえに、違いを際立たせるためにも今回はトップ、ミドル、ラストと三段階の変化が訪れ、長時間経ってもあまり強くはない香りが持続するものをと、難易度の高い香りを製作することにしたのだ。


「はい、せんせー!」


片手を俺の顔の前に伸ばすラズの手に俺の手を添え、まるで手の甲にキスをするかの如くそっと香りを嗅ぐ。

先ほどまでの鮮明な薔薇の香りから、少し別の花の香りが入ってくることで、花畑のような印象を強く受ける。

自然な香りのように柔らかく、そして優しい香りで強く嫌みな印象はまるでない。

そんな中でも、一輪の薔薇の花が中心にあるような気品と色気を持ち、可憐な女性を思わせるような香りであった。


「最後はラストで終わりだよぉー!」


今度はクランがやってきて、ラズと同じように俺へと腕を差し向ける。

ラズはアイリスの前に立ち、次の匂いを嗅いでもらうようだ。


「じゃあ、失礼……」


クランの腕を取って鼻を近づけると、先ほどまでの優雅で気品のある香りから大分落ち着いた、遠くから香る花のように大人しいものだ。

香水としての『強さ』は失った優しい香り。

大人の落ち着いた女性を思わせるような、先ほどとは違う意味で魅力的な香りだ。


さりげない弱い香りになるように調整してあるのは、今後大勢が香水をつけてパーティーなんかに参加した場合、重なり合ってしまわぬようにと施した工夫だ。

場も落ち着いたころに、強い香りが立ち上るのは良くないだろうと、生徒達が話し合い、あくまでも自然で落ち着いた香りをと工夫を凝らした意見交換の賜物である。


「……うん。凄く良い。よく頑張ったな」


俺の言葉に、生徒達が満面の笑みを浮かべ喜びを露にする。

女生徒同士で手を結び喜びに震えているようだが、視線をアイリスに移すと今一度緊張感をもってアイリスの感想を待っている。


「なるほど……。もし、中途半端なものでもお主がそれを生徒が作ったからと良しとするならば、使わぬつもりであったが……」

「そんなことする訳ないだろう? 俺だって、出来が悪けりゃ外に出そうだなんて思ってねえよ。でもな……こいつらならやってくれると思ってた」


過程をしっかりと見続けていたからな。

俺だったらそのくらいなら妥協するかなーってところでも、何度も話し合い、意見をぶつけあってより良いものをと試行錯誤してたんだ。


皆一生懸命で、皆本気で取り組んでいた。

だから、最後の方は俺は本当に暇だった。

この香りもほとんど初めて嗅ぐものだったのだ。


「うむ。素晴らしい香りであった。単一の香りを強くつけねば長い時間香らぬ既存の物とは大きく違うな。まさかこんなにも違う香りが一つの香水からだとは思わなんだ。それでいて、わらわに合うものをと考えてくれたのだろう。喜んで、今後の社交界で使わせていただこう。むろん、王国だけに限らず、広めさせてもらうぞ」

「……だってさ。良かったなお前ら。せっかくだし、ご両親たちにも試してもら――」

「「「「「「「「「「やったぁぁぁぁああああ!!!」」」」」」」」」」

「って!?」


ムギュウ。

いた、痛い!

つぶれる……潰される……。

圧が……また密度が濃い……!

なんかこの学園に来てから俺、圧力に襲われることが多々ある気がする!


「ううう……やったよー! アイリス様に認めてもらえたよー!!」 

「頑張って良かったよー! せんせ、ありがとうだよぉー!!」

「ああ、うん。良くやったな。でも、まだこれから――」

「ううう……初めてこんなに一生懸命になって、頑張れました! 先生、私達も褒めてー!」

「お、おう。良くやった。凄いぞおま――」

「頭! 頭撫でてー! ラズとクランだけじゃなくて私達にもー!」

「あ、頭!? えっと、こうか?」

「先生こっちもー!!」「私もー!」

「え? ちょ?」


先生の腕は2本しかないんですけど!?

頭が10個程あってわちゃわちゃしているから、どれがどれだかもわからないんだけど!?

っていうか、お前達はこっちに集中しているから気づかないかもしれないが、お前達の親御さん達がとても驚いた様子でこちらを見ていらっしゃるんだけど!?


「モテモテじゃな。親の前でようやるの」

「俺が何かしているように見えるなら、そのいらない目はポイしてしまえ……」


最早揺れもしない程にがっちりと囲まれ、掴まれている俺は、まるで痴漢の冤罪を受けぬように両手をきっちりあげている満員電車のサラリーマンが如くである。

とはいえ、無理に引き離すわけにもいかない。

なんせ……。


「ひっ……私、初めて頑張って、良かったって……」

「うんうん。頑張ったよね。私達、今までにないくらい頑張ったもんね。あー……本当……良かった……」

「ううう、せんせーありがとー!!」

「まだまだ一本目で雛みたいかもしれないけど、でもでもありがとぉー!!」

「「「「先生ありがとうーー!」」」」


と、歓喜に震え泣き出している子までいるのだから、野暮なことはするまい……。

これからも大事ではあり、これからが忙しいのだが……せっかくの一作目だしな。

……だから、親御さんも驚いていらっしゃるのはわかりますが、距離感なども含めてできれば大目に見てください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 目の前でアイスを食べつくしてやる……。 溶けた雫の一滴も残さずだ……っ! → バニルの香水ぶっかけてやる。 アイスを一切渡さず、バニルの香りだけ残してやる!
2021/07/11 10:43 退会済み
管理
[良い点] 面白かった。 続きが気になります。
[一言] 高校生の頃、女子高が近くにある駅の2つ先にある高校に 通ってた頃を思い出した・・・ 当時はそこまで痴漢だ冤罪だというのが無かったし 自分も学生だったからまだ良かったが 実際に女子だらけは悪い…
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