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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
10章 日常の一時
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10-20 アインズヘイルで休息を リート先輩

臨時講師になってすぐに休みの日ってのはどうなんだろう。

ようするに今日は学園がお休みの日。

俺は一人でアインズヘイルの錬金術師ギルドへと訪れて研究に没頭していた。


作っているものはアロマオイル。

天然物の材料をもとにして作られた精油と、揮発性の高いアルコールによって作られるもので、今は精油の研究をしている。

本来ならば潰して絞ったり、蒸して冷やしてなど様々な工程を経て生み出す物なのだが、錬金の基本である『分解』を使えば造作もない。


分解を失敗しないようにするには、しっかりと分ける物を認識することが大切だ。

だが、別に細かい成分などのすべてを把握している必要はない。

例えばだが、ミックスジュースがあったとする。

それを分ける場合、ミックスジュースに何がどれだけ入っているかは必要ではなく、水とその他で分けてしまえばその他には水分の抜けたフルーツの混ざった塊が出来上がる。

それとは別にオレンジとその他とすれば、オレンジの抜けたミックスジュースが出来上がる。といった具合に明瞭なのだ。


だから、一度精油を取ってこういうものが入っていると認識さえしてしまえば、あとは生徒達でも出来る簡単な作業となる。

さらに言えば、完全に無駄なく取れるため、圧搾や、蒸して蒸気を冷やしてオイルを取るよりも効率が良いのだ。


……元の世界から見れば、とんでもないスキルだろう。

正直、錬金の基礎である『分解』『合成』『再構築』はとんでもなく便利で使い勝手が良すぎるくらいである。


とはいえ、精油を作るのは簡単だが問題は量だろう……。

柑橘系の精油を作るのに、柑橘類の皮が相当数必要だとは思わず、とりあえず町中を駆け回っていただけるものは頂いてきたのだが……効率が悪い……。

5キロの柑橘類の皮から手に入れた精油はわずか15ml。

これでも普通に絞って作るよりも錬金で作った方が効率がいいのだから驚きだ。


一滴あたりが0.05mlだとして、49.5mlのベースのアルコールに1%のアロマオイルを作るとして10滴で0.5ml。

つまりは、5キロの素材から30個までしか作れない。

薬体草が5キロもあったら、一体どれだけのポーションが作れるだろうか……。


その中でも薔薇が一番とんでもない……。

50本のバラの花から抽出できたのはわずか二滴……。

確かテレビでは一滴だと言っていたが、錬金スキルで倍の効率に!

……とはいえ、それでも0.1mlだ。

1%のアロマオイルを作るのに必要な薔薇の本数は、要するに500本というわけだ。

もっと濃度の濃いものとなると……。


一つ当たりに使用する量は少ないにしてもこいつはまずいと、冒険者ギルドやアイナ達に依頼を出し、香料になりそうな野生に咲く草花を集めるようお願いしておいたのだが……ラベンダーやジャスミンなど香りの良いものがそう集まるだろうか……。


「どうですか? 進んでますか?」

「あ、リートさん。ええ一応……。ただ、効率は悪いですね……」


俺が今回自宅の錬金部屋ではなく、錬金ギルドに来た理由がリートさんだった。

リートさんならば、化粧品等の研究もしているし何かアドバイスを貰えないかと思ったのだ。

だが、まずは自分で研究してからですと言われ、その通りだと研究を開始したのだった。


「そうでしょうそうでしょう。香水は効率が悪いんです。それも、純粋な材料からとった香水なんて、超高級品ですからね。庶民は相当薄めたものでないと手が出せませんよ? というか、自分の為でもないのに自腹を切ってまでやりますか?」


そうなのだ……。

臨時講師では、学園の経費で使える額が限られる……。

だから自分で研究するものはすべて自腹。

冒険者への依頼も自腹なのである。


「……せっかくやる気になってるあいつらのやる気を削ぎたくないですからね。幸いにも、王都とアインズヘイルの花農家や贔屓にしている農園の方に話をしてもらって、売りに出せない花を安く譲ってもらえるようにはできましたので、あいつらの作った物が軌道に乗ればある程度今後の問題はないと思うんですが……」

「それでも予想する需要を考えると、足りませんねー」

「そうなんですよね……」


高級路線については貴族に売る分は問題ない。

だが、ただでさえ10人分の生活費をと考えると、量を作れず、一般用に作れそうもないのはさすがに厳しいか……?

実務についてはあいつら次第、そこをどうにかしてやるのが、俺の仕事なわけだが……んんー……。


やはり、ここは容れ物にもこだわるべきか?

いざとなれば、俺がガラスを加工して作り卸すという手もないこともないが……。

この先何年、何十年もとなると大変そうだな……。

ガラス職人に頼むか、あいつらの誰かが作れればいいんだが……贋作(マルチコピー)手形成(ハンディング)がないとより精工な作りの大量生産は難しいだろう……。


「後輩君は酷いですよねー。まさか私の商売敵を作ろうとするなんてー」

「ううう……そんなつもりはなかったんです……。リートさんは美容関係だから、別ではないかと……」


この話をリートさんに相談した際に、リートさんは頬をぷくりと膨らませてまずは自分でと言っていたのだ。

よくよく考えれば、先輩と被りそうな仕事を教えているのだから当然だよな……。


「香水だって美容ですよ? 化粧品に匂いをつけたりもしますし、ゆくゆくは石鹸なども作るのでしょう?」

「はい……」

「私、石鹸もう作ってますよー? あーあー……人気が出たら、私は路頭に迷うかもしれませんねー」

「す、すみませんでしたっ……!」


流石にリートさんは錬金ギルドでのお仕事もあるので路頭に迷う事は無いと思うが、商売敵を作っていることは間違いない。

後ろから襲い来るプレッシャーが徐々に徐々に俺に迫り、紫色のような気配がすうっと肩から腕を降ろしてくるような気配がしてきた。

だが、すぐにすっとその気配は消えていく。


「……なーんて。後輩君いじりはこれくらいにして、助けてあげましょうか?」

「え?」

「だから、助けてあげますよ。可愛い後輩君ですし。ゆくゆくの商売敵に塩を送る行為ですが、この前素敵なお土産もくれた後輩君ですしねー。まったくぅ世話がかかる後輩を持つと、先輩は苦労しますねー」


そうは言いつつもうふふふっと、口に手を当てて笑うリートさん……。

まるで後光が見えるかのように優しいリートさん。


「実はですねー裏技があるんですよ。他の人がどうやっているかは知りませんが、私の方法はオイルをほとんど薄めずに、しかも材料はほどほどで済むという裏技です」

「お、おお……」

「しかも、時間さえあれば多くのオイルが手に入ります」

「ま、まじですか? そんな画期的な方法が……?」

「ええまあ。ただし、この方法はくれぐれも秘密でお願いしますよ? 生徒さん達にも言い聞かせてくださいね? 広まったら私の売り上げがっ!! ……なんてことにはなりませんけど、これ私の錬金術師としての秘中の秘なんですから」

「もちろんです! あいつらにも絶対に内緒にさせます!!」


契約書を書いてでもあいつらには徹底させよう。

錬金術師の技術はそれそのものが財産であり、それを教えてくれるなんてのは普通に考えてあり得ない。

だというのに、リートさんは俺を助けるためにと教えてくれるのだ……その恩には報いねば!


「……じゃあ、広まったら後輩君のせいですからね。食べられないようになったら私も弟子にしてもらって、家に住み込ませてもらえますか?」

「いやいや、リートさんはレインリヒの弟子でしょう? それに、リートさんの方が知識も経験も圧倒的に上じゃないですかー」

「私は別に、レインリヒ様の弟子というわけでは……む。わざとやってます?」

「……」


さっと思わず視線を逸らしてしまう。

恩に報いるとは言ったが、それはそれだろう。

なんで生徒達だけじゃなく、リートさんまで家に来る可能性が出てきているんだっ!


「……助けるのなし」

「ごめんなさい! 嘘です嘘です冗談です! わかりました! 何かあった際は必ずお助けします! その際は家に部屋もご用意致しますのでどうかっ!!」

「ふん……どうせ年増はいらないのでしょう? 別に構いませんよー」

「そんな風に思ってませんって。それに、年は同じくらいじゃないですか……。確かに雰囲気はお姉さんのようで頼りがいがありますけど、優しくて綺麗な理想のお姉さんですよ」


本当に、こんな姉がいたら理想だろうな。

厳しいけれど優しくて頼りになって、いつだって俺が本気で困っていたら助けてくれる……。

しかも、たまにエッチな悪戯をしてくれるのは……血の繋がりがあったらまずいな。うん。


「っへ、へー。……も、もう一回言ってもらえますか?」

「同じくらいの……年齢じゃないですか?」

「違いますよ! 最後の方!」

「理想のお姉さん?」

「じらしているんですか? その前! 優しく――のあとですよ! なんですか? いじわるしたから仕返しですか? 女の子には優しくって教わらなかったんですか!」

「ああ、綺麗で可愛い理想のお姉さんですよ」

「可愛いが追加されたっ! ヒャー! 褒められ慣れていないお姉さんをからかってー! もう!」


バシっと肩を叩かれるのだが、物凄く嬉しそうなリートさん。

この前お土産を渡した時くらい喜んでいるようだ。


「褒められ慣れてないって……リートさん、そんなに綺麗なのにそんなわけないじゃないですか。もし本当なら、今まで出会った人たちは目が節穴なんでしょうね」

「な、ぅ…………。ぉ、ぉぉ……これですか。皆これに弱いのですかっ……。そういう、なんかこう言葉に魅了を乗せるスキルでも使っているんですか? お姉さんに魅了は効きませんよ! もう、綺麗なお姉さんにドンっと任せなさい!」


バシバシと俺をたたきつつ、頬を抑えて身もだえ、最後は胸を強く叩いてぱいを揺らし、しまいには体まで揺らしてぱいを揺らす忙しないリートさん。

テンション高く満面の笑みからの自信満々の表情に若干戸惑いつつも、助けてくれるのだからと表情には出さないよう我慢する。


……そんなに綺麗と言われたのが嬉しかったのだろうか。

いやでも確かにこんなに美容に気を使っているのに褒められないというのは、案外堪えるのかもしれない……。

……今度から、細かいところに目を配って気づいたら褒めるようにしよう。


「ではでは、早速ですが……これを差し上げますよ。全て万事この子で解決です」

「これ……これ? これって……」

「そうです。スライムです」


リートさんがわざわざ胸元から取り出したのは、透明な瓶の中に入れられた透明なスライムだった。

小さく手のひらサイズで小さな核と薄い膜で辛うじてスライムとわかるくらいのものだ。


「スライムが役に立つんですか?」

「ええ。これは『オイルスライム』。オイルスライムは表皮から常にオイルを流すスライムです。自然界にいるオイルスライムは雑食で、様々な草花や動物の死骸などからオイルを得て混合して別のものへと変異してしまいますが、この子はまだ無垢で何物にも染まっていないのです」

「あ、それって……」

「ええ。例えばその薔薇の精油を与えます。一、二滴で構いませんよ。お水があればしばらくの間は持ちますから。あとはガラスケースなどに水と一緒に入れてあげれば、時間がたつとオイルが水に浮かび上がるので、それを回収すれば良いのです。ちなみに、濃度は元の精油の99.98%です。」

「99.98って……ほぼ変わらないじゃないですか」

「そうですね。ヒトが知覚出来る範囲ではありません。ただし、この子のように無垢なオイルスライムなんてのは滅多に手に入りません。ほとんどのオイルスライムが、生まれてすぐに手あたり次第近くにある油分を手に入れようとします。だから、何匹かは差し上げますが、この子達を使うときは薔薇などの本当に貴重なオイルばかりにしてくださいね」

「わ、わかりました」


確かに、かなり貴重なのだとわかる代物だ。

だが、これで数が取り辛い物などの貴重な精油が手に入りやすくなる。

更に言えば、その分に割くはずだった資金を節約し、他の素材を買い取る際にも助かるという構造だ。


全ての素材をオイルスライムから手に入れるようにしてしまうと、資金の流れという意味でもこちらから出る資金の少なさから何かある……とされると、ばれる危険性もあるのである程度は自分達で作れるようにしておいた方が自然だろう。


しかし、まさかスライムか……。

ローションといい、疑似ゴム製品といいスライム様様だな。


「ちなみに、オイルスライムは自分が出した油分は食べませんので、きちんとオイルが出なくなったら新しい精油をあげないといけませんよ。そのタイミングで与える精油を変えれば別の精油が取れます。ただし、混ぜてしまうと変異する可能性がありますので注意が必要です。それと、その子達は調教済みで人を襲うことはありませんが、ご飯が無いと死んじゃいますからね?」

「調教済み?」

「ええ。もし他者が製法を知って真似しようと天然の無垢なオイルスライムを手に入れても、脱走してしまうか襲われるかのどちらかです」

「あー……魔物ですもんね」


こんなにぽよぽよで可愛らしい見た目をしていても、魔物なんだもんな……。

表情はうかがえないが、俺が観察をしていると首をかしげているように感じてやはり少し可愛い……。

首、ないんだけどさ。


「あれ? リートさんは、スライムの調教が出来るんですか?」

「え、ええまあ。あ、流石にそれは内緒ですよ? 教えてあげられませんよ?」

「わかってますよ。こいつらを譲っていただけるだけで十分です。これはまた次のお土産は気合を入れないとですね」


流石にそこまでは聞けないだろう。

しかし、魔物を調教か……。

出来るんだなそんな事。

モンスターテイマー……みたいな職業も、実はあったりするのだろうか?


「あら、またくれるんですか? じゃあ、そのお土産のグレードが跳ね上がるように、もう少し色々教えてあげましょうかね」


こうして、リートさんの手ほどきを受けながら話を聞いてメモを取り、休み明けに生徒達に話すことがかなり増えた。

正直な話、リートさんに話を聞かなければ失敗していた可能性が高かった。

やはり、専門分野というのは大事なのだろうな。

錬金術師の知識は財産……というのを、深く再認識することができたのだった。

宣伝ターイム!


とうとう今月25日に異世界でスローライフを(願望)の書籍5巻と、コミックス1巻が発売です!

書影も公開されました! アイリス様とアヤメさんの表紙ですね!

ちなみに私、結構タイトルデザインも気に入っており毎回どの色の組み合わせなのだろうと楽しみにしております。

コミックスの方のデザインも良いですよね! 願望がデカデカとアピールされているのは本当に良い! 願望さんにはお世話になっていますからね!


そして、特典情報も少し出ております!

詳細は後程活動報告に上げようかなと。


出来れば1~4巻を買っていない方にも読んでいただきたい!!

私の願望を垂れ流す予定ですので是非に!

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― 新着の感想 ―
私がなら、レインリッヒ錬金ギルド監修としてブランドに泊をつけて安価な監修費用の半分をお姉さんに還元すると言うのがリアルで説得力のある決着だと思う。 これでは読み手が、まぁ、漫画の世界なら仕方ないかで…
[一言] リートさんの好感度があがっていく。 リートさんがイツキさんと接触するときの布面積が減っていく。 ( ゜д゜)ハッ! アルティメットナイトが油分だとしたら、オイルスライムに生成させたら大量生…
2021/07/11 09:04 退会済み
管理
[一言] 学生たちとリートさん。どっちも家に来るなら、家を改築ですかね? 今いる6人と学生とリートさん。17人とイツキさんが混浴。すごい光景だ……。 そして、入浴剤はネギンの香り。
2021/03/10 14:13 退会済み
管理
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