10-9 アインズヘイルで休息を 孤児院クック
孤児院に着くと子供たちがばたばたと中へ入っていき、少ししてマザーやシスター達が慌てた様子でやってくる。
子供たちは今のうちにマザー達にゴールデンモイを渡す準備をするため、全員を集めなくちゃと言っていた。
「これは聖女テレサ様。よくぞお越しくださいました」
マザーを中心にシスター達が列をなしてテレサを迎えいれる。
そういえば、普段から普通に接してしまっているので忘れがちだが、テレサって多くの民や信徒達に敬われる聖女なんだよな……。
いや正確には聖女と言うことを忘れているわけではないのだが、どうにもテレサの接し方からついつい普通に接してしまう。
「昨日も来たでやがりますから、そういった堅苦しいのはいらないでやがりますって……」
まあ、テレサもこうだし俺の対応も怒られはしないだろう。
よし。大丈夫だと思うのでこのまま変えずにいこう。
「そうはいきませんよ。こうしてテレサ様ご自身がアインズヘイルの孤児院へ訪れてくださっているのですから」
「孤児達に神の教えを説くことは、教会に属する者として当然でやがりますよ。この子達から、もしかしたら神官になる者、下手したら聖者や聖女になる者が現れるかもしれないでやがりますからね」
「ふふふ。そうはおっしゃいますが、聖女テレサ様はいつもここに来ては子供達のためにご馳走を振舞ってくれるではないですか。それはお仕事ではありませんよね?」
マザーが嬉しそうに微笑み、テレサがばつが悪そうに顔をしかめる。
「……こうして地方に来ると、その地域の食材で料理を作りたくなるだけでやがります。いいから、調理場を借りるでやがりますよ」
恥ずかしそうに照れているのが丸わかりなテレサに、思わずマザーもシスター達も微笑を浮かべていた。
年齢的にはマザーやシスター達の方が上なので、可愛らしい少女を見るような慈悲深い微笑であった。
「かしこまりました。それではどうぞこちらへ……。あら」
「どうも。お手伝いです」
マザーが俺に気づいたようなのでぺこっと軽く頭を下げて挨拶を交わす。
すると、マザーは俺とテレサを交互に見やり、自分の頬に片手を添えた。
「あらあらまあまあ。テレサ様とお知り合いなの?」
「友人でやがりますよ。そこで出会ってこの世界の神の話に興味があるそうで、ついてきたでやがります」
「まあ……私はてっきりテレサ様の良い人なのかと思ってしまいましたよ」
「なっ……。そんな訳ねえでやがりましょうがっ!」
「そんな訳無いんだ……」
きっぱりと言い切るテレサに少し残念な声音でがっかりする演技をしてみたのだが……。
「っ! や、別に主さんが駄目だとかそういう事ではなくて、私の体は神の加護のおかげでそういうのはふさわしくないと前にも話したでやがりましょう? それに、主さんは優秀でやがりますし、他にも見目麗しい女性がいるでやがりますし、今更私なんかをって……。だから――」
俺が傷つくまいと慌てた様子で必死に擁護してくれるテレサ。
なんというか、ちょっとした冗談のつもりだったのだがとても悪いことをしたという気持ちとともに、本当に優しいなと思いつい俺も微笑んでしまった。
「あ……その顔。からかったでやがりますな!」
「隊長ー。主さんのこと、そんな風に思っていたんで、あぶぅあ!!」
「うるさいでやがりますよ副隊長! ぶっ飛ばすでやがりますよ!?」
「ぶっ飛ばしてから言わないでください……」
「主さんも! そういうおふざけは金輪際するんじゃないでやがりますよ!」
「はい。気をつけます」
照れ隠しでも俺がアレを受けたら死ぬな……。
……よし。からかうのは副隊長だけにしておこう。
お好み焼きの試作を作った時に入ったよりも、ずっと綺麗になって設備が整った台所へとやってきた俺は、魔法空間からエプロンを取り出して着用し、髪の毛が落ちぬように前髪を上げ、タオルで覆い隠して後ろで結び、準備を整える。
「……手馴れているでやがりますな」
「まあたまに作るからな。最近は仕事中にウェンディとミゼラが作ってくれるから、趣味でやる時ばかりになってるけど……」
「なるほど。……で、本当に手伝うんでやがりますな」
「そりゃあ、手伝うって言ったからな。大丈夫。こう見えても料理スキルはあるし、評判も悪くないんだぜ?」
「それはわたあめで知っているでやがりますが……なんというか、家庭的な男でやがりますなあ……。エプロンが板についてっとと……あれ?」
後ろ手にエプロンの紐を結ぶテレサが少してこずっているようなので後ろに回り、蝶々結びをしてあげる。
「……ありがとうでやがりますよ」
「いえいえ。んーしかし……」
テレサのエプロン姿を下から上、後ろに回ってもう一度下から上を見てさらに前に戻って下から上を見て回る。
「なんでやがりますか……じろじろと……恥ずかしいんでやがりますが……」
俺が後ろに回ると両手でお尻を隠し、正面に回ると顔を背けて恥ずかしそうな表情を浮かべる。
「いや、修道服にエプロン……ってどうなのかと思ったんだが……似合ってる。可愛いな」
濃紺の修道服に真っ白でシンプルだが女の子らしいエプロンが映え、ブロンド髪を後ろで束ねるという普段と違う髪形なのもまたテレサの可愛らしさに拍車をかけていた。
「っ……なんで主さんはそういう事を素で言うんでやがりますかっ!」
「はぁ……すまないなテレサ殿。主君はそういう思った事は口に出してしまう男なのだ」
「褒め言葉ってのは、伝えなければ伝わらないだろ? 可愛いって思ったから可愛いと言った。ただそれだけだよ」
さっきみたいにからかっている訳でもなく、おべっかで褒めている訳ではないのだから良いと思うの。
実際、今のテレサは年相応の普通の女の子のようで可愛らしいのだ。
「はいはいはーい! 私はどうですか? 可愛いですか? 可愛いですよね!」
手を何度も上げて自己主張の激しい副隊長が、テレサと同じくエプロン姿で迫ってきてポーズを取る。
そのエプロン……どっかで見たなと思ったら、俺も王都でつけた覚えのある胸元にハートマークのついたフリッフリのエプロンだ。
そのエプロンは、修道服よりもきっと裸が似合うだろうと思えるあのエプロンだった。
もうね。本当に副隊長はいつも期待に応えてくれるよね。
普通のエプロンを着て、おっぱいの膨らみを強調……だなんて、普通の事はしないんだから、芸人気質というか……。
それでいて、元は良いのだから困りものである。
「……なんか、淫靡だな」
「淫靡!? 新婚さんみたいで可愛くないですか!? あ、これせっかく買ったけど使い道が無いや……家で一人で使ったら悲しすぎる! って思って封印してたのを出してきたんですよ!?」
「おい……なんだその悲しい経緯は……。なんで独り身で新婚さんみたいなのを買ったんだよ……」
「ハートが可愛くて……。あと、なんだか若々しい感じがしたので見栄を張って――」
「そっか……わかった。もう言わなくていいぞ……悪かった」
「家に帰って一人で着けて鏡を見ていたら説明の一文がついていて、これで裸で旦那様を迎えたら毎日がハッピーライ――」
「わかったって! ごめんって!」
いいから! それ以上は言わなくていいから!
なんか俺の方も悲しくなってくるから!
っていうか、副隊長だってまだまだ若いだろう!
「う、うう……。主さんなら、主さんなら褒めてくれると思ってたのに……」
「だからごめんって……でも褒めてたろ? 淫靡だなって……」
「淫靡は褒め言葉なんですかっ!?」
褒め言葉……かどうかは普通なら怪しいところだが、俺的には褒めたつもりだ。
ただでさえエッロいボディの副隊長が、新婚さんばりのハートフリフリエプロンを着けているのだ。
勿論下は裸ではなく修道服なので、正直そのまま見ても微妙なところなのだが、修道服を脳内で消してみれば、とてもエロくて淫靡で素晴らしいものだと思う。
「……主君的には褒め言葉なのだろうな」
「うわあ……やっぱり残念じゃないですか……。絶対私よりも残念だと思うのですけど」
それはお互い様という事になっただろうに、まだ言うか。
それと、残念という自覚はあったんだな副隊長。
「はいはい……茶番はそれくらいにして、早く始めるでやがりますよ。子供たちがお腹を空かせて待っているでやがりますよ」
子供達はきっと今頃買ってきたゴールデンモイをマザーやシスター達にプレゼントし、感動的な事が起こっているのだろうが……そこに俺たちがいるのは野暮というものだろう。
「うっし、それじゃあ始めるか。まずは何から作る?」
「そうでやがりますね……救護所の手伝いをしていたら、ゴールデンモイをもらったでやがりますし、これで何か一品。それと、鳥豚牛の各種お肉で一品。あとは健康を考えて野菜サラダもいるでやがりましょう。汁物もほしいでやがりますね」
「ふむ……。それではゴールデンモイは私が焼こう。料理はあまり出来ないが火加減ならば得意なのだ」
「そうでやがりますか? なら頼むでやがりますよ」
「ああ。任せてくれ」
アイナは炎を操っているからな。
流石に火は専門だろうと、俺も納得しゴールデンモイは任せる事に。
とはいえ、俺もゴールデンモイはちょっと使ってみたいので後で触らせてもらいつつ普通にテレサの手伝いをするとしよう。
「野菜は洗って皮剥いておくぞ」
「お願いするでやがります。副隊長はスープをお願いするでやがります」
「はーい。お任せください」
「へえ。副隊長も料理できるんだな」
「で、出来ますよー? あ、あれえ? 私の評価って、低く見積もられすぎてませんか?」
テレサはなんだかやってそうな気がしたのだが、正直副隊長は意外だ……。
しかも手際を見るに普通にちゃんと出来るらしい。
「主さん、味を見て欲しいでやがります」
「ん。どれどれ……。もう少し塩が欲しいかな。ここの子達はお好み焼きで毎日汗水流してるし、塩分補充で。あ、でもほんのちょっとな」
「わかったでやがります」
「俺の方も見てくれるか?」
「ん。これはまた、変わった味付けでやがりますな……。先ほど入れていた黒いソースでやがりますか?」
「当たり。醤油って言って俺の世界の調味料なんだ」
「ほーう。こっちで作れたんでやがりますか?」
「いや、女神様からもらってる」
「なっ……! ど、どういうことでやがりますかっ!?」
あ、そういえば話してなかったっけ……。
なんか普通に『お小遣い』のスタンプカードで女神様からもらっているから気づかなかったけど、冷静に考えたらこれ神様からの賜りものって扱いなのか……?
と、とりあえずテレサの食いつきが半端じゃないので包み隠さず話しておこう。
すると、最終的にはまあ流れ人だし、俺だしという扱いで納まってしまう。
その後は各々が担当した料理に取り掛かりつつ、味付けなども確認しあって次々に料理を完成させていく。
しかし、やはり二人は料理が得意なようだ。
手際もよく、普段から二人で作っているのかというほどにお互いの料理に必要だろうというものをついでに用意しあっている。
俺もそれなりには手伝えていると思うんだがな……。
とりあえず、自分の料理に集中しよう。
「隊長隊長」
「ん? なんでやがりますか?」
「なんかこういうのいいですね! 男の人と料理! 新婚で、手伝ってくれる優しい旦那様って感じがしませんか?」
「また副隊長はそういうことにすぐに絡めるでやがりますな……。欲求不満なのでやがりますか? お祈りの時間を増やしたほうがいいでやがりますよ」
「隊長も酷い! えー……でも、さっきのやり取りとか傍から見ていてキャー! でしたよ? 私もやりたい」
「テレサ、今度はこっちの――」
「っ! はいはいはーい! 私が味をみます!」
「え、副隊長が? まあいいけど……。それじゃあ――」
「あーん」
「……」
「あーん」
「えっと、味見だよ?」
「あーん!」
早くしろと言うのでスプーンで副隊長の口へと味見をさせると、瞳を瞑ったまま吟味しつつ頬がぴくぴくと緩まるのを抑えている。
「はぁ……これが、新婚……っ」
「いや、味見だって……」
「はいはい。わかってますよ。いいじゃないですか気分くらい……。で、味についてですが――」
意外にも、副隊長の方がしっかりと味を見極め、適切なアドバイスをしてくれたのだった。
本当に、意外だった……。
咳が治らない!!!
ので、ちょっと集中しずらく寝不足で今週お休みもらおうかと考えていたら書けたので投稿。
イエーイ! なんとかなったー!




