9-20 砂の国ロウカク 揉んで解して叩いて目覚めて
「さあ、お尻をこちらに向けて、横になってください」
「なっ! なななな……っ! 突然部屋にやってきたかと思えばいきなりですか!? 爺の言ったとおり押してだめなら引いてみろ作戦成功ですか!?」
「……違いますよ。その爺さんに女王様が不眠症だそうなので、グルーミングとマッサージをお願いされたんです」
ロウカクに来る前に言われていて、どこかで出来るタイミングを探してはいたのだがアレだったからな……。
もう落ち着いてはきているし、爺さんが大丈夫だとレンゲが拳を握る前で宣言したので行う事にしたのだ。
ちなみに、言ってはいないが部屋の前にはシロが待機している。
またなにか盛ろうものなら……。
「ぐるーみんぐ? あ、尻尾ですか……。聞いていますよ。貴方は尻尾に興奮する変態なのですよね?」
「……おい、その情報源は誰だ? いや待ていい。大体予想がつく」
おそらくソルテかレンゲだろう。
俺の事を変態というやつはあの二人のどちらかのはず。
アイナも言わなくは無いが、アイナは尻尾の話はしないだろうし、言うとしても頬を染めて恥ずかしがりながら『……変態』と呟くような思わず押し倒してしまいたくなる言い方のはず。
「……尻尾を異性に預けるのは獣人にとって信頼の証……。ですが、良いでしょう。爺からも天にも昇る気持ちよさであったと聞いておりますし、実はいつお願いしようか悩んでいたのです……。ちょっとやりすぎてしまいましたしタイミングが……」
あの日以来おとなしくなったのは、流石にやりすぎだと戒めていたからのようだ。
なんだよ。おしとやかな態度もやれば出来るじゃないか。
こうしてみると、清楚で大人しそうで、本当に綺麗なレンゲなんだけどなあ……。
「それでは、よろしくお願いします」
「……いや、普通に横向きかうつ伏せでいいんですけど……」
コレン様はベッドの上で俺に向かい四つんばいになるとお尻を上げ、こちらへと向ける素敵な体勢を取ってきた。
「そ、そうなのですね……。男の方にされるのは初めてなので……。えっと、こうでよろしいですか?」
「はい。それじゃあ、膝の上に乗せますね」
「あ……」
コレン様の腰を掴み、軽い体を持ち上げて膝の上に乗せるとふぁさっとレンゲに似た毛量の多い尻尾が揺れる。
「では、いきますね。まずは下準備を……」
「ひゃぁぁ」
随分と可愛らしい声が漏れ、恥ずかしそうに顔を赤らめてお尻を押さえるコレン様。
なんか、年相応でちょっと可愛いと思ってしまった。
「ごめんなさい。冷たかったですか?」
「いえ、ちょっと突然で驚いてしまいました……。えっと、今のは……液体?」
「俺の先輩が作った地肌が荒れないようにするスキンケアです。それじゃあ、慣らしていきますね」
手のひらに広げたスキンケアを地肌に馴染むよう深く揉みこんでいく。
これは櫛が当たった際に傷がつかないようにするためと、尻尾に艶を出す仕上げ用のヘアトリートメントで荒れないようにするものだ。
「んん……ああ……男の手とは思えないほど繊細な動きなのですね……」
「まあ、慣れてますからね」
「この指で多くの女性を泣かせてきたのですね……」
「いや、そんな訳、あー……」
否定できないなあ……。
終わった後に涙目というか、目を潤ませている子は多いのだ。
「悪い人ですね。でも、本当に腕は良いのですね……。お姉様にもこうして差し上げているのですか?」
「そうですね。結構気持ちいいみたいで、最近はそれなりにマッサージを含めてお願いされていますよ。では、そろそろ本番を……」
「……下着は脱いでおいた方が良いですか?」
「いやそっちの本番じゃないですって……」
「もう……本当にお堅いですね。一回くらい良いじゃないですか。減るものでもないですし……」
いや、その常套句は定番な上にコレン様は初めてだから減るというか破るというか……それに、逆の立場で言われると減るものはあるんだよ。
まあ……三日くらいで全回復するけどさ。
「そういえば爺から聞きましたよ? 行きずりの女性から誘われた際には乗り気であったと。ずるいですずるいです。私もそういう割り切った関係で構いませんのに」
行きずりのって……案内人さんの事か?
乗り気……って程ではなかったと思う。
どちらかといえば案内人さんのペースに乗せられてしまっていただけだったはずだ……。
「女王様相手ではそうもいきませんって……」
「お姉様の妹のコレンとして扱えば良いではないですか」
「なおさら割り切っただなんて思えませんよ……。ほら、今日は大人しくグルーミングを受けてぐっすり寝てください」
「ええー……本当になさらないのですか? これは、『男の指でなんて悔しい! でも……』で始まるパターンではないのですか?」
「何でそんな事知ってるんですか……。え、定番なんですか?」
「いえ、王になる際に習った情操教育の一環です。たまたま見つけた古い本ではありましたが、こういうこともあるかもしれないと書かれていました」
いやそれ、ただのエロ本だったんじゃないか?
……そういう本を小さいころから読んでいたから男嫌いになったのだろうか?
「……まあでも、今日は大人しくしておきます。これ以上お姉様を怒らせたら、本当に嫌われてしまいますしね」
「はい。そうしてください」
シロも待機しているのでなおさらそうしてください。
それにしてもぐいぐいくるのはレンゲの言うとおり重圧を感じているからなのだろうか。
しかし、クドゥロさんやレンゲにも似た気質があるところを見ると、種族の特徴の可能性も捨てきれないな。
「それでは……」
「はい……お姉様と同じようにお願いします」
コレン様の尻尾はレンゲと比べると少しだけボリュームが落ちはするが、その分さわり心地がもふさらの良いとこ取りなので本当に良い尻尾だと思う。
おそらく普段は自分でやっている事が多いのだろう。
そのせいか根元が少々荒くなっているのだが、もっと上を目指せるはずの尻尾だ。
現状に満足せず、もっと高みへと登っていただこう。
「んん……はぁ、んん……男に尻尾を委ねるだなんて、ちょっとドキドキしますね……。あっ……そこ気持ちいいです」
「ここですか?」
「はいっ……あぁ……これはぁっ……お姉様も爺も病みつきになるのがわかります……。触り方がとてもお上手です……。尻尾の付け根がぞわぞわっとするのですけど、それが悪い感じはしないのですね……んっ、はぁ……」
「眠くなったら寝てしまってもかまいませんよ。と言うか、レンゲは大抵寝ます」
「そうなのですか? ……ああ、でも勿体無い気持ちもありますね……。せっかくですし、んっ……頑張ってみます。なにかお話をしませんか?」
「お話ですか? そうですね……じゃあ、レンゲの話でもどうです?」
出会いから今までの話を掻い摘んで話していく。
笑ったり、驚いたりしつつも、レンゲの話だからかかなり盛り上がっていった。
コレン様からも、レンゲの小さい頃の話をしてもらい、小さい頃からやんちゃだったと聞いて想像通りだなと笑ってしまう。
「コレン様は昔からレンゲの事が大好きなんですね」
「ふわあ……もちろんです……。お姉様は昔からずっと変わらず格好いいですからね……」
だんだんと体の力を抜いて体全体を俺に預けていくコレン様。
あくびも出たしもう大分眠くなってきたのだろう。
もともと不眠症だったのだから、眠くなったのなら寝てしまって構わないというのにレンゲの話だからか頑張って耐えているようだ。
「ふふ。レンゲ好きは筋金入りですね」
「……そう……ですね。私が物心ついた頃からお姉様は、私の英雄でしたから……」
「英雄ってまた大げさな……」
「……大げさではありませんよ。……お姉様はいつだって私を助けてくれます。辛い時、泣いている時は頭を撫でて、自分がなんとかするって満面の笑みで安心させてくれるんです……。あの時も……」
声は小さくか細いもので、おそらくは眠さと話そうとする狭間でまどろんでいるのだろう。
「……本当は、本当は私が姫巫女になるはずだったんです。姫巫女の儀式は多くの仲間や家族を守るための名誉な事。歴代の姫巫女も皆胸を張って堂々と儀式を受けていました……。でも、儀式を行う前日の夜。私は死ぬかもしれないのだと、怖くて怖くて泣いてしまいました……。そして、お姉様が部屋にやってきました……」
……と、思ったのだがそうではない雰囲気が漂い始める。
俺は思わず手を止めてしまった。
本来はコレン様がって……でも、レンゲが今の姫巫女って事は……。
「お姉様に泣いていることが知られたら、お姉様はどうにかして私の事を助けてしまうと、それはいけないと必死に寝たふりをしました……。でも……お姉様はいつものように、シーツを頭から被る私に大丈夫だからと、頭を撫でて……私が眠りにつくまで一緒にいてくれました……」
ベッドに押し付けられた横顔からは、ぽろぽろと涙が零れ落ちていた。
きっと、そのころの記憶と感情が押し寄せてきて止められなくなっているのだろう。
「っ……朝……目を覚ましたらっ、お姉様が私の……代わりに儀式を受けていて……お父様とお母様にお伺いしたら、昨晩のうちに、お姉様が代わりに受けると……いかに私の方が王としてふさわしいかを説いたと聞きました……。ぁく……私なんかよりも、お姉様の方が、ずっとふさわしいのにっ……ぅ」
……ああ。
想像に容易いなあ……。
レンゲは、そういうやつだよな……。
「儀式が終わって……お姉様にかけよると、また頭を撫でられました……。本当は、まだ痛みや恐怖があるはずなのに……泣いている私を……慰めるために笑って……」
嗚咽が混じる声の中、もうシーツには大きな涙の跡が広がり始めていた……。
それでも、コレン様はまるで懺悔のように過去の悔いを洗いざらい吐き出していく。
「臆病で駄目な私は……せめてお姉様の期待にこたえようと王としての責務をこなそうと決意しました……。でも、もしお姉様が王になっていたらと何度も思うのです……。家臣達も、そう思っていることでしょう……。ふがいない私ではなく、美しく、慈悲深く、お優しく、勇敢で、聡明で、完璧なお姉様であればと……」
……そうだよな。
女王様って言っても年下の、元の世界で言えば女子高生くらいで、まだまだ子供もいいところのただの女の子なのだ。
俺には考えられないほどの目には見えない重圧や期待に、長い間悩まされ続けてきたのだろう。
それでも、レンゲの期待した立派な女王であらねばとあがき、模索し、気丈に振舞ってきたのだろう。
本来の妹であるコレンは、姉のレンゲの前でしか出せなかったのだ。
レンゲがいなくなっていた間は、女王コレン様として気を張り、奮闘してきたのだろう。
不眠の原因は、おそらくは精神的な負荷による就寝時の静寂で考え込んでしまい、眠れなくなっているのだろう……。
で、あればマッサージをする俺は……。
「てりゃ」
「にょやあああああ!」
揉み解すしかないだろう。
物理的にも、精神的にも。
って事で、お尻をしっかりと掴んでみた。
いやあドレスの上からだというのに、すばらしい弾力。
若いっていうのがわかるような張りだね。
「おしり、お尻! ぐにょんって!」
「ん? まだまだこれからだぞ」
ぐにょぐにょどころか、にぎにぎでねろねろですよ。
もにゅもにゅで、ほやほやのぺっちぺちですわ。
「あ、やあ……強く握らないでくださっ……んんん……これもマッサージなのですか!?」
「あー……うん。そう」
「嘘っぽいです!」
何を言う。環跳、次リョウ、承扶、胞盲、帯脈、腰愈!!
お尻付近にだってツボはあるのだ。
……承扶はヒップアップにもなるしついでに押しておこう。
「ちょっと手が疲れたので休憩タイムです」
「人のお尻でですか!? 私のお尻を何だと……や、それ以上はぁ……」
だってお姉様と同じようにって言われていたし……。
レンゲやソルテの場合は手が疲れたら癒しと回復を含めてこれくらいの役得はさせてもらっているんだもん。
「あっ……やっぱり、男の人って……乱暴っ……。わた、私真面目な話をしていたんですけ……どぅ!」
「ああ。だから空気をかえてみた」
「確かに空気は変わりましたけど!? 貴方空気読めないって言われませんかっ!?」
……たまに言われるな。
うん。でもまあ。
「だって、くだらない事を俺にいつまでもぐだぐだうだうだと話されても困るしな……」
「くだらな……くだらなくなんか!」
「くだらないよ。変えられない過去をいつまでも悔いてどうなるの?」
ぺちんとお尻を一叩き。
「っ……変えられないわけじゃ……」
「変えられないでしょ。まさか、いまさらレンゲを王にする気か? 俺はレンゲを王にさせるつもりはないし、コレンに王をやめてもらうつもりもないぞ」
「な……お尻叩いて……しかも、呼び捨て……」
ぺちぺち。
「大体さ。何を基準にレンゲの方が王にふさわしいって言ってるんだ? 俺が見る限り、まったくそうは見えないんだが?」
「お、お姉様を……侮辱するのは……」
ぺっちぺち。
「はいそこそれそれ。お姉様第一主義のコレンがどうしてお姉様の言葉を疑うんだ? お姉様がコレンの方がふさわしいって言ったんだろ? どうしてそれを信じないんだ?」
ぺちんぺちん。
「っ……それは……それよりも、女王のお尻を気安く叩かないでください!」
「話を逸らすなよ。それに、レンゲの妹のコレンとして扱えって言ってたじゃないか」
ペチン。
「っぅ……はぁ……はぁ……だって……お姉様の方が優秀だから……私じゃ駄目だって皆の視線が……」
「皆って誰だ? ロウカクはすべての民が仲間で家族なんだろう? 敵なんていないのに、いったい誰がコレンを苦しめてるんだ?」
「それは……」
「レンゲだろ?」
「そんなわけなっ」
ペッチン。
「ッゥゥ……!」
「コレンの理想のレンゲが、姫巫女の儀式を代わってもらってしまった自責の念も相まって、遥か遠く何処までも崇高で完璧な存在になっちゃっているからじゃないのか?」
ペッチン!
俺もレンゲ達を助けた形にはなっていた。
でも、そのお返しだからと体を許すのは違うと思い、しっかりと区切りをつけるまでは手を出さなかった。
そして一緒に過ごす内に俺自体を知ってもらい、助けた事を踏まえずとも好きになってもらえて、今はこうして結ばれる事が出来ているのだ。
何てことは無い、これが普通である。
「っぁ……っ!」
「いい加減目を覚ませよ。レンゲだって普通の人だよ。普通に笑って、普通に悲しんで、普通に喜ぶただの人だ。俺のただの恋人で、コレンのただのお姉ちゃんだよ」
なでなで。
「比べる事自体がおかしいんだって。妄想でレンゲが王になったらなんて、考えるだけ無駄だよ。そんな未来は訪れないし、訪れなかったんだからさ」
「はぁ……はぁ……。それは、私を慰めるつもりで言っているのですか?」
なでなで。
「いいや。事実を述べただけだよ。コレンが王になったおかげで俺はレンゲに出会えたし。それに、俺が見たのは平和に笑う民とコレンを信じる爺や家臣達。それと、安心して妹を信じてる姉ってところか」
街を巡った時、商人や道行く人の顔は晴れ晴れとしていて、誰もが安心して日々を過ごしているような顔だった。
どこか、アインズヘイルにも似たような優しくて穏やかで、トップを信頼してついていく事に納得して、安心した日々を送る雰囲気を感じたのだ。
それに、この国の家臣達も誰一人コレン様を敵視などしていなかった。
小娘が……と考える者もおらず、誰もがコレン様の下でより良い国にしようという気持ちが見て取れたのだ。
「……本当に、そう思いますか?」
「ああ。コレンの理想の王はレンゲのようだが、民や家臣達の理想の王は貴女なんだよ。だから、大丈夫だよ」
レンゲが言ったように、俺も大丈夫だと言いながらコレンを撫でる。
……撫でている部位は叩いてしまったお尻だが。
「…………屈辱です。そんな、そんな言葉で少しだけでも安心してしまっている自分がいます……。今まで悩み続けてきたのに……」
「世の中そんなものですよ。もっと気軽に生きましょう。まだまだ若いんですから」
「っ……人生の先輩の意見として受け止めておきます。……ところで、あっ……いつまでお尻を撫でているんですか?」
「嫌なら自分で払えるでしょう? しないのはどうしてですか?」
ぺしんぺしん。
「っっぅ……はぁ……はぁぁぁ……やあっ……んんくぅ……」
……なるほど。
この娘マゾだ。
途中から反応がそれっぽいなと思って調子に乗ってしまったが、軽度のマゾだろう。
いやでもあれだぞ? ぜんぜん強くはしてないはずなんだけど、お尻を叩かれるという屈辱に弱いのだろうか?
それか単純にお尻が弱点だったのだろうか?
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫ですかコレン様?」
「あ……もう呼び捨て……に、しないんですか……?」
「呼び捨てがいいんですか?」
「……はぁ……はぁ、だって本……」
……本?
ああ、昔読んだというエロ本にこんなシチュエーションも載っていたのだろうか?
それで、「あ、これ本で読んだやつだ!」と興奮気味になっているのかもしれない。
……まあでも、こういうのもストレス解消の一環になるか。
「……コレン」
「っ……」
「コレン? まだマッサージは続けるか?」
「……もう少しくらいならされても……」
ペチン!
「ひあああああっ! ごめんなさい! もう少しお願いしますぅぅ!」
俺は……彼女の新たな扉を開いてしまったかもしれない。
クドゥロさんには黙っておこう。
責任を取れとか言われかねんだろうからな……。
発売日記念!!
……って早めに投稿しようと思ったんですけどね、今日はちょっと大事な用がありまして作業時間がとれず……。
その分ちょっと長めになってます。
ちなみに、シリアスな返しのものも考えたんですけどね。
こっちの方が色々と良かったので……。
4巻絶賛発売中です!
よろしくお願いします!




