表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
8章 アインズヘイルという街
217/444

Xmasだから!! 雪遊び その3

「はぁ……はぁ……」

「ふぅ……」

「も、もう一本!」

「……そろそろやめませんか?」

「勝ち逃げしようなんて……そうはいくか……」


隼人との戦いは25戦以上行われ、その勝利のほとんどが隼人だった。

ほとんど……というか、ほぼ全部だけど。


「一勝はしたじゃないですか……」

「いやあれは俺の負けだ」


一回だけ、相打ちになってお互いの顔にぶつけあったことがある。

隼人いわく、一瞬先にぶつかったと言っていたが、明確な勝利ではない以上認めるわけにはいかない。

ちゃんと勝たなきゃ、俺は胸を張って美沙姉に勝ったと報告できないのだ。


「だからあと一戦! あと一戦だけ頼む!」

「はあ。もう真っ暗ですよ。何も見えなくなっちゃいますよ」

「へ? あ、いつの間に……」


周囲を見回すと日は傾いており、いつの間にか真っ白だった雪原が暗闇に包まれようとしていた。

そんなにも時間がたっていたのか……。兄貴と雪像を作る約束もしたのに……。


「ん? あれは……」


そんな暗闇に包まれた雪原で、一箇所だけ温かく輝いている光が目に入る。

確か……兄貴がかまくらを作った方だよな?


「なんだか良い匂いがここまでしてきますね……」

「ああ。腹減ったなあ……」


意識しだすと駄目だ。

こんな良い匂いをかいでしまうと、食事の事しか考えられなくなってしまう。

だが、勝負も捨てがたい……っ。


「はあ。またいつでも受けてあげますから。今日は終わりにして戻りましょう。いつの間にか僕達だけですし、待たせるのも申し訳ないですよ」

「本当か!? そうだな。そうしよう。美沙姉もいつの間にかいないし、これで勝っても嘘だって言われるかも知れないしな! よっしゃ。それじゃあ戻ろうぜ!」

「はい。……まったく。現金ですねえ」


これでいつでも隼人と勝負が出来る!

美沙姉も期限はつけてなかったしな。

いつか勝って見せるぞ。

ただ、心残りは……兄貴ともっと遊びたかったな……。


「あれ? 明かりは外だけ? 真っ暗だな……ただいまー!」

「ただいま戻りました」

「せーの……」


『メリークリスマス!!』



隼人と真が帰ってきたタイミングで、俺達全員が二人を迎えるように入り口へと集まった。


「せーの……」


『メリークリスマス!!』


打ち合わせどおり、俺のせーのの声に合わせて皆で声を揃えると、二人は驚いたような顔をしていたので作戦成功である。


「よし、ライトアップいくぞー!」

「はーい。魔力通すわよ」


ミゼラが魔石から魔力を通すと、かまくらの中がオレンジ色の温かい光に包まれ、続いて光の波は外へと続く。

赤や緑のクリスマスカラーのイルミネーションや薄い青色に光る雪だるま。

葉を落とした木にも緑や黄色、赤などのさまざま光が飾りをつけ、地面にも光の道が出来上がっていた。

そして、なぜかある俺の像にも光が向けられていく。


「わあ……」

「凄い……」


あっという間に真っ暗だった雪原が光と雪の世界へと変わるがまだ終わりじゃあない。


「はーい! ご飯の準備も出来てるよ」


美香ちゃんがかまくらの中心で大きな雪のテーブルにかけた布を持ち上げると、中からはいっぱいのご馳走が出てきた。


チキンは当然として、パイ包みのシチューやサラダ、てんこ盛りのお肉にピザや白パン。

そして、ミゼラ希望のおかゆや味噌汁、コーンスープなどの体を温める汁物の準備も万全である。


いくつか椅子も机も雪を固めて作り、上には厚めの布とスライムの皮膜で冷たさが伝わらぬように工夫を凝らしてある。


「パーティーみたいだ……」

「みたいじゃなくてパーティーだよ。したかったんだろ?」

「兄貴ぃ……!」

「こら抱きつくな気持ち悪い!」


半べそかいて抱きついてくるんじゃないよ全く。

それよりもほら、お前にはやるべき事があるのになにをしておりますか。


「もう……何か言うこと無いの?」

「何か……何かって、ああっ!」


美香ちゃんがずれた帽子を直してようやく気がついたようだ。


「サンタ服だ!!」

「そうよ。恥ずかしいけど着てあげたんだから……」

「褒め言葉くらいは欲しいわよねえ」


そう。美香ちゃんも美沙ちゃんもサンタ服を着ているのだ。

むしろ一番に気がつけよ真。

当然ウェンディやレティ達にも着替えてもらった。

ちなみに俺は、前回同様トナカイの衣装である。


「ほおおおおおお! 凄い似合ってる! 二人とも凄く可愛いよ!」


テンションがあがりすぎた真は二人の事を前や後ろから眺めつつ、さっきからふおおお! と叫び声が響き続けている。

隼人もレティ達の方へ行き一人一人に感想を言っているようだ。

レティ達の反応を見ればすぐにわかるな。


少し時間を置いて真が落ち着きを取り戻したタイミングを見て、俺達は食事を開始した。


立食形式で、好きなものを好きなだけ取れるようにし、各自立ったままでも構わないし、椅子に座って食べても大丈夫なようにしておいたので、ここからはそれぞれ自由である。


「ひゃああああー!」

「速いっすー! 寒いっすー! 楽しいっすー!!」


外では雪を固めてくりぬいて作ったボブスレーコースをソリで楽しむ声が聞こえる。

登りの際には『加速する方向性(ベクトルアクセル)』で加速させ、一周ごとにきちんと止まるように設計しておいた。


「隼人! これのタイムで勝負だ!」

「いいですよ。望むところです」


二人もどうやら楽しんでいる様子だ。

俺はというと、かまくらの中の端の方でばてている。

手にはワイングラスが一つで、食事はちょっとしか食べれていない。

はぁぁぁぁ……疲れた…………。


「お疲れ様です」

「うふふ。お疲れ様」

「おーう……」


美香ちゃんと美沙ちゃんが俺の元へとやってきたが、俺は軽く手を上げるだけで対処させてもらった。


「ふふ。イツキお兄さんの本気を見ちゃいました」

「どうだった?」

「はい! とっても凄かったです。細かいところまで行き届いて……イルミネーションも綺麗でした」

「サンタ服まで用意するとは思わなかったわよ。それにあのコース……どれだけ張り切るのよ」

「やる以上は全力でってね……だが俺はもう駄目だ……」


準備に全てを使い果たしてしまい、楽しむ余裕がないなんて本末転倒もいいところだろう。

体力の配分をまだ若い時のままだと思ってはいけないのだと、強く心に刻んだよ。


「……ありがと。真のために」

「ありがとうございます。とっても素敵なクリスマスになりました」

「んー? いいよ。俺も楽しかったしな」

「ふふ。楽しかった、ね。まだ楽しい時間は終わりじゃないわよ?」

「……そうだな。だけどもう少しだけ休ませてくれ……魔力も体力もへとへとなんだ」

「見ればわかるわ。だから、ね」

「はい! なので回復魔法をかけます。スタミナが上がるやつです!」

「お、そんな便利な魔法があるのか? そういえば俺、回復魔法って初めてだな……」


普段は怪我をしても薬でどうにかなっちゃうしな。

では早速かけてもらうとしよう。


「はい! ではいきますね!『体力超絶向上スタミナアルティメイト』」


美香ちゃんが魔法を放つと、俺の体が薄い黄色い光に包まれる。

そして、ドクンと心臓が跳ね上がると疲労や気だるさが一瞬で消えうせてしまった。


「ちょっと、美香!? それはやりすぎじゃあ――」

「ほおおおおおおおお! ふおおおおおおおおお!!」


目を見開いて勝手にテンションが上がってしまう。

今にも走り出してしまいたいほど、体が熱い!


「おおおおおおお! ありがとう美香ちゃん! よし、真、隼人俺も! 混ぜろおおおおおおお!」

「兄貴も参戦ッスか? いいッスよー! 勝負勝負ー!」

「い、イツキさん? なんかテンションが高すぎるような……」

「はっはっはー! 気のせいだ! それより次は俺の番だ!!」


それは俺が作ったものだからな! コースの特性はわかっている! 俺が! 一番! 速いのだー!



「……美香。もう夜なのに、どうするのよ……。あれ、6時間はあのままよ?」

「ああ……どうしよう……」


しまった。


体力超上昇(スタミナフィーバー)』くらいにしておくんだった……。

ど、どうしよう……。


「大丈夫です。私達が、なんとかしますから……」

「今夜は眠れなさそうっすねえ……望むところっすけど!」

「はぁ……明日もクエストはお休みね」

「そうだな……ベッドから出られるだろうか……」

「明日は完全にお休みね……」


え? ベッドって……。

それってその……今夜……。


「美香。顔に出てるわよ……」

「だ、だって!」

「そりゃあ……普段からしているんだもの。こういう夜はそういうものよ」


わあ、わあ……大人の世界だよ……!

あの凛々しいアイナさんも女の子の顔になってる……。


「でも……私達もいつか……クリスマスの夜は、ね」


お姉ちゃん!?

いつか、いつかって……!

ぼふっと顔が一気に赤く染まったのが鏡を見なくてもわかった。



翌日の朝。


「……腰が…………」


少し動くだけでぴきっとなった!

魔法の効果が切れたと同時に、テンションが高かった分の疲労が一気にきたのでとてもじゃないが動くことができそうもない!


「ん。お薬貼る」

「ありがとうシロ……」

「動けるのがシロしかいない。だから仕方ない……不服だけど」


そりゃあ……シロに手を出すにはもう少しだけ足りないからな。

だからそんな顔をしかめないでくれ……。

可愛い顔が台無しだよ……。


「シロ……次は此方にお願いします……」

「シロー……こっちにも頂戴……」

「や。自分でとって」

「意地悪を言わないでくれ……動けないのだ……」

「鍛えてあるはずっすのに……」

「もう……無理……」


大きなベッドでは皆が横になったまま動けないでいた。

そのため、シロがご飯やトイレの付き添い、貼り薬などを配って歩いてくれたのだった……。


「今年も、不服しかない」


シロは口を△にしながらも、とてもよく働いてくれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] シロさんが成人する前に、恋人以外の家のことをする人を雇わないと……。
2021/07/10 06:46 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ