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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
8章 アインズヘイルという街
207/444

8-17 アインズヘイル記念祭 問題発生

三話連続投稿になっていますので、ご注意ください。(1/3)

一先ずアイリスとシシリア様、そしてオリゴールの騒ぎは収まったものの、何故か俺らの露店の休憩場所で休みを取り始めてしまい、今は大人しく後ろでわたあめを堪能してもらっていた。


「それにしても美味い。甘くてふわふわで、んんー溶けるのう!」

「そうだな。これは……細い糸のようになっているのか。しかしザラメを繊維のように細くするだけでこのような食感になるとはな……」

「ふふーん。どうだいどうだい。ボクの領民は、お兄ちゃんはすごいだろう?」

「ああ。わらわのあやつは流石じゃな」

「……少しの工夫でこの成果……。やはり、どうにかして連れて帰れぬものか……」


大人しく……。

うん。大人しくしているのだから良しとしよう。


「はむはむ。んんん! 甘くてふわっふわで美味しいですねえアヤメさん!」

「え、ええ……。そうね。あの、私に分けてくれなくてもいいから、自分で食べなさい」

「でもでも。すごく美味しいですよ? ほっぺた蕩けて落ちてしまいそうなほど甘くて美味しいですよ? アヤメさんも貰えば良かったのに」

「私は護衛中だから……」


セレンさんは護衛中にもかかわらずシシリア様が許可を出したらすぐさまわたあめにかぶりつき目を輝かせると、受け取らなかったアヤメさんにあーんと差し出していた。

アヤメさんはキリっと断ってはいたのだが、セレンさんに押されて食べてしまい、頬を緩めていたのをしっかりと確認した俺はニヤニヤして見ていた。

……その後はっとして俺の視線に気づいたのか睨みつけられたけど。


「おーっす兄ちゃん。なんだ? 変な盛り上がり方してるな」

「ん。ああ、いらっしゃい。食べに来てくれたのか」


来訪したのは一日目に現れた冒険者の男。

どうやら今日は奥さんは一緒にいないらしい。


「おう。暇だったからな。って、なんかまた知らない美人が増えてる……いや、もう兄ちゃんには何も言うまい」

「いや、普通に客人だからな? 変な誤解と、不用意な発言はするなよ?」


俺の新しい奴隷! とか、言ったら物理的に首が飛ぶからな?

特にアヤメさんの拒否反応が凄そうだ。

それに普通に不敬罪が適応されてしまいそうなメンバーだし。


「そ、そうか……。というか、思ったより混んでないな。あらかたの冒険者には伝えたんだけど……なんでだ?」

「わからん。だけど、冒険者はほとんど来てないぞ?」


どちらかと言えばお客さんは家族連れやカップルが多いのだ。

冒険者は……見覚えのないアインズヘイルの冒険者じゃないやつくらいだったな。


「んんん? ちゃんと『兄ちゃんが祭りで甘味の店を出すんだってよ。またとんでもないことをするみたいだぜ?』って伝えといたんだけどな……」

「……なあ、それは宣伝か?」

「宣伝だろう?」


いや、どちらかと言えば誹謗中傷の類ではなかろうか。

なんだよとんでもないことをするみたいだぜって……。

人をレインリヒやダーウィンなんかと同じ扱いにしないでほしいぞ。

かろうじて甘味の店と言ってはいるようだが……。


「「「あああー!」」」

「ん?」「お?」


男冒険者の後ろの方から大きな声がしてそちらに向くと、三人の女冒険者がこちらを指差して絶叫していた。


「いたいたいた! こんなところにあったー!」

「探したんだよ! 北地区の大型店舗にもいないし、西地区の他国他領のお店にもいないんだもん!」

「まさか中央広場のこんな小さな露店だなんて……。どうして場所を教えてくれなかったの?」


……。


「おい」

「あー。ははは。すまん。目立つと思って場所を伝え忘れた」

「意味ねえだろそれ……」


つまり、冒険者の姿がなかったのは俺の露店の場所がわからなかったのか?

北地区や西地区を奔走し、見つけられなかったのか……。


「まったくもう! しっかりしてよね!」

「奥さんに告げ口するからね」

「お、おい! それはやめてくれよ!」

「とりあえず、皆にも場所を教えに行ってくるねー!」


女の子たちはそれぞれ北地区と西地区で彷徨っているであろう冒険者たちにも伝えるべく走り出し、残ったのは男の冒険者一人だった。


「……何か弁解は?」

「け、結果オーライって事で! ほらまだ二日目だしよ!」


まあ、確かに。

まだ二日目だし、明日もまだ祭りがあることを考えれば宣伝の効果はあるだろう。

とはいえ……。


「……次からはちゃんと宣伝してくださいね」

「ミゼラちゃんに言われると……頷くしかねえなあ……」


後ろで話を聞いていたのだろうミゼラが、俺の心の声を代弁してくれた。


「ああーっ! こんなところにあったのか!」

「ほら、またお前の犠牲者が現れたぞ」


今度はがたいのいい男の冒険者だ。

確か俺が尻尾をマッサージしてやった男だな。

よく覚えているぞ。俺の指でひいひい言わせてやった男だ。


「お前なあ……自分だけ味わうつもりだったのか?」

「そんなつもりじゃねえよ。ちょっと……場所を伝え忘れただけだって……」

「本当かよ……。あ、兄ちゃんひとつくれー! 他の奴等より先に食って自慢するんだー!」

「あ、ずりい。俺もまだ頼んでねえのに! 俺にも頼む!」

「はいよー」


たまたま列もできていないし、即行で作って渡してあげる。

しかし、ごついおっさんがわたあめを嬉しそうに頬張る光景か……いや、相手はお客様だ。

それにおっさんだって甘いものは好きなんだ。

俺も……片足突っ込んでいるのだから、何も言うまい。


「おっうめえ! 甘い! この舌触りがいいな! 口の中で一瞬でほわって溶けたぞ!」

「だな。蜂蜜の甘さもいいもんだが、純粋な砂糖の甘さもたまにはいいなあ」

「兄ちゃんまともなもん作るじゃねえか! 意外だったぜ」


当たり前だ客商売だぞ。

こいつらそんなにとんでもないものが味わいたいのならば望みどおり混ぜ込んでやろうか。


その後は冒険者の男が二人たむろっているのが見えたのか、ちらほらと冒険者達が俺の店に気がついて並びだし忙しくなりだした。

にもかかわらず、二人は俺が作る所をほぉーと興味深そうに覗いている。

他の冒険者が見つけるのに役立ってはいるので放置しているが、正直に言えば少し邪魔だな。


「兄ちゃん!」


おっと、また来客だ。

お前さんの被害者は多そうだぞ。

しかし、声が若いな? って、孤児院の少年だ。


「兄ちゃん大変だ! 鉄板の様子がおかしくなっちゃった!」

「おっと、本当か?」

「うん! 今は一台でなんとかしてるんだけど……間に合わなくなりそうなんだ!」


エプロンをつけたままの少年はあわてた様子。

ああーでもちょっと、ちょっとだけ待ってほしい!


「ちょ、ちょっと待ってな。終わり次第すぐ行……いや、ミゼラ。様子を見てきてもらえるか?」

「私が? でも、私が見ても直せないわよ?」

「わかってる。A級じゃなきゃ外での錬金は出来ないしな」


でも、と俺は続ける。


「作るところから見てきたミゼラなら、どこが問題なのかはわかるよ。だから、先に見て原因を調べておいてくれ」

「……わかった。がんばってみます」


ミゼラが机の下をくぐるのを手伝い、少年の後ろについて行くのを見送る。


「シロもついてく」

「ああ。よろしく頼む」


シロが浴衣のまま机を飛び越えてミゼラのあとを追っていった。


「なあ、大丈夫なのか?」

「なにがだ?」

「いや、ミゼラちゃんも最近腕を上げてるんだろうが……流石にわかるのかなって」

「ああ。大丈夫だよ。そこまで複雑に組んでるわけじゃないし、ミゼラならわかるよ」


それに、これも勉強になるだろう。

おそらく、連続使用により細分化した一部に魔力が溜まり流れが悪くなっているのだと思うが……。

一時的に直そうと思えば、錬金を使わずとも魔力の流れを整えれば直るだろう。

それこそ、ミゼラに渡した魔力を吸う指輪があれば、ある程度の時間手をかざすだけでも直せるはずだ。


「……いい師弟だな」

「弟子が優秀なもんで」


頑張り屋さんだからな。

師匠としては、期待に答えなきゃいけないと思っちゃうわけだ。


「へっ。普段はだらーっとして、怠けてえくせに」

「当然。働かなくていいなら俺は一生働きたくないからな」


その気持ちはいつだって変わらない。

世の中楽して楽しく生きたいけど、そうもいかないのが人生な訳で。

とはいえ、望みを持ち続けるくらいはいいだろうさ。


「で、いつまでいるんだよ。お前らは」

「いいじゃねえか。もうそろそろ今日は終わりだろ?」

「終わったら飲み行こうぜ。祭り限定で女の子が際どい服を着る店があるんだよ」

「お前らなあ……俺は明日も仕事があるんだよ」


だから奥さんと一緒じゃなかったのかこの野郎。

あとで告げ口してやろっと。

そして周囲を見回し、聞かれていないことを確認する。


「……で、どこだ? 家に帰った後抜け出して行くから、教えておいてくれ」

「はは。流石は兄ちゃんだ」

「当たり前よ。それで、どこの店だ? 『森の泉亭(エルフのお店)』か? それとも、『野生の庭亭(ケモ耳のお店)』か? 肌の露出はどうなん――」

「ご主人様? 今晩はお出かけになられるのですか?」

「……イカナイヨ?」


馬鹿な。周囲は確認したはずだぞ?

それに、ウェンディは受付をしていたはず。

って、いつの間にか受付がアイナに変わっている!

しかもソルテが久しぶりに冷たい視線を向けてきていた。

恐るべし犬の耳……。


「あははは。そんなに肌が見たいなら、今晩は自分がサービスしてあげるっすよー?」

「あ。ずるいです。それなら私がしますよご主人様」

「どうせ主様のことだから、この服で……って言うんじゃないの?」

「むう。私も混ざりたいのだが……。いらっしゃいませ。二つでいいのだな? レンゲ。二つ頼む」


きちんと仕事はしながらも、会話をしていらっしゃる。

そのせいか、並んでいる冒険者の男たちからは睨まれ、女の子達はキャーキャー言ってます。


「……兄ちゃんを誘うのは間違ってたな」

「だな。他を当たるか」


そんな! 待ってくれ!

そもそも俺が行きたい理由はその衣装を参考にさせてもらいたいからだ。

決して露出の多い女の子が見たいと言うことでは……ほとんどない!

だが、浴衣で……というのも惜しい!

女神様! どうして俺に苦行を強いるんですか! 選べるわけないじゃないですか!

どうする。どうすればい――。


『テメエ! なにしてやがんだ!』


激しく悩んでいると、突然大きな怒鳴り声が聞こえた。


「ああ? なんだ? 喧嘩か?」

「祭りだってのに、楽しくできないもんかねえ」


喧嘩……なのか?

相手の姿は見えないが、方向は孤児院の子達がやっているお好み焼きの屋台の方だぞ。

なんでかな、無性に嫌な予感がする。


『ハーフエルフが俺たちの食うもんに触るんじゃねえよ!』


続けて聞こえたこの言葉と共に、俺は作業を途中で投げ出して机を乗り越える。

先ほどまで本気で悩んでいたのだが、一瞬でくだらない悩みへと変わってしまった。

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