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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
8章 アインズヘイルという街
201/444

8-11 アインズヘイル記念祭 お祭り準備中

天候は快晴。

太陽は燦燦と輝いており、これから雲が出て雨が降るなんてことはまずありえないような天候であった。


「ん、んんー! しっかしいい天気だなあ」

「主、まだ準備終わってない!」

「そうっすよー! 動いてほしいっすー!」

「悪い悪い。今やるよ」


太陽の日差しを浴びて思い切り伸びをしていたら注意されてしまった。いかんいかん。重いものを運んでもらっているのだから、しっかり指示くらいはこなさないとだよな。

うちのスペースは狭い分有効活用しないといけないからな。

でも、奥行きは多少あるので材料置き場、第二調理場所、休憩できるスペースを確保するのだ。


「アイナ、そこはもう少し右で頼む」

「ここを通れるようにするのだな?」

「旦那様。この小さいのはこっちでいいの?」

「ああ。たぶん子供達がやりたいっていうことになるだろうからな。そっちに小さめの体験用も用意しようと思ってさ」

「なるほど……それは喜びそうだな」

「ええ。きっと喜ぶでしょうね」


子供の頃、お祭りで見ていて俺もやりたい! って思ったものな。出来なかったけど。

当然あっちは商売で、商売道具を子供に触らせるわけにはいかないってのは大人になればわかるけどさ。

子供の頃の憧れって、叶ったらすげえ嬉しいんだよな……。

だから、やってみたいと言う子がいたらそれを叶えてあげるのが大人の俺のすべき事だろう。


それに、複数台用意しておけば手が回らなくなった際には同時進行で作れるからな。

どこまで売れるかはわからないが、用心に越した事は無いだろう。


「主様ー! 材料預かってきたからここ置いておくわよ!」

「おーう。魔法の袋に入れといてくれ!」

「はーい。って、どっちの? (中)の方でいいの?」

「ああ。そっちでいいよ。ソルテが持っててくれ」

「ご主人様。木の棒も入れてよろしいですか?」

「ああそうしてくれ。皆、休憩の時には袋を残る人に預けるのを忘れるなよ? あと、使う分は出しておいて補充も忘れないように!」

「「「「「「はーい」」」」」」


よしよし。着々と準備は整っていっているし、試しにいくつか作っておくか。


「やっほーお兄ちゃん。準備はどうだい?」


……ナイスタイミングだな。

わざわざ試作を作るタイミングで来るなんて、もしかして狙ってきたのではなかろうか?


「いやあ、それにしても晴れたねえ。良かった良かった」

「いいのか領主様? 始まる直前だってのに、こんなところにいて」

「始まる前くらいは好きなところにいさせてくれよー。来賓の接待でお祭りの最中は自由なんてないんだぜえ……」


あー……そいつはご愁傷様だな。

しかも、その来賓ってシシリア様だろ?

帝国の重鎮だもんなあ。無下には扱えないだろうよ……。


「お、そいつが例のわたあめだね? どうだい? 上手い具合にできそうかい?」

「ああ。ほら、試作品だから食べていいぞ……」


試作の出来は良好。

練習の成果もあって元の世界の屋台で売っているものよりも大きな物が出来上がっていた。


「お、いいのかい!? まあ実は来れるかわからないから催促に来たんだけどね」


いいよいいよ。好きなだけ食べろ……。

間違いなくお祭り好きであろうお前が自由に出来ないなんて可哀想だからな。

おかわりもあげるぞ。


「あら領主様。美味しそうですわね」

「ん。ああメイラちゃん。ありゃ、君もずいぶんお疲れだねえ……」

「私が忙しいのは準備だけですから……。もう仕事はないし、今日は休んで明日から楽しませてもらいますわよ……」


メイラも目の下のクマが酷い……。

普段のメイラならば気丈に振る舞い、メイクで隠しそうなものだがそんな暇も無かったのだろう……。

メイラにも試作品を上げると、嬉しそうに受け取って貰えたよ。


「はぁぁ……疲れた時には甘いものですわね……。そういえば、あなたにいただいた約束のいつでもお風呂に入れる魔道具使いましたわよ。温泉水もセットで渡してくれるなんて、気が利きますわね」


副隊長達に貰った聖石のおかげで随分と機構が楽になったからな。

普通に水と風と火の魔石と聖石でお湯の浄化、循環系は作れたし、微細なゴミはスライムの皮膜と細かい格子状のフィルターで取れる様にした。

むしろ細い線を細かく組んだフィルターを作る方が大変だった……。


「ああ。なんか生理的にお湯を変えたくなったら言ってくれ。温泉水くらいならまたサービスするからさ」

「時間をかけずリラックス出来て助かりましたわ。ありがとうございますわ。ん、ふぁ……失礼。今日は帰ってお風呂に入って、ゆっくり寝ますわね。それでは……」

「お疲れさん。ザラメありがとな」

「大した事ではないですわぁ……」


うん。本当にお疲れ様。

ゆっくり休んでくれ。でも、危ないからお風呂では絶対に寝るなよ。


「そろそろボクも行かないとなあ。ん、凄く美味しかったよ! ご馳走様!」


オリゴールはわたあめを巻いていた棒をチューチューと吸って甘みを最後まで味わうと用意したゴミ箱へと棒を捨てて去っていった。


「さてと……皆お疲れさん。で、どう休憩をローテーションしていくかだけど」

「大丈夫ですご主人様。それはこちらで決めてありますので」

「え、そうなの?」

「まあ、私達も何度も参加したお祭りだしね。屋台に人が増える時間と減る時間はわかるからそれで調整してあるわよ」


おお、それは心強いな。

じゃあ、休憩の取り方は任せちゃっていいか。


「わかった。それじゃあ――」

「兄ちゃん!」


背後から声をかけられ、振り返るとそこには頭だけが見えていた。

な、生首か……なんて、孤児院の子供達だよな。


「おーどうした? そっちの準備は終わったのか?」

「うん! 皆で分担したらすぐだよ! それにしても、まさか兄ちゃんが商売敵になるなんて……」


いや、商売敵ってほどじゃあないと思うんだけどな……。

お好み焼きとわたあめじゃあ買う層も違うと思うしさ。


「兄ちゃんが相手でも負けないぞ!」

「ほう……かかってくるがいい! 先生の先生の力を見せてやろう!」

「なにー!? 負けないぞー!」

「ふふ。なんてな。どうだ、食べてくか?」

「いいの!? ……じゃなかった、ううん。遠慮しておく。皆と後でちゃんと並んで食べにくるよ。今日の為に冒険者の荷物運びとかでお小遣いは稼いでいるからね!」


へえそんなことしてたのか。

お祭りだもんな。子供達はぜったいわくわくしてたんだろうな。


「わかった。じゃあ、待ってるよ」

「兄ちゃん達も食べに来てくれよな! かなり上達したから、焼き加減もばっちりだからね!」

「おう。楽しみにしてるよ」

「それじゃあまたね!」


またね、といっても目に見える距離なんだけどな。

さて、俺も後ろで少し休んで――。


「あら、いつもの常連のお兄さんじゃない。なんだい? お店出すのかい?」

「ああどうも。いつも美味しい野菜をありがとうございます」


声をかけてくれたのはいつも野菜を売ってくれるふくよかなおばちゃん。

いつもより着ているものが少しいいのは、もしかしたらこの後旦那さんと祭りを巡るのでは? と勘ぐりしてしまう。


「こちらこそ贔屓にしてくれてありがとうね。それで、今日は何を売るんだい?」

「ああ、えっとわたあめという甘いお菓子を――」

「お菓子を屋台で売るの? どんなものかはわからないけど、600ノールなら大盛況間違いなしじゃない! 主婦仲間に広めておいてあげるわよー」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「いいのよー。あ、ミゼラちゃんもお手伝いするのね! 必ず買いに来るわねー!」

「はい。ありがとうございます」


野菜売りのおばさんはあっという間に雑踏の中へと消えていき、俺とミゼラはぽかんとその背中を見送るのだった。

流石主婦……一分一秒を無駄にしないようだ。


さて、気を取り直して休も――。


「おう兄ちゃん! まさか店出すのか? はは、楽しみだなあ!」

「こんにちは」


次に来たのは件の冒険者。

横には奥さんがいて、どうやらこれからお祭りデートのようだ。


「……おーう。こんちは」

「お店出されるんですね。でも、アクセサリーショップって訳じゃないんですね……」

「おいおい知ってるだろ? 兄ちゃんは料理も得意なんだぜ? っても、見た事無い魔道具だな」

「まあ、元の世界のお菓子を出す予定だからな」

「お菓子? わあ! 楽しみね!」

「だな! 兄ちゃん他の冒険者にも声かけといてやるよ!」

「おう。ありがとさん」


よし。会話はすぐに終わった。

これで休憩が取れる。


「あ、そういえばさっき、獣人の冒険者の子が探してたような――」

「ああーいたああああ!」


こちらを指差して大きな声を上げ、着ている服装も気にせずドドドドと走ってくる集団。

獣人の女の子が4人ほど俺の屋台へと駆け寄ってくる。

先頭は鼬人族の女の子だ。

おいおい……せっかく普段の無骨な冒険者服と違って、ワンピースやミニスカートなんかで着飾っているのに全力ダッシュじゃ台無しだぞ。


「お兄さんお願いです! 尻尾を、尻尾の手入れをしてくれませんかっ?」

「……はい?」

「お願いします! この後デートなんです! 予約がいっぱいで手入れ屋さんに入れなかったんですよう……」

「「「お願いしますうううう!」」」


あー……なるほど。

せっかくのお祭りデートなので気合を入れて獣人の大切な部分である尻尾を綺麗にしていきたいと……。

いわばお祭りで浴衣を着て髪を上げる日本女性のような感覚なのだろう。

着付け屋が空いていなければ、着付けが出来る者に頼むしかないという……。


他の女の子も同じようだ。

皆胸の前で指を組んでお願いポーズでこちらを見つめていて、その本気度が窺えてしまった……。


「……流石にここでやるのは衛生面的に駄目だから、一度俺の家か冒険者ギルドに行くことになるよ」

「「「「はい! ありがとうございます!」」」」


ってなわけで、休憩返上……。

しかも、超特急で仕上げたのでもふりを楽しむ暇もなく、疲労がたまっただけだった……。

だが、冒険者ギルドにいた奴らには露店の宣伝が出来たし、女の子から感謝され、艶やかな声は聞くことが出来たのでよしとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] >子供の頃、お祭りで見ていて俺もやりたい! って思ったものな。出来なかったけど。 昔、親と一緒にこれで割り箸ぐるぐるしてましたよ。懐かしみ。 っ【綿菓子機(わたあめ機) CA-6型 ※丸足型…
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