8-10 アインズヘイル記念祭 教会でお茶会
遅れまして申し訳ない……。
メイラに頼まれたものを忘れぬうちに作ってしまおうと、今日は聖水をもらいに王都の教会を訪れた。
椅子に座り温かい紅色のお茶をすすりのみ、はぁっと息を漏らす。
なんというか、最近も忙しかったからこのまったりとした時間が凄い落ち着くなあ……。
「で、露店をやるんでやがりますか?」
「ああ。アインズヘイルのお祭り限定だけどな」
「そいつはまた、よく何でもやるでやがりますなあ」
俺の空になったカップに新たに紅茶を注いでくれるテレサ。
目の前には焼き菓子もあるのだが、どうやら信者さんからの貢物らしい。
相当美味いのでかなり高いものだと思われるのだが、すごいな教会……。
「よいしょっと。残念ながら私はいけないでやがりますからね。うちから行く子には伝えておくでやがりますよ」
「ん、そうなのか。テレサは来ないのか……」
「ええ。討伐任務があるでやがりますからね。私と副隊長はお仕事でやがります」
「……そっちも大変だな」
「聖女としての執務をやらされるよりマシでやがりますよ」
あー……。
どっちも嫌だな俺は。
討伐って、ゾンビとかスケルトンだろう?
虫よりは幾分かマシだが、怖いし……。
聖女の執務ってのも、面倒だろうなあ……って言葉じゃ表現しきれないほど面倒くさそう。
テレサも大変だなあ……。
「主さーん! 持ってきましたよー! はい、『聖石』です!」
どん! と机の上に置いた拍子に紅茶が少しこぼれ、ふぅーっとやりきった顔の副隊長の頭をすぱああんと小気味よく引っぱたくテレサ。
副隊長が持ってきたのは聖水ではなく聖石というらしい。
先ほど俺が作りたい物の説明をすると、聖水よりも聖石のほうがいいだろうと取りに行ってくれたのだ。
それにしても扉を足で開けるシスターか……。
以前に服を切ってから新しくなったはずなのに、どうしてスリットがそんなに深いのだろうか。
深いゆえにばっちり太ももの上のほうまで見えてしまったのだが、もしかしてあの日から露出に目覚めたとか……?
「あ、ありがとう。って、こんなにいっぱいいいのか?」
「いいんですよね? 隊長」
「いいでやがりますよ。どうせばれやしないでやがりますし。今度の討伐で使ったことにしやがりますよ」
「ふふふふー。神罰があるかもしれませんね?」
「望むところでやがります。とっとと神罰でも落として、この体をどうにかしてほしいでやがりますよ」
テレサは神の加護によって聖女として扱われ、固く強靭な肉体を得ている。
だからこそ討伐任務なんかをしているのだが、やはり女の子に硬い体っていうのは、嫌なんだな。
「でもさ、実際その体が普通に戻ったらどうするんだ?」
「そうでやがりますねえ……。聖女としてはいられないでやがりましょうし、反動で教会もクビになるかもしれないでやがりますね。そうなったら……主さんのところでメイドにでもなりやがりますよ。そのときは雇ってくれますね? ご主人様?」
わざわざ口調まで変えて上目遣いでお願いされました。
「もちろん。その時はうちで雇うよ」
まあ、当然オッケイと言うよね。
言わないわけないよね。
メイド……それは心のオアシス。
スカートは股下何センチにしようかなー!
「はいはいはーい! 隊長がいなくなったら私が隊長ですね! 女神様! 隊長に神罰を! そして私を隊長にしてください! お給料アップ!」
「俗物すぎるだろ……副隊長のが先に神罰が下るんじゃないか?」
「ふっふっふー。その時は……雇ってくれますか?」
上目遣いでお願いされました!
さて、どうするか……。
ネタとして扱うならば、断るという選択肢。
でもなあ……副隊長、目立たないけどいい体してるんです。
おっぱい、小さめのおっぱい。(大の小)
腰、細すぎず、引き締まっている。
お尻、ボリュームはある。
足、5段階で4くらい。
なんというか、どれも平均を超えてくる感じなんです。
メイドにするのなら、癒しを求めるというよりはエロイ事をしたくなる感じなんだよね……。
「あの……なんでそんなに全力で悩んでるんですか……?」「あー……いや、しかし……さすがにやりすぎか……?」
「もしもーし? 隊長の事もそうですが、もしも! もしもで仮であるかどうかもわからないお話ですからね!? 聞いてますか!?」
「ん? ああ……すまん。今ノーパンにするか、ノーブラにするかで悩んでた」
「どっちもしませんよ!? 何言ってるんですか!?」
「え、露出に目覚めたんだろ?」
「目覚めてないです!?」
あれ? おかしいな……。
俺の中では完全に露出に目覚めたんだと決め付けていたんだけど……。
「……ああ。スリットなら、この前いたずらをした罰に切ってやったんでやがりますよ。ついでに、私もしないでやがりますよ」
「ああ。テレサは普通のメイド服だよ。そっちのほうが可愛いし似合うと思うしな」
「可愛いって……。そ、そうでやがりますか……」
「まあでもやっぱり、そのシスターの服が一番しっくりくるけどなあ」
もし本当にメイドとしてうちに来る事になったら、やめる前に一枚は貰ってきてもらおう。
うん。そうするべきだ。
「あ、あれえ? 私と扱いが違う気がする……」
「ん? どうした」
「シクシク。いいですよもう……。はぁぁぁ……この気持ちは今度の討伐任務で晴らしますから、いいんです……」
「二人とも討伐任務なんだもんなあ……。よし、ちょっと待ってな」
俺は二人に背を向けて、予備用のわたあめ機スモールを取り出す。
こちらはそこまで大きなものは作れないが、実験、試作用に使えるように作ったものだ。
今露店で使うものは皆が練習できるように調理場に置いてあるので持ち出せないのである。
「ほーう。それがさっき言っていたわたあめでやがりますか?」
「はぁぁぁー……凄いもんですねえ」
さて、ここからが実験である。
カキ氷のシロップは、色と香料が違うだけでほぼ同じ味だと聞いた事がある。
そして、取り出したのはモモモとオランゲの香りのみを分解して取り出した液体。
さらにはプッシュ式で霧状になる入れ物で、それらをわたあめから離して一度振りかけた。
「はいどうぞ」
「いいんでやがりますか?」
「うん。お礼も兼ねてね」
「わーい! いただきまーっす!」
副隊長がちぎるでもなくそのまま顔を寄せてわたあめへとかぶりつく。
「おおー……オランゲの香りが鼻から抜けて、甘くておいしいですねえ……」
「こっちはモモモでやがりますか。濃厚で甘い香りと、ふわふわの感触が凄いでやがりますな」
俺も食べてみるが……やはり若干だなあ。
色も似せたほうがより感じやすくなるとは思うのだが、もう少し研究が必要かもしれない。
元の世界の知識でいえば、ザラメ自体に色をつける必要があるのだが、まだその段階までは進めていなかった。
「これを主さんは露店で出すのですよね? ちなみにおいくらですか?」
「原価ぎりぎりで、600ノールかな」
ザラメはメイラから大量買いで安くしてもらったので、原価計算をした結果ひとつあたりかかる経費は500ノール。
一つ売れば100ノールの儲けとなるのだ。
「この甘味が600ノールでやがりますか……。当日は死ぬほど忙しそうでやがりますね……」
「まあそうだろうけどさ。技術料とか目新しさを考えれば値段を上げてもいいんだろうけど、もともとわたあめは子供の食べ物だからな。子供が手を出せないのはちょっとって思ってさ」
だから今回は露店で儲けようなどとは考えていない。
単純に楽しんでもらえればそれでいいと考えていた。
あくまでも、お試しの奉仕価格というものだ。
「ふふふ。なんというか、主さんらしいですねえ。うんうん。美味しいものを安く食べられるなんて、アインズヘイルの子供達は幸せですね」
「で、やがりますなあ……。ご馳走様でした。美味しいし、満足でやがります!」
二人に渡したのは小さめであったのであっという間に完食してしまい、俺はお粗末さまでしたと、残った棒を回収した。
「ご馳走様でやがります。そういえば、今日は他の子は誰も連れていないんでやがりますな」
「ああ。なんか用事があるらしくてさ」
王都に行ってくると言ったのだが、今日は皆用事があるそうで俺一人で行く事になったのだ。
幸い護衛はフリードが引き受けてくれたので問題はなかったのだが、少し寂しかった……。
「……これが好機? さあさあ、主さん。たまにはゆっくりするのもいいですよ。お茶のおかわりはいりませんか?」
「それもそうだな……。二人とじっくり話したこともないし、今日はゆっくりするか」
皆の用事はどうにも外せない事らしいので俺がだだをこねるわけにも行かず、ある意味そのおかげで二人とまったりお茶もできていると言うわけだ。
「そういえば、今日のオークションは参加するんでやがりますか?」
「んんー……一応かな?」
ちょっと欲しいものもあるんだよね。
今すぐ必要って訳ではないのだが、あると便利だし……。
「ラインナップ見ます? 今回もなかなかいいものが揃ってますよ」
「いいのかよ……。まあ見せてもらうけど」
オークションでの司会をこなす副隊長であれば、当然今日行われるオークションで何が売られるのかは知っているだろう。
毎回目玉の商品なんかは噂として聞く事はあるが、全部を知ってオークションに参加できるわけではないので助かるけどさ、あ、俺が欲しい物あった。
「今回も霊薬が出るんだな」
「値段は落ち着いたでやがりますがね。一つ1億2000万ノールってところでやがりましょうか」
「結構ダンジョン攻略しているやつが多いんだな」
霊薬ってダンジョンの攻略報酬だろう?
それが毎回出るって事は、結構攻略しているやつらがいるってことだよな。
「AランクとBランクの冒険者パーティが6つ組んで同じところを何度も攻略しているでやがりますからね。事前準備や、攻略日数もかかるでやがりますが、それでも旨みは消えないでやがりましょう」
なるほど。まあ一回攻略すれば最低でも1億2000万ノール、6で分けても約2000万ノールだもんな……。
勿論何度も攻略しているとはいえ、危険は伴うのであろうが……美味いもんだろう。
「まあでも負傷者も少なくないらしいですし、今後はどうなることやらわかりませんけどもね。あ、そういえば……」
この後、話題が何度も変わり長い間話し込んでしまい、最終的に俺は日ごろの疲れからそのまま寝てしまったらしく、オークションが始まるまで教会のベッドで寝かせてもらうのだった。
ちなみに、俺が今回のオークションで買ったのは魔法の袋(中)。
アイナ達に貸し出してクエストに行ってもらっている最中は、シロとウェンディが荷物を持っていたのでずっと気になっていたのだ。
俺がいるときならば魔法空間に収納すればよいのだが、7人分の買い物となれば、流石に重いしね。
だからこれは必要経費であって、無駄遣いではないのである!
さて!
現在活動報告で、三巻に出てくるキャラのキャラデザを公開しました!
ご興味があっても無くても、是非ご閲覧くださいなー!




