表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
8章 アインズヘイルという街
199/444

8-9 アインズヘイル記念祭 わたあめ作り

『わたがし機を作るので、錬金室に引きこもるね!』


こう伝えると、察したような顔をした皆。

それを見てミゼラがえ? え?と困惑していた。


「ねえ主様。わたがし機……って、アイナが話していたお祭りで使うものよね?」

「ああ。そうだよ」


昨日の夕食時に話しておいたのだが、反対などはなく皆協力してくれるらしい。


「主とお祭り。お店も楽しみ」

「っすね! まさか露店を出せるなんて思ってなかったっすよー!」

「では、お食事は簡単に取れそうなものをご用意しますね」

「よろしく頼む。っと、ミゼラはついてきて。出来る限り見て覚えてくれ」

「え、あ。はい。わかりました!」

「それじゃ、後は頼んだ」


それだけ伝えて俺とミゼラは錬金室へと入り、早速材料を取り出して準備する。


「ねえ、見て覚えてって……もしかして私も作ることになるのかしら?」

「そうだな、いずれ必要になるから覚えておいてほしい。完成したらレシピは残すけど、実際の作業を見るのも勉強になると思ってさ」

「そう……はい。わかりました。勉強させていただきます」


ふんす。と両拳を握りやる気を見せるミゼラ。

真面目な弟子だねえ。

よきかなよきかな。


「さて……材料は朝のうちにアイナ達に買ってきてもらったし、ザラメも今日中に届くだろうし、始めるかな」


今は昼だが、どうにか夕食までには終わらせたいな。


わたあめ機……原理は単純に考えると、ザラメを入れて熱し、溶けたザラメを細い穴などから遠心力で飛び出させ、空気によって冷やし固めるといったもの。


つまり必要なのは、回転するザラメを入れる穴のあいた筒、それを温める装置、わたあめを受ける器といったところか。


とりあえず器はすぐに出来るので、タライくらいの大きさでぱぱっと作ってしまう。


さてと。

回転となれば当然回転球体の出番だな。

温める装置は火の魔石を加工して作るしかないな。


まずは回転球体を加工する。

ここでの問題は穴の大きさである。

大きすぎれば溶けた液のまま排出されてしまい、糸状にはならない。

小さすぎれば詰まってしまい、中身が焼け焦げて苦味が出てしまうだろう。

その調整のために数種類の動力部を作ることにする。


手のひら大の金属を器のように加工して穴を空け、その底面に薄くした回転球体を取り付けて回してみる。

魔力で速度を上げ、指がはじかれるほどのスピードまで上がるのと、歪み等ない事を確認してひとつ完成。

続けて2つ3つと作り、次は加熱装置である。


「見て覚えろって……あっという間すぎるのだけど……」

「まあある程度でいいよ。それにこれらはまだ試作だからね。全部完成してから調整をしないとだからとりあえず形にはしてみないとね」


いつの間にか用意されていたお茶を一口すすり、加熱装置に取り掛かるのだが、こちらは温度調整を行えるようにしなければならない。

何もわからない状況では、わかるようになるまで研究しなければならないので一苦労だな……。


さて、加熱装置だが回転装置自体に取り付けるか、ヒーターのように温めるかで悩むが……回転する装置に温風を当ててもすぐ冷めてしまうだろうから一体型にしたほうがいいだろう。


まずは火の魔石を加工して回路を作り、回転装置の底部へと取り付ける。

そして装置を起動し、回転するかどうか、加熱できるかどうかを確かめた後、穴のサイズの違うものと数種類を完成させた。


「今回の加熱装置の回路は螺旋状なのね。鉄板のときは、格子状だったわよね?」

「ああ。鉄板の方は焼きむらができないようにするためってのと、加熱を場所によって調整できるようにしたからな。一つの鉄板に対して、3つの範囲にわけて保温としても使えるようにしたんだ。でも、こっちはその必要はないから螺旋状にして、パワーをあげたんだよ」

「なるほど……でも、それなら火の魔石を潰して平べったくすればいいんじゃないの?」

「それだと魔力の消費量が多くなりすぎるんだ。求める効果を得られるのなら、節約するってのも大事だぞ」


よし。

これで、あとはタライ部分の上でザラメを使って試してみるとしようか。


「完成なの?」

「ああ。試作用はな。思ったよりも早かったかな」

「そう……ね。でも、途中でウェンディ様が入ってきたの気づかなかったでしょう?」

「……気づかなかった」


体感だと1時間くらいだった気がしたんだが、あれ、もしかして思ったよりも時間が経過してるのか?

穴を開けるのには時間がかかったと思うが、それ以外は……ああ、回転筒の内部構造にこだわっちゃってたかもしれない。

ざらついていたのが気になったので、滑らかになるまで磨き続けてたしな。


「それと、メイラさんがいらっしゃってとりあえずあるだけザラメを置いていったわよ。試作用にどうぞって。今回は無理を言ったお詫びにサービスですって。ただ、お祭りで使う追加分はいただくそうよ」


「……メイラも来てたのか」


サービスは助かるけど、声くらいかけてくれても良かったのにな……。


「でも、あれ? ミゼラとは話したよな?」

「そう……ね。質問には返してもらえたわね。どうして?」

「わからん……。弟子だからかな?」

「関係あるの? それ……」


うーん。多分だが、区切りが良かったんだろう。

ちょうど工程が終わったって時に話しかけてくれたから、集中力が切れたタイミングだったのかな?


「ん、んんー! あーお腹減った……」

「ウェンディ様が持ってきた軽食は食べながら作業してたのに……。もう夕食は出来ているそうだから、早く食べに行きましょう」

「あー……なるほど。そんな時間だったのか。ミゼラもお腹すいたよな」

「私は別に――」


と、言うそばから小さくお腹がくーと鳴るミゼラ。

そして、みるみる顔を赤くし、俯いてしまった。


「じゃあ行くか。ところで、どうだった? 見て覚えられそうか?」

「うーん……構造自体はわかったけど、加工の段階で躓きそうね……。まだ魔石の加工と、回転球体の加工は出来ないもの」

「上等上等。じゃあこれからは造形関係の練習をしていくか。思い通りに形を変えられるようになると便利だしな」

「旦那様が言うと簡単そうに聞こえるからやめて……。今日やっていたことだって、並の錬金術師には出来ると思わないわ。……他の錬金術師のことは知らないけど」

「いやいや、案外出来るんじゃないか? やらないだけで。錬金術師は偏屈が多いらしいし、興味ないんだろうさ」


回転球体こんなに便利で楽しいのになあ。

これ最終的に自動二輪や四輪だって作れるかもしれないぞ。

消費魔力量と、魔力貯蔵の魔石、それと重量の問題があるけどさ。


さて、夕食も食べ終わったので実験開始だ!

皆へのお披露目は、最高のわたあめが出来てからだ!


まずは穴の大きなものから、試してみる。

温度は都度調整だ。

ザラメは多く入れすぎるといけないので、小分けにして数度適量を入れなければならない。

回転装置と加熱装置を起動し、ザラメを投入。

だが、穴が大きすぎたのかザラメが出てきてしまった……。


温度を上げても糸のようなものは出てこないので、大きいのは失敗だ。

ということで今度は小さいので試してみる。


同じようにザラメを投入し、機械を回すと今度は少し出てきた。

だが、温度が低いせいかバリバリっとしていて、わたあめのようだが飴に近く、ふわっとした感触がない。

さらには内部にザラメが固まっていて、バランスが悪くなったのか装置が音を上げていた。


「これも十分おいしいのだけど……」

「ちがうんだ……わたあめは、もっと、もっと美味しいんだ……っ!」


味見役のミゼラが指についたわたあめをちゅぱっとしている横で俺は拳を地面にたたきつけて悔しがった。

わたあめのポテンシャルはこんなものじゃないんだ!


今度は温度を上げてみる。

すると、今度は柔らかそうなものが出来たのだが……。


「こっちは柔らかいわよ?」

「でもコシがない……。それに、巻き取ったときにカサが出ない……もう一回だ!」


もう何度目かもわからないが調整をし、そのたびに美味しいというミゼラと、悔しがる俺という構図を繰り返した後に巻き取り方にもこだわり、ついに出来上がった。


とても大きく、指で押すと戻ってくるハリがありつつも、硬くなくふわっとしていて柔らかい。

今までとは明らかに違う。最高のわたあめの出来上がりだ!


「ミゼラ! 食べてみてくれ!」

「はいはい。いただくわよ」


正直味は変わらないから申し訳ないんだけども!

これが最高だから! これが最高傑作だからー!


丸々とふくらんだわたあめの棒を持ち、ちぎって口へと運ぶミゼラ。

何度目だとしても、俺はドキドキと期待しながらその光景を見つめていた。


「……うん。美味しいわね」

「だろう! んんー! ようやく完成だー!」


先ほどまでの美味しいとは明らかに違う美味しいだ!

俺もミゼラが持つわたあめを少しもらい食べてみると、やはり今までの出来とはまったく違うことが実感できた。


これだよこれ!

これがわたあめだよ!


「加熱と回転速度はメモしておいてっと、よし……あとは皆にも試食してもらって、作り方を教えれば完了だな! んんー! 疲れたー!」


ぎしっといすにもたれかかり、思いっきり伸びをする。


「はい。お疲れ様」

「んんー!! ミゼラもお疲れ様! つき合わせて悪かったな」

「いいえ。師匠の仕事ぶりを見るのは弟子の勤めだもの。良い勉強になりました」


そんなことを言いつつも飲み物を注いで俺へと渡してくれるミゼラ。

お茶は少し苦かったが、口の中が甘い状況だと逆にちょうどいい塩梅であった。


この後は少し休憩と完成の余韻に浸り、皆を呼んでデザートとして振る舞うと、一様に驚き、舌鼓をうっていた。


そして、試食と同時に作り方講習を始める。

ザラメは入れすぎないようにとか、棒は回転させ続けるとか、作る人によって差異が生まれぬようにしっかりと教え、これでお祭りの日を無事に迎えられる準備が整ったのだった。

三巻12月25日発売予定!


詳しい情報は活動報告から、オーバラップ情報室にのっていますのでー!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 会話を返してもらえるのは、愛情の深さ。 とか言い出したら、ミゼラが血祭りにされる……。
2021/06/11 07:17 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ