8-5 アインズヘイル記念祭 孤児院の様子見
お手製の鉄板を届けてから数日。
孤児院へと訪れると珍しい事に外で遊んでいる子供の姿がなく、二箇所に固まってなにやら作業をしているようだった。
「ん。いい匂い」
「お昼食べたろ……」
「この匂いには抗えない」
今日はシロと買い物に出掛けたのだが、シロの提案で帰りに孤児院へ寄って様子をみることになった。
多分この前いい匂いをつけて帰ったから気になっていたのだろう。
「あ、お兄さん! 来てくれたんですか? シロちゃんも!」
「ん。来た」
年齢的にはシロと同じくらいの少女が俺達に気づき、手を引いて集団の前の方へと引っ張っていく。
「お、兄ちゃん! 鉄板ありがとう!」
鉄板で汗水を流しながらお好み焼きを作る少年が、頭に布を巻きつけて汗が落ちぬようにしつつ御礼を言う。
うーん冷風は流れていないのか弱いのか? いや、故意に切っているのかな?
というか、鉄板を持ってきた時にもお礼を言われたんだがな、と俺は微笑みつつお好み焼きを覗き込んだ。
「どんな感じだ?」
「へへ。上手くなったぜー! なんせ先生が凄いからな!」
ほうほう。そいつは良かったな。
確かに焼き加減なんかは実に美味そうに出来ている。
シロも食い入るように見つめているのだが……鉄板には触れるなよ?
「一枚食べてみてくれよ! こっちで工夫もしてみたんだぜ!」
そういって焼きたてのお好み焼きを鉄板の上で半分に切り、木皿へと華麗に移して俺達へと渡してくれる。
なんというか、スピードも上がっており随分と上達したようだ。
ヘラ使いも申し分ないようで、渡した後にクルっと回転させていた。
「主、主。シロも食べたい」
「ああ。どれ……」
割ってシロの口へあーんと放り込むと、あふあふっと言いつつ嬉しそうに食べるシロ。
俺もその笑顔を見つつ一口食べると、出来立ての熱さにほふほふしながらも吟味する。
「お……」
俺が作ったものよりもふわっとしてるな。
これは……山芋……か?
中はふわふわで柔らかいのだが外側はパリッとしていて香ばしく、要するに美味かった。
「へへ。どうだ?」
「ああ、美味いよ。もしかしてヤマモイを混ぜたのか?」
「ひゃー流石は先生の先生だな。一発でわかるのかよ!」
まあ元の世界でも結構あるもんだからな。
それでも俺が何かを言う前に自分達で工夫した結果なんだから凄いもんだよ。
「ん。美味しい!」
シロはご機嫌のようで、俺が持っていた皿をシロへと渡すと口周りをソース塗れにしつつあふあふと食べ続けていた。
「木皿は手作りみたいだな」
「うん! 今は手分けして役割分担してるよ! 冒険者志望の子が木を取って、生産系になりたい子が加工の練習。魔法の素養がある子は魔石に魔力を注いで貯蔵してるんだ! で、料理人志望の俺や、一般職に付きたい子はお好み焼き担当って訳さ!」
へえ。なんというか統率の取れた行動だな……。
それぞれが自分の出来る事を行ってお手伝いしているのか。
「それでその先生はどこにいるんだ?」
「今はあっち側で教えてるよ」
「そっか。じゃあちょっと顔を出してくるな」
「うん! また後で来てくれよな!」
ああ、と言い残してもう一つの塊の方へと足を向ける。
こちらの方が人の数が多く、年齢は若干低めだろうか。
「そう。そのまま少し持ち上げて手前に返すのです。傾けていけば……うん。上手ですね」
「えへへ。せんせがおしえるのじょーずなんだようー」
寄贈した鉄板の数は二つ。
お祭りのテントを見たところ横幅もだが奥行きもあるようなので、二台目を作ることにしたのだ。
お祭りが終わったあとも営業する場合は一つになるかもしれないが、もう一つは予備にしておいてもいいしな。
まあ壊れたらすぐ直すけどさ。
「えへへ。できたあ」
「はい。よく出来ました。あとはお皿に移して、おソースとマヨネーズをかけたら出来上がりです」
「うん!」
子供は嬉しそうにお皿に乗ったお好み焼きを見つつ、自分でソースをかけてマヨネーズもかけていく。
「まよねえっずは、ながれるようにくねくねっとー……あっ。途切れちゃった……」
しょぼんとしているが、そんなにも気にする事ではないと思う。
俺が最初にそんなかけ方をしてしまったために、真似しているらしいのだが、中々苦戦しているようだ。
ちなみにマヨネーズの容器は4つの細い線で出てくるものを作っておいた。
そんななか、鉄板の上に載った微細なゴミを処理しているウェンディが俺に気付いたようで、すばやく片付けて近づいてくる。
「ご主人様。いらしていたのですね」
「ああ。いい先生だな」
「ふふ。私は普通ですよ。子供達は飲み込みが早いですから」
ウェンディは少し教えただけですぐに覚えてしまったので、そのまま子供達で教え合えるまで先生として教えに来ているのだった。
なんというか、母性に溢れているのでウェンディもよく子供達から慕われているようだった。
……男子諸君の視線は言うまでも無いが、気持ちはわかる。
「先生ー! あれ見せてー!」
「もう。またですか? あんなものを見ても上手くなりませんよ?」
「おねがーい!」
仕方ありませんね。と言いつつまんざらでもなさそうなウェンディ。
俺も見ていて欲しいと言われ、子供達と並んでウェンディがお好み焼きを焼く姿を見る。
いったい何をするつもりなのだろうか。
鉄板の上には5枚のお好み焼き。
焼き具合もそろそろかというところで、ウェンディがさっとヘラを差し入れて片手でくるっと返すと流れるように5連続で返し終えた。
「「「「おおー!」」」」
「ふう……皆は両手でゆっくりで構いませんからね? 練習してはいけませんよ」
「「「「はーい!」」」」
子供達は元気に返事をし、またお好み焼き作りを始めるとウェンディが良い笑顔でこちらへと寄ってきた。
「どうでしたか?」
「ああ。凄かったよ。いつの間に片手で返せるようになったんだ?」
「ふふ。こつさえつかめば簡単でしたよ」
ドヤ顔……とは言わないが、褒められて嬉しそうにするウェンディ。
ちなみに、あっちで調理している男の子には免許皆伝と言い先生役第一号をお願いしたそうだ。
マザーは……野菜収集の方を担当しているらしく、今はいないと教えてもらう。
「そういえばミゼラは……っと、練習中か」
「ええ。熱心に練習しています」
鉄板の端のほうで真剣なまなざしでお好み焼きを見つめるミゼラ。
ミゼラもウェンディと一緒に来ていたのだが、まだ慣れないようでヘラを両手に構え、いまかいまかと睨み付けるかのようにじいっと見つめていて、どうも力が入りすぎているように感じる。
すると、焼き加減がちょうどよくなったのだろう。
両側からヘラを差し込む……までは良かったのだが、そこからとても慎重に持ち上げだす。
そして、随分と高いところで動きを止めた。
どうするのだろうと見ていると、どうも戸惑っているように見えたので俺は後ろから近づきその手にそっと触れた。
「あっ、旦那様?」
「そんなに高く上げなくても大丈夫だよ。外側がパリっとしてるから、こうやってゆっくり傾けて動き出したら返すだけで……な」
後ろからミゼラの手を取って動かして教える。
お好み焼きのやわらかさにもよるがこうした方が簡単だろうと子供達にも見せて教えたのだ。
「……ありがとうございます。どうしても返す時って緊張しちゃうのよね……」
「まあわからなくはないけどな。でも失敗しても食べられないって訳じゃないんだし、恐れずに挑戦することが大切だと思うぞ。子供達も、失敗しても気にせずな」
「「「「はーい!」」」」
うんうん。
相変わらず素直でいい子が多いなあ。
さて、問題なのはそこだそこ。
「ご、ご主人様。返すのがちょっと不安で……」
いやいや、なんでそんな不恰好ともいえる体勢でお好み焼きを高く掲げているんだよ。
腕プルプルしてるし……。
あなたさっきまで華麗に返してましたよね?
ヘラ一つでくるっと回転させてましたよね?
「だ、旦那様。お願い行って差し上げて……。どうしてウェンディ様は旦那様の前だとこう……」
「行って来るからそれ以上は言うな……。なんか俺がいけない気がしてきたから……」
ウェンディの後ろへとまわり、優しく手を添えてゆっくりと降ろさせると、ウェンディはデレっとした顔をした。
「さ、流石は先生の先生ね……」
「うん。俺達の前じゃあ立派な先生も、先生の先生の前じゃあ形無しだな……」
「馬鹿ね。あれが女心よ」
「お前らいいから練習しなよ……」
まったく……さっきまで素直で可愛い子供だと思っていたのに、こういう話は好きなのな。
そのあとは先生の先生として俺も教える事となった。
メニューがまだ決まらないとのことで、色々試しているみたいだったので俺がチーズを提案して作って見せると随分と気に入ったようだ。
あまり種類を増やしすぎても……とのことで、オーソドックスな豚玉に、トッピングとしてチーズや潰したモイを別料金でということに決まった。
これから孤児院はお祭りに向けて一致団結して行くのだろうと、子供同士で教える事が出来るようになったら、俺達の手伝いは終り。
あとは当日のできばえを楽しみにさせてもらう事にするのだった。
もう少ししたらペース上げられると思います……。
最近遅めで申し訳ない。




