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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
8章 アインズヘイルという街
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8-1 アインズヘイル記念祭 弟子と先生

お待たせしました!

八章の始まりですね!


7章からちょっと続く感じです。

ゴリゴリと音を立てて磨り潰される薬草。

にじみ出るエキスを水でカサ増ししつつ魔力を注ぎ、変化を促して回復ポーションを作る。

淡い光を伴って完成したそれを見て一息つき、後ろにいる俺へと振り返るミゼラ。


「はぁ……やっぱり3割がいいところね……」

「みたいだな。でも最初に比べれば随分と安定したじゃないか」


スキルを獲得してから数日は安定せず一割~二割程度だったが、最近は安定している。

ここ数日は毎日確認の為に10本の回復ポーションを作らせることにした。

スキルは獲得したミゼラだが、魔力量、磨り潰し具合等が完璧であっても失敗することがあったのだ。

すると、万全の状態であっても成功率は10本中3本で安定するようになった。


「でも、貴方が作ると10割でしょう? まだまだ先は遠いわね……」

「レベルも違うし仕方ないさ。それに、失敗したってこれはこれで使えるんだからいいだろう?」


水で薄めるのではなく、失敗した薬体草のエキスが溶け込んだこの液体を使うと、+効果がつく場合や成功率があがるので別に失敗したって問題は無いのだ。


「錬金術師って無駄が無くて便利ね」

「良い職だろ? それに、冒険者や兵士、魔物がいる限りは需要はなくならないからな。それ以外でも一般家庭にだって回復ポーションは必要だし、安定してるって素晴らしいよな」

「そうね……後は魔力次第ね……。今日も行くの?」

「ああ。ミゼラもだぞ」

「わかってるわよ……。使用者の反応も見ておきたいし、なにかあったら嫌だもの」

「心配ないと思うけどな。鑑定で効果を調べても問題ないんだしさ」

「そうなのだけど……でも、やっぱり心配にはなるのよ」


誰に似てとは言えないが、心配性だなあ。

現在ミゼラのポーションも冒険者ギルドに卸しはじめたのだが、どうやらしっかりと効いているのかが心配らしい。

ギルドマスターや冒険者に使い心地を聞いたが全く問題ないと言われているし、検品の際には鑑定を用いて効果も調べているのだが、どうにも不安に思ってしまうようだ。


「それじゃあ納品分を増やすためにも、スキルレベルを上げるためにも続けようか」

「はい。お願いします先生」


楽しそうに頭を下げるミゼラに、今日も俺は錬金を教える。

ここ最近の午前中の予定はミゼラへ錬金を教える事が日課となっているのだ。

鉄は熱いうちに打てというが、ミゼラのやる気は熱いままむしろ更に熱くなっている。

失敗続きでも諦めないミゼラを見て、俺も真面目にがんばろうと思えた。


さて、ミゼラが冒険者ギルドへ卸すのに十分な数のポーションを作り終えたら、次はアクセサリー作りの練習をするために鉄鉱石を取り出しておく。


「そう……ゆっくりでいいから」


今回は鉄鉱石の分解から始める。

俺もここからスタートしたし、錬金の基本は『分解』『合成』『再構築』であるので基本をおろそかにするわけにはいかないのだ。


分解に成功したら次はインゴット化である。

これが出来れば鉄鉱石から扱いやすい鉄の塊を作ることが出来る。

金属が変わってもやることは同じであり、もっともシンプルな『再構築』の練習にもなる。


「これで、どうかしら?」


ミゼラが手を放すと机の上には見事に鉄の延べ棒が出来上がっていた。


「うん。良い出来だね。これはこれで売ろうと思えば鍛冶ギルドに売れるらしいから、覚えておくと便利だぞ」

「らしいって……」

「いや、だってアクセサリーを作ったほうが効率いいしな……」

「なるほどね。だから、らしいなのね」


労力は殆ど要らないのだが、いかんせん薄利多売なのだ。

それならば、アクセサリーを売ったほうが圧倒的に儲かるのである。

勿論鍛冶師ギルドから錬金術師ギルドに依頼があれば、レインリヒから作るように言われる事はあるけどもね。


「はい。それじゃあ今日の目標はこれね」

「捻れた鉄のネックレスね……。今日は出来るといいんだけど……」

「制限時間はお昼まで。まずはじっくりと形を覚えてから」


錬金に必要な事は魔力とイメージ。

まずはじっくり『捻れた鉄のネックレス』を触らせてしっかりとイメージをつけてもらう。


「止め具の部分もしっかりな」

「はい」


ミゼラは止め具を付けたり外したりを繰り返し、構造をしっかりと頭の中に刷り込んでいく。

付けた時の感触、重さ、冷たさや、捻れ具合などもしっかりと目を見開いて集中する時間をたっぷりと取った。


その間に俺は魔力ポーションを少し混ぜたお茶を用意する。

あまり大きな音はならないように気をつけてはいるが、小さなカチャカチャとした茶器の音がしてしまう。

それでもミゼラは集中を切らさずに目の前のネックレスに一心不乱だ。


「そろそろいいだろう」

「はい。それじゃあ……『錬金』」


目の前のインゴットがドロリと溶けて新たに形を作っていく。

細く長く、そして溝が端のほうから回りながら走り捻られたようなデザインが出来ていく。

その速度はゆっくりではあるが、綺麗なほどに均一でしっかりとイメージされている事が窺えた。

そして……。




「それで、今日もミゼラと冒険者ギルドに行くのよね?」

「ああ。ソルテ達も午後からか?」

「うん。なら一緒に行きましょう」


昼食を取りながらそれぞれが今日の予定を話しあい食後に皆で一息つきつつお茶をしてからゆっくりと出る事となった。

ウェンディとシロは買い物へ、俺達は紅い戦線(レッドライン)の三人と共に冒険者ギルドへと向かう事に。


「ミゼラのポーションは好評だぞ」

「そう……? 何か問題とか起きてないかしら……?」

「大丈夫っすよー! 自分達も使った事あるっすけど、ご主人のと効果は変わらないっすし」


後方で心配そうなミゼラを励ます二人。


「気になるの? 大丈夫よ。嘘はついてないし、実際売れてるもの」


横を歩くソルテが俺の顔色を窺いつつにししと笑い話しかけてくる。


「知ってるよ。どれくらい売れてるかは俺も聞いてるし、鑑定も使ってるから心配もしてないよ」

「そう? 最近はミゼラに付きっきりだし、心配性な主様は気にしてるのかと思った」

「ん? 寂しいのか?」

「寂し……く、なくはないかも……」

「じゃあ、今は二人なんだし、正直に甘えてくれよ」

「そうね。そうしようかしら」


俺の手を取り指を絡ませるソルテ。

自然と動いてしまうのか、頬がゆるむのを防ごうとしているが残念ながら防げてはいない。


「こんなので満足しちゃうんだもの……罪な人よね」

「良い女ってことだな。感謝してるよ」

「……もう。褒めればいいとでも思ってるんでしょ」


実際問題、朝はミゼラ、昼は仕事や鍛錬、夜は睡眠と……鍛錬の続きと最近はあまり一緒に居られないからな。

鍛錬のときは真面目にやっているせいか、なかなかこういう雰囲気にもならないしな。


「そっち抑えといてくれ!」「なあ、角材足りないぞ」「ああ? じゃあ取って来いよ!」「お前が行ってこいよ! 見りゃわかるだろう手が放せないんだよ!」


……人が良い雰囲気を楽しんでいるときになんだろうね。

今日はいつにも増して街中が騒がしい。


「なんだ? 皆忙しそうだけど……」

「ああ、それはね――」

「ソルテは抜け駆け名人っすよねー……。いつも気づけばご主人の隣にソルテがいるっすよ」

「……あら、今更かしら? 狼だものチャンスには貪欲なの」

「自分も狼なんすけどねえ。それじゃあ、縄張り争いでもするっすかね?」


おいおい街中で、と思ったら、空いているほうの手をアイナに取られ、抱えられるように腕を抱きしめられてしまう。


「ふふ。いただきだな」

「アイナも抜けめないっすよねえ……」

「そっちはあげるわよ。でも、ここは譲らないわよ」

「力ずくって言いたいっすけど、今回はいいっすよ。……二人とも気づいてないみたいっすし」


ん?

気づいてないって何にだ?

俺も良くわかってないんだが……。


「そうだ主君。今日は冒険者ギルドに行った後に皆で寄りたいところがあるのだが、構わないだろうか?」

「皆で? アイナからお願いなんて珍しいな。構わんぞ」

「ありがとう。そこまで大きなお願いではないのだが……ちょっと大変なのでな……」

「ああ、孤児院っすか?」

「そうだ。ちょっと今日はシスターがいないので食事を頼まれてしまってな……」


孤児院と言うと、アイナが寄付を行っている孤児院の事か。

ここアインズヘイルで孤児院というと一際大きな建物の孤児院がある。

今では俺もたまに顔を出すのだが、学校か!? ってくらいに規模が大きく、子供が多いのだ。

そのため国からも援助は出ているのだが、援助できるだけの額が決まっており最大限には戴いても足りず、寄付を募る事も多いらしい。


アイナはそんな身寄りの無い子供達の為に多くのお金を孤児院に寄付しているらしい。

Aランクの冒険者だというのに、俺への借金が払えなかった理由はちょうど大金を寄付したばかりだったというからくりがあったそうな。


比較的平和なアインズヘイルでも、流れてきたばかりの者も多くそこで捨てられる子供も多いそうだ。

中には昼の間だけ孤児院に預け、親は働きに出ているという事もあるらしい。

一種の託児所でもあるのだが、そのまま行方をくらます親もいるとかなんとか……。

捨てるくらいなら奴隷に……とも思わなくもないが、奴隷と孤児院双方にメリットデメリットがあるみたいだ。


奴隷は、ハズレの主を引けば悲しいかな人生が決まるようなものだしな。

それならば安定している街で孤児として育った方が子供のためと思う親もいるのだろう。

愛する人を手放す気持ちなど、俺にはわからないしわかりたくもないが……。


幸いにもアインズヘイルの子供達は健やかに真っ直ぐと育っているらしい。

ただ、時々アイナが剣術等を教えに行くせいか就職先には冒険者になる! って子供が多いのが最近の悩みだそうだ。


「そうか……なら、お菓子でもお土産にするか」

「ありがたいが……出来れば市販の菓子で頼む。主君の菓子ではその……、舌が肥えてしまい、普段の食事を美味しくいただけなくなりそうだ……」

「そうね……。旦那様のお菓子美味しいから……。私も随分と太ってしまったわ……恐ろしい」


いや、ミゼラは太ったどころかまだまだ細すぎるからな?

ガリガリではないが、くびれとか当たり前だがくびれたままだし。

錬金がんばったときのご褒美も毎回「おかゆがたべたい」って、もっと豪勢にしてもいいのよ?

最近は『お小遣い』のスタンプで随分と味噌も貯まってきたし、醤油の余裕も出来てきたから殆どお米代しかかかってないのであった。

そしてー!

三巻の発売が決定しました!


今回だいぶ気合入れて書いてます。

書き下ろしも後日談だけでなく、本編の補足やより自然に結末へ迎えるように書き足してますぜ!

現在進行形ではありますが、お楽しみに!

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[一言] 歳取れねえしもこいいじゃない
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