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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
7章 ハーフエルフと願望と
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7-23 幸せ・願望 不思議な魅力

地下にある錬金室で男女が二人。

俺はミゼラの後ろから手を伸ばし、そっと手と手を重ね合わせていた。


「……少し怖いわ」

「大丈夫だよ。ほら、力抜いて。いくぞ……」

「ちょっと、いきなり動かさないでよ……」

「そうしないと始まらないだろう。ほら、もう沁みてきた」


硬い棒で内壁を擦ると、徐々に汁気を帯び始めてくる。


「わ……ど、どうすればいいの?」

「一先ずは身体をゆだねて、感覚に慣れて覚えてくれ」

「わ、わかったわ。その……初めてなのだから優しく……お願いよ?」

「わかってる。慣れてるから安心してくれ」


とは言いつつも俺はミゼラに触れながら男らしく力を込めて擦り付け続ける。


「ちょっと、乱暴……じゃない?」

「これくらいがいいんだよ。いいから信用しろって」

「もう……嘘つき。優しくって言ったのに」

「悪かったって。でもほら、もうぴちゃぴちゃ音がしだしただろ?」


棒を引き抜いて見せると、溢れだした水気を音に鳴らして確認させる。


「本当……凄いわね……これも錬金なの?」

「ああ。錬金の中の『調薬』の初歩だな」


ミゼラが帰ってくるなりやる気満々だったので、早速錬金を教えることにしたのだが……まずは俺が教えながらやって見せる事にしたのだ。


「これをミゼラもやるんだぞ。んで、水を少しずつ注いで魔力を流して、薄い水色に変われば成功だ」

「完成なの?」

「ああ。ポイントはしっかりと薬体草を磨り潰してエキスを染み出させる事。それと、魔力を注ぐ量かな。次はミゼラ一人でやってみようか」

「わかった。やってみるわ」


流石に手馴れているので俺の場合はあっという間に絞りだせるのだが、初心者であるミゼラはどうだろうな。


さて、ミゼラが作業をしている間は横で俺は別作業だ。

多分だが初めは失敗するだろう。

それもそのはず、スキルを持っていれば手作業中でも勝手に魔力を注いでポーションにはなるのだが、ミゼラにはまだスキルは無いのだ。


それに、ミゼラはまだ自分の魔力のコントロールが甘い上に、魔力自体が少なく弱い。

ともなれば、それを補助するアクセサリーが必要不可欠となるだろう。

と言うことで、簡単な指輪なんかを作ることにした。


「ふんふんふふーん」

「鼻歌なんか歌って楽しそうね……」

「ミゼラも錬金を覚えたら、アクセサリー作りの楽しさがわかるぜー」


横目でミゼラの様子を見つつアクセサリーを作り始める。

事前にミゼラの指のサイズは聞いていたので、それにあわせてまずはリングを作る。

そして完成。ベースなので10秒しかかかっていない。


「ふんふふーん。あ、もっと内壁に擦り付けるようにしないと染み出てこないぞ。それと、少しだけ水を加えるとやりやすいし色がでるからわかりやすい。ただし、基準がわからなくなるから少しだけな」

「はい。作業しながらなんて……器用な真似するわねえ」

「まあ、作業しながらもちゃんと見てるからさ。最初は失敗するだろうけど、何度も数をこなさないとだからな」

「はーい。頑張ります」


うんうん。正直で真面目な良い弟子だ。

俺だったらば文句ばかりたれているだろうね。

よし、台座取り付け完了。

次は宝石だな……んんーなんとなくエメラルドがいいかな。

どうせだし、あの一般的なエメラルドといえばのカットも練習してみるか。


「これくらいでどう?」

「まだだな。薬体草に水気を吸われてるから、もっと絞りだして。潰して持ち上げてぴちゃぴちゃ音がするくらいじゃないと駄目。今はぽとぽとだし」

「はい。わかりました」


さーて。エメラルドカットか……。

確か上面は平面でありつつ、角を落として、もう一度落として……。


「これでどうですか?」

「んんーよし。それじゃ、水をここまで注いで、もう一度磨り潰して馴染ませて、あとは魔力を流してみてくれ」

「はい」


流石にコレは見ていないとまずい。

水の量は問題なし。あ、だけど魔力量が足りてない。

これは失敗するだろうな……ああ、うん。しょうがない。


「……これは、駄目よね……」

「ああ。失敗だな」

「そうよね……」


色の変わっていない濃い緑色の液体を残念そうに見つめるミゼラ。

鑑定を使っても『薬体草汁』としか出てこないので、間違いなく失敗だ。

ちなみにこの薬体草汁は青汁と同じような味がする。

ポーションの味はこれより幾分かまろやかではあるのだが、どちらにしても少し苦いんだよな。


「まあ一発目は当然だろう。今のは魔力量が足りなかったな。次はもう少し注ぎ込む魔力を増やしてみてくれ」

「はい。でも、難しいわね……」

「まあ基本だからこそしっかりな。大丈夫。失敗は成功の元だ。これはこれであとで使うし、どんどんやっていこうぜ」

「はい。頑張ります」


ミゼラの失敗作をビーカーに移しておく。

これからこのビーカーに沢山の失敗作が入ることになるだろうけど、これはこれで慣れてきた頃に使えるので取っておかねばならない。



このあと、何度もミゼラは失敗を繰り返した。

エキスの絞りが甘かったり、水の量を間違えたり、魔力を注ぎすぎて倒れそうになったり、少なすぎて出来なかったりとそりゃあ何度も繰り返し失敗した。


ビーカーの数も10は超えただろうか。

ミゼラが額の汗を拭いつつ、俺が用意した魔力ポーションを飲んでまた作業をしようとしたので一度止める。


「ふう……なに?」

「次をやる前に……はいこれ。完成したから付けてみてくれ」


『翠玉の銀指輪 魔力大上昇 器用度中上昇 自動魔力貯蔵』


能力は三つ。

錬金に必要な魔力と器用度を上げつつ、翠玉(エメラルド)に空気中に含まれる微量の魔力を自動で吸収効果を持っている。

吸収する魔力の量は大した量では無いが、それでも魔力ポーション(中)一本分くらいにはなると思う。


「……旦那様? 片手間でまたとんでもないものを作ったのね……」

「んんー? まあ、出来ちゃったしな。使わないと勿体ないし」


俺はリングを取り出して、そっとミゼラの中指につけようとしたのだが、少しきつそうだ。


「あれ……? サイズ間違えたかな……?」

「なら、こっちの指にすればいいんじゃない?」

「そうだな。そうするか」


中指を諦め、薬指にすっと入れると丁度良いサイズだった。

うーん。台座をつけた際にサイズミスが起きたかな……。次からは気をつけて作ろう。

まあ、どの指につけても効果は変わらないしな。

……左手の薬指なことに深い意味は無いから大丈夫だ。


「……ありがとう」


ミゼラは嵌められた指輪をうっとりとした瞳の前で手を回し何度も見つめていた。


「ちなみに魔力は充填してあるからな。足りなそうならそこから魔力を引っ張れば、どうにかなると思うぞ。俺は何も言わないから、一人でやってみな」

「わかりました。頑張ります」


翠玉自体に保存できる魔力量は多くはないが、それでもミゼラの持つ魔力よりは大きいのでこれで魔力量の心配はなし。

あとはどの工程も丁寧に手を抜かず……って、その心配は無いな。

ミゼラは俺の教えた事をしっかりと一歩一歩忠実に守って丁寧に行っている。


ずるや手抜きをしようとせず、真剣な眼差しで乳鉢を見つめて変化一つも見逃すものかと集中しているようだ。


「水……で、もう少し搾り出す……」


小さな声で何度も復唱し、細かい作業をこなしていくミゼラ。

俺の見たところそろそろ……と、思ったらミゼラがすり棒を置く。


「それで、魔力を注ぐ量は……これくらいかしら……?」


ミゼラの手に魔力が集まる。

量は……うん。指輪からも供給されているみたいだし、問題ないな。

乳鉢に入った濃い緑色の液体が光り、そして薄い水色へと変わる。


「……できた……?」

「ああ。ほれ、早く試験管に入れて蓋をしないと劣化するぞ」

「あ、はい! えっと、試験管試験管……。あれ? どこにあるのー!?」


突然完成したもんだから、いままで使っていなかった試験管を探すミゼラに俺がさっと手渡すと試験管立てに入れ、ゆっくりと乳鉢から試験管へ注いでいく。


そしてキャップを締めれば……。


『回復ポーション(劣)』


が、完成した。


「……ふぅ」


一息ついた後、こちらを嬉しそうに振り返るミゼラ。

そんなミゼラの頭をぐりぐりと撫でてやる。


「おめでとさん。無事に完成だな」

「……出来たのよね? これ、私が作ったのよね?」

「うん。ちゃんとミゼラが作ったものだよ」

「はぁぁぁ……良かったぁ……」


小さく拳を握って胸の前で何度もやったやったと振り、喜ぶミゼラ。

わかる。わかるぞう。

最初に出来たときって嬉しいよな!

俺もポーションを初めて作ったときはもの凄く嬉しかったからよくわかるぞ!

……まあ、俺のポーションは使う事無く壊れてしまったけど……。


「よしよし。それじゃ、スキルを覚えるまで続けるぞ」

「うん!」


年相応の女の子らしく可愛らしい笑顔を見せるミゼラ。

このあと、ミゼラのやる気は衰える事無く何度もポーションを作り続けた。


質自体は(劣)から上がりはしなかったが、そりゃあもう楽しそうにポーションを作り続けるミゼラを俺は穏やかに眺めていた。


「ふう……流石にこれ以上魔力ポーションを飲んだら中毒になりそうね……」

「だな。まだまだこれからやっていけばいいし、一先ずこれで終わりにすればいいんじゃないか?」

「うん。そうするわね……。でも、残念ね……せっかく楽しくなってきたのに」


やる気がありすぎるといったように、名残惜しそうに乳鉢を見つめるミゼラ。

そして、その日最後の一個を作り終えたときだった。


「あ……」


ミゼラが声を漏らした。

俺は一瞬終わってしまった事で、残念だなあという気持ちがこぼれたのかと思ったのだが……。


「え、あれ? 嘘……え?」

「どうした?」

「その……スキル……手に入ったみたい」

「え?」


なんですと?


「錬金のスキルをね。獲得しましたって……」

「まじか!! うおおおすげええええ!」

「え、え? 現実よね!? これ、夢じゃないわよね!?」

「夢じゃないよ! やったなミゼラ!」

「あ……うん……え、ちょ」


未だ呆けているミゼラに抱きつき。

これでもかと頭を撫でる。


「やあ、もう、ちょっと、喜びすぎよ……。私より喜んでどうするの?」

「だってめでたいことだぜ? そりゃあ喜ぶってもんさ!」


正直、何時までかかるかと覚悟はしていたのだ。

スキルを覚えなければ教えられない事も多い。

だからといって悲観していたわけではないが、それでもこんなに早いとは思わなかったのだ。


「うりうりうり……。この有能な弟子め」

「もう……。先生がいいのよ」

「嬉しい事を言ってくれるじゃないか。よし。今日はお祝いだ。何か食べたい物はあるか? 何でも作るぞー!」


遠慮なくいいぞー!

お祝いだからな!


「あ……それなら、私が寝込んでいたときに作ってくれた料理が食べたいわ」

「おかゆのことか? あんなのでいいのか?」

「あんなのじゃないわ。私にとって、生まれて初めて食べた美味しくて温かい料理だもの……」

「……そっか。よし。任せとけ! お腹一杯になるくらい沢山作るからな!」


確か米も味噌も卵もあったな。

そして俺はよし、っと錬金室を飛び出した。


「きゃ、ご主人様……?」


扉を開けた先にいたウェンディとぶつかりそうになってしまい、倒れそうになっていたウェンディをそっと支える。


「ああ、ウェンディすまん。大丈夫か?」

「はい……あ、何処へ? お夕飯はできてますよ?」

「ちょっと一品追加でな! 勿論夕食も食べるからさ!」


夕飯が出来ているなら急がないと……。

このめでたい日を皆でお祝いするんだー!



旦那様が部屋を飛び出した後、錬金室にはウェンディ様と私の二人が取り残されてしまった。


「一体どうしたのでしょう……?」

「あ、その、ウェンディ様……」


ウェンディ様と話すのはまだ緊張する。

なにせこの方は……私達とは住む世界の違う圧倒的な上位者のはず……なんですけど……。


「ミゼラは何か知っていますか?」

「はい、その……錬金のスキルを覚える事ができまして」

「まあ! ミゼラ、おめでとうございます」


ウェンディ様が後光を光らせるような明るく慈愛深い笑顔で私に抱きついてくる。

本当、ウェンディ様も旦那様と一緒で私以上に喜んでくれているみたい。


「はい、ありがとうございます。それで……その、食べたい物を聞かれたので、あの美味しかったスープをお願いしたのですが……」

「なるほど……。作りにいかれたのですね」

「はい……すみません」

「ミゼラが謝る事ではありませんよ。ふふ、ミゼラ嬉しそうですね」

「そ、そうですか?」

「はい。良い笑顔ですね」


顔をぺたぺたと触ってみるけど、自分ではよくわからない。

笑顔……。ここに来るまでよくわからなかった笑顔が、自然と出るようになっていたんだ……。


「どうですか? ご主人様は」

「……不思議な人です。魅力に溢れていながら、少し抜けてて……でも、温かい、素敵な人ですね」

「はい。私のご主人様ですからね。ミゼラ、もしかして……私の好敵手(ライバル)になりますか?」

「そんな! ……つもりはありませんよ……?」


好敵手って……ウェンディ様の好敵手って!

それってつまりは……私が旦那様と……。


「まだ一生の誓い(オンリーワン)はなさっていないのですか?」

「まだって……そんな、そんなつもりは……」

「ふふ。時間の問題でしょうか……? よろしければ、一緒にご主人様のベッドに忍び込んじゃいますか?」

「ベッ……」


ベッドって!?

え、ウェンディ様が……?

頭の中に広がる妄想で、自分の顔が紅潮していくのがはっきりとわかる感覚にとらわれてしまう。


「ミゼラー! 出来たぞー! 急いで作ったけど味見して美味しかったから早く食べよう!」

「だ、旦那様!?」

「ん? どうした? 顔真っ赤だぞ……?」


顔!? まだ戻ってなかった……。

ちょ、顔覗き込まないでください。

あーあー、大丈夫です。大丈夫ですから……。


「ふふ。錬金もこちらも、ゆっくり覚えていきましょうね」

「んー? 何の話だ?」

「ウェンディ様ぁ!」


このあと食べた『おかゆ』……あんなに美味しくて、楽しみにしてたはずなのに、味があんまりわからなかった……。

もう!

一先ずこれで七章は終わりかなあ……。


8章も関連性のある話なので、ちょっと収まりは悪いかもしれないけどこれにて7章を終える予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] いつも読ませていただいてます。 始めは好きな小説が更新するまでのつもりだったのですが、今ではこっちがメインになってしまってます。 たびたび温かい気持ちになり涙しています。 ありがとうございま…
[一言] 男左女右、紅い蝶
[良い点] ほのぼの。 [気になる点] 冒頭、ノクターンに引っ越しても違和感ない表現ですね。
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