7-20 幸せ・願望 真実とサービス
夜中の鍛錬を終えてフリードを送り届けた後に自宅の寝室に戻ると、ベッドにそのまま倒れこんでしまうように爆睡してしまった。
「主、ミゼラが逃げ出したから追いかけてくる」
昼過ぎまで寝てしまったようで、シロに話しかけられてようやく目を覚ます体たらくである。
ちなみに、体は筋肉痛を感じているようなので辛うじて俺はまだ若いのだと安心する事ができた。
「んん……あー。わかった。頼むな」
まだ覚醒しない頭でシロの頭を撫で、体を起こす。
その後、はいっと渡された濡れタオルで顔を洗い、しっかりと目を覚ました。
「ん。主の今日の予定は?」
「俺はちょっと王都に行ってくるよ。ああ、フリードがついてるから護衛は大丈夫だぞ」
「ん。わかった。じゃあ、ちょっとお小遣いが欲しい」
「いいけど、どれくらい欲しいんだ?」
「んー……金貨5枚くらい?」
「金貨5枚? 何買うんだ?」
「秘密ー」
金貨5枚って……50万ノールだぞ。
いや、普段のシロの働きを考えれば安いくらいだが、結構な大金で何を買うんだろう?
「そっか……。はいよ。買い食いしすぎるなよ」
「ん。今日はしないー」
え、買い食いじゃないの……? ということは、何か欲しい物でも見つけたのだろうか。
だが、普段ならば欲しい物が出来れば俺に言うしなあ。
大概食べ物だけど。
「それじゃ、行ってくる」
「ああ。いってらっしゃい」
「ん」
まあいいか。
さてと、俺も朝風呂に入ったら王都に行かないとな。
理由としては……あれだ。
困ったときの神頼みならぬ、シスターであるテレサ達に頼もうかなといった具合である。
幸いな事になにかあればいつでも来いとテレサに言われているしな。
懺悔室などがあれば、是非利用させていただきたいところだ。
「あむあむ……んんー! やはり、チョコアイスは美味しいですね。私は全部溶かしてしまった物よりも、やはりこのパリパリしているチョコの方が好きなんですよ」
目の前で俺の新作アイス、パリパリチョクォバニラを美味しそうに頬張るのは好みのド真ん中直球ドストライクな女性。
願わくば銀の匙になりたいと思えるほど、ぷるんとした唇。
ふわりと柔らかそうなロングの金髪。
慈愛の化身とすら思える優しい眼差しの彼女は、幸せそうにアイスを頬張っていた。
随分と薄く真っ白な法衣で、おっぱいなどの大切な部分を隠しているのだが、嗚呼。俺がその部分を隠す布になってさしあげたい。
目の前に居るこの女性は俺がこの世界で初めてであった女性。
この世界に来るに辺り、『お小遣い』スキルと錬金等のスキルをくれた、あの『女神様』だった。
何故、女神様が俺の目の前に居られるのかと言うと、話は少し遡るのだが長くなるので簡潔に言うと……。
『なるほど……言い過ぎてしまったと』
「はい……。どうすればいいでしょうか副隊長」
『……こほん。今の私は一介のシスターです。懺悔室なのですから、個人の特定はやめましょうね? そうですね……悔いているのであれば、女神様に祈りを捧げてみるのはどうでしょうか?』
「祈りですか? どうすれば……?」
『それでは外でお祈りしましょう。私が後ろから手取り足取り教えて差し上げますよ。ぐへへ』
「副隊長、女の子がしてはいけない笑い方をしています」
『じゅるり、はっ! 隊長に倣おうと逸ってしまいました。気のせいです。ええ、気のせいですとも。それでは外に出ましょうか……げぇっ! 隊長!?』
『なにをしていやがりますか……』
と、ひとしきり顛末を説明したあとに女神様へのお祈りを薦められたのだ。
やはり困ったときはシスターよりも神頼みなんだな。
元の世界では無神論者であったので、多分引き気味にエスケープをかましていたのだろうけど、この世界に神様がいるのは知っているのでそのままテレサや副隊長とお祈りをする事に。
気がつけば真っ白な世界におり、目の前には女神様が……といった状況である。
もう驚いたよね。
女神様も驚いた様子で、食べていたお饅頭を咥えたまま固まってしまっていたのだった。
そして、甘味がお好きならばとパリパリチョクォアイスを箱でお出ししたのだ。
「ふう。ご馳走様でした。相変わらずチョコとバニラのアイスは美味しいですねえ」
「あ、食べた事あるんですね」
「ええ。大好物です。それで、スキルのことでしたっけ?」
これが夢なのかどうかはわからないが、せっかく女神様にお会いできたという事でスキルについて聞いてみたのだ。
……いや、別にミゼラに言われた事を気にしてというわけではないんだけどね。
「本来『流れ人』に差し上げるスキルは、ユニークスキル以外は普通のスキルですよ。才能も本人次第です。現に、あなた様の料理スキルは上がらないでしょう?」
「あー……確かに。そういえばずっと1のままだ……」
結構料理はしているんだけどなあ……つまり、俺に料理の才能は無いと……。
「あれ? でも、自画自賛だけど結構俺の料理美味しいですよ?」
「そうですね。スキルの中にはスキルを取得していなくとも行える、日常を補助するステータス向上形のスキルもあるんですよ。料理や農業などがそうですね。作業の効率化という意味ではレベルを上げた方が良いですが、低レベルでも作業には問題の無い物もあるのです」
女神様は次のアイスを自分で用意し始めながら話してくれる。
好物というのは本当らしい。
「なので、あなた様のレベルが低くとも料理は美味しく出来上がるというわけですね。レベルが上がれば、料理に必要なステータスが向上する……という訳です」
「なるほど……。それで、本題なんですが……ハーフエルフは何故スキルの成長が乏しいのでしょうか?」
王国にある図書館の本よりも、よっぽど納得のいく答えをくれるだろうと思いを込めて聞く。
どんな答えであろうと、女神様の言葉なら信じざるを得ないだろう。
だが、もし事実だったとしても彼女を見捨てる気などない。
「えっと……そんな事はありませんが……?」
「はい……?」
「そもそもなのですけど、ハーフエルフはエルフの特徴を受け継ぎ人族よりも長命の種族です。なので、その分成長がゆっくりなだけで、乏しいという訳ではないのです」
「ですが、どの記述を見てもハーフエルフは劣等種扱いをされていましたが……」
「……王国は未だに変わらないのですね。本当に……呆れてしまいます」
女神様が悲しそうな瞳で少し遠くを見据える。
憂いた顔もまた美しい……。
「あ……失礼しました。ですが、劣等種というのは間違いです。教会の者にはそういった啓示も行ったのですが……」
「……教会派は、王国派と余計な諍いを作りたくないみたいです」
「はあ……神罰の一つでも落とせれば良いのですが……申し訳ないことに私はそこまで力の強い神ではないのです。私の上の神が動ければ、すぐにでも落とせるのですが……生憎と暫くは……」
「そうですか……。でも、良いお話をお聞きできました。これをミゼラに教えれば……!」
女神様お墨付きで、劣等種なんかじゃなかったって、大丈夫だって言ってやれる!
「ふふ。嬉しそうですね。それで、他に聞きたい事はありますか?」
「そうですね……あ、そういえば俺って洗礼? を受けたら聖魔法を使えるようになりますかね?」
「聖魔法ですか? うーん……申し訳ないのですが、聖魔法への適性がないので難しいかと思います」
そっか……結局、魔法適性は全滅かな。
空間魔法が使える才能があっただけましと考えるべきか。
ただし、属性適性はあるのだから活用方法は考えてみよう。
「そうですか……。あ、それと……醤油と味噌、ありがとうございました」
「いえいえ、その……正直に申しまして、街への転送を間違えてしまい……申し訳ございませんでした」
「今ではとても感謝していますよ。ありがとうございます……」
「そう言っていただけると助かります……。他の女神達に散々いびられたので……」
そういえば女神様って他にもいるんだよな?
確か、目の前に居る女神様は豊穣と慈愛の女神レイディアナ様だったかな。
それで、戦闘神で貧乳のアトロス様もいるんだったか。
レイディアナ様は見るからに争いごととは縁遠そうだもんな……戦闘神にいびられるなんて、可哀想に……。
「自分は本当に気にしていませんから。むしろ、醤油とか味噌がこの世界でも味わえて感謝していますよ」
「それは良かったです……。嗚呼、残念ですがそろそろお時間のようですね……。本当に残念です。もっとお話ししたかったのに」
「そうですね……自分も、もっとお話ししたかったです」
例えばスタンプのあの絵、手書きですか? とか。
もっとご趣味や好きな食べ物など、プライベートな部分をお聞きしたかったです。
携帯の連絡先……はないから、あ、ギルドカード……は持ってるわけないか……あー……本当に残念だ。
「……また、会えますか?」
「難しいでしょうね……今回は本当にたまたま、それにあまりこの世界に長く居るのはお勧めできませんので……」
「そうですか……」
神の世界って事なんだろうね。
俺とは文字通り、住む世界が違うって奴かな。
お、体が白い光に包まれていく。
最後にしっかりと瞳に焼き付けよう。
と、思ったらどこか表情が暗い。
「その、最後に……この世界は楽しいですか?」
少し聞きづらそうにしているレイディアナ様に、俺は満面の笑みで答えた。
「楽しいですよ。最高に、楽しいです」
「ふふ、そうですか。それではあなた様の行いに応じてちょっとしたサービスを行いましょう。あなた様の今後の人生に、より良い結果をもたらしますように……」
俺が消える瞬間、最後に映ったのはレイディアナ様の笑み。
やっぱり、笑った姿が一番可愛くて綺麗だなこの女神様は。
間違いなく、俺はこれからレイディアナ様を信奉することだろう。
【称号 創造術師 を手に入れました】
「――じさん! 主さん! 大丈夫でやがりますか!?」
「ちょ、もしもし? これって私のせいですかね!? 私がお祈りしましょうって言ったせいですかね!? このまま死んじゃったら、シロちゃん達に……」
「お祈りのせいなわけがないでやがりましょう! 教会でお祈りして死者が出たなんて洒落にならないでやがりますよ!」
ぐいぐいと揺らされる体、徐々に晴れていく視界。
どうやら仰向けに倒れていたらしい。
右側には必死なテレサが、左側には心配そうにおろおろとする副隊長が寄り添っており肩を摑まれて揺らされていたみたいだ。
「あー……おはよう?」
「主さん! 目覚ましたでやがりますか!?」
「よよよ、よかったぁぁ……。 大丈夫ですか!? 気分悪くないですか!? お詫びとして胸触りますか!?」
「触る」
おっと、考える前に即答しまった。
だが、触るかと問われれば当然触るさ。男だもの。
「……大丈夫みたいでやがりますね。全く……神託のように光りだしたと思ったら気絶しやがるんですから、驚いたでやがりますよ……」
「本当ですよ……話しかけても反応ないし、本当に心配したんですからね!」
「もしかして、聖魔法を覚えたでやがりますか?」
「いや、どうやら適性がないらしいぞ」
「そうでやがり……え? なんでわかるんでやがりますか?」
「ちょっと女神様と話してたんだ」
「「はあ!?」」
まあ、信じられないよな。
でも貴重な事をお聞きできたし、俄然やる気になってきた。
困惑している二人には悪いけど早く帰ってミゼラに知らせてやらないとな。
さて……ミゼラはこの嘘のような本当の話を信じてくれるだろうか?
本日!7/25に2巻発売です!
発売日に無事更新できてよかった……!
それと、さり気なく5000万PV突破(現在5100万PV)、11万pt突破ですね!
皆様本当にありがとうございます!




