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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
7章 ハーフエルフと願望と
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7-11 幸せ・願望 テレサと密会

夜も更け、大通りには何故か(・・・)酔っ払いすらいなくなった時間帯。

俺はフリードが御者の馬車に乗り、オークション会場である大聖堂を目指していた。


「ふんふんふふーん」

「レンゲ、護衛中だぞ」

「アイナもご主人の腕に抱きついてるじゃないっすか」

「……これは、突然襲われても主君を守るためだ」


馬車の中では俺が真ん中で両サイドにアイナとレンゲがいて、腕をとられ頭を寄せて寄りかかられているところだ。

これが護衛か……と言われたら違うかもしれないが、別に護衛任務という訳でもないしな。

今日はただの付添い人だし。


「そういうことにしておくっすかね。でもでも、今回は運が良くて良かったっすよー! アイナは相変わらずくじ運強いっすよね。前回もご主人と同じ部屋だったっすし」

「なんとなく、勘が働く事があるだけだぞ? 今回も私の勘に従っただけだ」

「それで勝つんすから本当にずるいっすよー。これからは平等な方法を考えないとっす……」


くじ以上に簡単で平等な方法があるのだろうか……。

公平なクジの結果決まったのだが、シロあたりは不満そうな顔をしていたな。

ソルテも……引いたくじをじっと睨みつけた後、深いため息をついていた。


「ふああ……でも少し眠いっすねえ……」

「遅い時間だからな。スーっとするお茶飲むか?」

「あーそれ少し苦手なんすよね……。でも、いただいておくっす」


ハッカのようにスーっとして眠気を覚ましてくれるのだが、少し苦いので好んで飲む人は少ないらしい。

俺も集中して錬金をする時など以外ではあまり飲まないのだが、目も冴えるしリフレッシュにはぴったりのお茶だった。


「間もなく到着です。少し早かったようですね」


フリードに言われて外を見ると、馬車の数は少しだけ。

開催にはまだ早いのか……。なら、テレサに少し話しかけられるだろうか。


「失礼……ただいま順にお通ししております。暫しお待ちを」


黒いローブを着た男に止められ、馬車を誘導される。


「前回よりも今回は厳重だな」

「はい。今回は特別ですが……」

「特別……」


なんかしらの事情があるということか。

雰囲気から踏み込まないほうが得策だろうな。


「それじゃ、ゆっくり待つか」

「それまでまったりラブラブタイムっすかね?」

「フリードもいるのにか?」

「私は構いませんが」

「ならするっすよー!」


するのかーい。

昼間の一件のせいかレンゲが普段よりも強く胸を押し付けている気がするが……アイナもか……。


「はあ。ほどほどにな」

「はいっすー」

「ほどほどならばよいのだな……」


そりゃあ良いだろうさ。

ラブラブタイムといってもおっぱじめるわけでもないし、ただ単にじゃれあう程度だからな。

せっかくの待機なんだ。楽しく行こうぜ。


「仲睦まじくて大変よろしいかと。……それで、よろしかったのでしょうか?」

「それはお金の事か? 今回はお礼だからな。フリードからお金を受け取ったら、流石に礼にはならないだろ?」

「ですが……」

「それに、前にも言ったとおり俺達に害意をなすようであれば遠慮なく放逐するからな。その時引っかかる要素があると決断が鈍りそうでな」


勿論そうならず普通に働いてもらえるようであれば、うちの家で働いてもらいたい。

毎度出かけるたびに家に誰もいないのが気になっていたところだ。

それに基本的な家事はウェンディ任せになってしまっているので、その手伝いをしてもらえると嬉しいのだが……。

まあ、そううまくいけばいいんだけどな……。


「かしこまりました。……ありがとうございます」

「こちらこそだよ」

「失礼……。ご準備が整いました。私の後についてきてください」


外から黒いローブの男に声をかけられ、俺達は馬車を出ると御者のフリードに振り返る。


「それじゃあ、行ってくるよ。帰りも頼むな」「では、行ってくる」「行ってくるっすー」

「はい。お待ちしております」


馬車を降りて黒いローブを着た男について行く。

大聖堂の扉を開くと、周囲をカーテンで仕切られていた。

やはり特別な措置……と見るべきだろう。

だが今回の目的はあのハーフエルフを購入する事だ。

触れず、近寄らず、関わらず、を守れば問題あるまい。


「おや、珍しいお客でやがりますな」


そのまま進んだ先には受付としてテレサと、何人かのシスターが待ち受けていた。


「まだ王都では吟遊詩人が詩ってやがりますよ。禁断の愛の片割れは今日はいないでやがりますか?」

「今日はお留守番だよ」


それを聞いたシスター達が少し残念そうな顔をして不満そうな声を上げる。

そういえばシロはこの人達に餌付けされて可愛がられてたもんな。


「流石にこの時間から追加の出品は出来ないでやがりますよ?」

「今日は買いに来たんだよ。お目当てのものがあってな」

「へえ……。まだ時間もあるでやがりますし、奥で少し話すでやがりますか?」

「ああ、俺も少し聞きたい事があったし行こうか」


魔法について、テレサに少し聞きたい事もあったしな。

テレサの後についていくと、以前テレサ達が騒いでいた部屋に通される。


お茶と茶菓子を出してもらい、背負っていた巨大な十字架の武器を下ろしてそこに腰掛けるテレサの姿からは、とても聖女だとは思われないだろう。

イグドラシルの出涸らしで作られた葉巻を咥え、指先から小さな炎を出して火をつける姿などとてもじゃないが市民には見せられない姿だと思う。


「それで、何が聞きたいんでやがりますか?」

「ああ……以前、俺の神気について話してくれたの覚えてるか?」

「神気? ああ、なるほど。洗礼をしたら聖魔法を覚えられるかが知りたいのでやがりますか?」

「ああ。実は光を除く5属性の適性はあったんだが、どれも魔法適性は無いみたいでな……。光の適性がないけど、魔法を覚える事も出来るのかな? って思ってさ」

「また、極端でやがりますね……だけど、覚えられるでやがりますよ」


するっととんでもないことを言うテレサに俺は思わず目を見開いてしまった。

その反応に笑いつつ、ふぅーっと煙を上方向に吐いて、灰皿に灰を落すとこちらに視線を戻す。


「そもそも光と聖は全くの別物でやがります。聖の魔法は女神様からの加護でやがりますからね」

「じゃ、じゃあ俺も覚える事が出来る可能性はあるわけか?」

「そりゃあ聖の魔法は女神様と神気次第でやがりますから。悪い行いをしていなければ、覚えることが出来る可能性はあると思うでやがりますよ」


おおお……という事はまだ一縷の望みは捨てなくても良さそうだ。


「ちなみに光と聖の違いってなんなんだ?」

「光は魔族に有効な攻撃魔法が多いでやがりますね。聖は基本的には回復魔法でやがりますよ。あとは亡者によく効く浄化魔法でやがりますかね」

「亡者……ゾンビとかスケルトンだよな?」

「そうでやがります」


Oh……無いよりは使えた方がいいが、出来れば使う機会など無い事を願いたい……。

というか、回復ならば回復ポーションがあるし、状態異常もポーションで治せるんだよな……。


「ただ、主さんの現状の神気じゃ難しいでやがりますね……」

「神気って具体的にどうしたら上がるんだ?」


やっぱり献金か?

あの時は確か1億ノール払えばとか言われたな。

……無理をすれば今なら払えるのだが、そこまでして覚えるべきなのか悩んでしまう。


「うーん……やはり女神様へのお祈りでやがりますかね。後は亡者を退治する……などでやがりますかね」

「亡者退治は無理だな……。覚えるとしたら、大人しくお祈りをするか……」


残念ながら虫ほどではないにしてもゾンビやらスケルトンも苦手なのだ。

特に、ああいったアンデッドは人型だからなおの事怖いのである。ゾンビ犬とかも足が速いイメージだし怖いけど……。やはり人型はちょっとな……。


「さて、それじゃあこっちの質問でやがります。今日は本当に何目当てに来たのでやがりますか?」

「ああ。ハーフエルフを買いに来たんだ」


テレサが二本目の葉巻に火をつけようとしたのだが、俺の言葉を聞いた瞬間に思わずぽろっと落としかけ、慌てて空中で掴んだ。


「ハーフエルフ……でやがりますか? ……それまたどうして……」

「ちょっと頼まれてな……それより、テレサもやっぱりハーフエルフは劣っていると思うのか?」

「本気で言っているのでやがりますか? 教会は彼女達のような存在を救う側でやがりますよ」


テレサの強い口調から、彼女が少なからず俺の発言に怒りを覚えたのが伝わってきた。

勿論俺としてもそんなつもりはなかったのだが……。

しかし、その後にテレサは肩を竦める。


「……でも、実際この問題をなんとかするために教会が動いているわけでは無いのでやがりますよ」

「それはどうして?」

「上層部が王国派と無駄な争いを避けようとしているんでやがります」

「ハーフの人権を主張する事が無駄な争いを生むのか?」

「王国派がハーフ差別推奨派なんでやがります。特に貴族連中が酷いのでやがりますよ。……大方、自分達に都合よく自由に使える手駒として欲しいのでやがりましょうが……本当に腐っていやがりますよ」

「王国派……つまりテレサは教会派……みたいなものなのかな?」

「そうでやがります。ちなみに、主さんが懇意にしているアイリス様も教会派でやがりますよ。……実は今日も熱心にお祈りしていたのでやがります」


それを聞いて少しほっとする。

しかし、王族なのに王国派じゃなくて良いのだろうか?

そんな事を考えていたとき、扉が勢いよく開かれた。


「隊長密会ですか!? 男を連れ込んだとシスターに聞きましたよ!? うはっ! せっかくなので覗いちゃいま……す……」


入ってきたのは副隊長。

俺に気がつくと徐々に語尾が弱くなっていき、驚愕の表情へと変わっていく。


「あ、あれ? な、なんで主さんがいるんですか? もしかして隊長と逢引中でしたか!?」

「……たとえ逢引中だったとしても、覗いていいわけがないでやがりましょう?」

「あ、待って怒らないで! これから私司会のお仕事があるんです! 顔は、顔はやめてください!」


相変わらずの二人のやり取りに俺はクスクスと笑ってしまう。

この後は時間までたっぷりと二人の追いかけっこを余所に、出されたお茶をゆっくりとのみ、副隊長とも久々に話をしてオークション会場へと足を運ぶ事にしたのだった。

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