7-7 幸せ・願望 冒険者ギルドにて2
あれから、ソルテ達は女剣士の冒険者であるフレッダと話しこんでしまっていた。
ちなみにフレッダは、ノリがよく気さくで可愛らしい癖毛の女の子だ。
明るくて、わけ隔てなく話しかけてくるので地味に人気が高い子だったりする。
「あ、じゃあ告白できたんですね!」
「うん。応援してくれて、ありがとね」
「いえいえ! 今の幸せそうなお顔が見れただけで満足ですよ! しかしお三方共とは……お兄さん、豪気ですね……」
「まあ、我々が勝手に惚れてしまったからな……」
「そうっすねえ……。自分も、こんなになるとは思わなかったっすよ」
「おおおー! ……ですけど、アレはセーフなんですか?」
「……仕方ないでしょ。主様なんだもん……」
ソルテ達が何か言っている……のか?
なんとなくそんな気がしたのだが、今は目の前の事に集中だ。
「はい、これでお仕舞いっと」
「ふわああ……あり、ありがとうございました……」
こちらにお礼を言い、ふらふらとした足取りでパーティメンバーの下に戻っていく犬獣人の女の子。
「うん。こちらこそありがとね。さて……」
目の前にはずらっと並んだ獣人冒険者が10人くらい。
俺は目を光らせて様々な獣人の女の子のモフリ具合を確かめさせてもらう代わりに、尻尾や耳のお手入れをさせていただいたわけなんだが……並びすぎじゃなかろうか。
「お、お願いします!」
「えっと、さっきの子にも確認したんだけどいいのか? 獣人にとって尻尾は大切なんだろう?」
「大丈夫です! 気持ちよくしてください!」
この子は小さな可愛らしい耳と長めの尻尾を持った……鼬系の獣人かな?
これはまた……やり応えのありそうな尻尾をお持ちで……。
では、言われたとおり気持ちよくしてくれようか!
「それじゃ、スキンケアからな」
「は、はい!」
椅子を横に並べ、俺はその真ん中に座り俺の膝上に尻尾が来るようにうつぶせに寝てもらう。
両手につけたリートさん特製の『1番』のスキンケアでまずは地肌に馴染むようにしっかりと揉み解していく。
「ふわ……」
「痛かったら言ってくれな」
「は、はいー……。大丈夫です。気持ち、いいです……」
目を細めて気持ちよさそうにしている鼬人ちゃんをゆっくりと、快楽という名のまどろみへと落としていく。
「それじゃ、ブラッシングを始めるね」
「はい……その、誰かにしてもらうのは初めてなので、お手柔らかに……」
「うん。優しくするね」
さて、まずは根元からゆっくりと。
目の粗い物から徐々に細かい物へとシフトしていき、しっかりとやり残しの無いように持ち上げて裏側もこなしていく。
「んん……っあ……そこ……」
「ん? ここがいい?」
「はい……。すごくいいです……ああっ!」
次第に顔が紅潮し、声も自重しなくなっていくのだが……途中で止められるほど俺のブラッシングはぬるくない。
気持ちのいいところがわかれば、後は重点的にそこを責めてあげるのが俺の優しさだからね。
「……あれは、浮気なのでは?」
「いいのよ……放っておきなさい」
「は、はあ……しかし、獣人の女の子があんなになるんですね……」
「ご主人の梳き術はやばいっすから……。お店出したら予約でいっぱいになるっすよ……」
「そ、そんなにですか……?」
そろそろいいかな。
最後の仕上げに3番の尻尾用のテールケアを両手でしっかりと、馴染ませるように満遍なく尻尾に塗り、これで終わりだ。
「はい、お仕舞い」
「あふぁ……あへあ、しゅ、凄く気持ちよかったです。またお願いしてもいいですか?」
「うん。また遊びに来るからその時にね」
「はい! うわあ、こんなに綺麗になるんだ……」
鼬人系の女の子は自分の尻尾を前に寄せて確認すると、目を輝かせて喜んでくれたみたいだ。
さて、残りの子達も皆綺麗にしてあげねばと、一人一人大切にこなしていったのだが……。
「おらああああああ! 待てこらあああ!」
「ひ、か、カンベンしてくれ! 俺は男だぞ!」
「知るかアアア! 並んだんだから相手してやんよー!」
冒険者ギルド内を獣人男冒険者を追いかけて駆け回る俺。
女の子達の反応を見て、冗談で並んだというのだがそいつの尻尾の手入れがあまりになっていなかったのだ。
「ぐわああ! て、てめえ! 脚をひっかけやが」
「へっへっへ。面白そうだやらせてやれよ」
「馬鹿言うんじゃねえ! ちょ、あ!」
「つーかーまーえーたー!」
転んだのを見てしっかりとその上に馬乗りになってやった!
「ひゃっはああああ! 綺麗にしてやるぜ!」
「や、やめ! やめろおおおお!」
「いいのか!? 暴れたら俺は死ぬ! そうなるとアイナ達が黙っていないぜ!」
鍛え始めたとはいえまだまだ雑魚だからな!
熟練の冒険者であるお前が暴れれば、俺は間違いなく死ぬのだ!
「そんな……くっ……アアアアア!」
「はっはっはっは! 男の獣人は、女の子に比べて尻尾が少し固めなんだな! だがお前、手入れがずさんで手触りが悪いんだよ! 俺に任せておけ!」
「ぐうううう……なんだこの気持ちよさは! 抗えな……ウウウアアアアア!」
どうだ! お前のすさんだ尻尾にもキューティクルが戻ってきたぞ!
さわり心地も段違いだ!
これからはしっかりとケアを忘れるんじゃないぞ!
「……あれが、お好きな人でいいんですよね?」
「言わないで……。ちょっと葛藤しそうだから言わないで……」
「ご主人は尻尾とか凄く好きなんす。それだけっすよ……」
「ちなみに頼めば髪でもやってもらえるぞ。リートさん特製のヘアーケア付で、こちらももの凄く気持ちがいい」
「……へえ。今度頼んでみようかな」
よしよし。
大分綺麗になったな!
さっきまで荒れ放題だった尻尾にキューティクルが生まれている。
後は継続的にケアし続ければ、立派なモフ尻尾となるだろう。
「よし! 満足だ!」
「ひぐっ……えぐっ……もうお婿に行けない……」
「うわ、でも見て。凄く綺麗……」
「そうだよ! 前よりも魅力的になったじゃない!」
「そ、そうか!? いや、でも確かに……」
「さあて、お次は……」
「主様、もういいんじゃない?」
「ん、そうだな。もうあらかた終わっちまったか……残念だ」
ここにいる獣人の尻尾は全て綺麗にしたので、今度はいない子達をやりに来ようと誓い、俺はアイナ達のいる席についた。
「しかし、長いことやってたわね……楽しかった?」
「楽しかった! いやあ、今日は良い日だ!」
「獣人がお好きなのですか?」
「いや? 尻尾が好きなんだ! もふもふがたまらないんだ!」
持っていた櫛をペン回しのように回転させつつ辺りを見回すと、どの獣人の尻尾も輝きを放っているように思えるほど綺麗になっていた。
「しかし、尻尾って大事なんだろ? 確認をしたとはいえ良かったのかな……?」
「だって、あれだけソルテさんが自慢していたんですもん。最初の女の子とか、ソルテさんを尊敬していましたし……お願いしてみたかったんだと思いますよ?」
ああ、あのくっころさんか。
『ふん。貴様に尻尾を触らせるなど末代までの恥だが……私の尊敬するソルテさんが、貴様の腕を評価していたから試させてやる!』
『くっ……ひとおもいに好きにしろ!』
『あふぁ……はへぇ……』
って感じで、二コマ落ちレベルでギブアップした狐耳の女の子だったな。
終わってからもじーっと艶かしい視線を感じていたんだが、多分気のせいじゃないとおもうんだ。
「私、そんなに絶賛してたかしら……?」
「ええ、そりゃあもう。ユートポーラから帰ってきてからずうううっとのろけ話でしたよ」
「嘘! そこまでじゃ……なかったと思うんだけど……」
へええ。冒険者ギルドではそんな感じだったんだな。
最近は隙を見て抱きついてくるようになったくらいだったが、俺の知らないソルテの一面だな。
「ソルテたんはわかりやすいっすからねえー」
「いやいや、レンゲさんも変わりませんから。普段よりも3割増しくらいで笑顔が輝いてましたよ?」
「えええ!? そ、そうだったすか!?」
「はい。アイナさんは……」
「私は大丈夫だろう?」
「ええ。ですが……今は目に見えている通りですよ」
「む……?」
何時の間にか椅子を寄せて俺のほうにくっつけているアイナ。
顔を上げるとすぐ側に俺の顔があるというほどに近くなっている。
「す、すまない主君……」
「いや、離れなくてもいいぞ。……少し汗をかいたから臭いかもしれないけど」
「いや、大丈夫だ。むしろその……嫌いじゃない」
俺の胸元へ顔を近づけてくるアイナに、流石にそれはと避けさせてもらう。
後で一緒にお風呂に入った後ならば、好きなだけどうぞだけどね!
「ほら。お三方とも分かりやすすぎますよ」
「そういうフレッダこそ。さっきから髪を気にしすぎじゃないかしら?」
「あー……いや、ほら。もふもふが好きって言ってましたし……私の髪って癖毛ですから……こういうのも好きなのかなー? って……」
「ん、やって欲しいのか? やるんなら、こっちだな」
取り出したのは髪用の櫛だ。
尻尾用とは違って目がもっと細かく、硬さも異なるのでしっかりと合ったものを使わねばならないからな。
ちなみに、ソルテやレンゲの尻尾をやる用の物は別に分けてある。
「……フレッダ? 貴方……主様が好きとか言わないわよね?」
「やだなあ。そんなわけないじゃないですかー。興味本位なだけですよ。私がそんな簡単に惚れるとかないないです」
「その自信……砕け散るに金貨10枚かけてもいいっすよ」
「お、言いましたね? その賭けに乗りましょうか! もし負けたら皆さんにアマツクニ式の最敬礼をして差し上げますよ」
後日、レンゲに金貨10枚を支払い、皆の前で土下座をするフレッダの姿が確認されたそうだ……。
ちなみに俺は、その姿を見てもいないし聞かされてもいなかったので、冒険者ギルドに行っても気づかずに髪の手入れをやってあげていたのだった。
書いちゃって、出来が思いのほか楽しかったから仕方ない。
仕方ないんだ!
はい。次からちゃんと王都に行きますので……。