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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
6章 温泉といえば
146/444

6-26 温泉街ユートポーラ 乱入者

活動報告にて、表紙絵の発表およびtwitterキャンペーン中です。

詳しくは活動報告でー! 2018/03/04

「仕上げ作業だ! 気合いれろおおおお!」

「「「「おおおお!」」」」


野太い男達の声が響くのを背に、俺は満足のいく表情を浮かべていた。

親方に言われたとおり粗さのあった部分まで丁寧に仕上げをすると、やはり出来上がりに満足のいくものとなったのだ。


「おう、いいじゃねえか」

「親方……ありがとう」


親方はというと、なんと屋根付きの休憩所を作ってくれたのだ。

のぼせた時にすぐに寝かせられるように柔らかめの木で作られたベッドまで用意してある。

これは、そういう意図で使っても問題ないのだよな?


「あとは壁と仕切りか」

「おう。そっちも準備完了だ。今あるもんをぶっ壊して、設置したら完成だな……」

「だな……。屋敷の方はやらなくていいのか?」

「そっちも問題ねえよ。今は仕上げだ」

「そうか……」


親方と二人で屋敷を見上げ、そして完成間近の温泉を見る。

どうだろうか? 皆は、満足してくれるだろうか?


Brrrrr――。

おっと、ギルドカードが光り、震えた。

誰かから連絡が来たみたいだな。


「おっと、悪い」

「おう。それじゃあ終わったら作業するから、呼んでくれ」

「ああ、頼んだ」


親方を見送り、ギルドカードを出すと名前が光っているのは……アイリス?


「はい、もしもし?」

『もしもしじゃないのじゃああああああ! お主! どこにおるのじゃ!』

「……うるっせえー……」


耳がキーンってなったじゃねえか。


『まったく! わらわがアインズヘイルにわざわざ遊び……視察に来てみたらお主はおらぬし!』

「あー……今はユートポーラにいるぞ」

『温泉街か! わらわも行く!』

『駄目ですよ姫様! 私達は仕事でアインズヘイルに来ているんですから!』


アヤメさんの声だ。

相変わらず大変そうだな……。


『ぬうううう……。退屈なのじゃ……。あ、そうじゃ。わらわが滞在中はお主の家にいさせてもらうぞ』

「それは構わないけど……管理はダーウィンの息子のダーマに頼んであるから、そっちに話を通しておいてくれよ?」

『うむ。もう通してあるから安心せい。おぬしらが帰ってくる時はわらわが出迎えよう』


いや、そこ俺の家だよな?

ただいまっていうのか、いらっしゃいっていうのかどっちが正しいんだ?


『そういえば、レインリヒからアクセサリは受け取ったぞ。良い出来であった』

「そうか。満足いったようなら良かったよ」

『代金は錬金術師ギルドを介しておるから、そちらで受け取ってくれ』

「了解」


レインリヒなら中抜きの心配もいらないしな。

あの人ならお金なんて本当に一瞬で稼いでしまいそうだし……。


『あ、あと――』

「アイスだろ? わかってるよ」

『うむ! 頼むぞ!』


いや、アイリスって言ったらもうイメージがアイスでかたまってるからな。

どうせそうだろうと思ってたさ。


「それじゃあな。まだ忙しいから切るぞ」

『うむ。なるべく早く帰ってきてくれ。わらわの滞在中には帰って来い。あー暇なのじゃ。オリゴールで遊ぶかのう』


いや、仕事しに来たんだから仕事しろよ。

用件は済んだのでアイリスとの会話を終わらせ、早速作業に入ろうと思ったのだが、


Brrrrrrr――。


あーはいはい。

お次は誰ですかー? って、隼人?


「おーう。どうしたー?」

『あ、お久しぶりですイツキさん!』

「いや、そこまででもないだろ」


この前焼きおにぎり食べたじゃねえか。

二回目の時はプッシュ式の醤油も手に入ったし、また作るのもいいな。

あー……でもお刺身も食べたい……。

あれ? この世界って生魚はどうなんだろう?


『そ、そうでしたね……』

「……」


……おい。何だその反応は。

お前さん、最近俺の前だと残念になってきてないか?

前の凛々しくて爽やかでTHE主人公感は何処に行ったんだよ。


「それで、どうしたんだ?」


隼人の名誉のためにも話をさっさと変えて、本題に移そう。


『あ、いえ。大したことではないのですが、少ししたら僕達はダンジョンに行ってきますので、連絡が取れなくなるとお知らせをと思いまして』

「ほー……そうか。ダンジョンかあ……」

『はい。なんでも、その最深部に魔王の一柱がいるという噂でして……』

「魔王……」


そういえば隼人は英雄で、魔王討伐なんかもしてるんだったな。

俺の平穏のためにも、死なない程度に頑張ってくれ!


『イツキさんにお願いされている月光草も、一緒に取ってきますね!』

「ああ、そうか。よろしく頼むわ」


月光草は霊薬に欠かせないからな。

せめて人数分の確保はしておきたいところだ。


「そっか……気をつけてな。しかし、タイミングが悪いなあー」

『タイミングですか?』

「ああ、今俺ユートポーラで露天風呂を作っててな。完成したら隼人達も招待しようと思ってたんだけどさ」


隼人やヤーシスなんかを誘った時のために仕切りも作ってるわけだしなー。

さすがに他の奴がいるときも混浴ってのはな……。


『わあ、温泉ですか!? しかも手作りとは……凄いですね!』

「んーまあ手作りっていっても、元々出来てる物を買い取って改良してるだけだけどな」

『それでも素敵ですよ! いいなあ……入りたかったなあ……』

「良かったら迎えにいくぞ? と言っても、まだ完成してないんだけどな……。今は大詰めってところか」

『おおー! 道中に数日掛かる予定ですし是非!』

「なんなら俺らは遠慮して、混浴に使うか? 隼人なら構わないぞ?」

『え!? あ……その、もしかしたら、お願いするかもしれません』


うんうん。

ちゃんと男の子してるね。

おじ、お兄さんは嬉しいよ。


でも、それと同時にあんなに純真だった子を、汚してしまったかのような背徳感がやばいね。

なんか俺、悪影響だったらごめんね!


「おっけいおっけい。でもまあ、完成したらな」

『そうですね。楽しみです! あ、ミィ!』

『お兄さーん! お風呂楽しみなのです!』

「おーミィか。元気してるか?」

『元気なのです! 次はレティに変わるのです!』

「はいはいー」


相変わらずお気楽そうで、元気が有り余っているような声だな。


『あんた……また変な物作ってるのね』

「温泉愛してるからな! 完成したら招待するから、隼人の背中でも流してやれよ」

『ばっ! そんなことするわけないでしょ!』

「いいのかー? 喜ぶぞー?」

『……心の片隅には置いておくわよ』


レティは相変わらずツンデレさんだなあ。

うんうん。隼人のところは相変わらずいい親交具合だよなあ。


『あの、お疲れさまです』

「おー。クリスか」

『はい! そのですね……ちょっとお願いがありまして、ホイップクリームの在庫が少なくなっちゃったので……』

「ああ、いいよ。次会うときに用意しておく」

『ありがとうございます! 皆美味しいって食べてくれて、今度お兄さんにもご馳走しますから!』


クリスの作るお菓子か。こいつは楽しみだな。


『……ウェンディ様は元気?』

「ん、ああ勿論」

「ご主人様ー! お茶を淹れましたので、ご休憩にしませんか?」

『……元気そうね。安心したわ』

「おう。笑顔満点。元気一杯だから安心してろ」


エミリーは元々沢山話すような子じゃないもんな。

霊薬のときは妙に饒舌だったけどさ。


『すみません皆が……』

「いいよいいよ。それより、出発はいつなんだ?」

『予定では明日か明後日ですかね。急ぐ旅というわけではないのですが、早いにこしたことはありませんから。あ、王都に来られる際は、フリードに言ってありますので僕の館を好きに使ってくれて構いませんから』

「お、それは助かるな。そういえばそろそろまたオークションが開催されるんじゃなかったか?」

『そうなんですよ。それで、ですね――』


「あ、馬鹿! 押すなっての!」

「ちょっと、倒れてない? 今私達倒れてるよね!」

「あらあら、まーくん? ちゃんと支えてね」


バタアアアン!


隼人の言葉を遮るように、誰かの声が三つ聞こえ、壁にしていた古い木材が倒れてきた。

そこに目を向けると、何やら女の子が二人倒れている。

そして、その下敷きとなった男がもぞもぞと這い出てきて来ると目が合い、


「見つけたぞチーレム野郎! 奴隷ハーレムなんて……俺が絶対許さない! 俺と勝負しろ!」


髪の色は黒。そして、目の色も黒。

更にはチーレム野郎ときたもんだ。

こいつはあれだな? 多分きっと間違いなく『流れ人』だろう。


つまりはこいつも、チート能力を女神様から貰っていると見て間違いないはず……。

そんな男が俺と勝負?

女神様から貰ったチートスキルが、『お小遣い』の俺と?


だがまあ、そんな事よりもまずはアレだ。


「……とりあえず、その状態じゃ格好ついてないぞ」


倒れたまま、熱血漢を出されてもね……。

とりあえず立ち上がってから冷静に、オハナシしましょうや。

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