6-24 温泉街ユートポーラ 負の集合霊
地味にtwitterを始めました。
広告や、活動報告に書くまでも無いけどお知らせや、投稿する予定の日なんかのお知らせとか出来たらいいなと。
前書きあとがきは、なるべくクリーンにいきたい。
さて……現在自分たちは未曾有の大ピンチに陥っているっす。
まあ自分は問題ないんすけど、二人がちょっと心配っすね。
アイナは……ともかく、ソルテがまずそうっすよね……。
『……い』
んーでも、ある意味チャンスなんすよね。
ソルテたんが自力で克服してくれれば、いい感じになるっすし……。
『……おい』
いやーでも、もってかれたら厄介なんすよね……。んーこっちから干渉していいものか……悩みものっすよね。
『おい! 聞いてるのか!!?』
「なんすか?」
『貴様、何故私の精神攻撃を受けておいて平然としている!』
「ああ、自分そういうの効かないんすよ」
目の前の負の集合霊はあまりの事実に固まってしまったみたいっすけど、まあそうなるっすよね。
「精神攻撃で負の感情を増幅させて、堕す系の集合霊っすよね? もう諦めて、二人も解放しないっすか?」
横にいる二人は今は生気を感じさせない瞳で、立ちつくしている。
多分、こいつの精神攻撃を受けている最中なのだろう。
『そんな事出来るか! ほら、貴様もあるだろう。ご主人とかいう男に対して嫌な感情の一つや二つ!』
「そりゃああるっすけど……」
『それだ! それを膨らませろ!』
「いやあ……」
『……なんだその引いてる目は! なんで、私に対して負の感情を膨らませているのだアアアアア!』
いやだって、心を覗いて意中の相手を知ってる時点で相当気持ち悪いっすし……。
それと、ご主人に対して不満がないわけないじゃないっすか。
空気を読みすぎたり、逆に肝心なところで読まなすぎたりとか、変なところに引っかかってたりとか。
でも、不満も含めてご主人が大好きなんすから。
それにさっきから言ってるっすけど、そういうの効かないように育ってるんすよ。
「んーどうやら他の魔物に精神攻撃中に襲われるって事はなさそうっすね」
『ぐ……』
「大した事ないっすねえ……」
『なんだと!? 幾多の冒険者を屠ってきた私に、大した事ないだとう!?』
「いや、だって精神攻撃中に他の魔物に襲わせたほうが絶対効率いいっすよ?」
『それだと私の腹が膨れないではないか! 負の感情のスパイラルに陥った者の生気を死ぬまで貪り続ける事が私の生きがいなのだ!』
「死んでるじゃないっすか」
『うるせえええええ!』
なんか元気な霊っすねえ。
自分には害はないみたいっすしこのまま様子を……お?
「……らな。主君はたまに真面目な顔をして、ん?」
おっと、アイナが戻ったっすね。
「おお、レンゲ。ただいま」
「おかえりっす。どうだったっすか?」
「ふむ……よくわからなかったな。主君の悪い点を聞いてきたのでどれだけ主君が優れているかを語っていたのだが……元に戻されたみたいだ」
「おお……それはご愁傷様っすね……」
多分何度も同じ話を繰り返してたんだと思うっす……。
口を挟む間もなく繰り返されるご主人自慢に、負の集合霊も流石に挫折したってところっすかね……。
「あとは……ソルテか」
『ぐっ……』
「そうっすね。外から起こしてもいいんすけど……」
「ああ、少し待ってみるか」
『ふん、いいのか? 完全に堕ちてしまえば呼び起こす事はできなくなるぞ』
「いや、できるっすけど?」
『そんな訳があるか! 私に干渉できるなど、聖職者か巫女と呼ばれる姫のみだ! 貴様はどちらにも見えん!』
「失礼な奴っすね。それに効かなかったくせによくそんな偉そうに言えるっすねえ……」
『うるせえええええ!』
「なんなのだこの負の集合霊は。情緒不安定か?」
『もう、なんなんだよこいつら……』
おお、負の集合霊がへこんでるのなんて初めて見たっす。
でもまあ、相手が悪いとしか言いようがないっすね。
一先ず今は、ソルテが自力で戻ってくるのを信じて待つしかないっすね。
もし危なそうなら……こっちからなんとかするっすけど、頑張って自力で戻ってきて欲しいっすね。
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……。
…………。
ここは……。
確か、ダンジョンのボス部屋みたいな大広間に入ったら、負の集合霊が現れて……。
はっ、そうか精神攻撃を受けて……。
『そうだ。ここは私の世界』
「っ……出たわね」
『ああ。くく、貴様は二人とは違うようだな……。良いくすぶりを感じるよ』
「なに……を……」
あれ……頭が……ぼーっとして……。
『ククク。なんだ、貴様も想い人がいるのか。それも仲間と同じとは……』
想い人……主様?
『そうだ。主様だ。どれ……ほう。なるほどな。あった当初は随分と乱暴な扱いだったようだな』
それは……アイナを守る為に……。
でも……。
『ああそうだな。だが今では好いていると……随分な話ではないか』
……。
『ほーう。貴様のせいで、ずいぶんと酷い目にあったようだな』
レンゲの……でもあれは、そうなるなんて思わなくて……。
『だが、事実貴様のせいであの男は負わなくてもいい傷を負ったのだ。ククク、酷い話だ。これ以上の酷い話は聞いたことがない』
あれは……あれは……。
『今までの所業を踏まえて、貴様が惚れたところで、あの男が貴様に惚れると思うか? 事実、まだ手を出されていない事が何よりの証明であろう?』
それは……。
『止めた方が良いのではないか?』
「っ……」
『貴様が近寄る事を、良しとせぬのではないか?』
「そう……なのかな……?」
都合が、良すぎるのかな?
確かに、私は今まで何度も酷い事をしてきた。
主様なのに、何度も噛み付いて槍で襲いかかったこともある。
……迷惑なのかな? 好きになっちゃ、駄目なのかな?
『ああ、そうだ。迷惑だ。貴様に、あの男を好きになる資格はない』
「そう……なんだ……」
好きになっちゃ、駄目なんだ……。
私なんかが……好きになっちゃ駄目なんだ……。
この想いを……抱いていたら……駄目なん、だ……。
瞳の奥からとめどない涙が溢れ出してくる。
ここは精神攻撃の世界。
だから、涙なんて流れるわけないのにそれでも涙が流れ落ちていってしまう。
『クククク、あと一息だな……』
私は……これからどうすればいいんだろう……。
『なに、悲しむ必要は無い。貴様が愛する価値のある男ではなかったのだろうさ』
「え……」
『どれ、奴の本質を写してやる。人間の醜さを、汚さを、内に秘めた悪しき心を見せてやろう』
負の集合霊が言い終わると、頭の中にイメージが入り込んでくる。
そのイメージは主様の姿へ、徐々にはっきりと変わっていった。
『クククク! どうだ! 好いた男の醜き姿は!』
【……い】
「え……?」
『ハッハッハッハ! 言葉も出せぬような事実か! どれ、私も覗き見してやろう!』
【おっぱい!】
「『……』」
【おっぱい祭りだひゃっほおおおおう!】
イメージは、主様が裸の女性に囲まれて情けない顔をさらしながら大きなおっぱいに頬ずりしているところだった。
『……なんだこれは……』
嫌だけど、その気持ちには同意する。
当然だけど、おっぱいの持ち主であるウェンディやアイナの姿もそこには映し出されていた。
『貴様はこんな男が好きなのか!?』
「ふふ……ふふふ……」
【おっぱいバタフライだ!】
主様やめて! なんかもう恥ずかしい!
泳げないから! おっぱいの海じゃ泳げないから!
『……私が言うのはなんだが、本当に止めた方がいいんじゃないか?』
「やめて……言わないで……」
ああ、本当……堕ちちゃおうかな……。
なんだかとても悲しくなってきた。
私、この人が好きなのよね……。
おっぱい好きのこの人が。
でも私は、ちっぱいだし……大きくなる希望ももうないだろうし……。
自分の胸に手を当てると、何かに触れる。
主様から貰った……私のことを想って作ってくれたペンダント。
そうよね。待っててくれるんだもんね……。
『……気を取り直そう。どうだ! この男の最低な部分を見た感想は!』
「そうね……最低よね……」
『そうだ! この男は最低だ! 貧乳のお前をないがしろにするこの悪魔の所業! 酷く傷ついただろう! 嫌になっただろう!』
ええ、そうね。
本当……嫌になるわよ。
男って奴は……どいつもこいつもどいつもこいつもおっぱいおっぱい……そんなに脂肪の塊がいいのかしらね?
ああ、そうね。私は貧乳だものね。ちっぱいだものね。
主様の夢にはなれないわよね。
「はぁ……」
『どうだ? 貧乳の貴様が今更告白したところで……』
「貧乳貧乳うるさいわね! ぶっ殺すわよ?」
『…………あれ?』
「はあ……。あーアホらしい。何を今更……主様が私に惚れるかどうかなんて、そもそも関係ないじゃない!」
そうだ。
あくまでも私が気持ちを伝えたいだけだもん。
主様が私に惚れてくれなくったって関係ないもん。
それに――。
『だ、だが貴様は十中八九ふられるぞ!』
「ふられたって構わないわよ。ふられたら、また告白するもの」
『なっ……!』
「初恋も、その次の恋もずっと主様にするの。何度だって好きになる。だから、私は諦めない!」
『だ、だが! だがぁ!!』
「失せなさい。それと、ありがとう。私の弱い部分を改めて教えてくれて。お礼に綺麗さっぱり消し去ってあげるわよ。安心して、成仏しなさい」
『いやだ! やめろ! 堕ちろ堕ちてくれ! そんな希望に満ちた顔はやめてくれえええええええええええ!』
目の前にいた負の集合霊は見る見る小さくなっていき、そして消滅してしまう。
閉じられていた光が戻り、周囲に目を向ける。
すると、アイナとレンゲがこちらを見てニヤニヤとしていた。
「ただいま」
「おかえりっすー」
「ああ、おかえり」
どうやら二人も無事だったみたいね。
まあレンゲはこういうのに特段強いからね。
巫女……の修行だったかしら?
負の集合霊を倒した事で、入り口と、更に奥へと進む道への扉が開かれる。
どうやらこいつが強敵……ではなかったようだ。
中ボス? みたいなものだったのかしら。
ダンジョンみたいね……。
「クフフ……ソルテたん、乙女っすねええ。きゅんきゅんきたっすよ!」
「なによ……にやにやして……」
「『何度だって好きになる。だから私は、諦めない!』」
なっ……。
「お、おいレンゲ……」
「そう。聞いてたのね……」
「ばっちりっす! いやー! 乙女ソルテたん爆裂っすね!」
「そう。ならいいわよ。その通りだもの」
「お?」
恥ずかしいけど、確かに恥ずかしいけど!
穴があったら引きこもりたいくらい恥ずかしいけど!
でも、事実だし堂々とすればいいのよ! そうよね! それでいいのよ!
「成長したっすねえ……」
「……なに感慨深く見てんのよ」
「ふふ、何度でもか……そうだな。私もそうしよう」
「アイナは大丈夫っすよ。おっぱいっすから!」
「ちょっとまって、何処から聞いてたの!?」
「全部っすよ? ソルテたん口に出してたっすし」
全部? 全部ってまさか……。
ちっぱいについての会話も?
「それにしてもソルテは何を見せられたのだ? あの会話は……?」
「気にしなくていいから! というか、出来れば思い出したくないの!」
あんな主様の姿は一生に一度でいい!
それに、アイナのあんな……あんな淫らな姿をアイナに見せられるわけないでしょ!
「むう……また秘密なのか……」
あーもう! さっさと先に進むわよ!
まだ終わりじゃないんだから!




