6-21 温泉街ユートポーラ 作業中
遅くなりました……。
案内人さんが叩き割った岩の残骸、もとい適当なサイズになった石を持って錬金小屋に入り、大、中、小でサイズ分けを済ませ、更に色の濃いものと薄いもので分ける。
六通りになったところで、その中の一つを手に取り『錬金』を唱えた。
今回行うのは手形成。
と言っても、粘土のように丸く捏ねるだけなのだが……。
そして完成した楕円形の球体と同じ分類のものを魔法空間にしまい、今度は贋作を使用する。
はい、一サイズ完成。
いやー楽だね。 嘘だろ!? ってくらい楽々簡単に玉砂利の完成だ。
もはやこんな単純作業ならば日に何度も行えるレベルになっているという事態に、女神様に感謝を述べなくては!
ありがとう女神様! なんでか知らないが、錬金のレベルがあっという間に上がるようになっていてありがとう!
頼むからミスだった! とか言って、レベルを下げるような真似はやめてくれよ?
もう元には戻れないからね!
一度楽を知ってしまうと、人間ダメになると思う。
さて……。
ここで困った事が一つ起こった。
扉の前に、自分のスカートを掴んで、泣きそうな顔でこちらを見つめる美少女が一人。
「あー……どうしたんだ? ウェンディ?」
「おし、お仕事……取られてしまいました……」
「取られたって……男衆にか?」
「あ、姐さんにゃあ、やらせられねえ。頼むから、俺達にやらせてくれ。いや、俺達がやる! って……」
んー? 手伝ってくれるんだったらよくないか?
それに、俺が頼んでしまったとはいえ重労働だろうしウェンディには少し大変だったかもしれないしな。
「ご主人様から賜ったお仕事ですのに……。私……役立たずで……」
いやいやいや。
そんな事は無いって。
温泉を見つけてくれただけで十二分の働きだっての。
それに、無理して手伝わなくても構わないしさ。
とはいえ、どういうことかは聞かねばならないよな。
ウェンディを引き連れて外にいる男衆に話を聞くことにした。
「と言うことなんだが……一応理由を聞いてもいいか?」
「あー……えっとですな……」
男衆に話を聞くと、どうにも話しにくそうにしている様子。
まさか作業が大好き! ってこともないだろう。
「旦那……ちょっと……」
「ん?」
手招きされて近づいていくと、まるでウェンディには聞こえないように話そうとしているのだと感じ取る事が出来た。
まさか、まさかとは思うが、ウェンディに惚れた! とか言うんじゃないだろうな!?
「その……ですな。見てもらえばわかるんですが、こいつを使うとこうなるんでさあ。ここ、掴んでてくだせえ」
男の肩に手を乗せ、起動させるとすぐにわかるほどの振動が伝わってくる。
あれ、俺のときはそうでもなかったんだけどな。
DEXなどのステータスに関係があるんだろうか。
「見ての通り、すげえ振動するんです。それにこの構えなんですが……」
男の姿勢はまるでゴルフのスイング前のように、両手を前にして棒の部分を持っている……。
あー……なるほど。
「お分かりいただけやしたか……?」
「すまん。配慮が足りなかった……」
男の俺では気がつかなかったが、ウェンディは女性。
更にはとても大きく魅力的なオッパイの持ち主だ。
そんな女性が、胸を強調するように前方向に棒を持ち、更には強烈な振動を起こしているのだ。
「若いのが……倒れやした……」
男が指差す方向を見ると、仰向けに寝かされ、顔の上に白い布を置かれている男が一人。
白い布は、赤い血ですでに染まっており、動悸も激しいように見えた。
「おぱ……おぱあ……ぶるんぶるんって……っ!!」
うなされている……? いや、あれはきっと目に焼き付けた光景を、記憶に刻んでいるのだろう。
つまり、あの血は鼻血か。
よし、記憶を無くすまで殴るか。
「ってな感じでして……。男としては、見ちゃいけねえってわかっちゃいるが抗えない魔力を秘めてやして……これ以上は……ってことで」
「悪かった……。作業内容がわかっているならそのまま頼む」
「了解でさあ。姐さんには上手い事言っておいてくだせえ……」
はぁー……俺も見たかった……。
羨ましい。……じゃねえ!
「ウェンディ」
「は、はい! 私、お手伝いしてもいいですか?」
「いや……あー……そうだ。皆さんに飲み物を作ってやってくれないか? ウェンディが作る飲み物は絶品だからな。是非お手伝いしてくれている皆さんに振舞ってやってくれ」
「え、はい! わかりました! 腕を振るいます!」
「ああ、できればたっぷり時間をかけて、労いの気持ちを極限まで詰め込んで、今までで最高に美味い飲み物を作ってくれ」
「わかりました! 誠心誠意、一滴にいたるまで気持ちを込めて作らせていただきます!」
「それならうちの女将衆のところに行ってくださいな。多分入り口の方にいると思うんで!」
「わかりました! 頑張ります!」
ウェンディが駆け出し、俺と男が顔を見合わせる。
「……ウェンディが帰ってくる前に終わらせるぞ」
「承知しやした。即行で終わらせやしょう」
コクリと頷く俺と男衆。
そこからの作業はあっという間だった。
流れるように作業を進め、まさにシンクロ状態。
無駄が無く洗練されたような動きで、ウェンディが帰ってくる前に俺達はこの作業を終わらせる事ができた。
汗だくになり、はあはあと息を荒げながら俺と男衆が顔を見合わせる。
サムズアップをすると、男衆も返してくれた。
その笑顔は、とても良い笑顔であった。
その後飲んだお茶の味を、俺は忘れる事は無いだろう。
男衆が自分達の仕事に戻ったので、俺はウェンディと錬金小屋に入り先ほどの作業を続ける事にした。
ウェンディはにこにこと微笑みながら俺の隣で俺の作業を見ているという状況。
「見てて楽しいか?」
「はい! 凄く楽しいですよ!」
何処からどう見ても上機嫌に見える。
石をこねて丸めているだけなのだが、見てて楽しいものなのだろうか?
「ご主人様って、錬金をしている時はとても真剣なお顔でなさってますよね」
「えっと、そうか? 自分じゃわからないんだが……」
「はい! いつも、真剣になさっていて格好いいんです」
「あー……」
正面から言われると恥ずかしいな。
照れて顔を合わせづらくなり、俺は作業に集中しようとしたのだが錬金をしている時が格好いいといわれると、それすらも意識してしまう。
「うふふ」
ウェンディが微笑んでいるのが見なくてもわかる。
顔を逸らすと、ぎゅっと横から抱きしめられてしまう。
「大好きです。ご主人様」
「俺も大好きだよ」
「うふふふ」
「おおう……なんですかこの究極的な甘い空間。匂いすら甘く感じるんですけど」
案内人さんが、いつの間にか俺達を見下ろすように立っているが、小屋に入ってきていたのに気がつかなかった。
だが、ウェンディは離れようとせずむしろもっとぎゅっと押し付けるように力を込めていた。
「もう、邪魔しないでくださいよ」
「いやいやいや。まだお昼過ぎだっていうのにこんなところであんあんうふふをされても困りますし……」
「あれ、もうお昼過ぎだったか」
「そうですよう……。誰も食べないから一人で食べづらいですし、お腹空きましたし、何処かに食べに行きませんか?」
「あー……そうだな。それなら、何か振舞うか」
「おや? お料理が出来るので?」
「ふふふん。ご主人様のお料理は絶品ですよ!」
「おおー。本当に絶品でしたらお触りくらいは許して上げますよ?」
お触りって。……いいんですか?
だが、絶品……って程ではないと思うぞ。
料理スキルのレベルは関係ないようだが、俺まだレベル1のままだしさ。本当、なんでレベル上がらないんだろう。
「ご主人様! お手伝いいたしますね!」
「ああ、頼む。とりあえず親方達はどうするのかわからないし、女将さんのところに行ってみるか」
女将さんたちは入り口付近にて簡易テントを作り、そこに洗い場や休憩所なんかの施設を作っているそうだ。
調理道具なんかもそこでなら借りられるかもしれないし、何か作るようなら混ぜてもらおう。
「なんだい料理を作るのかい? それならあいつらの分も頼むよ」
「ああいいけど……女将さんたちは作らないのか?」
「あいにく、アマツクニからの食材供給がまだでね。こっちの食材は……ちょっと扱いきれなくてね」
「そうか……あ、じゃあ米は出すから握り飯でも作ってくれるか?」
「いいのかい?」
「ああ。英気は養ってもらわないとな」
それに、これからはユウキさんから安定して供給されるしな。
アマツクニの人ならば、やはり米がいいだろうさ。
「それじゃあ遠慮なく使わせてもらうよ」
普通の袋を魔法の袋のように隠蔽しつつ、中からお米を取り出して手渡すと、流石はアマツクニの女。あっという間に釜炊きの準備を始めてしまった。
「さてと……。何を作ろうかな」
「やはり男性が多いですしお肉でしょうか?」
「だな。焼いて、煮て……味付けは普段どおりでやるか」
「はい! それでは私はお野菜を……」
「あんたはこっちだよ」
「え、あ! ご主人様あああぁぁぁぁ……」
お、おー……。
ウェンディがあっという間に女将さんに連れられていってしまった。
ま、まあ。危険はないだろう。
それに、釜での炊き方をウェンディが学んでくれれば家で任せる事が増えるしな……。
それじゃあ俺は……大量の肉を焼くとしよう。
シロが見たら、涎垂らして羨ましがりそうだし余ったら貰っておくかと思いつつ、焼いては魔法空間にしまっていく作業を繰り返すのだった。
熱々のまま提供された肉はあっという間に男達の胃の中へと消え去り、余るどころか追加で肉を焼くはめになり落ち着いて食べる事は出来なかったが、案内人さんがおかわりをするなど、思ったよりも食べていたのが好印象でした。
次の投稿も……多分少し遅れるかなあ。




