6-14 温泉街ユートポーラ 到着
皆様あけましておめでとうございます。
長めのお休みを戴きましたが、今年もまったりよろしくお願いします!
さてさて、今日も今日とてまったりと進む。
今はアイナが手綱を握り、荷台には皆揃っている。
昼食を食べ終えると、この先は弱い魔物しか出てこないとのことで食休みを、といったところだ。
警戒は荷台の梁に乗ったシロに任せ、そろそろ丘を登りきるというところ。
「ん」
「お」
眼下に広がった先、街道を進んでいくと突き当たるのは久しぶりの建造物だ。
街を囲むような大きな壁、そしてその中には様々な建物と、湯気だと思われる白い煙。
「ついに到着かな?」
硫黄泉というわけではなさそうだ。
あの独特の卵が腐ったような匂いがしない。
獣系の亜人であるシロや、ソルテやレンゲには硫黄泉はきついだろうと思っていたのでそれは良かったな。
「んー……! いよいよか!」
「そうだな。着いたらまずはどうする?」
「とりあえず宿を探すか。アイナ達も一泊はするんだろう?」
「ああ、私達はまず冒険者ギルドに行って、その後は準備だな。とは言っても、食料などは殆ど消費せずに済んでいるし、一泊で十分だろう」
「そっか……そっちもいよいよだな」
「ああ……」
そう。
温泉街に着いたら、アイナ達は洞窟へと向かうのだ。
約束を守り、俺は一緒には行かない。
俺はな。
本当に、この街で待機する。
散々悩み、シロと相談した結果だ。
『シロが守る。勝手に行動したって事でいい。嫌われるのは、シロでいい』
『……俺が頼んだんだよ。シロだけの責任にするつもりはない。だから……頼む。どんな形になってもいい。シロと、アイナ達三人とも無事に戻ってきてくれ』
『……わかった。シロが、主に約束する』
と言うことで、シロに陰ながらの監視を頼んでいる。
情けないよな……本当に。
ここまで来てるけど、何も出来ないんだからさ。
「はあ……」
「そう不安そうにしないでくれ。大丈夫。ちゃんと戻ってくるさ」
「そう……だな」
「それに、せっかくの温泉街なんだ。主君は温泉が好きなのだろう? だから、私達がクエストに行っている間に主君が見つけた最高の温泉宿を紹介してくれ」
「……おう。戻ったら、背中流してやるよ」
「ふお……。お、お願いしよう」
想像だけで顔真っ赤だぞ。
まあかく言う俺も楽しみだけどな!
門でのチェックを無事に終えて街の中に入る。
まずは馬と荷車を返さないとだ。
長旅ご苦労様。
残念ながら帰りは転移で帰る予定なので、借りた店のユートポーラ支店へと返却した。
労いと別れを込めて頭を撫でると、伝わったのか小さく「ヒヒーン」と嘶く二頭。
最後に、余ったキャキャロットとウェンディが生み出したお水を与えると、俺たちはお別れを果たした。
「さて! それじゃあどうするかな」
「私達は冒険者ギルドに向かうわよ」
「おう。んーアイナが言っていたサービスでも探して――」
「こんにちはー! もしかして、もしかするとユートポーラ観光案内サービスをお探しですか!?」
突然接近してきたのは、古典的な外で活動する研究者のような格好をした女性。
丸い鍔の帽子、ポケットの多い服、そしてレンゲのように太ももを露にした白っぽい服装だ。
そしてなによりテンションが高く、腰をふりふりと揺らしている。
「この街は初めてですか!? それなら是非ご利用してください! よろしければ私が手取り足取りお教えしますよ! なんとお値段一日3万ノールでご案内です!」
「あ、ああ。初めてだし、せっかくだから頼もうかな?」
「わお! 値段交渉もなしなのですね! それでしたら調子に乗って、指名とVIPもお願いできませんかね?」
え、何?
どこぞのキャバみたいな感じのサービスなの?
「えっと……それをするとどうなるんだ?」
「私のサービスが良くなります! 例えば……」
さっと手を取られ、太ももの間に挟まれる。
うおい! いいのかこれ!? いいのかこれ!!?
「どうですか? 今なら指名料、VIP料、案内料金込みでお値段なんとジャスト5万ノールで――」
「よし。これでいいな?」
面倒だ。
金貨一枚出してやる!
これで二日分だろう?
明日も案内してもらおうじゃないか!
ユートポーラ最こ……あ。
しまった。
俺一人で来てるわけじゃないんだった!
「むう……ご主人、ふとももなら自分が一番って言ってたっすのに……」
「……アイナ。冒険者ギルドに行くのって、後回しでもいいんじゃないかしら?」
「そうだな。まだ時間はあるし、夕刻でも構わないだろう」
「あははは。では二日分、しかと受け取りました! それではご案内させていただきますね。まずは何処から参りましょうか!」
「あーえっと……」
「二人きりになれる場所にしますか? お値段……別料金ですけども……」
いやいやいやいや。
今のこの状況でそれはまずいだろう。
というかお姉さん? 状況もう少し理解して!
いや、理解したうえで誘ってるのか!?
「ご主人様……」
「ん……」
「あー……いや、まずは宿から頼む。当然! 6人で泊まれる部屋な!」
「かっしこまりましたー! 料金に制限などはありますか?」
「特に無いな。高くてもいい所なら構わないぞ」
「おお……見かけによらず、お大尽様なんですね! それじゃあ私が知る限り、最高の宿へご案内しますよ!」
そういうと手を上げて進みだす案内人さん。
歩き方が……、その……お尻を振るようにしているせいかね。
ぷりんぷりんなんです……!
嗚呼……上手い商売だな。
案内を主としながらも、こうして客を誘い出すと言う訳か。
だが残念!
本当に残念!
今回俺が案内以外を受ける事は無いのだ。
受ける事は……無いのだ……。
背後からの視線が怖いからね!
しかも、俺に向いているわけじゃないってのが尚更ね!
「怖いですねえ……。でも、こっちも仕事ですので……」
わお。
このお姉さん……まさしくプロだ。
この状況であろうと金払いの良い客を逃がさんとしているその根性……ある意味尊敬します。
「おっと、宿の前にこの茶屋で名物のエイトアイはいかがですか? もう、精力増強効果や、疲労回復効果が凄いですよ?」
道中、家屋から良い香りの煙が漂うお店の前で止められると、なにやら大きなツボのような物で魚らしき何かを焼いている。
エイトアイ……?
あ、八目か。
「ユートポーラは魚が名産なのか?」
「そうですねえ。エイトアイもそうですが、七色イワナやヤマメアリゲーターなんかも、ユートポーラでしか食べられないと思います。魚以外ですと、雪原ウサギも美味しいですね。マッスルキリンはちょっと固いですが、味は悪くありません。後は、工業製品だと硝子細工なんかも有名ですよ」
「へえ。シロ、エイトアイ食べるか?」
「ん、でもそれは主が食べた方が良い」
「……いや、うん。じゃあ貰っとく」
一応ね。
混浴とかもあることを考えるとね。
あっちのお薬は……効果が強すぎるしね。
ほかの皆にもお勧めしてみたのだが、結局食べたのは俺一人だった。
味は、うん。
普通にウナギの素焼きみたいな感じ。
出来れば甘じょっぱいタレで、白米と戴きたいって感想だ。
「はい、到着でーす」
案内人さんが案内してくれたのは、それはもう立派な建物であった。
「ここは温泉完備ですし、料理もユートポーラの特産品を使った物を、一流のシェフが調理しますので絶品ですよ! ただ、お値段はお一人様一泊10万ノールほどですけど」
「ほーう。それじゃあせっかくだし、ここにするか」
「おおお……。即断即決ですね……。どうです? 彼女達とは別の部屋を余計に取ったりしません?」
「しません……」
気づいて!
背後からの視線に気づいて!
っていうか貴方様に向けられた純粋な〇意に気づいて!
俺はもう……怖いよ君が!
「ふう。まあいいでしょう。マージンも入りますしね」
あ、そういうこと言っちゃうんだ。
まあそんなもんだと思ってたけどさ。
「あ、でもご安心を。間違いなく良い宿ではありますから」
「おう。流石にそれは期待してる。もし違ったら、明日は別の案内人に頼むしな」
「あはは。流石にしっかりとお代金を貰ってますし、お仕事はしっかりさせてもらいますよ」
「ならいいよ。それと、遅くなったけど今日と明日よろしく頼むな」
「はい! それじゃあよろしくお願いしますね」
「あ」
しまった。宿を決める際に大切な事を忘れていた。
「え? え? どうしましたお客さん……いきなり肩なんて掴みなさって……もしかして、私と秘密な事したいんですか?」
「それはない!」
「うわ、断言されると自信なくします……。私、これでも人気あるんですよ……?」
うんまあわからなくもない。
お金さえ払えばちゃんとしそうだとは思うし。
もし俺が一人でここを訪れていれば、お願いしたかもしれないけど……。
今は無理だから!
そんな事より、こっちの話だ!
「……ここの宿、貸切風呂もしくは家族風呂、つまりは混浴は可能か?」
これ大切。
出来なければ、この宿はダメだ。
「あー……そっか……知らないんですね……」
「知らない……?」
おいやめろ。
なんだかとてつもなく嫌な予感がする。
「ええ、つい先日からユートポーラの宿では混浴が禁止になったんです」
……。
………。
…………。
うそ……だろ……?
- ??? Side -
……今の男……一人は案内人だったみたいだけど、それ以外は美人を沢山連れた流れ人だったよな。
「真。早く早く! エイトアイ焼きたてだって!」
「ん、ああ……すぐ行くよ。美香」
「まーくん。どうしたの?」
「さっきの男……あれが、多分……。いや……案内人と居たって事はまだ暫く滞在するだろうし、後にするか。……それより、まーくんはやめてよ……」
「うふふ。異世界だろうと、私にとってはずっとまーくんよ」
はあ……。
せっかく異世界に来たっていうのに、どうして幼馴染と一緒になんだろう……。
さっきの男……流れ人で美少女を多く連れている。
俺が聞いた噂と、照らし合わせても間違いなくあの男だろう。
猫人族の子もいたし……。うん。間違いないな。
「ねえまーくん? 勝手に突っ走らないでね?」
「え、あ、う、うん。大丈夫だよ」
「……その言葉、何回こっちで聞いたのかしら……」
「大丈夫だって。美香も、美沙姉も俺が守るからさ」
二人がいるから、異世界ハーレムは諦めた。
というか、諦めざるを得なかった。
でも、もう一つの願望は叶えたい。
だから……。
「首を洗って待ってろよ……ハーレム野郎」
「まーくん? 言葉遣いが悪いわね」
「あ、いや! 違くて! ちょっと格好付けたかっただけで!」
「真遅い! 焼きたてだって言ってるでしょ!」
「ご、ごめん美香。すぐ行くから!」
……ま、待ってろよ……。
クリスマスSSを一時的に削除いたしました。
再投稿は6章終了後に閑話として行います。




