6-5 温泉街ユートポーラ 帰還報告1
間に合った!? よね?
レビューを戴きました!
詳細は活動報告に!
さて……現状の説明をしようか。
今俺は、多分だが横になったまま瞳を閉じている状態だ。
視界は0。ただし、瞼の先がなんとなく明るくなっているように思えるので朝なのだろう。
首と胸、そして胴や脚にぬくもりを感じている。
これは、誰かが密着しているという事かな。
昨日の夜、レンゲと話しながら何時の間にか眠ってしまったと考えれば、この密着している人物はまずレンゲで間違いないと思われる。
そして風の当たり具合を考えるに、今おれのシャツはめくれ上がっているのではないだろうか?
さらに、密着しているレンゲの感触が、布類ではなく肌のような質感である面積がとても多い気がする。
元々レンゲの格好は普段とあまり変わらない、露出度高めなヘソだしルックではあったが、それにしたって多い気がする。
そして、ここが問題なのだが……
この周囲の気配は誰だろう。
一人ではない、少なくとも3人はいると思われる。
しかも、その中の一人は超至近距離で俺を見つめているような気がする。
「……起きた」
……なるほど。見つめているのはシロだったか。
そしてその通り、俺は起きた。
最早ばれているのだろうと薄らと目を開き、眩しい太陽に目を細めたまま周囲を窺った。
「……おはよう」
「ん、おはよ」
「おはよう。主君」
「あんた……外でレンゲに……」
「夕べはお楽しみだったのですか?」
……ふむ。
全員集合だね。
ウェンディ、アイナ、ソルテ、シロ全員が俺の周囲にいたようだ。
そして、レンゲなのだが……。
「……なんでそんなにはだけてるんだ……」
レンゲは俺の首に手を回し、身体全体を俺に密着させていた。
俺同様シャツはめくれ上がったまま、大事な部分だけは隠すように密着したままだった。
そしてズボンなのだが、膝下まで降りており、下着まで微妙にずれている状態で、脚を絡めている。
すぅぅー……おかしい。
寝る前までは普通に話しながら横に並んで寝ていたはずだ。
俺の記憶ではそうなっている。
変なことをした覚えは無い……ということはだ。
「レンゲって、寝相悪いんだな!」
「いや、レンゲはこう見えて寝相はいいほうだぞ?」
……。
じゃあもう説明がつかないよ……。
でもどっちかだよね?
俺がやったのか、レンゲが自分でやったのか……。
多分俺的には後者だと思うんだけど……。
「ふわあああ……んー……? なんすかあー? おお! 何か服がはだけてるっす!」
「レンゲが自分でしたんじゃ……」
「あー……。いや、多分いつものご主人のっすね……」
「「「「ああ……」」」」
変に納得されても困るんですけど……。
いつもの、で納得するの? できるの?
「え、俺って寝相悪い?」
「寝相が悪い……ということではないのですが……」
「そうね。悪いわけではないわね」
「ん。主は寝ててもシロを喜ばせてくれる」
「喜ばせ……そうだな。悪くはない……からな」
なんだろう。
凄く不安になる。
自分の意識が無い状態で俺は本当に何をしているんだ!
「主君。我々は気にしていないのだから、主君が気にするようなことではないぞ」
「そうですね。ご主人様は今までどおりでよろしいんですよ」
「そうっすよ! 昨日は普段より凄かったっすけど……自分は全然気にして無いっすから!」
……そう言われてもな。
何かあるのなら教えて欲しいんだが……。
「さあ、朝ごはんの準備をしましょうか」
あれ、もうこの話終わり?
「そうね。今日は私達も冒険者ギルドに顔を出さないとだし……。主様、ポーション出すんだったら私達で出してくるわよ?」
「いや、俺も行こうと思ってたんだが……」
「主君は回るところが多くて大変だろう? 冒険者ギルドは、次にポーションを卸す時にしても、構わないのではないか?」
うーん。
二人がそう言うならそうするか。
「それじゃあ後でポーションを渡すから、よろしく言っておいてくれ。一応各種多めに用意してあるから、足りないって事は無いと思うが、足りなかったら遠慮なく言ってくれ」
「ああ。了解した」
さて、今日は錬金ギルドにメイラやオリゴール、それとヤーシスのところにも顔を出さないとだな。
お土産……は、王都のお菓子でいいよな。
保存が利くからと人気のお菓子を隼人に貰ってしまったし、おすそ分けおすそ分け。
「それじゃあウェンディ、朝食作るか」
「はい。ご主人様」
今日の朝食は、パンとスクランブルエッグ、それに厚切りのベーコンと、コーンスープでいいよな。
洋風朝ごはんのド定番だが、これがまた美味い。
せっかくお米が手に入ったのだし、和風朝ごはんにしたいものだが、醤油や味噌がない以上献立を考えねばならないし、どうせなら前日から仕込みをしたいので、また今度の機会だな。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「では私達も冒険者ギルドに行くか」
「積もる話もあるだろうし、終わったら先に帰っていてもいいからな」
「わかったっすー! クエストも受けてくるっすからね!」
クエスト……。
昨日レンゲに聞いた話では、その強敵とやらはクエストボードに随分昔から貼られているらしい。
昔は一攫千金を夢見て、クエストを受ける冒険者が多かったらしいが、例外なく挑戦した冒険者達は帰ってこなかったとのことだ。
王国領を北東にずっと進んだ先のとある洞窟。
全ての冒険者ギルドのクエストボードに張られている、高難易度クエストの一つ。
強力な魔物が封印されており、洞窟から出る事は無いらしいが、濃度の濃い魔力が溜まっておりそこから多くの魔物が生み出されているとのことだ。
そんなクエストを、こいつらは受けようとしてるんだよな……。
「それじゃ、行ってくるわね」
「ああ。気をつけてな」
さて、やるべき事はまだ思いつかないが、一先ずは今日こなさねばならない事を終わらせるか。
考える事に集中するにしても、色々と終わらせてからの方が捗るだろう。
一先ず、俺の師匠たるレインリヒのところに顔を出すとするか。
いつもと変わらない錬金術師ギルドの扉を開き中に入ると、受付にはリートさんが座っていた。
「あら、新人さん。おかえりなさい」
「ただいまです。リートさん」
「初の王都はどうでしたか? 楽しめました?」
「あー……色々問題はありましたが、総じて楽しめたと思います」
オークションや王都の町並み、料理に隼人の館など楽しい事は沢山あったからな。
それに、知り合いも沢山増えたし。
「問題ですか? また何かしたのですか?」
「いやいや。俺がトラブルを起こしているわけではないですからね?」
「ふふ。そうですけど、新人さんの周りではよく何か起きるなあと」
……そうだけど!
でも俺がトラブルメーカーって訳じゃないと思うの!
「楽しそうでいいじゃないですか。人生には刺激も必要ですよ」
「程ほどがいいんですけど……」
そう。
何事も程ほどがいいんだよ。
程ほどの仕事。
程ほどの休み。
何事も過ぎては駄目なのだ。
「おや、帰ってたのかい?」
「ただいまレインリヒ」
奥の部屋からレインリヒが現れる。
「ちょうど良かった。王都から手紙が届いているよ」
「王都から……? ああ、アイリスか」
えーなになに。
俺が作ったアクセサリーの追加発注。
あれか、マイク的なあれか。
とりあえずは各団長、副団長の数と、予備に数点な。
それは問題ないな。
あとは前回計った時より胸が小指の爪ほど増えた、これは将来有望じゃ……は、どうでもいい。
追伸が、近々遊びに行くから、家に泊めてくれ……って、なんでうち!?
普通は領主の館とか高級宿屋じゃないのか!?
「なんだったんだい?」
「あー。主な内容はアクセサリーの発注みたいだ。オークションに出した物をもっと欲しいとのことらしい」
「へえ。いい傾向じゃないか。その調子で名声を高めれば仕事が増えるね」
「……俺にとってはそれ良い傾向なのか……?」
お金が入るのはいいことだが、国からの仕事となると継続化してしまわないか心配なんだよな……。
もしそうなったら、情報公開や権利譲渡などで他の人でも作れるようにしてしまえばいいか……。
「あのー……レインリヒ様はスルーしていますが、アイリスってその、アイリス様でしょうか?」
「ええ、多分そのアイリス様であってると思います」
「……どうしたらそんな縁が生まれるのですか?」
「膝に座られてお菓子で餌付けしたらですかね?」
それ以外には特にないはずだ。
きっかけは隼人、経過が膝、決まり手はアイスだろう。
「餌付けって……」
「まあいいじゃないか。権力者とは仲良くしておくもんだよ」
「心得てるよ」
「そうだろうね。あんたは会った当初から他人の力で生きたいとかのたまっていたからね」
……年のわりによく覚えているな。
いや、レインリヒなら死ぬまで覚えていても不思議じゃないか。
「あ、そうだ。お土産お土産。何か王都で有名なお菓子屋の菓子らしいけど、隼人が用意してくれて、皆さんでどうぞだって」
隼人から俺達の分を含めたお土産を、大量に受け取っていたのだ。
買いに行く時間はあったのだが、帰る直前まで忘れていたから本当に助かった。
流石隼人、気がきく男はモテるねえ。
「あらあらあら。ここ予約必須なところですよ……」
「随分上物だね。今日のおやつにしようかね」
「やっぱり二人も甘い物は好きなんだな」
「「女」」「だからねえ」「のくぉ性ですから!」
リートさん。
慌てて女の子から無理矢理に変えなくても……。
あと、おんなの個性になってますからね。
大丈夫ですよ。
たとえ同い年くらいでも、リートさんの今の状態を見ればちゃんと女の子ですから。
驚くほどに顔が紅いですけど。
むしろ赤をはるかに通り越して紫になりそうですけど。
「他にも顔をだすんだろ? そろそろ行かないと、終わる頃には日が暮れるんじゃないか?」
「そう……だな。うん。そろそろお暇するよ」
「ああ、私はこれからこのお菓子で女の子とお茶をするからね」
「レインリヒ様!? 私は――」
「あーあー。いいからいいから。女の子なんだからはしたなく大きな声をあげるもんじゃないよ」
「違いますー! 私は女性! 大人の女性ですから!」
リートさんガンバレ!
今日一日はからかわれ続けるだろうけど、頑張って!
「えっと……それじゃ。また近々顔を出すよ」
「ああ、またいつでもおいで。お土産があるなら大歓迎だ」
レインリヒも甘い物が好きみたいだし、今度はお手製の甘味でも用意してくるとしよう。
「レインリヒ様お願い、聞いて! 噂広めるのだけは止めて! 婚期に影響が! 痛い子だって思われちゃう!」
……リートさんには、ちょっと多めに持ってきてあげよう。
今度愚痴を聞きがてら呑みにでも誘ってみようかな。