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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
5章 王都一武術大会
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5-29 (仮) 王都一武術大会個人戦 - イツキの決意 -

「一狩りってあんた、こんな時に?」

「ああ、どうしても……って訳でもないんだが、必要な事なんだ」


リングに上がるためだけならばアイリスに頼めばなんとかなるかもしれないとは思う。

アイスクリームの無料提供でどうにか……なったらいいんだけどな。

巻き込んでしまう以上、そんなわけにもいかず結局高い借りが出来てしまいそうだし、それにもう一つの目的を果たすには確実に必要な事だ。


「ふむ。私はお話がよくわかりませんが、お客様が必要だと申されますのでしたら構いませんよ」

「フリード!? ちゃんと話も聞かずに受けちゃっていいの!?」

「貴方様の瞳は私を救ってくださった時の隼人様にそっくりでございます。きっと、誰かの為なのでございましょう?」

「……ああ、まあ、可能性だけどな。うちの頑張り屋さんが無茶したら困るからな」

「左様でございますか。私は、隼人様の大事なお客様のご要望を叶える執事でございます。なんなりと、お申し付けください」


頭を下げ、腕を曲げて一礼をするフリード。

彼のその忠実なまでの隼人への敬意、そして執事であることへの誇りを感じる一礼だ。


「ありがとう。必ず御礼はする」

「でしたら、今度うちのメイド達にバケツプリンをお願いできますかな。私だけずるいと僻まれまして……」

「ああ、10個でも100個でも食べてくれ!」

「私は結構でございますからね……」


フリードには何か別のお礼を考えよう。

俺に出来る範囲で、何でも言ってほしい。

何だって叶えてみせる。


「ああ、もうわかったわよ! 私もすればいいんでしょ!」

「ありがとうエミリー! それじゃあ次の準備で……隼人の試合始まっててくれるなよ!」

「それでは私は準備をしてまいります」

「ああ、頼む! あ、待った! 東西南北で魔法抵抗の低い敵ってどこが多い?」

「強さ度外視でいいなら北かしら」

「それじゃあ北門集合で!」

「承りました! ではっ!」


ギルドカードを取り出し、隼人にかける。

頼むー頼むー出てくれー……試合中じゃないことを願うー……。


『もしもし? イツキさんですか?』

「出た! 良かった!」

『ど、どうしたんですか? これから試合なので長電話は出来ないのですが……』

「用件だけ手っ取り早く話す! 試合を長引かせて……は無理ー……だよな?」


言っている途中で自分が今何を言おうとしているのかに気づいて語尾が弱まってしまう。

俺は今、隼人に対して随分自分勝手な上に、酷い事を頼んでいるのだ。


『……ミィとの試合をですか?』

「ああ……」


そうなんだよ。

次の隼人の相手はミィなんだよ。

ある意味身内だから、だが逆に身内だからこそ真剣に戦いたいのだとは思う。

だが、それでも俺は頼まざるを得ない。


『理由をお聞きしてもいいですか?』

「この後シロがアーノルドと戦う。それに備えておきたいんだが、時間が全く足りないんだ」

『アーノルド様の事ですか……』

「すまん。ちょっと危険があるかもしれなくてな。二人には関係ない話かもしれない。だけど頼む!」

『……』


そのあと、少しの沈黙が訪れた。

やはり駄目か……。

いくらなんでも二人に手を抜いてくれなんてそう簡単に分かったなんて言えないよな……。


『関係ないなんて、言わないでくださいよ……』

「隼人……」

『ミィにも話します。そして、ミィなら分かってくれます。普段の稽古のつもりで初めはやりますよ。ですが、引き伸ばせても10分が限界でしょう』

「ああ、それでも十分だ! それと、副隊長にシロとアーノルドの試合の前に休憩を挟めないか聞いてみてくれ!」

『……なりふり構わないのですね』

「恥も外聞も全部いらん! そんなものとシロは比較できないからな!」

『ふふ、イツキさんらしいです。頑張ってくださいね』

「当然! あと、エミリーとフリード少し借りるぞ」

『二人を? ええ。二人は納得しているのでしょう? 是非イツキさんのお手伝いをさせてあげてください』

「ありがとう……助かる」


俺の周りにはいい奴しかいないなあ、本当に……。

ああ駄目だ。年を取るとすぐ目に来るらしいのだが、まだ早いはずだろう。


「話終わった? フリードは準備が出来たから先に北門に向かうって」

「ああ、今終わった。こちらも準備完了だ」


さあ、最大の問題はここからだ。

もってくれよ俺の精神。

魔物の命とはいえ、まだ奪う事には抵抗がある。

だが、そんな事では止まれない。

止まるわけには行かない。


俺の安心して落ち着いたスローライフと、俺の可愛いシロが頑張るって言ってるんだ。

俺も気合を入れねばならんだろう!


「よし! 行くぞエミリー!」

「はいはい。……ねえ、北門まで何で行くの?」

「悪いけど、時間短縮だ!」

「そう、そうよね。そうなるわよね……。あ、でも戦うのなら先に魔力を使うのは悪手じゃない?」

「魔力補給の当て(あて)は十分ある!」

「そう……じゃあ、行きましょうか……」

「おう! まじでごめんね!!」


本日二度目。

エミリーの絶叫が王都ラシアユに響き渡り、昼間の女霊の絶叫として都市伝説の一つにな……る、かもしれない。


「大分慣れてきたわ……」

「そ、そうか。少し休むか?」

「いいわよ。大丈夫だから……それで、何をすればいいの?」

「それはフリードが来てからだな」

「お呼びですかな?」


後ろ!?

何時の間に……というか、あの速度にも負けずに先に着いてたのか……。

戦える? とか聞くのは完全に失礼だっただろう。


「エミリー『小風のささやき(リトルウィスパー)』って他人にもかけられるか?」

「ええ。風精霊の力を纏わせればね」

「ならフリードにかけてくれ、それで」

「私が『重騎士の咆哮(ヘビィハウリング)』を使えばよいのですね」


その通り。

それで広域にターゲット集中をかけられるはずだ。


「あら、随分と古い狩りの方法を知ってるのね」

「知らん! たださっき、思いついただけだ!」

「耐久ならばお任せを。このあたりの敵ならば50だろうが100だろうが耐え抜いて見せましょう」

「ああ、いや……多分大丈夫だと思う」


フリードに頼むのは敵を集める所までだ。

こんな事を頼む以上、二人は傷一つなく返さなくてはならない。

正直……ずるいやり方ではあると思うが、いちいち気にしていられない。


「あんた……大丈夫なの?」

「何が?」

「何がって……戦えるの?」

「ああ……まあ正直怖い」

「そうよね。あんた、殆ど戦闘を避けてきたんでしょ」

「まあそうなんだけど、覚悟を決めてやるしかないだろう」

「そう。ならいいんだけど」


狩り方としては『小風のささやき(リトルウィスパー)』と『重騎士の咆哮(ヘビィハウリング)』により敵を多数ひきつけて倒す固定狩りだ。

利点としては万全の体制で戦う事が出来る事、それと魔法抵抗が低い相手限定ではあるが俺が敵を一方的に狩れるという二点。

奇襲などを受ければ俺は対処が間に合う気がしないからな。


「この辺りの魔物で、魔法抵抗が低い割りにレベルの高い魔物ってなんだ?」

「南から参ったのでしたよね。それでしたら蜥蜴類を目にしたのではないですか? この周辺は蜥蜴の魔物の生息地です。そして奴等は皆魔法抵抗値が低いのでどの種でも問題はありませんよ」

「了解。なら、始めるか!」


空間座標指定(エリアポインティング)』を発動する。

検索条件は《蜥蜴型の魔物》。

そして自分の座標を基準とし、魔力を込めて少しずつ範囲を広げていく。

ある程度まとまった敵がいるところを発見し、指をさしてエミリーとフリードに指示を送る。


「こっちの方向……およそ400歩先くらいにやってくれ」

「本当便利ねえ」

「次はこっちに600歩先だ」

「これは……中々骨のある戦いになりそうですな」

「効率最優先で行くぞ」

「ええ、構いませんとも。屋敷を守る私が、お二人をしっかりとお守りしますよ」


フリードが頼もしすぎる。

続いて2つの集団にも『小風のささやき(リトルウィスパー)』によって遠くまで届くようにさせた『重騎士の咆哮(ヘビィハウリング)』を使ってもらう。

すると、一番近いところから徐々に砂煙が見えてくる。


すかさず俺は『不可視の牢獄(インビジブルジェイル)』を発動し、二人を近くに寄せると空へと舞い上がる。


「これは……」

「……なるほどね。あんた、結構えげつない手を考えるわね」

「安全かつ効率重視だからな……はは、外道だって罵るなら後にしてくれよ」

「しないわよ。昔はこんな感じでまとめて一掃なんて良くある話だったみたいだし」

「……昔の奴らって命知らずなのか?」

「さあ? でも昔は効率ばかりを追い求めていた時期もあったみたいよ」


俺らは浮いているから安全に行えるが、昔はどうやっていたのだろう……。


下には続々と蜥蜴達が集まっている。

上を見上げ、口を開き威嚇をする魔物。

エラのようなものを広げる魔物や、飛び跳ねて俺達に攻撃を加えようとしている魔物がうようよいた。

これから行われるのは、狩りではない。

一方的で残虐的な殺しだ。

罪悪感や、不快感を押し殺して俺は『不可視の牢獄(インビジブルジェイル)』を広範囲に複数枚発動する。


「トラウマ確定だな……」

「あんたには刺激強いわよ。見ない方がいいんじゃない?」

「そうしたいけどな……」


俺は、発動した『不可視の牢獄(インビジブルジェイル)』をゆっくりと下に下げていく。

一番背の高い蜥蜴の頭に当たり、首を曲げさせて次に頭の高い蜥蜴の頭と同じ高さに、繰り返していき、彼らの抵抗を手には感じながらもゆっくりと、ただ残酷なまでに無慈悲に押しつぶす。


吐き気を催すような光景に、ぐっと耐えながらも静かに押しつぶされた蜥蜴達を見下ろした。

たった今の数秒の間で、俺は数十匹の命を絶った。

レベルが上がる……。

そりゃそうだ。低レベルの俺が、魔物をいっぺんに数十匹も殺したのだから。

やがて地面に残ったのは魔石や魔物が落すドロップ品だけ。

だが今は回収している時間も惜しい。


「次……やるぞ。このまま移動しよう」

「顔色悪いわよ。やっぱり見ない方がいいんじゃない?」

「殺す以上、目を背けるのは無責任だろう……」

「変に真面目ねえ……」


そういって魔法空間から魔力回復ポーションを取り出して煽る。

薬草やハーブのすっきりとした味ではあるのだが、気持ちの悪さは拭えない。


「……時には何かを得る為に己の大切な何かを犠牲にしなければ成らないときがあります」

「フリード……」

「覚悟は決めた。そう言いましたよね」

「……そうだな。分かってる。いや、すまん。気合と覚悟が足りてなかったな」


目的を果たすためだ。

シロと、それにこれからの平穏の為に。

精神を磨り減らしてでも、なさねばならない事なのだ。


「目つきが戻りましたな。流石は隼人様の敬愛するご友人です」

「あんま持ち上げんなよ。調子に乗ってしまいそうだ」

「ではその前に次に参りましょう。時間は、有限なのでしょう?」

「ああ。どんどん行こうか」

「相手は魔物よ。家族もおらず、知能も獣以下の害悪でしかないんだから、気にしないのが一番よ」

「貴方が止まらぬのなら微力ながらお力添えを致しますよ」


ありがとうエミリー、フリード。

でもまあ、やはり俺に戦闘は向かないみたいだな。

敵を恐れ、敵を殺すことも恐れてる。

こんな中途半端な覚悟では、戦いに出ればすぐに死ぬだろう。


だが、今回はそんな事を言っていられる場合じゃない。

頭の中でシロを思い浮かべ、今回限り、今回限りと言い聞かせる。

残酷で無慈悲で、非人道的な上に、安全圏からの狩りの仕方で卑怯だろうが相手は魔物。

害のある敵を倒しているのだと、心を無理矢理に納得させて次に向かう。


俺達は徐々に行動範囲を広げていき、周辺の蜥蜴を狩りつくしていった。

そして……。


スキルのレベルを上げるには、数多く使うかレベルを上げてポイントを割り振ると以前隼人に聞いていた。

だからこそ、俺は無理を押して一気にレベルを上げる手段をとった。

このスキルがないと、シロが危ない時にリングに駆けつけることができないから。


それに予感はしていたのだ。

前回、空間魔法のレベル上昇時に獲得したスキルは『空間座標指定(エリアポインティング)』。

俺はこれを取得した時、転移をする際に使うのだろうと予測した。

さらにだ、


『与太話だからな……龍のブレスを吸収したとか、突然まったく別の場所に現れるとか、後は見えない壁を出現させたとか荒唐無稽な物ばかりだ』


アイナが言っていた空間魔法についての話で与太話とは言いつつもその兆しはあったのだ。

龍のブレスを吸収したのは『吸入(インプット)』。

見えない壁は『不可視の牢獄(インビジブルジェイル)』。

となれば、全く別の場所に現れるのは転移の魔法だろう。


この話からあくまでも予想ではあったが、そろそろだとは思っていた。

今まで空間魔法を使えた人物は少ないはず。

その全てがレベルを最大にまで上げられたとは考えにくい。

与太話が伝わっているのは、目撃証言が多いからこそだろう。

ならばそこまでレベルは高くないだろうという、あくまでも希望的観測ではあったのだが――。


『空間魔法のレベルが 5 になりました』

座標転移(ポイントゲート)スキルを獲得しました』


俺は、目的のスキルを手に入れた。

これで、リングに上がる準備は整った。

だが、解決までには至らない。

そして間髪いれずに次の目的へと動き出すのだった。

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[気になる点] 普通に説明したら良いだけやのにめんどくせぇ笑
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