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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
5章 王都一武術大会
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5-20 (仮) 王都一武術大会チーム戦 - 準決勝 -

「さて、始まるのう」

「なんか会場ごと緊張してる感じじゃないか?」

「じゃろうな。チーム戦の目玉とも言える戦いじゃ。皆がこの試合に注目しているのじゃろう」


片や王国で『守護者(ガーディアン)』を謳う三人組。

片やAランク冒険者として名高い三人組。

どちらも元から三人組として活躍しているだけあって冒険者か、それとも騎士団かと民衆を含め期待の膨らむ一戦だ。


勿論俺は紅い戦線(レッドライン)に勝って欲しいと望んでいるが、あまり無茶はしないで欲しいとも思ってしまっている。

俺は戦いに身をおくわけではないので安全第一といった考え方になってしまうのだが、心より皆が無事に帰ってきて欲しいと願ってしまう。


「シロはどうみるかの?」

「んー相手の実力が計りきれてないからわからない」


そういったシロは絶妙なバランスでカップに入った揚げモイを食べつつも、しっかりとリングが見える位置をキープしていた。

なんだかんだ試合自体は気になるようである。

当然俺も見逃す事がないようにしっかりと見える位置をキープしている。


副隊長がリングに上がり、すぅっと息を吸い込む姿を皆息を止めて見ているかのように静かになった。


『皆様お待たせいたしました! それではこれより準決勝を開始します! まずはアインズヘイルに拠点を置きながらも王都においてもその名を響かせるAランク冒険者! 良いのは見た目だけじゃない!『紅い戦線(レッドライン)』の登場です!』

『『『『うおおおおおおおお!!!!』』』』


副隊長の選手紹介に呼ばれ、三人が力強く歩んできてリングへと上がる。

表情は真剣そのもので、どこか緊張しているんじゃないかとそう思えるほど顔が強張っていた。


「三人とも頑張れー!」


大歓声の中、三人に届くようにと大きな声を張り上げる。

すると、聞こえたのかソルテがこちらを見た。

そしてソルテが小さく手を振ってニコリと笑い、すぐに顔つきを真剣な物へと戻してしまった。


『続きまして! 王国最強を誇る盾! 守護者の呼び名は伊達じゃない! 殿は俺たちに任せろ! 『守護者(ガーディアン)』の入場です!』

『『『『『わああああああああああああ!!!』』』』』


大きな歓声を受け、それに手を上げて応えながら入場してくる守護者(ガーディアン)の三人。

その顔には余裕のような物が見え、対照的にリラックスできているように見える。


「……流石に場慣れしておるのう」

「みたいだな。ソルテ達のプレッシャーにならなきゃいいが」

「大丈夫。それくらいで怯む三人じゃない」


シロが珍しく三人を擁護する。

三人の顔を見るとこの歓声に怖じけた様子はなく、真っ直ぐに相手を見つめているようだった。

盾持ちと魔法使いが途中で止まり、メイス持ちの男だけが中央へと歩いてくる。

それに呼応するようにアイナが中央へと歩いていき、求められるままに握手をした。


「初めまして、紅い戦線(レッドライン)の皆様。お噂は王都にも良く聞こえておりますよ」

「こちらこそ、アインズヘイルにいても守護者(ガーディアン)の武勇は聞き及んでいるぞ」

「それは重畳。よき試合をしましょう」

「ああ、だが勝たせてもらうぞ」

「こちらも、王都の守護者を謳っていますので負ける訳にはいきません。全力でお相手させていただきます」


アイナと相手のメイス持ちの男が軽く話をするとお互いが背を向けてそれぞれの開始位置へと歩いていく。


「あれ、随分と後ろなんだな」


守護者(ガーディアン)』のポジションはリングの角のところに小さくまとまっていた。

それに対して『紅い戦線』は中央のど真ん中で、やる気十分にいつでも突撃をかけられるように構えている。


「スタート位置は中央で分けておれば何処でも構わぬからな。あれも作戦じゃろう」

「中途半端に前にいると、魔法使いが真っ先にやられる。だからある程度回りこめる場所を減らして防御主体の戦い方だと思う」

「でも、その分リングアウトの可能性が高くなるんじゃないか?」

「守護者じゃからな、守りには相当の自信があるのじゃろう。現に奴等は細い道を利用して自分たちが壁となり味方を逃がしているのじゃからな」

「なるほど……守護者だからか。ん、メイスの男今回は右手に何か持ってないか?」

「短槍とメイスの両手持ち。多分、前衛に守らせて隙を突いて攻撃するんだと思う」


なるほど、盾男で壁を作りその合間に後ろから刺すといった具合か。

ならばメイスは何処で使うのだろう。


『両者よろしいですね! それでは試合を開始します!』

『『『『うおお――』』』』

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


観客の歓声を掻き消すかのような大声がリングから上がる。

盾男が空を仰ぐように叫び、メイス持ちの男と魔法使いは耳を既にふさいでいるようだ。


「な、なんだ!?」

「『重騎士の咆哮(ヘビィハウリング)』……自身にターゲットを集中させる盾役に必須の技、レベルが低いと対人では使えないけど」

「まあ奴ならば高レベルであろうな」


見れば両サイドから突撃をかけようとしていたソルテとアイナが止まり、盾男へと向かって駆け出している。


「ちっ、なら頭から叩くわよ!」

「っす! 一番槍はいただくっす!」


レンゲが正面に向かって走り出すと同時に、盾男が四股を踏むように片足を上げて地面を踏み鳴らす。

すると、リングどころか観客席までもが揺れているように感じて、体がふらついてしまった。


「『崩脚(ヘビィストンプ)』で勢いを殺させようとしてる、でも」

「流石にモーションで分かるわよ!」


踏み鳴らした一瞬、空に跳ねて回避したソルテが槍を突き出す。

だが不安定な位置から打ち出された攻撃は軽く盾で弾かれてしまう。


「すまねっす!」

「気にしないで! どんどん攻め、きゃあ!」

「防御ばかりではないのですよ!」


着地を狙って盾役が身体を捻り槍の道を空けると、メイスの男が短槍を突き出してソルテを突く。

あまりに息の合った攻撃に当たってしまった肩を抑えて後ろに飛び、追撃をかわすソルテ。


「大丈夫っすか!?」

「いいから! 前を見てなさい!」


続いてレンゲにも、と思ったのだがすぐに盾役が身体を戻して腰を落とし、一瞬たりとも見逃さんといった具合に睨みつけている。


「随分硬い壁だな。だが、私の攻撃なら!」

「貴方は私が抑える」

「なに!?」


後ろから来ていたアイナの前に巨大な氷壁が現れる。

それはソルテやレンゲと分断する為であり、アイナを暫く足止めさせるかのように分厚い氷で出来ていた。


「こんな氷! すぐに溶かして!」

「ダメよアイナ!」


ソルテの叫びにアイナはびくりと反応し、ソルテを見る。

ソルテはこくりと頷いて守護者の方を向きなおすと、レンゲと共に盾役に向かっていった。

確かアイナは炎人族とのハーフ。

炎を使えば溶かす事も可能なのだろうけど、そこからその情報が流れるかもしれないと危惧したのだろう。

魔法なら、と思わなくもないがそこにも理由があるのかもしれない。


「くううっ、硬い盾っすね!」

「それでも突破するわよ!」

「っす! 壊せないなら吹き飛ばしてやるっすよ!」

「俺は下がらんぞ。来るなら来い」

「調子に乗んなっす!」


レンゲが盾に向かって拳を打ち出したと思ったら、寸前で勢いを殺し盾に掌を添える。

そして腰を落とし腕だけの力ではなく肩や腰の捻りを加えて強打を打ち込んだ。

だが、盾役は絶妙に角度を変えて力を受け流すと、すぐさま身体を捻ってしまう。

そしてそこに繰り出されるのはメイス男の短槍である。


「っぎ! ぐううううっ!」


大技の隙を突かれたレンゲは腹部に強打を受けてしまい、顔をゆがめてしまう。


「今の内に!」


重騎士の咆哮(ヘビィハウリング)』の効果が切れたのかソルテがまだ体制を整えていない盾男の上を飛び去り、魔法使いに向かって槍を打ち込もうと空中で構えを取った。


「ダメ、罠……」

「シロ?」


シロが小さく呟くと、ソルテの前に一つの影が現れる。


「待っていました」


先ほど短槍をレンゲにはなっていたはずのメイス男が、空中でソルテを迎撃する為にメイスを振りかぶって飛び上がり思いっきり叩きつけるようにソルテへと振り下ろす。


「かッ……!」

「ソルテ!」


アイナの叫びもむなしく、勢いよく叩きつけられたことによって体が地面に触れた後跳ねる様に少し浮かび、すかさずメイスの男が空中で体勢を変えて返す刀のように下からメイスを振りぬく。


「ふむ、二撃目は防がれましたか……」

「げほっ! ッつうううう……」


二撃目はどうやら防いだようではあるが、どう見ても重傷だ。

だがソルテの闘志は衰える事はなく、口に貯まった血を吐き出して流れ落ちる血を拭って振り払うと、一歩を踏み出す。

だが膝が砕けたように前のめりに倒れそうになってしまうが、そこに氷の壁を壊して現れたアイナが肩を貸して倒れるのを阻止した。


「大丈夫か?」

「当たり前でしょ……。すぐ行くから……」

「……わかった」


槍を杖代わりにして立つソルテを置いて、前線を保っているレンゲの元にアイナが近づき、そのまま盾男へと一刀を加えるが、盾男の鉄壁はものともしない。

レンゲも先ほどの一撃のせいか動きに精彩を欠いているように思えた。


「はあああああっ!」

「ふん! 力だけは褒めてやるが、」

「自分もまだ、いけるっす!」

「貴様は寝ていろ!」


盾の男が身体を捻り、短槍が放たれるとレンゲはそれを回避する。


「流石に何度もあたらな――っ!」

「ふんぬ!」


だが、そこに盾男の盾が横薙ぎに放たれると、レンゲは回避が出来ずに腕を使ってブロックするが、そのままリングの外へと吹き飛ばされそうになってしまう。


「レンゲ! 掴まれ!」

「すまねっ、アイナ! 右ガード!!」


アイナが手を伸ばし、その腕を掴んで辛うじてリングアウトを回避したと思いきや、続けてメイスの男が前に出てくると他所を向いているアイナに向けてメイスを横薙ぎに振り抜いた。

ガードの声に反応して剣を構えて防ごうとするが、逆手ということもあり、支える事ができずにわき腹へとメイスが命中してしまった。


「がはっ! だが!」


痛烈な一撃を受けたもののアイナはレンゲの手を放さず、そのまま勢いをつけてレンゲをメイス男の方へと回し、それにあわせてレンゲはとび蹴りをするのだが、すんでのところで横から現れた盾男によって防がれてしまった。


「助かりました」

「なに、俺の仕事をしたまでだ」

「くうううう、今のも決まらないんすか!?」


反動でリングに戻ったレンゲだが、アイナも含めてダメージは大きそうである。

ソルテも、まだ回復し切れていないのだろうがなんとか固まって盾男を打ち破ろうとしている。

だが、力の入っていない槍では簡単に盾で弾き返されてしまっていた。


「なんで……なんで通らないのよ……」


あのソルテの悲痛な声が、現在の絶望的な状況を物語っているようであった。


「対人は不得意ですか……?」

「え……」


メイスを持った男の小さな一言によって、ソルテの動きが止まってしまう。


「失礼。……戦ってみて分かりましたが、あなた方と僕達では戦いの質が違うようです」

「なんだと!?」

「おい、ローラン戦いの最中だぞ」

「そうでしたね……。ですが、これにて終幕です」


「『凍りつく世界(アイシクルエンド)』」


突如ソルテと守護者達の間に白いモヤのようなものが現れると輝き始め、選手達がモヤに包まれていく。


「どうか、降参してください」

「嫌よ!」「嫌っす!」

「断わる! それにこの魔法ならばお前達にもダメージはあるだろう! それを勝機にすれば!」

「残念ながら、僕たちはアクセサリーで防いでいます。保熱の効果を持ったアクセサリーを持ってきているのですよ」

「クソ! 初めから狙い通りと言うことか!」


パキパキと音を立ててリングから凍結していっているのだが、三人は既に満身創痍で避けようにも逃げ場がない。


「っぐ、足が!」


地面についている足が徐々に凍りつき動かなくなっていき、身動きが取れなくなってしまっているようだ。


「降参なんて……絶対嫌よ!」


氷にも寒さにも抗うようにソルテは足を動かそうとするが、もはや動かす事もできないほどに凍りつき始めてしまっていた。

これ以上はまずい。


「ソルテ!」


そう思うと同時に俺は叫んでいた。

声に反応して顔をあげて俺と視線を合わせるソルテ。

その顔は、悲しそうに顔を歪めている。

だが一度顔を伏せると、小さな声で呟いた。


「降参、するわ……」


その一言をひねり出すのに今の間だけでどれほどの葛藤があったのかはわからない。

それでも、ソルテが応えてくれて良かったとほっとしてしまった。


「ロコ! 魔法解除を!」

「はい!」


ソルテの降参の宣言と同時に白く冷たい風が止む。


「『温熱地表(ヒートグラウンド)』」


魔法使いが新たな魔法を唱えると、リングを覆っていた氷が徐々に溶けていった。

すぐに氷は溶けきり、足が動かせるようになると三人はそのままリングに倒れてしまった。


「おい、大丈夫か!? 副隊長、担架!」


『あ、紅い戦線(レッドライン)が降参を宣言しましたので、勝者『守護者(ガーディアン)』です! それと大至急担架を! 三つですからね!』

『『『『『お……おおおおおおおおお!!!』』』』』


勝ち名乗りを受けた守護者が歓声に応えているが、俺にとってはそんなどうでもいいことよりも三人だ。

彼らの横を担架が通り、アイナ達を乗せて運んでいくとそれを目で追いかけてしまう。


「俺も……っ!」

「待たんか。すぐに主であるお主に連絡が来るから待て。すれ違いになったら入れてもらえぬぞ!」

「っ!」


ああ、くそ!

だったら早く来てくれ……っ!


「ご主人様……」

「主、落ち着く……」

「ウェンディ、シロ……」


二人とも心配そうな目で俺を見ている。

多分今、酷い顔をしてるんだろうな……。


「悪い……。はぁー……」


大きく息を吐いて落ち着けるように努める。

俺が慌てちゃダメだよな。


「失礼します! こちらに紅い戦線(レッドライン)の主様はいらっしゃいますか?」

「はい! 俺です」


呼ばれてすぐにアイリスとシロをソファーに降ろして立ち上がり、大会運営の人と思われる男に近づく。


「では医務室へとお連れ致しますので、付いてきていただけますか?」

「シロも行く」

「失礼ですがあまり広くないのでお連れ様は……」

「シロは小さい。だから行く」

「シロ。あまりわがままを言わないでくれ」

「……お願い。行かせて欲しい」


シロが真っ直ぐ真剣な瞳で俺を見つめていた。

普段から我侭放題だが、俺が注意すればやめるシロ。

だがこの頑なな姿勢を見るに、どうしてもシロには行かなければならない理由があるようだ。


「すみません、どうにかお願いします」

「……わかりました。ではついてきてください」

「ご主人様!」

「悪い、ウェンディはアイリスの事を頼む!」

「かしこまりました! ……どうか私の分まで元気付けてあげてくださいね」

「ああ、ちゃんと元気付けられるように頑張るよ」


出来るかどうかなんてわからないけど、もしかしたら俺が行くのは逆効果なのかもしれないけど。

それでも、俺は行かなきゃならない。

今は三人が無事であることを何よりも願いつつ焦る気持ちを抑えて案内してくれる男の背中を足早に追っていく。

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