あの子のふとももはエリクサー
もっと短くしたかったんですが長くなっちゃった。
自分は高校二年の一般男子・新藤晴一。
そしてここは近所のカラオケボックス。
「貴方様の御力によりここに勇者の器たる者が! 感謝を!」
―――のハズなんだが、気が付いたら一緒にカラオケに来てた女子が居ない。
それどころかダチ連中も居ない。てかカラオケボックスでもなくなってる。
「どこ、ココ?」
石造りな上にめっちゃ広いし、見知らぬ場所にぽつんと俺は座っていた。
顔を上げればどっかの教徒みたいな格好のおっさんが取り囲んでるし……
もしかして何かの事件に巻き込まれた?
「うんうん。皆様最初は困惑されると思います。御説明致しましょう!
私は異世界召喚師のカーラと申します。
そして貴方様は魔王を倒すべく召喚された、勇者の器デっス!」
「すんません意味わからんので帰して下さい。
あの子達とLINE交換すらしてねーんすよマジ」
折角他校の女子と良い感じでカラオケだったのに……。
何なんだよコレ。もしかして誘拐?
「わかっておりますわかっております! そんな貴方様の為にさぁ!
この聖女達の中から好きな子を1人選び、今こそ契約を!
さすれば貴方様は勇者として殻を破り魔王を撃ち滅ぼす力を得るでしょう!
そして魔王を倒した暁には望みを一つ、何でも叶えます!」
「……魔王? 勇者?
あの、それより帰して欲しいんですが」
「勇者と成らぬ者に手助けするほど国は裕福じゃありません。
ですからよぉーくお考え、お選び下さい?」
「だから帰して欲しいってか……」
「よぉ~く、お考え、お選び下さい?」
「あ、はい。わかりました選びます」
おっさんに気圧されてそう答えてしまった。
つーか魔王倒すべくってどこのレトロゲーだ。
……しかしそんな事も言えない自分の前に女の子達がずらりと並ぶ。
ピンクに青に緑に金髪とカラフル……すげー髪の色だな。
てかそんな短いスカートで中身見えないの? 大丈夫?
つーかそのライン、穿いてる?
目の前に並ぶ子みんな、こっちが恥ずかしくなってくる格好ばかりだ。
……マジエロすぎ。
思わず前屈みだわ。
「てか選ぶの良いとして俺、一般の高校生男子よ?」
「問題ありません。
ここに居る子達は勇者様をお助けすべく、
魔王に唯一対抗出来る特殊な力を持った者達です。
そしてその力を最大限に引き出せるのは異世界の住人だけなのです!」
……胡散くさ。
魔王に対抗出来る力持ってんのに異世界人居ないと使えないって駄目だろ。
てか異世界人呼ぶ前にそこらどうにかした方が良いんじゃねーの?
そんな俺を置いてけぼりに能力説明が勝手に始まる。
「この娘が振るった剣は全ての物を切り裂く力を宿します」
「こちらの娘の魔法はこの世にある全ての攻撃魔法を操ります」
「その娘は魔物を操る力を持っています。あ、でも幹部級以上は無理です」
チート級ばっかじゃん。
こんな強い子が居たら魔王とか楽勝そうだけど……
どうもしっくり来ないな。
なんつーか、俺と同い年くらいなのにみんな男馴れしてる雰囲気なのだ。
こう、女の子らしさっつーか初々しさが無い。
能力も大事だが自分としては長旅をするパートナーの性格も重要だ。
そんな中、大人しめの服装の少女がふと気になる。
「―――とこれがこの場に居る聖女達全ての能力に御座います」
「あれ、そこの子は?」
「あー……その者は不完全と言いますか」
端っこに居る水色ロングの可愛い子の説明されてないケド?
いやいやいや、好みの子の説明ナシとかありえないんですケド。
「その者は聖霊薬の力をその身に宿し、全てを癒す力を持っております」
「最強じゃん?」
「……しかし効果がですね、ふとももにしか発動していないのです」
「ふともも? 足の?」
「はい。
直に触れなければならないと言う制限付き。
他にも色々あって故に不完全であり未完全」
「わかりました。じゃあこの子で」
オレは迷う事無くその子を選ぶ。
そして周りの反対を押し切り、
自分は聖霊薬の少女と共に魔王討伐の為に城を後にした。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
魔王討伐の為に旅を始め、早くも3ヶ月が経った。
「大丈夫ですか?」
「うん。エリスのお陰ですぐに回復だわ」
城を離れる際に貰ったチート装備を使って今日も今日とてレベリング。
怪我をすれば彼女のふとももを使った膝枕でヒーリング。
何て最強で贅沢な毎日だろうか。
回復が終わった俺は名残惜しくも膝枕から身を起こす。
村近くのドラゴンも倒し終わったし、今日はこれくらいにするか。
「そんじゃあ日課も終わったし、村に戻ろう」
現在、魔王討伐に向けてレベリングをしながら周辺の村で情報収集中だ。
情報ほど、最強な武器は無いし何事も下準備はしっかりしないとな。
「勇者さんって本当に凄いですね。
この近辺のモンスターは倒せないので有名だったんですよ?」
「貰った装備が全部チートだったからなー。
この変身出来る珠で油断した敵に近付いて、
魔物だけを斬るこの剣でぶった斬る。他にも色々あるけど……
一番はやっぱエリスの回復のお陰で心置きなく戦えるからだよ」
「自分は勇者さんの為のエリスですから……
それにそんな事を言ってくれたのは勇者さんだけですよ」
彼女は赤面しながらはにかむと顔を逸らした。
この奥ゆかしい感じ……やっぱ女の子はこうじゃなきゃ。
「そう考えると勇者さんに選んで貰える為に不完全だったのかな……」
「―――へ?」
「な、何でも無いです忘れて下さいっ!」
3ヶ月と言う長くも短いこの期間で控え目に見てもエリスとの関係は良好だ。
そして鈍い自分でも流石に察する。
これはフラグがMAXになったのだと。
今まで、俺はクラスの女子にすら見向きもされなかった。
ラブレターに喜んでたら4月1日だったり。
可愛いと思ったら先輩の弟だったり。
好きになった子が親友の彼女だったり。
そう、ロクな事が無かった。
しかし別世界に来てチート装備を貰い、女の子と2人旅。
見た目から性格まで何から何も好みの子と一緒に居て、
惹かれない訳がない。
そして気になるそんな子がこんな反応。
きっと、これから先こんな状況来ないだろう。
「……俺もエリスが一緒で良かったよ」
「ふぇ?」
「エリスが居てくれたからここまで頑張れたし……
だからその、良かったら勇者じゃなくて名前で呼んで欲しいなとか」
「え……」
「良かったら晴一って呼んで欲しいかな、とか……」
男なら、行くっきゃない。
そう言い聞かせて赤く染まる彼女と見つめ合う。
「は、はい。えと……じゃあ、ハ―――」
「居た居た、勇者様ぁああああ! 魔王の詳細が手に入りましたよぉおお!」
村の青年の元気な声で千載一遇のチャンスはブチ壊された。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「で、ありまして魔王は女を好んで集めている様子です。
近隣の村々より浚った人間から女のみを自分の城に運ばせている様でして……
って勇者様聞いてらっしゃいますか? もしかしてまだ拗ねてます?」
「拗ねてねーよ好い加減な事言ってっとこのアマノハバキリで叩っ斬んぞ
早く続けろこのクソ野郎邪魔しやがって……」
「あ、やっぱ拗ーねーてーるー。あいてっ!?」
村に戻り、みんなが方々を走り回って得た内容を聞く。
彼らは魔王の襲撃を受け、命辛々に逃げてこの村に辿り着いた者達だ。
そして魔王討伐の為に協力をしてくれる同志でもある。
しかし魔王城近辺の村が魔王軍によって一掃されない事に疑問を持ってたが、
まさかこんな簡単な理由だったとは。
「あのぉ……」
「エリスどうかした?」
「魔王の女好きって王都の方では有名な話ですよ?」
「……まじ?」
おいおい。あの異世界召喚師、そう言う事もちゃんと教えろよ。
色々ガバガバ過ぎんだろ。
「はい。
ですから勇者と共にする者達は魔王が好む格好をする様になってまして。
……自分は恥ずかしくて出来ていませんけれど」
エリスはもじっと膝上までのスカートを押さえながらそう説明する。
うん、君はその慎ましさが良いんだ。
だからどこぞのギャルゲ産みたいな格好はしなくて良いの。
俺を癒す為に未だに恥ずかしがりながら裾を上げ、
その柔らかく白いふとももで俺を膝枕させてくれる……
そんな君でずっと居て欲しいです。
「しかしこれでは決定打に欠けますね。
魔王の性癖が露呈しただけと言いますか……」
「そんな事無いだろ。充分じゃね?」
不安の顔を見せる一同を余所に俺は貰ったチート装備を漁り、珠を取り出す。
それは力の無い自分がこの世界で実力を上げる際に使っていたアイテム。
望んだモノに変身出来るチート装備の一つだ。
「浚われた中に混じって魔王に堂々と近寄り、ぶった斬る。これで行こう」
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「おら、キリキリ歩けゴブ!
女装した男共が送られてきた時はビックリしたゴブが……
ナカナカな上玉も居るじゃないゴブかぁ。おこぼれが楽しみゴブ。ゴブブ♪」
皆の心配を余所に俺の作戦はあっさり成功し、魔王の居城に入れた。
自分達が選別で選ばれる確率を上げる為、
村の男共に女装をして貰ったのだがそのお陰もあって上手く行った。
馬車に載せられる際、女装したかの青年がボッコにされてたが……。
そん時、妙に晴れやかな気分だったのは気のせい。うん。
俺はそんなに根に持つタイプじゃないし、戻ったら少し優しくしてやろう。
「ほう……今日は中々の収穫じゃないか? 悪くない」
連れてこられた広間で値踏みする低い声がする。
視線を向けた先には趣味悪い王座に腰かける青肌の男が一人。
「魔王様の御身の前だゴブ! 頭下げろゴブ!」
「良いよ良いよ。床に打ち付けちゃうと傷付くし、顔も見えないし」
魔王と呼ばれた男は上機嫌に立ち上がると近寄ってくる。
今は珠によって完璧な女子に変身している。だからバレる筈が無い。
ドクドクと心臓が五月蠅い中、魔王は服を選ぶ様に目の前を通り過ぎた。
そして一通り品定めを終えると小さく溜息を吐く。
「はぁ、結構な数いるなーって期待してたら何なのこの格好!?
いくら我輩が女スキーなの知れ渡ってるからってこーんな短いスカート!
バカじゃないの!? これじゃただの痴女でしょ!」
「きゃあっ!」
「やぁっ!?」
「ってあなた下着までっ!?
ああもうここからそこまでキワドイ服の子ぜーんぶ返品っ!!」
「しょ、承知しましたでゴブ!」
魔王の返品にゴブリンは慌てて対処する。
敵だと言うのに彼の発言が痛いほど理解出来てしまう。
てか下着まで……って中、どうなってたの? ちょっと気になってしまう。
「こーれだからゴブリンに選別させるの嫌なんだよ。
でも選別でまともに使えるのあいつらくらいだしなぁ」
ブツブツと文句を言う魔王はこちらへ近付いてくる。
「でもアタリが2人居ただけ良しとしますか。さぁ奥の部屋へ来なさい」
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「ほら、早くこの服に着替えるんだ」
「こ、こんな格好……っ!」
「そーれともー、我輩が直々に着替えさせてあげてもぉー」
「わ、わかった着るよ!」
魔王の寝室に連れてこられ裸よりも恥ずかしい格好を強要される。
お前、布面積少ない服嫌いだったんじゃないのかよ……っ!
ふざけんなよ!
こっちは珠の力で女だから色々恥ずいんだよ! ジロジロ見んな!
「んーいいねぇ。
そうやって怒りと恥じらいを抱きながらも従う光景はやっぱサイコー♪」
よし、そろそろ頃合いか?
いやでもエリスが魔王の傍だし、様子を伺った方が良いのか―――
「ほーらほら♪
向こうの子はちゃぁーんと着替えてるんだから着替えないとー」
「い、いやぁあ! やめて!」
「そうかそうか我輩に着替えさせてほしいのかぁ!
おお良いね良いね綺麗な太ももじゃあないか~♪」
「い、いややぁああっ」
機を見計らうつもりがブチンと何かが弾ける。
そして気が付けば変身を解いて剣を振るっていた。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「ふふ、ふふふ。良いね良いね?
女だった君をからかって楽しむのも良かったがこう言うシチュも悪くない」
「く……っそ!」
感情に任せて戦いを挑んだ俺は全く歯が立たなかった。
貰った装備を使い、様々な戦い方をしてみたが攻撃が一切効かなかったのだ。
割れた壁に身を預けながら立ち上がろうとするが……全身に力が入らない。
かなりレベリングしたと思ったんだけどな。これでもたんねぇのかよ?
「勇者さん! 勇者さん!」
「これこれ、暴れたら危ないぞ? ふふふふ!」
「放して、放して!」
魔王の腕の中で泣きじゃくりながらエリスが暴れている。
すぐ近くに居るのに俺の身体は、動かない。
「しっかし久し振りの勇者がこれじゃぁねぇ?
聖霊の娘も連れてこないで単身で突っ込んでくる馬鹿とか数百年振りだよ。
キミ、召喚された時にちゃんと説明されなかったの?」
「……うっせぇ」
あの召喚師の説明じゃわかる訳ないだろ。
肝心な事が抜けすぎなんだよちくしょう。
「まぁ、知ったとしてももう遅いけどねぇ?」
「てめぇ……エリスを放せ!」
「おお、まだ立ち上がるの? でも放してあげないよー。
こぉんな綺麗な足の子、ひっさびさだしぃ~?」
おいこの野郎。
その太ももに触って良いのは俺だけなんだよ。
エリスの綺麗な足に触れて良いのは俺だけなんだよ。
「俺のエリスに触んじゃねぇっつってんだよクソがぁああ!」
無い力を振り絞って剣を握り、振り被る。
虚を突いた形の一撃は魔王を捕え、一閃が走る。
「……だから効かないって言ってるでしょ?」
泥に棒を突っ込んだ様な不快感が手に伝わると吹き飛ばされる。
そして……
「じゃあこう言う事したらどうなるかな? ふふ」
悪戯を思い付いた子供の顔で嗤うと舌を蛇の様に出し、エリスを抱き寄せる。
……そしてあらわになった彼女の白い太ももの上へ舌をゆっくりと這わせ、
指でなじる様に動かしてみせる。
「てんっめ……」
「あははっ! あははは!
良いね良いねこう言うのも一興で楽しいよ! じゃあもっと楽し―――」
激昂する俺を前に嗤う魔王はピタリと動きが止まる。
そして出していた舌をメジャーの様にスルリと戻し、真顔になった。
「……僭越ながら、お嬢さんお名前をお伺いしても?」
「え? えっと……エリス、です」
「ほう。可愛い名前だねぇ」
エリスの言葉にふむふむと頷いてはドバっと汗を掻きはじめる。
「って……聖霊の人間じゃねぇかっ!?
見るからにお前力無いじゃん、どうなって―――」
「自分の力は不完全で太ももにしか発現しなくて……」
「ふぁーっ!?」
発狂しながらエリスを突き飛ばしたかと思えば魔王はのた打ち回る。
ん? どう言う事?
「い、いやだこんな形で消えるなんていやだ!
しかもこの味、最期に舐めた太ももがよりによって……お―――」
魔王は最期の台詞を言い終わる前に砂となって消え失せる。
あれだけ苦戦した相手が一瞬で消え失せ、訳がわからない。
「これ、どうなってんの?」
「多分、聖霊の力が宿った自分の太ももを舐めちゃったので……」
要するに自爆したんかい。
説明を受けるが処理が追い付かずに眺めているとおずおず寝かされる。
いつもの定位置、いつもの感触。
「どうぞ」
頭を乗せ、俺ははたと先程の事を思い出して彼女の太ももを拭く。
「ど、どうされました?」
「―――アイツが舐めてたから」
人のエリスに手を出しやがって。
俺でも舐めた事ないのに。
そして拗ねた調子で頭を乗せるとエリスがそっと撫でてくる。
「大丈夫ですよ、あなただけのエリスですから……」
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
その後、無事魔王討伐を終えた俺達は王都に戻った。
「まさか本当に失敗作のエリスで魔王を討伐するとは……」
あんたそのつもりで呼び出したんじゃねぇのか。
久々に戻って顔合わせた開口一番がそれかよ。
エリスの太ももを舐めて勝手に倒れたとかまず信用してもらえない。
なのでその辺は適当に誤魔化した。
まぁこれくらいは良いだろ。
そして国王やらどっかの重役が揃う中、その働きが評される事になった。
これで晴れて名実ともに勇者だとかエリスが喜んでた。
しかしどうも実感がなぁ。
まぁ嬉しそうなエリスが可愛かったので良しとしようか。
「さて、最初に契約した通り……そなたの望みを一つ叶えよう」
国王からそんな言葉を向けられる。
元の世界に返してくれ。
一生困らない程の金をくれ。
地位名誉をもっとくれ。
まぁ普通ならこの辺がベターなんだろうが自分にはしっくりこない。
それと最初から決めてた事がある。
「んじゃあ、お言葉に甘えて一つ」
これで俺は魔王討伐の旅が終わる。
そしてそれは同時に、彼女との別れにもなる訳だ。
今の俺にとってはそっちの方が一番辛い。
「エリスを下さい」
「良かろうエリスを……え?」
オウム返しで答えて王様は硬直する。
そしてよく見れば周りの重役達同じくも固まっている。
「何でもつったじゃん? ダメなの?」
「あ、あの勇者さん。それは流石に……もっと良い物があると思うんです」
「エリス以上に良い物ってあんの?」
俺の言葉に顔から火を噴いて彼女は黙った。
恥ずかしい事を面前で言っている自覚はある。
しかしあの村の青年に邪魔をされた以降、
これと言ったタイミングが一切無かった。
なのでここを逃したらきっとダメなのだ。ラストチャンスなのである。
「う、うむぅ……おぬし、本当にそれで良いのか?」
「くどいですよ」
不完全、未完全、失敗作とか散々言っておいてこんな時は渋るのか?
無理難題ふっかけるよりマシだと思うんだがな。
「本当に良いのか?」
「だから良いですよって」
「本当にほんとに良いのか?」
「ほんとにほんとで良いんですって!」
「ほんとにほんとにほんとに後悔ない?」
「ほんとにほんとにほんとに……ああもうしつけぇな!
俺はエリスが好きなの! この子以外いらないつってんだよ!」
「あのね、その子……男じゃぞ?」
「男だろうと関係な…………は?」
今、何つった?
ごめんもっかい言って。
「その者は聖霊を単身で揮える様に力を注いで失敗した人間であり、
魔王を欺く為に幼少の頃より女として育てられた者。説明受けなかった?」
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
色々と重役達を交えた会話の後、一室にて俺は放心していた。
「ご、ごめんなさい勇者さん。今まで黙ってて……」
いやエリスは悪くない。
先輩の弟を妹と勘違いして惚れた時と同じだ。
俺の勝手な思い込みでこうなったんだ、うん。
だから旅に出る前、必死に止められた理由とか、
だからきわどい格好を避けてたのかとか、
ああだからこの子ずっと一人称が「自分」だったの? とか、
魔王が最期に言いかけたのって男の太もも舐めた事を言いかけたのか? とか、
どうでも良いのである。
「勇者さん……ほんと、ごめんなさい」
部屋に戻ってエリスはボロボロと泣く。
何もかも女の子だし、うん。
「エリス、いつもの」
「え、えと膝枕……ですか?」
「うん」
「はい……どうぞ」
戸惑う彼女はいつもの様に座ると足を少しはだけさせる。
俺はいつもの調子で頭を乗せる。
「エリスがエリスなら別に何でも良いよ」
好きになったあの子のふとももは聖霊薬で、
俺だけを癒してくれる存在。
「はい、自分はハルヒトさんの為だけの……エリスです」
だから男だろうともうどうでも良いのだ、うん。
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