第96話 進軍
アドリアーノの提案によって、カセターニ家はヤタの土地を、グリマンディ家はツカチの土地を領地にし、町を再建することになった。
「……2家ともごねる事が無くて良かったな?」
2家の貴族をある意味厄介払い出来た事で、2家がいなくなったクランの屋敷でアドリアーノはヤコボに呟いた。
「全くです。しかも、南から攻め込まれた場合のクッションになってくれるので、助かりますね」
ヤタはトウダイの東南、ツカチはトウダイの西南に接した地域なので、南からトウダイに進攻するには、ヤタかツカチを通らなければならなくなる。
厄介払いと同時に、南からの進攻に対応出来た事をヤコボは答えた。
「……そうだな」
アドリアーノはこの地を手に入れてから、様々な困難や悩みの種が襲いかかって来た。
最初の困難はリンカン軍、荒れ地とは言え領土を奪われたリンカン王国の逆襲の対処に頭を悩ませた。
だが、その時現れた男によって度重なる問題は、アドリアーノにとって好ましい方向に進んでいった。
その事があまりに都合が良すぎて、逆に疑問に思ってしまうほどだ。
今回も結局、ティノの掌の上の出来事のような思いをしつつも、アドリアーノはヤコボに返事を返した。
◆◆◆◆◆
数日後、ハンソー軍が動き出した。
リンカンの王都に向かって、進軍を開始したらしい。
「随分時間がかかったな……?」
ティノは、かなり遠くから進軍するハンソー軍を眺めていた。
ハンソー軍が動く兆候を察知したティノは、転移魔法を使って軍の観察を始めた。
元ミョーワ王国で起きた反乱には、ハンソーも援助していたので、何故これ程の期間時間がかかったのか、ティノは理解できなかった。
「もしかしてトウダイの様子を見ていたのか?」
ティノが思い至ったのは、王都よりも先に手に入れ安いトウダイを攻めるつもりだったのでは無いか、と言うことである。
「まぁ、トウダイに攻めてきても何とかしたけど……」
根拠が無い事を呟いた後、ティノはハンソー軍が向かうリンカン王国王都の近くの森に転移し、リンカン側の行動を観察しに行った。
「うわっ!? マジかよ……」
ティノが王都の王国側の動きを探っていたら、ある事が分かった。
国王とそれを操る2つの公爵家やそれに従う貴族達は、ハンソーの進攻に気付いたのか、いつの間にやら王都を捨てて西に向かって逃走していた。
市民は、王や貴族の逃走もハンソーの進軍も知らず、何時もと変わらぬ生活を送っていた。
貴族に付いていったので軍もいなくなったこの町が、ハンソー軍に攻められたらどうなるかは、分かりきった事である。
「残念だな……」
王都の賑やかな雰囲気は結構好きだったのだが、この状態では救いようがない。
ティノは残念に思いつつも諦めて王都から去っていった。
────────────────────
「勝者、マルコ!!」
“ワアアア……!!!”
審判のアルマンドの声が響き渡った後、会場は大音量の歓声が沸き起こった。
「……ハハッ、やっぱり強えな……」
倒れた状態で差し出されたマルコの手を握り、起こされながらロメオは呟いた。
「こっちもやられたよ」
ロメオに一撃喰らって、赤くなっている頬を指差しつつ、マルコは言葉を返した。
「まさか、武器を捨てて隙を狙うなんて驚いたよ。見事に引っ掛かったよ」
戦闘中に武器を手放すなんて、マルコは今まで考えたこと無かった。
「勝つことよりも、一撃入れる事ばかり考えていたら思いついたんだ」
ロメオからしたら、マルコに一撃入れることが勝利のような感じがしていたので、そればかり考えてこの戦いに挑んでいた。
「……マルコ!」
最後にロメオは、真面目な顔をしてマルコに話しかけてきた。
「ん?」
「優勝しろよ! って当たり前か?」
「もちろん優勝するよ」
マルコは、ロメオの言葉に笑顔で優勝を約束した。




