第94話 ハイペース
「ハッ!」
“ゴゴゴゴ……!”
昨日に引き続き、ティノは土魔法による城壁作りを行っていた。
「…………何なんだ!?」
ティノが城壁作りをしているところに、クランリーダーのアドリアーノが来て、驚きと共に声を上げた。
「ん? よ~、アドリアーノ!」
その事に気付いたティノは、軽い調子で挨拶をした。
「何でこれほどの城壁が、1日そこいらで出来ているんだ!!?」
ティノは長い年月生きてきた事により、かなりの魔力量を持っている。
その魔力を利用して、ティノはガンガン城壁を作っていっていた。
アドリアーノは、数kmに及ぶ城壁が、たった1日で出来ている事に驚きを通り越して、恐怖すら覚える状態でティノに問いかけた。
「エッヘン! 魔力量には自信があるんだ!」
今日は天気も良く、家の畑の苗から芽が出ていた事でテンション高めのティノは、陽気にアドリアーノに答えた。
「……こんな事が出来るなら、家の建築もやってもらうかな?」
ティノ態度にイラッと来たアドリアーノは、冷静になったことで、嫌がらせに更なる仕事をティノにさせようと提案してきた。
「んっ? そっちは気分が乗らないからやらないぞ」
ティノはそれを何とも思わず、気分の問題で断った。
城壁を作るのは、急を要するに事だと思ったからやっていることで、別にティノがやらなくても出来る家の建築など、興味が無いのでやる気は起きない。
不老のスキルを手に入れても、昔同様のんびりするのが好きなティノは、無駄な仕事はしない主義だ。
「気分が乗らないって……、まぁ、いっか……」
大した事無い言い訳をしたティノに、アドリアーノは文句を言おうと思ったが、見事な城壁を作り続けるティノを見て、そんな気持ちも萎えてしまった。
「フー! ……このペースならあと3日位で出来るかな?」
一息つきつつ、ティノは呟いた。
「……これだけの城壁を、たった5日でだと……」
今だにティノの本性を掴めていないアドリアーノは、改めてティノという人間に寒気がした。
行動だけ見ていれば仲間のようだが、町が健在だった頃にティノほどの人間に会ったことは1度もない。
それどころか、本性を知ろうとすればするほど、多少腕に覚えのあるアドリアーノが自分の事をちっぽけに思えてくるほどである。
「……無理はするなよ」
精一杯の冷静を装い、ティノに一言告げてアドリアーノはこの場から去ろうと、ティノに背を向けて歩き出した。
「大丈夫だよ。のんびりやってるから……」
「!!?」
これだけの城壁を、これだけのスピードで作っているのにも関わらず、ティノからしたらのんびりしていると言われて、アドリアーノは驚きと恐怖で動いていた足が一瞬止まった。
『化け物だな……』
背中に冷たい汗を掻きつつ、またティノがとんでもない存在だと認識したアドリアーノは、止めた足をまた動かして歩き去っていった。
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【只今より3回戦、第1試合を開始します!】
【何と! 例年に無く1年生同士の戦いになります!】
【東口から全く危なげ無く勝ち上がったマルコ選手の入場です!】
【続いて西口から素晴らしい近接戦闘で勝ち上がったロメオ選手の入場です!】
司会者は満員の会場を煽るように、マルコとロメオの入場を紹介した。
会場は珍しい1年生の参戦と、勝ち上がりにより注目度が上がり満員状態である。
そんな盛り上がる会場の中、闘技場で向かい合ったマルコとロメオは、親友であることが嘘のように闘志を向け合っていた。
“スッ!”
“スッ!”
お互いに武器を構え、静かに試合開始の合図を待った。
「……始め!」
審判で2人の担任のアルマンドは、2人の真剣勝負の雰囲気に何となく嬉しくなりつつ開始の合図を放った。
“バッ!”“バッ!”
2人は開始の合図とほぼ同時に、お互いに向かって走り出した。
“ガッ!”
そして闘技場のほぼ中央で武器同士がぶつかり、つばぜり合いの形になった。
「……さすがだね! 僕が開始早々突っ込む事を察知するなんて……」
「ギギッ! 察知したんじゃ無くて、訓練の時よくやられたからな!」
訓練の時、マルコはロメオに敵と対峙した瞬間を注意するようによく言っていた。
マルコはティノに魔物相手を中心に訓練を受けてきたので、ロメオにもその時の注意を言ったに過ぎない。
魔物でも人でも相手の実力が分かっていようと、いまいと、最初が肝心だとマルコは思って戦って来たからだ。
最初に仕掛けられたら防いで冷静に相手を分析すれば良い、最初に仕掛ける事が出来たら一気に潰せで、マルコは強くなって来たからである。
“バッ!”
お互い同時にバックステップして離れた。
「…………」
「…………行くぞ!」
“バッ!”
1拍睨み合った後、ロメオが仕掛けた。
「ターッ! タリャ! トリャ!」
突き、横薙ぎ、降り下ろしとロメオが行い、それをマルコはサイドステップで、しゃがんで、バックステップで躱して距離を取った。
「羨ましいな。日に日に強くなってるね?」
綺麗に避けておいて、マルコはロメオに呟いた。
「ハハッ! どこがだよ! 全然当たってねぇだろ?」
“バッ!”
「!!?」
ロメオが言葉を返すと同時に、今度はマルコが攻め出した。
「ハッ! フッ! ハッ!」
「くっ! はっ! くっ!」
“ガッ! ゴッ! ガンッ!”
面、胴、回し蹴りをマルコが放ち、先程のマルコと違い、ロメオは躱すのでは無く武器の六尺棒で防いで見せた。
「ハー……!」
「タリャー……!」
そこからは乱戦になった。
ロメオが六尺棒を使って攻撃を仕掛ければ、マルコは見切ったように躱し、マルコが仕掛ければロメオは武器を使って必死に防いだ。
「ワアアーー……!!!」
その攻防のレベルの高さに、会場は熱気に溢れた。
しかし、その攻防はどう見てもマルコ優勢、次第にマルコの攻撃が多くなり、ジワジワとロメオは後ずさって行った。




