第93話 城壁作り
今後の事を考え、ティノはダイトウの防衛の強化を計ることにした。
「……と言う訳で、町の防壁の強化をしようと思うんだけど……」
まず、現在町の建築を指示している、クランリーダーのアドリアーノに話に行った。
これからハンソーとの関係に注意を促し、もしもの為の防衛強化をティノがするとこを話した。
「……お前が言いたいことは分かった。今防壁の強化に関わるほど人はいない状況だ。お前が勝手にやってくれるなら別に文句はない」
アドリアーノ達クランエローエの幹部達も、それぞれ町の建設に関わっているので、手の空いている人間はいない。
防壁の強化は理解しているが、それに着手することができずにいたのも事実のため、アドリアーノからしてもティノの提案は願ったり叶ったりだった。
「そうかい。じゃあ勝手にやらせて貰うよ」
アドリアーノの言葉を聞いて、ティノは笑顔でその場から離れようとした。
「そうだ! カセターニ家とグリマンディ家の連中はまだ着かないのかい?」
人手が足らずアドリアーノ達が忙しいのも、ルディチ家と親交のあった、元リンカン王国貴族の2家の到着が遅れているせいでもある。
以前1ヶ月で到着すると言われていたが、1ヶ月は当に過ぎているのだがまだ着かずにいた。
「今週中には着くそうだ。色々あって海路から来るそうだ」
2家ともモーホクからハンソーに向かって、それから陸路でダイトウに来る予定だったらしいが、新聞でその2家がダイトウに向かっているのを知ったハンソー王国側は、どうやら到着を遅らせるような動きを取ったらしい。
「そうか。……急いだ方が良いかもな」
その2家を遅らせるような行動を取ったと言うことは、着く前にハンソーはダイトウを手に入れるために動く可能性がある。
その事を感じたティノは、防壁の強化を急いだ方が良いと思い、その場から移動していった。
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「ん~……、こりゃまずいな」
町の防壁を見て、ティノは思わず呟いた。
以前の木で囲っただけのような物から、石を積んで囲った物になってはいるが、高さが全くない。
「簡単に飛び越えられるじゃないか……」
大人なら飛び越えられる程度で、城壁と呼ぶにはお粗末な状態である。
「苦労しそうだな……」
“ゴゴゴゴ……!”
愚痴を言いつつ、ティノは魔力を右手に集め、土魔法を発動した。
町の外側から放った土魔法によって、土が盛り上がり、城壁へと形を変えていった。
「ふ~……、こんなもんかな?」
ティノの魔法によって、高さが5m位の城壁が出来上がった。
「先は長いな……」
出来たと言っても、まだ横は3m位しか出来ておらず、町の周囲を全部やるには終わりが見えず、ティノは思わず呟いた。
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「いよいよ勝負だなマルコ!」
3回戦の準々決勝に勝ち進んだマルコとロメオは、とうとう本日第1試合で戦うことになった。
会場の入り口前で、西と東の控え室に別れる前でロメオはマルコに話しかけた。
「訓練でマルコに一撃も喰らわせられなかったけど、今日は絶対一撃入れてやるからな!」
ロメオはマルコとの訓練で、嫌と言うほどマルコの強さは理解しているつもりである。
なので、ロメオは勝つとは言わず、一撃入れることが目標になっていた。
「そうはいかないよ。僕は痛いの嫌いなんでね」
マルコもまだロメオには喰らうわけにはいかないと思い、軽いジョークでロメオに返した。
「じゃあな!」
そう言ってロメオは、マルコに拳を突き出した。
「うん!」
そう返事を返してマルコも拳を突き出し、ロメオの拳と軽くタッチした。
その後2人は、無言で西と東に向かって歩き出した。




