第92話 今後
「……良い判断だ」
ティノはダイトウの家で、帝国軍将軍の1人ダルマツィオの行動を見ていた。
以前召喚した時同様、クワガタをダルマツィオの側に置いて、クワガタと視覚をリンクして眺めていた。
ティノが呟いた通り、ダルマツィオが生き残るには、元ミョーワ国領土から撤退するのが最適な答えである。
その選択を導き出したダルマツィオの事を、ティノは軽く見ていた。
「前見たときはもう少し考え無しだったんだけど……」
マルコと旅をしつつも、時を見てはケトウ大陸の様子を探るために帝国に侵入して、情報を得ていたのだが、以前ティノがダルマツィオを見たときは、オルラルド同様扱い易い帝国将軍の1人に思えた。
「……優秀な右腕でも見つけたか?」
ティノが見ているとダルマツィオの近くには、頻繁に話をする人間がいた。
エピファーニオの事である。
「あのまま北に進んでくれていれば、リンカンだけでなく帝国にも大打撃を与えられたんだけど……」
元ミョーワ国領土にいた帝国軍の将軍は、オルラルドとダルマツィオの2人である。
ティノは、この2人の将軍を潰すのが最初の予定だった。
2人の性格などから、かなりの確率で成功すると思っていた。
「リンカンに比べて、帝国は思っていた以上に手強いね……」
“スッ!”
西に移動するダルマツィオを見ていたクワガタを消して、ティノは帝国への意識を少し変える事にした。
「……しかし、これでリンカンは追い詰められたな」
南に反乱軍、東にハンソー、北にティノもいるダイトウの敵に王都を囲まれ、オルラルドに受けた打撃によって守備は脆い状態、3つの内のどこから攻められても国王を守れるか分からない今、リンカンもこのままでいるはずがない。
しかも、反乱軍とハンソーの援護軍は、予定されたダルマツィオとの戦いが無くなり、無駄に戦力が落ちてない状態なので、いつでもリンカン王都に攻め込める状況である。
「ダイトウの戦力では王都攻めは無理だな。となると……」
ダイトウは現在、クランエローエのリーダーであるアドリアーノの指示で、町の建築に徹していて、どこかに攻め混む余裕はない。
反乱軍も、これからミョーワ王国復興に力を入れるだろう。
「ハンソーかな?」
今まで帝国とリンカンに苦しめられたハンソーが、今を逃すほど馬鹿ではないと思う。
「ダイトウの防衛強化を急いだ方が良いな……」
王都をハンソーに取られたらダイトウは北は海、南と東をハンソーに囲まれる。
リンカンの脅威から、今度はハンソーの脅威に注意する必要が出て来た。
一応、ハンソーとはアドリアーノ達が関係を維持しているので、大丈夫だとは思うが、ハンソーからしたら帝国とリンカンへの対策のためにも、この期に領土を拡大するために動く可能性もある。
そう思い、ティノは翌日からダイトウの町の建築に動くことにした。
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【只今より2回戦、第2試合を開始します】
ロメオは六尺棒を持って、対戦相手と対峙した。
相手はロメオが言っていたように女子で、剣士タイプの4年生である。
2人共間合いを取り、武器を構えた。
「始め!」
「…………」
「…………」
開始の合図が上がったが、2人共動かず、相手が動くのをじっと見つめていた。
『えーい! 相手が女とか悩んでる暇はない! 勝ってマルコと戦うんだ!』
相手と違い、女子を殴る事の抵抗感で動かなかったロメオは、気合いを入れ直し、動く事を決意した。
“バッ!”
「!!?」
しかし、ロメオが決意した瞬間、それを見越したように女子の方が先に動いた。
身体強化し、ロメオとの距離を一気に積めた。
“ガッ!”
「くっ!」
ロメオも身体強化し、辛うじて六尺棒で木剣による攻撃を防いだ。
「ハアァー……!」
一撃目を防がれた女子もかなりの実力なのか、間合いを取ろうとするロメオを逃がさんとばかりに、木剣による連撃を繰り出した。
“ガッ!ガッ!ガッ!……”
『……くっ! なめてた。俺に男だ女だと考える余裕があるほど実力がある訳じゃ無かった』
連撃を防ぎつつ、ロメオは自分の考えの甘さに歯噛みした。
“チッ!”
「つっ!」
女子の剣がロメオの頬をかすり、かすかに血が流れた。
ロメオは相手の剣のわずかな隙を付いて、ようやく距離を取る事が出来た。
「フー……」
そして1度の深呼吸によって、余計なことを考えないように、相手に集中した。
“バッ!”
「ハッ!」
追い討ちをかけるべく、相手は距離を積め、ロメオに剣を降り下ろした。
「!!? ターッ!」
“カンッ!”
“バシッ!”
ロメオは自分に落ちてくる剣を六尺棒で払い、がら空きになった胴を薙いだ。
「グッ……!」
攻撃を受けた女子は、お腹を抑えて膝を付いた。
“スッ!”
ロメオは、その状態の女子の首に六尺棒を添えた。
「それまで! 勝者ロメオ!」
その瞬間ロメオは勝利をおさめた。




