第91話 ダルマツィオ
帝国軍将軍オルラルドが、元ミョーワ国人によって構成された反乱軍によって殺害された事は、ケトウ大陸全土に知れ渡った。
ティノが去った後、反乱軍によりナンダイトーの砦は占拠され、全ての帝国兵が殺害された。
その事が帝国全土に知れ渡る前に、元ミョーワ国領土内南部にいた帝国軍将軍ダルマツィオがナンダイトーに向けて進軍を開始した。
「オルラルドの馬鹿が!!」
進軍途中の村でその日は休息することにしたダルマツィオは、宿屋の部屋でイラついていた。
「……しかし、あの方が反乱軍の事を知らなかったとは思えないのですが……」
椅子に座っているダルマツィオに対し、正面に立ったまま副官のエピファーニオが呟いた。
「……じゃあ、お前は何があったと思う?」
ダルマツィオはこの副官の呟きに一理あると思い、副官の考えを聞くことにした。
「……まず、オルラルド将軍の情報収集力は、帝国でも随一と言って良いくらいです。なので反乱軍の事を知らなかったはずがありません。例え侵入時期を察知出来なかったとは言え、ある程度の対処をしていたはずです」
ダルマツィオの問いに、エピファーニオは自分の考えを話し出した。
「確かに、奴はそう言った細かいことが得意だったな……」
部下の発言を聞き、ダルマツィオはオルラルドの人となりを思い返していた。
「だとしたら、反乱軍を援護した何かがあったのだと思います」
エピファーニオは、言葉の一部を強調した。
「何か……、!? まさか……?」
その部分を受けたダルマツィオは、エピファーニオが言いたいことを理解した。
「はい、恐らくハンソーだと思われます」
エピファーニオは、一番可能性の高い考えを述べた。
「……そうだな。リンカンはオルラルドに大打撃を受けて援護する余裕がない。残るはハンソーしかないな……」
思考の整理をしつつ、ダルマツィオもエピファーニオと同じ考えに至った。
「……だとしたらまずいな!」
同じ考えに至ったすぐ後、ダルマツィオはある考えが浮かんできた。
「何が……、!? そうですね!」
今度は少し遅れてエピファーニオが、ダルマツィオの言葉を理解した。
「このまま進みナンダイトーに到着する頃には、反乱軍だけでなくハンソー軍も相手にしなければならないかもしれん!」
オルラルドの死から数日北へ向けて進んできているが、2人の考え通りハンソーが関わっているなら、ハンソーの
軍の方が先に着く可能性が高い。
「エピ! 予定変更だ! 明日から西に向かって元ミョーワ国領域から出るぞ!」
現在のダルマツィオの戦力で、それらを相手にするのは荷が重い。
反乱軍のナンダイトー砦奪取に、ミョーワ国人達は各所で反旗を翻している。
最早これを抑えるには、大軍隊が必要になる。
その考えに至ったダルマツィオは、エピファーニオに向けて指示を出した。
「はい! かしこまりました!」
ダルマツィオの考えを理解したエピファーニオは、村の側で野営をしている部下の帝国兵達に、進行先変更の指示を出しにダルマツィオの部屋から出ていった。
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翌日、順当に勝ち上がったマルコとロメオは、2回戦の為に会場である闘技場に着いた。
「あ~……」
昨日とは違い、ロメオは気合いが入らないでいた。
「どうした? ロメオ」
ロメオとは違い、いつも通りなマルコは気になったので問いかけた。
「……今日は相手が女なんだよ」
「…………で?」
マルコはロメオが言ったことの意味が分から無かったので、少し間を取って聞き返した。
「いや、男が女に手を上げるのなんて良くないだろ?」
「……いや、闘技大会だし、しょうがないでしょ?」
マルコはロメオがフェミニストだとは思わなかったのでやや戸惑ったが、大会に参加している以上、男女を区別することの方が間違っているとロメオを諭した。
◆◆◆◆◆
【只今より第2回戦、第1試合を開始します】
本日初戦のマルコは対戦相手と向き合い、武器を構えて試合開始の合図を待った。
「始め!」
開始と同時に両者は距離を積めた。
マルコの相手は、前日魔法師の女子を倒した剣士タイプの男子で、昨日同様身体強化して木剣でマルコに襲いかかった。
“ドッ!”
勝負は一瞬で決着が着いた。
襲いかかった男子の木剣を躱すと同時に、がら空きの腹に拳を入れたマルコが、気を失った男子を支えて立っていた。
「勝者、マルコ!」
医療班に気を失った男子を渡しつつ、マルコは勝ち名乗りを受けた。




