第85話 芽吹き
「それから俺達はハンソーに一時逃れ、話合い、トウダイ奪還の力を付けることを決めた……」
そう言ってアドリアーノは、当時の話を終えた。
『なるほど……、2人が来る直前に俺がマルコを連れてったのか……』
ティノは、アドリアーノの話からそのように思った。
『…………あれっ? じゃあマルコを放って置いても良かったのか?』
ティノがよく考えたら、思わぬことに気付いてしまった。
『まぁ、子育ても面白かったし良いか……』
自分そっくりの才能の持ち主のマルコを、鍛え育てるのは楽しかった。
今では子供にしては強い方だと、ティノは思っている。
実際は、子供が到達できるレベルを大幅に突破している事に、ティノは気付いていない。
「……それで?」
アドリアーノは、無言でいるティノに問いかけた。
「? 何が?」
アドリアーノの質問の意図が分からず、ティノは聞き返した。
「聞きたいことを聞いて、お前はどうするんだ?」
「……別に、取りあえず、蒔いた種が成長するのを待つだけだが?」
「…………そうか」
ティノが発した説明不足の言葉を、アドリアーノは正確に読み解いた。
だが、その正解は半分だけである。
アドリアーノは、ティノが言った種は公爵家の嫡男の首を使った暗躍の事だと思っていた。
しかしティノはそれと同じ位、先程蒔いたこの家のそばの、畑の野菜の種の成長を待っていると、本気で思って言っていたのである。
「お前が何者で、何を企んでいるのかは分からんが……」
アドリアーノはそう言って椅子から立ち上がり、
「俺達にとって邪魔だと判断したら……」
この家から外に出る為扉に向かいつつ、
「…………殺す!」
物騒な言葉と共に、扉を開けて出ていってしまった。
“バタンッ!”
「……酷い言われようだな」
アドリアーノによって勢いよく閉められた扉に向かって、ティノは若干笑いながら呟いた。
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それからティノは、不老スキルを手に入れるまで過ごしていたのと変わらない日々を、のんびりと過ごしたのだった。
「そろそろ芽が出る頃かな……」
リンカン軍が帝国軍の将軍オルラルドに、初戦で大敗北を喫した事は一気に広まり、ここトウダイにもその情報は流れてきていた。
そんな中ティノは、今日ものんびり畑に魔法で水をやっていた。
「さてと……、反乱軍は上手くやってくれるかな?」
将軍オルラルドがリンカン軍から大金星をあげ、最高に油断している今こそナンダイトー反乱軍の好機である。
事前にこの機会が来ることを、ティノが教えていたので、恐らくオルラルド殺害は上手くやるだろう。
「……念の為様子を見に行くか?」
畑の水やりを終えたティノは、オルラルドと反乱軍の戦いを見る為、ナンダイトー近くの森に転移した。
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1回戦、第1試合が始まった。
マルコは控え室の小窓から、第1試合を見ることにした。
第1試合は、最上級生の4年生同士の戦いである。
「始め!」
どうやらこちらの競技場の審判は、マルコの担任のアルマンドが行っていた。
アルマンドの合図と共に、戦いは開始された。
木剣を持った男子と魔法師タイプの女子の戦いで、開始すぐに男子は身体強化して距離を詰めようと動き出した。
『まずまずの魔力操作だ……』
マルコから見て、その男子の身体強化に纏った魔力は、ムラが少なく、それによって生み出される移動速度もかなりの速さである。
「ハッ!」
「!!?」
しかし、魔法師タイプの女子も中々の者で、かなりの速度で近付こうとする男子を、火の玉を放って遠ざかせる。
それからは近付こうとする男子と、そうさせないように魔法を放って距離を取り続ける女子、という構図が続いた。
そしてそのまま戦闘は続き、結果先に魔力が尽きた女子に、男子が木剣を首下で止めた状態になり、女子が降参を宣言をした。




