第82話 当時の話 その2
瓦礫に埋もれたフランコの救出を部下に任せ、アドリアーノと副団長のベルナルドはアイーダとマルコの救出に室内に入った。
「!!? アイーダ様!!」
「団長! 御子様がいません!」
「何!? アイーダ様! 御子様はどこへ?」
2人が室内に入ると、アイーダは煙を吸ってしまったのか倒れていた。
ベルナルドが周りを見渡してもマルコの姿はなかった為、アドリアーノは慌ててアイーダに尋ねた。
「……セ、バスに、先に、避難、させ……」
「アイーダ様!!?」
話していた途中で、アイーダは力尽きそのまま息絶えたらしい。
「……くっ! ベルナルド! 退避だ!」
「はい!」
アドリアーノは、亡くなったアイーダを抱え、ベルナルドに退避の指示を出して部屋から出ようとした。
“ガラッ!”
しかし、突如部屋から出ようとしたアドリアーノに燃えた家具が倒れてきた。
「団長!!」
“ガッ!”
アドリアーノを守る為、ベルナルドは身を挺してその家具を押さえた。
「ベルナルド!?」
「ぐっ!! 今の内です!!」
アドリアーノの、大丈夫かと続けようとした言葉より先に、ベルナルドは避難を呼び掛けた。
2人が部屋から出ると、ヤコボ達が瓦礫をどかしてフランコの遺体を取り出したところだった。
「団長!? アイーダ様と御子様は?」
「御子様はセバスティアーノさんが先に避難させたらしい……、アイーダ様は…………」
「そんな!」
ヤコボの問いに、アドリアーノはマルコの事を伝え、アイーダの事は無言で首を左右に振って答えた。
アドリアーノは瓦礫から出されたフランコの遺体の隣に、アイーダの遺体を置いた。
「…………、誰か魔法の指輪を持ってるか?」
「「「「「「「「!!?」」」」」」」」
そこにいる全員が、2人の遺体を前に涙を流している中、アドリアーノは苦渋の決断をした。
「御2人の遺体を魔法の指輪に入れると言うのですか?」
幾らその方が、遺体を抱えて出るより簡単だとは言え、魔法の指輪に2人の遺体を入れると言うことは、物扱いをすることになるので、ヤコボは多少の怒りと共にアドリアーノに問いかけた。
「それしかないだろ!!!」
しかし、アドリアーノはそれ以上の迫力を持った声で叫んだ。
「御2人を連れて脱出するにはこれしかないんだ!! この火の回りで抱えて脱出なんて出来る訳ないだろ!!」
「しかし……」
アドリアーノの言葉は、ヤコボも理解していた。
しかし、謂れの無い罪により幸せを奪われ、命を落とした心優しき領主の2人を、これ以上貶めるような事をしなければならない事に、納得出来ない気持ちが消えないでいた。
「俺が持ってます」
「ベルナルド!? 大丈夫か?」
燃えた家具を押さえていたベルナルドが、少し遅れてこの場に現れた。
「大丈夫です」
言葉とは裏腹に、顔の上半分に火傷を負っていて、とても痛々しそうだった。
「誰か回復薬……、くそっ! 全部使っちまった」
全員がリンカン軍との交戦で回復薬を使いきっていて、魔力も使ってしまった為、回復魔法もかけられない状態だった。
「くっ! ……それよりも御2人を指輪に入れます」
“スッ!”
ベルナルドは、自分の回復より先に脱出を急ぐべきだと思い、2人の遺体を魔法の指輪に収納した。
「……ぐっ!! 全員退避だ!!」
ベルナルドの指輪に収納される2人の姿に唇を噛みしめ、アドリアーノは退避の指示を出した。
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「……マジで?」
マルコにゴブリン退治を指示されたロメオは、思わず聞き返した。
ゴブリンは弱いとは言え、9才の子供が相手するのは少し危険である。
なのでロメオの反応は、当然の反応である。
「大丈夫! ロメオの実力なら倒せるよ」
ロメオに聞かれたマルコは、笑顔で答えを返した。
「それに危なくなったら助けに入るから……」
「……分かった。やってやらー!」
“バッ!”
少し自棄になった感じで、槍を持ったロメオは、ゴブリンに向かって突っ込んでいった。
「ギギッ!?」
ロメオに気付いたゴブリンは、近くの木の枝を武器代わりに拾い構えた。
「ダリャー!」
“ガンッ!”
“ザクッ!”
ロメオはゴブリンの持った枝を槍で払い飛ばし、無防備になったゴブリンの胸に向かって槍を突き刺した。
「ギッ……!」
“ドサッ!”
胸を突かれたゴブリンは、そのまま前のめりに倒れた。
「……フ~、なんとか倒せた」
「お疲れ様」
ゴブリンを倒し一息ついたロメオを、マルコはねぎらった。
「……なぁ、これが鍛練なのか?」
ゴブリンの解体の手順を、マルコから教わりつつ行っていたロメオはマルコに問いかけた。
「僕は小さい頃から魔物を相手にして訓練してきた。単純にレベルを上げれば強くなるしね」
マルコは、3才の頃から色々な魔物を退治してレベルを上げて技術を磨いてきた。
ティノに教わった事を、そのままロメオにやらせることしかマルコは思い付かなかったのである。
「さぁ、次のゴブリンを探そうか?」
解体し終わり焼却処分した後、マルコは軽い口調でロメオに告げたのだった。




