第76話 愚痴
ティノがオルラルドにリンカン王国の2大公爵家、オルチーノ家の嫡男の首を渡した翌日、早速オルラルドはリンカン王国に対して、首を奪取した事を宣言をした。
「どうやら予想通りだな?」
帝国軍の兵士の鎧を着けたティノが、オルラルドと2人きりになったことで、口調を変えて話しかけた。
「あぁ、リンカン側は……、と言うかオルチーノ家は、軍を率いて怒り狂ったようにここに向かっているらしいな」
ティノの言葉に、オルラルドも口の端を上げつつ答えた。
「さっさと開戦してくれないかね?」
“ドサッ!”
ティノはダルそうに、ソファーに勢いよく腰かけた。
「リンカンの王都からだと約1週間ってところだな……」
“ドサッ!”
オルラルドもティノの対面のソファーに腰かけ、テーブルの上に広げられている地図を眺めて呟いた。
「約束通り開戦したのを確認したら、トウダイに帰らせて貰うからな?」
ティノは、オルラルドと交わした約束を確認した。
オルラルドがティノと交わした約束は、遠距離への移動手段があるティノがハンソーに入れ知恵して、リンカンとの決戦に横槍を入れないように、オルラルドの側から離れないようにするということである。
「あぁ、開戦してからならハンソーが動き出しても間に合う事はないからな……」
「早くこいつともおさらばしたいよ……」
そう言ってティノは、両手首に着けているブレスレットをオルラルドに見せた。
「仕方ないだろ、それがなければお前がハンソーに向かったかどうか安心できんからな」
ティノが今着けているブレスレットは、犯罪者などに使われる魔力を封じる魔道具で、ティノが約束通りハンソーに向かいに行けないようにと、オルラルドが着けた物である。
「早く外したいぜ……、魔力が無くちゃ魔法の指輪から暇潰しの本も出せねえからな」
魔法の指輪は持ち主が魔力を流すことで、中身を出し入れする事が出来る魔道具で、魔力を封じられている状態では何も取り出すことが出来ない。
これがあるので、オルラルドとの約束が成立しているのである。
オルラルドが睡眠をするときは、ティノは隣の部屋で鎖に繋がれた状態になっている。
「愚痴るな! 1週間程度の話だろ。」
「ハイ、ハイ……」
愚痴るティノに対してオルラルドは苛立ち、少し強めの口調で話した。
それに対してティノは、渋々といった感じの返事を返した。
しかし、オルラルドは知らない。
ティノは動かないが、反乱軍が動いている。
ハンソーには反乱軍が知らせるので、ティノがここにいようが関係ない。
そもそも、魔力封じの魔道具をしているが、ティノの能力なら力ずくで取り外せる。
つまり、いつでもここから出ていけるのである。
「早く1週間経たねえかなぁ……」
心のなかでにやけつつ、白々しくティノはまた愚痴るのだった。
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「校内戦ですか?」
校長から提案された内容が理解できず、マルコは聞き返した。
「そうじゃ。本来は最上級生が参加する競技大会なのじゃが、それに参戦して欲しいのじゃ」
校長はマルコに、校内戦についての説明をし始めた。
「校内の優勝者は、国内の全校による全国大会に参加する事になる。それに優勝すると、優勝校には多額の資金援助が貰えるのじゃ!」
「…………」
何だかんだ言って、結局金の話だったことにマルコは言葉を失った。
「……何故新入生の僕なのですか?」
無言でい続ける訳にもいかないので、マルコは当然の質問をした。
「お主の実力は入学試験の時と、授業の戦闘訓練で見せて貰った……」
「!!?」
戦闘訓練の時、マルコは校長の姿も気配も感じなかった事に、校長の実力に驚きつつ校長の話の続きを聞いた。
「最上級生と比べても、お主なら全国優勝出来そうじゃからのぉ」
「……それを断ることは?」
「あまり勧めんのぉ……」
つまり最初から拒否出来ないのではないか、とマルコは心のなかで突っ込んだ。
「…………分かりました。参加します……」
マルコは渋々校長の提案を受けることにした。




