第72話 ティノの分析
「良い話……だと?」
店主はティノの言葉の真意を理解できず、訝しげな表情で尋ねた。
「俺がオルランドに首をあげたら、奴は周囲にすぐ自分の手柄だと言い触らすはずだ」
ティノは自信ありげに話した。
「……なぜそう思う?」
その表情と話の内容に、店主は疑問を投げかけた。
「帝国の将軍達はある程度調べてある。その中で奴が1番功名心が高い……」
ティノは、オルランドの性格的な事を話し出した。
「そして、今より上にあがる為には、すぐにでも北にあるクリホの砦を落として、リンカン王国の王都へ攻める足掛かりにしたいと思っているはずだ」
オルランドの性格から、ティノは自身の分析には自信がある。
「…………」
店主はティノの話を、黙って冷静に聞いていた。
「明日辺りからリンカン王国では、この首を捕った犯人探しが始まる。オルランドが犯人だと分かれば、この首を奪い返しに向かってくるだろう。……が、オルランドは功名心が高いただの脳筋じゃない」
ティノは、順を追ってこれからの事を話していった。
「恐らく迎え撃つ考えがあるはずだ。奴からしたら、しばらく敵を抑えて他の将軍が援護に来るのを待てば良いだけだから、それほど難しくはないだろうな……、そこの砦とクリホの砦の間には川がある。渡って攻めてくるには手間がかかる。先に攻めかかる方がリスクが高い状態で、この首ほど使えるネタはないだろう?」
オルランドはリンカンから攻めさせる事で、自分に有利な状況で戦い、帝国王に自分の評価を知らしめたいと考えていると、ティノは考えている。
「…………成る程、っで? 俺達反乱軍にとって良いことってのは?」
店主はオルランドが首を得て、これから起こす事は理解できた。
しかし、それで自分達がどのように利益を得るのか、理由が分からなかった。
「オルランドに有利に進んで行って、リンカン王国が弱り出した時、他の帝国将軍の援護が来る前に砦を攻めれば、リンカン以外に攻められるとは思っていない砦の兵達相手なら、結構簡単に砦を取れると思うぞ」
前の敵を相手に有利に進んでいる突如、後ろから攻められる恐ろしさは、とてつもないはずだ。
予想してない敵を相手に、冷静に対処できるはずがない。
「そんな上手く行くわけ無いだろ! それに砦をとってもリンカンや、他の帝国将軍が来たらどうするんだ?」
ティノの発言に、店主は当然の疑問を口にした。
砦を手に入れても、リンカンや他の帝国軍に囲まれたら意味がない。
「その為にハンソー王国と手を組む!」
店主の疑問に、ティノはとんでもない事を言い放った。
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「……え?」
客席で見ていたロメオも、この結果に思わず声が漏れた。
ロメオから見ても、ヴァスコが身体強化の為に纏った魔力はかなりの物だったように思った。
しかし、そのヴァスコ相手に、マルコが何をしたのか分からなかった。
「マルコ……、お前何したんだ?」
戦い終わり、客席に戻ってきたマルコに、ロメオはストレートに問いかけた。
「えっ……? ただヴァスコの腹を殴っただけだよ」
マルコは聞かれた質問に、しれっと答えた。
マルコが言ったように、先程の戦いでマルコがやったのは、ヴァスコの攻撃に合わせて腹を殴っただけである。
とは言っても、ティノに鍛えられた今のマルコは、冒険者のランクではAランクである。
成人してない人間が、このランクに入る事はまずあり得ない事である。
そのマルコからしたら、ヴァスコ程度の相手は話にならない。
「えっ!? それだけ……?」
マルコの言葉に、ロメオは思わず聞き返してしまった。
「うん。それだけ……」
ロメオの返しに、マルコも簡単に答えた。
その後も、戦闘は消化されていき、2回戦が開始され始めた。




